この記事の作品:
『うちの弟どもがすみません』第10話の副題は「繋がりの証」。柊は、期待に応え続けないと繋がりは切れると思い込んでいる。だから原稿と受験勉強を両方抱えて徹夜し、体を壊す。会いに行った先では、相手の作品の感想しか言わない。その様子を見ていた洛の忠告が「自分の話ばっかりする男はうざがられるよ」だった。ところが相手の答えは、正反対だった。




「この世で一番怖いのは人間」から始まる
冒頭は、家族で恋愛ドラマを見ている
開幕は劇中劇である。「今人気の恋愛ドラマで お隣の宇藤さん 略して弟だ」と説明が入り、家族そろって画面に見入っている。
源が「どこが怖いんだよ 生きてる人間の話じゃんか」と言うと、返ってくるのが「この世で一番怖いのはね 人間なんだよ」。この一行が、そのままこの回の見取り図になっている。
怖いと言いながら、続きは気にしている
ドラマの場面には落ちが付いている。怖がっていたはずの源が、少し置いてから「なあ この続きって配信されてんのか」と聞く。
糸の返事は「もう見せないでよ」だった。文句を言いながら続きは気になっている。この家の人はだいたいこの順番で本音が出る。
心配の中身が、そのまま口に出る
柊に友達ができたと聞いた家族の反応は早い。「つーか会ったこともないんだろ」に続くのが「蓋開けたら やべえおっさんだったってことねえよな」。
洛まで「ありえない話じゃないな」と乗る。心配は最初、ネットの向こうにいる知らない人間の話として立ち上がっている。実際の相手は、公式サイトのキャラクター紹介に遠藤真治(こむぎ)として載っている、コスプレが趣味の柊のゲーム友だちである。
実際に見に行った結論
イベント当日、遠くから様子をうかがった源の結論が「やべえおっさんに騙されてるわけじゃなさそうだな」。想像していた形の怖さは、そこには無かった。
ところが直後に事態が転ぶ。近づいて挨拶をしただけで、相手が逃げてしまう。
一番怖い人間は、こちら側にいた
後始末を押し付けられた側の説明が「源の人相が怖すぎて あれから連絡は取れないし 柊は落ち込むし」。
冒頭の一行が、身内の顔で回収されている。怖がっていたほうが、いちばん怖い顔をしていた。当人の言い分は「ただ挨拶しただけじゃねえか」である。
放送後の投稿を並べておく。
源の反対には、理由が三つある
最初の二つは、その場で言われる
柊がイベント参加を報告したとき、源が出した理由は二つだった。ひとつが人物への疑いで「上手いことしか言わねえ奴は大体怪しい」。
もうひとつが現実の話で「こないだの中間 追試らしいな 受験生だろ」「もう11月だぞ」。相手を疑う話と、受験の話が、続けて出てくる。
いちばんきつい一言
そのあとに続く「せっかくの才能を現実逃避の道具にするな」「お前のお遊びに付き合わされる相手にも失礼だ」は、言い分としては通っている。
柊も「言ってくれてありがとう 当たり前のことを忘れちゃうとこだった」と、その場で引き下がってしまう。正しさで押し切られている。
三つ目は、最後まで出てこない
締めの場面で源がぽろりと漏らすのが「あいつに恋愛とかまだまだ早いんだよ」である。
これが本音に近い。ところがこの言い分は、反対した場では一度も出ていない。言える理由だけを並べて、言いにくい理由は伏せていたことになる。
自分の分は、とっくに使い切っている
洛に「じゃあ源ってそういう人いたりするの?」と聞かれた答えが「うちにこんな目の離せない奴ばっかいんのに そんなの作る暇なんかねーよ」。
早いと言った側が、自分の分をまるごと弟たちに回している。反対のときの口ぶりの出どころが、ここで分かる。
心配のほうは、家族総出になる
イベント当日、会場の周辺には家族が勢ぞろいしている。「こんな面白そうな現場に俺らを誘ってくれないなんて」「だって柊が出かけるって ここしかないでしょ」。
場所を調べたのは洛だという。反対していた源だけでなく、面白がっている側まで全員が来ている。心配の仕方はばらばらでも、集まる場所は同じだった。
応援の仕方が、やけに具体的だった
まず相手を値踏みする
徹夜の理由を打ち明けられた糸が、最初に言うのが「ちょっと期待に応えてくれなかったからって離れてくような人は 正直そこまでの人だって思うの」。
源と同じく、相手を疑ってかかる目は持っている。無条件の味方ではない、というところから始まる。
褒められ方が、一方通行ではない
柊が繰り返すのは、絵を褒められた中身のほうである。「俺の絵を見てたら お話がどんどん浮かぶって」。
上手いと言われたのではなく、自分の絵が相手の中で何かを起こした、と言われている。だから「もしこんな絵で他にも喜んでくれる人がいるんなら 俺すごくやってみたいかも」と続く。褒め言葉が、そのまま次にやることの理由になっている。
姉のほうは、恋の話として楽しんでいる
糸と洛のやりとりも挟まる。糸の見立てが「恋だと思うんだよね」で、続くのが「ならいっそ やることやっちゃってさ その方がやる気の原動力になると思わない」。
洛の指摘が「振られたら一瞬でやる気を失うこともあるけどね」「そっちの可能性は考えなかった?」。糸の答えが「ごめん 全然考えなかった」で、洛の評が「姉さんらしいよね」だった。
それでも判断は本人に渡す
そのうえで続くのが「でもね 柊くんがこの人だって思うなら 私はその直感を信じる 誰が何と言おうと応援する」。
自分の値踏みより、弟の直感を上に置いている。応援するかどうかではなく、誰の判断を採るかという話になっている。
最後は質問で終わる
締めが「だから言って 本当は一番何をしたいの?」だった。
