この記事の作品:
『ヤニねこ』第9話の副題は「ニャーの妹ちゃんはモテモテにゃ」。公式のあらすじが「下品な話で申し訳ないんだけど」と謝ってから始まる回である。前半はたしかに姉のトイレ事情で埋まるのだが、妹子に近づいてくる級友の贈り物にも、妹子の頼みごとの出どころにも、必ず姉が挟まっている。そしてこの回の贈り物は、相手を調べれば調べるほど遠くへ外れていく。




公式のあらすじが、自分でツッコミを入れている
副題は公式サイトのSTORYに出ている
第9話の副題は「ニャーの妹ちゃんはモテモテにゃ」。公式サイトのSTORYに、話数と一緒に並んでいる。
書き出しが下品な話で申し訳ないんだけどである。今回は駅のトイレやアパートの自室で、ヤニねこのアカン「トイレ事情」が周囲を巻き込む大騒動に、と続く。あらすじの一行目が謝罪から始まっている。
九本の副題は、全部「ニャー」で始まって「にゃ」で終わる
一本目から並べる。ニャーがヤニねこにゃ、ニャーの後輩たちにゃ、ニャーはボケよりツッコミ寄りにゃ、ニャーのまわりは変人ばかりにゃ、ニャーたち秘境に行くにゃ、ニャーの夏が始まって終わるにゃ、ニャーも親から生まれたにゃ、ニャーたちも師走は走るにゃ、そして、ニャーの妹ちゃんはモテモテにゃ。
九本すべてが同じ型で、しかも全部が姉本人の口ぶりで書かれている。今回だけは題の主語が妹のほうにあるのだが、それでも語り手は姉のままである。
締めの一行が、毎回ツッコミになっている
第9話のあらすじは、常識改変アプリの説明のあとに、ちなみに清潔感には一切の変化がない、と付け足す。そして最後が、そこも改変しといてよ、である。
この付け足しは今回だけのものではない。第1話はしょうもなっ、第3話はこれが今回の教訓(適当)、第5話はだが安心してほしい、これは『ヤニねこ』である、第7話はコイツそんなんばっかだな。九本ぜんぶに入っている。
あらすじの側が、先に言い訳をしておく
第6話には、そして獣人アパートには新たな問題の気配も、という一文のあとに、もうこれ以上やめて、が括弧で付いている。
作品を売る文章が、作品の内容に先回りして謝ったり止めたりしている。放送できなかったらごめんにゃさい、という一文が公式サイトの紹介文にもある。この構えが、そのまま本編の呼吸になっている。
演出が二人になるのは、九本でこれが初めて
この回のスタッフは、脚本があおしまたかし、絵コンテが夏野桃子、演出が尋田耕輔と渋田直彰、総作画監督が松浦力と能海知佳である。
第1話から第8話まで、演出はずっと一人ずつだった。尋田耕輔は第2話、第6話に続いて三本目で、演出としてはシリーズ最多になる。絵コンテの夏野桃子は第8話からの連投で、二話続けて同じ人がコンテを切るのは第3話と第4話以来である。脚本は九本すべてあおしまたかしで変わっていない。
下品な話のほうが、先に事件の形をとる
駅のトイレで、理屈を通そうとする
開幕が、トイレにゃーん、である。トイレは禁煙だよ、と止められる。
返しがにゃーはタバコ吸わないと出ないにゃだった。だめだめ、ここスプリンクラーあるんだから、と重ねられて、まったくこれだから住人は、で終わる。理屈としては通っているところが厄介である。
自室でも、同じ理屈で動く
部屋に戻ってからも、タバコがない、という一点で止まる。新品は部屋の奥にゃ、しけもくも回数にゃ、と自分に説明しながら取りに行く。
移動中の注意書きが刺激を与えて落とさないよう、ゆっくりバランスをとってにゃである。公式のあらすじが謝るだけのことはある場面だが、本人の中では手順がきちんと組み立てられている。
途中に入る小噺で、いったん息が抜ける
廊下で捕まって、松尾芭蕉がものすごいスピードで歩いてもうてな、という小噺が始まる。
落ちが師匠これじゃ爆速の細道ですやんだった。即興で考えたけど、これ結構やばい、ツボ入ってもた、と本人が自分でウケている。汚い話と関西弁の小噺が交互に来るのが、この作品の並べ方である。
