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第7話「完璧令嬢の揺らぎ」は、カロリーナの神聖力がジョナサン大司教に知られ、帝国側が対抗策を組み立てる回である。ただし通して見ると、この回のカロリーナは、自分では何ひとつ決めていない。会議の結論も、大司教に返す台詞まで周りが用意する。そのうえでサブタイトルが指しているのは姉のほうで、自分の意思で動いたのはフローラだけ、そして損をしたのもフローラだけだった。




結論:自分の意思で動いたのは姉だけで、損をしたのも姉だけである
公式あらすじは「なんとしても彼女を帝国に留めておきたいテオドールは、そのためにある提案を持ちかけるのだった」で終わっている(※1)。つまり動くのは周りで、カロリーナは留め置かれる側である。サブタイトルのほうが指しているのは、その反対側にいる姉だ。
会議の場にいるのに、決めているのは全部ほかの人である
皇帝に呼ばれた会議で、カロリーナはずっと同席している。けれども対策を出すのは周りのほうだ。エドワードがジョナサン大司教の不正を暴いて裁判にかける役目に立候補し、皇族との結婚だけでは守り切れないという話から帝国にも聖女制度を作る案が出て、各国から一人ずつ代表者を出す聖女試験まで決まる。そのあいだ、カロリーナが口にするのは相づちだけである。本人の力の話をしているのに、本人が決める場面が一度もない。
大司教に返す台詞まで、先に渡されている
それがいちばんはっきり出るのが、ジョナサン大司教との対面だ。テオドールの指示は「まずジョナサン大司教が謁見を申し込んできた時は、断らずにそのまま受け入れてください」「それでもし彼が『私の味方にならないか』などと誘ってきた時は、『考える時間をください』とだけ言っておけば大丈夫です」で、締めが「簡単でしょ?」。実際にカロリーナは、その通りに「考える時間をいただけませんか?」とだけ言って場を持たせる。終わったあとの評価が「ぶっつけ本番にしてはなかなか良い演技でしたよ」で、演技という言葉が味方の側から出てくる。
そのあいだに、姉は自分から売って自分の足場を失っている
対してフローラは、この回で唯一、自分の判断で動いた人物である。締めの独白が「なんて滑稽なの。カロリーナの神聖力を大司教に話し、その代償に、今までの力が私のものではなかったと知られてしまった」。大司教にカロリーナの力を教えたのは、フローラ自身だった。そして受け取ったのは聖女の座ではなく、自分の実績が妹の力だったという事実が周りに割れるという結果だけだった。指示どおりに動いた妹は守られ、自分で決めた姉が一人で損をしている。
第7話で確定したこと(要点だけ)
場所も人も細かく切り替わる回なので、先に事実だけ並べておく。
- お茶会の会場はどちらの派閥にも属さない中立の伯爵家で、そのため両派閥の貴族がそろって招かれている。
- 貴族の探り=「だって、エドワード殿下は戦好きの第二皇子と言われるほど冷酷な方でしょう」「やっぱり、夫婦仲は冷え切っていらっしゃるのかしら」→カロリーナ「私とエドは順調に親睦を深めていますから」→愛称で呼んでいることが露見して騒がれる。
- 皇帝エリックの召集。同席はエドワードとギルバート、そこへセレスティアからレイモンド・サンチェス公爵が先触れなしで訪れる。
- 報告の中身=ジョナサン大司教が王国側に「我々教会と手を組み、カロリーナ妃殿下を取り戻さないか」と持ちかけた(王国側は乗っていない)。
- 大司教の作戦=偽装した神託「カロリーナこそ真の聖女、それにふさわしい場所を用意しろ」+セレスティアの聖女の歴史を交渉材料に「ふさわしい場所は我が国の教会」と主張する。
- 無視できない理由=「神託を無視すれば信心深い民から不満が集まるし、主張を突っぱねれば、我が国にこれ以上力を付けさせたくない他国が介入してくるかもしれない」。
- 皇帝からレイモンドへ「そういう遠慮がちなところはカロリーナにそっくりだ。さすがは親子だな」。
- エドワードの立候補に対し皇帝は「次期皇帝の座を望むなら、それにふさわしい実力と成果を見せてみなさい」。
- 神聖力が他国に知られる危険について、ギルバートが「別にいいんじゃないかな」「どうせいつかはバレることだし、いい機会だよ」。
- 教皇聖下の返答=「他の神官たちに相談しないといけないので」→「たとえ他の神官たちが猛反対しても、私のほうで何とかしますので」「きっと彼らも、私とちょっとお話すれば納得していただけると思います」。
- ギルバートはテオドールの転移魔法でセレスティアへ不正入国し(「ネイサン国王陛下にはちゃんと許可を取ってあります」)、聖女クローディアの死を調べている。
- 次の関門は一週間後の貴族会議で、そこで聖女信仰協議会の設立案を通す必要がある。
第2話のサブタイトルが、そのまま噂話として口に出る