背中を押すのではなく、言わせている。この一言のあとで、柊は自分から動き出す。
押す理屈は、先に源へ説明されている
前段で糸が源に言っていたのが「柊くんは今 外の世界とつながろうとしてるんだよ 家族として背中を押してあげなきゃ」。
さらに「あんなに小さくなって泣いてた子が 幸せそうに笑ってる 応援するなって方が無理だって」。ここまで言われても源は折れないが、糸のほうも折れない。この家はいつもこの形で回っている。
会いに行った本人は、感想しか言っていない
一人で行くと決める
イベント当日、心配されたのは移動のほうだった。「一人で町から出たことないんだよね 電車に乗れる?」。
柊の答えが「やってみなきゃ分かんないし 自分一人で会いに行きたい」「少しでも かっこいいとこ見せたいんだ」。直後に駅の方向を間違えて呼び止められるところまでが、一続きになっている。
動いた理由は、相手の一言だった
柊の背中を押したのは、やりとりの中で言われた一言である。「自分もリアルで友達いなくて 友達がずっと欲しかったんです」「リア友になってくれたら 最強なのに」。
受けた側の独白が「俺だってずっと探してた もっと深く繋がれるような誰かを」。副題の言葉が、ここでも本人の口から出ている。探していた者同士だった、という形になっている。
会って最初に出るのが、作品の話
ようやく対面した柊の第一声が「あの 今回の作品も最高でした」「まさに読みたかったエピソードって感じで」。
相手が自信がないと謙遜すると「どこがですか 全然神でしたよ」と押し返し、そのうえで過去作を全部読んだと言い出す。
説明が止まらない
「しばし 素晴らしさを説明させてもらっていいですか」と断ってから、設定が秀逸だという話を始める。締めが「とにかく神、神としか言いようがないんです」。
遠くで見ていた洛の実況が「流れ的に告白しに来たと思うんだけど 会ってから本の感想しか言ってないね」だった。
助言が、そもそも的を外している
見かねた洛の忠告が「自分の話ばっかりする男はうざがられるよ」である。
ところが柊は、自分の話を一つもしていない。最初から最後まで相手の話しかしていないのに、自分の話をしていると言われている。この取り違えが、あとで効いてくる。
うざいと言われたことが、嬉しかったことだった
本人も同じ心配をしている
逃げられたあと、柊が自分の言動を思い返す。あれでは「めっちゃ喋るじゃんこの人 怖」と思われたのではないか、「絶対痛いやつって思われた」と落ち込む。
電話でも先回りして謝る。「こないだはごめんなさい 俺かなり舞い上がっちゃってて」「一方的に気持ち押し付けられたら引いちゃいますよね」。
それでも足りないと言う
そこに続くのが「だけど あれでも足りないくらい 伝えたいことがいっぱいあって」。
引かれたかもしれないと分かったうえで、まだ足りないと言っている。反省はしているが、撤回はしていない。
相手の側の答えは正反対だった
再会したときに返ってくるのが「イベントの時 たくさん感想言ってくれて嬉しかったよ」である。
うざがられると言われた行為が、そのまま嬉しかったこととして返ってくる。助言のほうが外れていたことが、ここではっきりする。
逃げた理由も、柊のせいではなかった
相手が打ち明けるのが「この前は逃げちゃってごめんね 自分で誘っといて本当最低だった」「打ち明ける覚悟はできてたはずなんだけど やっぱり怖くなっちゃって」。
事情が「僕の趣味って誤解されがちだから 周りにバレると結構やっかいでさ」「だから高校では趣味と学校生活は絶対に分けてやろうって思ってたのに」。怖がっていたのは、こちらも同じだった。この作品が繰り返し描いてきた形が、家の外でも起きている。
証は、成果ではなく一目で分かることだった
柊は最初、成果で繋がろうとしていた
徹夜がばれた場面の説明が「簡単に会える人じゃないから また今度って言っちゃったら 向こうの気が変わっちゃう気がして」。
続きが「少しでも期待に応えられたらなって そしたら ずっと 俺と繋がっててくれるかなって」。副題の語が、本人の口から不安の形で出てくる。
応え続けないと切れる、という前提
この時点の柊にとって、繋がりは維持し続けるものである。原稿を落とせば切れる、誘いを断れば切れる、という考え方をしている。
受験勉強と原稿を両方やろうとして体を壊したのは、その前提のせいだった。断れなかったのではなく、断ったら終わると思っていた。
見つけたのは一瞬だった
終盤、家の前にいたこむぎを、柊は迷わず呼び止める。呼ばれた側が「なんで」と驚くほど早い。
糸も「よく分かったね」と聞く。答えが「だって友達だもん すぐわかるよ」だった。
会ったのは一度きりで、その一度も普段の姿ではない
顔を合わせたのはイベントの一度だけで、しかもその場では衣装をまとっていた。それでも分かる。
繋がりの証は、原稿でも感想でもなく、一目で見分けられることだった。落とした原稿の話も、逃げられた話も、この一行で無効になる。
本人は恋だと一度も言っていない
糸は「恋だと思うんだよね」と読み、洛は告白しに来たと読み、源は恋愛にはまだ早いと止める。家族全員が同じ方向に読んでいる。
ところが本人の答えが「恋?何のこと? ただお友達になりたかっただけだよ」「恋とか別次元で起こってることだと思ってるから 俺には分かんないし分かる気もなくて」。
そろって同じ読み違いをしていた。副題が「恋の証」ではなく「繋がりの証」なのは、そういうことだった。
声についての驚きを書いている投稿もあった。




関連作品:






















コメント