「意外と臭くない」というあるある
続いて、ヤニねこあるある、の掛け合いが入る。
出てくる答えが意外と臭くないである。ところがこの回は、後半でこの一行がまるごと否定される。あるあるを先に置いてから、実物で潰す順番になっている。
獣葬の場面だけ、笑いの外側にある
中盤に、告別式の続きらしき場面が入る。普通告別式終わったら火葬場よね、あんなところに棺を置いて、冒涜じゃないのあれは、と身内が怒っている。
返しが、すぐにわかりますよ、で、そのあとに獣葬という言葉が置かれる。旦那様は獣葬が大層お好きでらしたからと説明され、ほらなんだか嬉しそう、と続く。獣人が人間の葬送を引き受けているという設定が、ギャグの合間に一度だけ顔を出す。
妹に近づく話には、必ず姉が挟まる
副題は「モテモテ」だが
副題のとおり、この回の妹子には二人の級友が近づく。
ところが、その二つとも姉を経由して起きている。近づく理由も、外す理由も、姉のほうにある。
級友は、姉の噂から妹子を推し量る
教室の会話が、妹子はどういう子か、というところから始まる。お姉ちゃん子だよね、なんだかんだ好きだね、かわいい、まではいい。
そこからでも、そのお姉ちゃんってのがクセモノらしくてさ、とにかくだらしないって聞くねになり、外で用を足す、という話まで出てくる。姉の噂が、妹の人物像として組み立て直されていく。
好きな相手のためだから、いちばん遠いところへ行く
聞かされた側は、その一言を額面どおりに受け取って、素直に怖がる。それでも、妹子さんの趣味なら私受け入れるわ、と腹をくくる。
続くのがでも、学校でそんなことを披露したら大問題だわ、お母様に殺されてしまう、一体どうすればである。相手を受け入れる覚悟と、相手を守る算段まで済ませたうえで、贈り物の中身が決まる。
「何がいけなかったのかしら」
渡す場面は丁寧である。ごめんなさい急に話しかけたりして、と断ってから、あなたにこれを、開けてみて、と差し出す。
中身については公式のあらすじが、またもやトイレ周りのアレ、と書いている。残された一言が何がいけなかったのかしらで、本人には最後まで分かっていない。
頼みごとの出どころも、やっぱり姉
もう一人は、屋上で本を読んでいる級友である。妹子のほうから、小論文がすごい苦手で教えてほしいの、と頼みに行く。
切り出し方がお姉ちゃんから聞いたんだけど、小説書いてるんだよねだった。学年の成績も運動も自分で持っている妹子が、人に近づくときの材料だけは姉から受け取っている。
姉と妹は、この回で一度も同じ場面に出てこない
姉の話は出るのに、姉本人は妹の場面に現れない。
いないところで評判だけが先に届いて、勝手に働いている。副題がモテモテと言い切っているぶん、その裏にあるものが目立つ。
贈り物は、調べるほど外れていく
白はだめ、ファーもだめ
後輩が姉への上着を選びに行く。付き合わされた友人が、まず白を止める。あいつの喫煙量エグいやろ、白は三日もすれば黄ばむ、間違いなく。
次に袖のファーを止める。タバコに火つけるとき引火するんや、あいつは特になである。候補が消えていく理由が、全部その人の実績になっている。
手袋の前例が引かれる
決め手として、こないだ妹が手袋を贈った話が出てくる。
結末がライターの石を噛ますまくって、妹をガチギレさせただった。前に贈られた物がどうなったかまで調べたうえで、次の一着が選ばれている。
完璧な一着ができあがる
出てきた答えが、グレーでファーもない、抗菌素材でヤニ臭も撃退、である。
さらにポケットがいっぱいでタバコがたくさん入りますし、袖がないからライターも噛みませんと続く。潰すべき欠点をひとつ残らず潰した設計になっている。感想が、あんまかわいないな、なのはご愛嬌である。
ポケットの中身で、台無しになる
受け取った本人は素直に喜ぶ。あったけーにゃー、ありがとうにゃー、と礼まで言う。