この回で最初に耳に残るのは、お茶会で貴族たちが口にする一言である。それは第2話のサブタイトルそのものだ。
「戦好きの第二皇子」は、この作品の第2話の題である
お茶会でカロリーナに向けられるのが「だって、エドワード殿下は戦好きの第二皇子と言われるほど冷酷な方でしょう」という探りで、「戦好きの第二皇子」は第2話のサブタイトルとして使われた言葉である(※2)。視聴者にとっては六話ぶんの積み重ねで否定され切った評判が、作中の社交界では何も変わらないまま生き残っている。カロリーナが返すのが「私とエドは順調に親睦を深めていますから」で、愛称で呼んでいることのほうが騒がれて話が逸れるのも効いている。
その第2話とこの回だけ、絵コンテが同じである
各話のスタッフを並べると、第7話の絵コンテはShin Min Seopで、この人が絵コンテに入るのは第2話「戦好きの第二皇子」とこの回の二本だけである(※2)。その評判を題にした回を描いた担当者が、その評判が噂話として蒸し返される回も描いている。偶然かもしれないが、少なくとも同じ言葉が二度出てくる回には、同じ人の名前が付いている。
脚本の末永光代は、姉が気づきかけた回とこの回だけである
もう一つが脚本で、末永光代がこの作品で脚本を書いたのは、第4話「赤い瞳とルビー」とこの第7話の二本だけだ(※2)。第4話は結婚式の回だが、締めに置かれていたのはフローラが瓶の泥水すら浄化できず、「認めたくはないけど、これはやはり」と口にする場面だった。そして第7話の締めが「今までの力が私のものではなかったと知られてしまった」である。姉が自分で気づきかけた回と、周りに知られてしまう回を、同じ書き手が担当している。
「ある提案」の中身は、聖女制度そのものを作ることである
公式あらすじが伏せている「ある提案」は、かなり大きい(※1)。一人を守るために、制度のほうを新しく作るという話である。
皇族の妻という地位では、足りないと言われてしまう
会議で先に出るのは「皇族との結婚以上に、カロリーナを守る強力なカードなどないんじゃないかしら」という見立てだ。ところがすぐ横から「聖女は神聖な存在で人の手に渡るべきでない、とか言って離婚させようとしてくるかもね」と穴が指摘される。結婚という札が、聖女という札に負ける可能性がある。だから対抗策も同じ土俵に上げるしかなく、「王国みたいに聖女制度を作ってはどうでしょう」が出てくる。
出てきた答えが「聖女試験」で、姉を落とした試験と同じ名前である
具体案は聖女試験で、中身は「各国から一人ずつ代表者を決めて、教会本部で行うの」。理由も並べられていて、「いきなりカロリーナを聖女の座につかせるより、そちらの方が周囲も納得するでしょうし」「何よりカロリーナの力のすごさを知らしめることができるわ」。ここで引っかかるのが名前のほうだ。フローラが落ちたのも「聖女試験」だった。姉を落とした試験と同じ名前の制度が、妹を守るために世界規模で作り直される。
バレる危険を引き取ったのは、兄のほうである
当然、穴もある。「聖女試験でリーナの圧倒的な神聖力が、他国に気づかれてしまう危険性が」という心配に対して、ギルバートが返すのが「別にいいんじゃないかな」「どうせいつかはバレることだし、いい機会だよ」。隠す方針をここで捨てていることになる。第6話まで、この人は自分の病を隠して周りを動かしていた側だった。その本人が、今度は隠さない側に賭けると言っている。
味方の言い方も、大司教とそんなに変わらない
この回のカロリーナは、同じ感想を二度こぼす。相手が敵か味方かに関係なく、話の運ばれ方が同じだからである。
教皇聖下の協力の取り付け方
聖女信仰協議会について、教皇聖下はいったん「他の神官たちに相談しないといけないので」と保留する。そのうえで続くのが「たとえ他の神官たちが猛反対しても、私のほうで何とかしますので」「きっと彼らも、私とちょっとお話すれば納得していただけると思います」。これを受けたカロリーナの内心が「話し合いという名の脅しね」だった。味方が最大限に協力してくれる場面で、出てくる感想がこれである。
テオドールの「簡単でしょ?」も、同じ言葉で受け取られている
もう一度出てくるのが、テオドールの段取りに対してだ。「大司教と会い、彼の話を聞き、彼の仲間にならないかと誘われた時、『考える時間をください』というだけの作業が、たったそれだけが難しいと」と押し切られて、内心で「あれは完全に脅迫よね」と言う。同じ回のうちに、味方の二人へ同じ種類の言葉を使っている。守られている側から見ると、助ける手つきと迫る手つきの区別がつきにくいということでもある。
そして大司教の迫り方は、いちばん丁寧である