ところがポケットが膨らんでいる。ウキウキしてタバコ一箱詰め込んだんか、と聞かれて、そうにゃー、と返るのだが、実際に入っていたのは吸い殻だった。贈った側の想定のいちばん外側で外れている。
「何かを求めたらあかん」
まとめが、まあ分かってましたけどね、である。
続くのがこいつは化けもんや、何かを求めたらあかんだった。前の回の贈り物の失敗まで踏まえて設計したのに、結論としてはここに戻ってくる。
常識改変アプリは、向きを変えただけだった
出来上がったのは「嫌煙家の先輩」
場面が変わって、そんなこんなで完成しました、嫌煙家の先輩です、と紹介される。
本人の口から出てくるのがタバコは悪である。聞いた側の感想が、知恵袋民かいな、で、そのくらいの浅さで固まっている。
種明かしは「ネットに落ちてた」
説明が、常識改変アプリってのがネットに落ちてて、である。今からあなたはタバコが吸いたくなくなる、どんどん好きじゃなくなる、と唱えさせる形になっている。
先輩で試してみたら、すんごい効いちゃいましてと本人が笑っている。効きすぎたことの後始末は誰も考えていない。
消えたのは対象だけで、癖は残る
すぐに、なんで歯磨きしとんの、と突っ込まれる。
答えが物を咥える欲求は消えないみたいっすだった。タバコへの欲求だけを消したので、口に何か入れておきたい部分がそのまま残っている。改変されたのは対象であって、癖ではない。
他人の家に上がって火を消して回る
次の場面では、同じアパートの漫画家の部屋に現れる。なんで歯磨き、と聞かれても答えず、消火確認、とだけ言う。
続く反応がうお、くさっである。前半に置かれていた、意外と臭くない、が、ここで潰される。本人は一日一善のつもりでいる。
テレビの速報になる
締めが速報で、今日四時過ぎ、駅前の喫煙所で唾液をかける女が現れました、と読み上げられる。県警が行方を追っており、見かけても決して近寄らず、まで付く。
吸っていた頃より迷惑がひどい、という感想がその場で出る。禁煙させた結果として、指名手配に近いところまで行っている。公式のあらすじも、清潔感には一切の変化がない、と書いていた。
一人になった母が、煙の言い訳に本物の事件を借りる
娘が泊まりに出た夜
最後の一本は母の話である。妹子ちゃんがお友達のお家でお泊まりでひとりきり、せっかくだから楽しまなくっちゃ、から始まる。
用意するのが紅茶とクッキーで、そこに一本が加わる。紅茶と甘いものにタバコって、すごく合うのよねである。家では吸わない体裁で通してきた人の、留守番の使い方になっている。
起きたら部屋が真っ白
寝落ちして、今何時かしら、と起きると部屋が白い。
出てくる感想が新婚旅行で行ったロンドンを思い出すわねだった。反省ではなく思い出のほうが先に来る。まあ換気すれば明日までにはなんとか、と算段まで立てている。
そこへ、娘から電話が入る
電話の中身は、友達の家に空き巣が入ったので警察を呼ぶことになった、というものである。十分くらいで帰るから、と告げられる。
換気の時間が足りない。ここまでは、間の悪さだけで説明がつく事故である。
でっち上げの材料が、本物の事件から来ている
帰ってきた娘に用意されていたのが、電話の後すぐ空き巣の人が入ってきて、この有様よ、だった。縛られただけで怪我はないけど、と付け足す。
決め手がその人めっちゃくちゃタバコ吸ってたから、それはもう鬼のようにである。自分の煙を説明するために、娘がたった今知らせてきた事件のほうを借りている。
嘘の中身が、この家の姉そのものになっている
でっち上げられた犯人像は、人の家に勝手に入り、手当たり次第に吸って、部屋を煙で埋めていく人物である。
この家には、その説明がそのまま当てはまる人がもう一人いる。取り繕うために作った架空の人物が、実在する家族の写しになっている。ネットの反応でも、母のほうを今回のいちばんに挙げる声が並んでいる。




関連作品:











































コメント