皮肉なことに、いちばん言葉が柔らかいのがジョナサン大司教だ。「こちらの暮らしはいかがですか?」「失礼ですが、お顔の色が優れないような」「祖国に帰りたいと思ったことも、少しはおありなのでは?」と入り、「その危機を乗り越えるためには、カロリーナ妃殿下の力が必要ですからね」「私たち教会が全力でサポートいたします」で「どうかご決断を」に着地する。やっていることは同じで、口調だけが一番やわらかい。
もう一本の糸は、前の聖女がどう死んだかである
この回にはもう一つ、大司教とは別の入口から入る調査がある。調べているのは不正ではなく、人の死のほうだ。
隣国へ入ったのは、テオドールではなくギルバートである
テオドールの報告は「つい先日、私の転移魔法でギルバート殿下をセレスティア王国に不正入国させたところです」で、驚くカロリーナに「ジョナサン大司教に警戒されないよう秘密裏に入国しただけで、ネイサン国王陛下にはちゃんと許可を取ってありますので」と補う。送り出したのがテオドールで、入ったのはギルバートという役割分担になっている。そしてギルバートが引っかかったのが聖女クローディアの事故死だった。
死に方の説明が、どこも噛み合っていない
ギルバートが並べる疑問が具体的である。「2階のテラス席から夜に落下?」「しかも朝まで、聖女の遺体に誰も気がつかなかった」「建物の内外には聖騎士が配置されていて、警備も万全だった」。そこへネイサン国王が足すのが「聖女クローディアとジョナサン大司教の仲が、あまり良くなかったこと」で、「聖女は自分の利益より他人の幸せを優先する人だった」「彼女は大司教を毛嫌いしていた」と続く。つないだ先が「もし告発しようとしていたのなら、殺害するには十分な動機になるだろう」。
調べなかった理由と、調べてほしい理由が別々に語られる
なぜ当時調べなかったのかも、はぐらかさずに答えている。「彼女が死亡した時、私は王位を継承したばかりで、地盤がとても不安定だった」「そんな状態で教会に手を出せば、かなり反感を買うだろうね」「調査の結果、殺人に繋がるような証拠が出なければ、私は教会を本格的に敵に回した挙句、生前退位を強いられることになるだろう」「最悪の場合、内乱だって起こり得たんだ」。そのうえで頼むのが「聖女クローディアの死の真相を解明してくれ。そして彼女の無念を晴らしてほしい」で、添えられるのが「これは国王としてではなく、一人の男としての頼みだ」。理由も明かされていて、資料にあった「王族との結婚を蹴ってまで教会入りした信心深い人」の王族が本人だった。国としては動けなかった相手のことを、個人としてはずっと諦めていない。
まとめ:完璧の仮面は、外せる相手がいなくなった時から崩れていた
サブタイトルの「揺らぎ」がどこから始まっているのかは、最後の回想がはっきり示している。崩れ始めたのは今回ではない。
母の言いつけと、真逆のことをやり続けている
フローラの独白は「私はいつだって完璧だった」「小さい頃から常に、自分の本心も弱点も全部覆い隠して、完璧を演じ続けていた」から始まる。ところが回想に出てくる母の言葉は「我慢することも確かに大事よ。でもそれに慣れてはダメ。たまには大声を上げて泣いてもいいの」だった。本人も「お母様の前でだけは完璧令嬢の仮面を外すことができた」と言っている。仮面を外せる相手は最初から一人だけで、その一人がもういない。母の言いつけの通りにできなくなった時点で、揺らぎは始まっていたことになる。
売ったものと、返ってきたものが釣り合っていない
そのうえでフローラが選んだのが、大司教への情報提供だった。手に入れたかったのは聖女の座で、実際に返ってきたのは「今までの力が私のものではなかった」という事実の露見である。締めが「私はお母様を殺したカロリーナを許さない。幸せになんてさせないわ。絶対に」で、損をしてもなお、動機のほうは一ミリも動いていない。この回でいちばん強い意思を持っているのは、間違いなくこの人である。
次回の予想
この回で残された宿題は三つある。一週間後の貴族会議で聖女信仰協議会の設立案を通すこと、ギルバートが聖女クローディアの死の真相にたどり着くこと、そして「考える時間をください」と言ったきりのカロリーナが、大司教にいつ返事をするのかである。予想としては、次に動くのはジョナサン大司教の側だと見ている。理由は、この回で大司教だけが手札を全部見せてしまっているからだ。神託を偽装する計画も、王国への持ちかけも、カロリーナへの直接の勧誘も、すでに帝国側に筒抜けになっている。読まれている側は、読まれていない手に切り替えるしかない。もっとも、これはあくまで予想である。
出典
※1 TVアニメ公式サイト STORY(第7話「完璧令嬢の揺らぎ」のあらすじ)/mujikaku-seijo.com
※2 ウィキペディア「無自覚聖女は今日も無意識に力を垂れ流す」各話リスト(各話のサブタイトルと脚本・絵コンテ・演出)/ja.wikipedia.org




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