『なのはEXGV』第11話の副題は「魔人・篠宮マナ」。冒頭のマナの語りに出てくる十年前の相手は「私と同じ原種の魔人」で、後半でその名がシイナの妹セツナだと分かる。第8話でシイナが「大切な子が最後にくれた贈り物」と呼んだ炎を、マナは「セツナを久瀬ちゃんが食べた」とあっさり言い換える。妹の贈り物と拾い物、同じ力をめぐる二つの呼び方がぶつかる回だった。




副題「魔人・篠宮マナ」の、二つの部分
公式サイトの第11話の副題は「魔人・篠宮マナ」。あらすじは「南極地下研究所を舞台に、篠宮マナと夜海トワ、久瀬シイナと篠宮マナ、原種0号とEXCEEDS一同の苛烈な戦いが繰り広げられる」と三つの戦いを並べ、「篠宮マナとシイナの間に存在した意外な因縁」と続ける。
本編はマナの語りから始まる。「私の一番古い記憶は」「私が住んでた調査基地に」「隕石が落ちてきた場面」。「家族や知り合いがバラバラになって死んで」「どこからか現れた化け物に」「生き残りや死体が食われてる中」「私だけが生き残ってた」。そこから「原種の中でも特に強力な個体と融合したみたい」「国連に認識されてない原種Xと」「当時13歳のメスの融合体」と続き、「それが私魔人マナ」で結ばれる。
「篠宮マナ」は、体の持ち主の名前だった
第6話でマナは、蔵木に「篠宮マナ。だったかな。この体の持ち主はそう呼ばれてた」と名乗っていた。自分の名前を、他人の名前のように言っていたわけだ。今回の語りは、その「体の持ち主」の記憶から始まる。調査基地で家族を失った13歳の子と原種Xが一つになったものが、いまのマナということになる。
家族が死んだ記憶のすぐ次に来る言葉が「私は強かった」で、悲しみを表す言葉は一つも挟まらない。自分を「13歳のメス」と標本のように数えるのも、この人の語り方だ。副題の「魔人」は本人の名乗りから、「篠宮マナ」は体の持ち主の名前から来ていると読めて、その二つが「・」でつながっている。
「Origin」が付かない生い立ちの回
副題に「Origin」が付いたのは、第1話「久瀬シイナ Origin」と第4話「夜海トワ Origin」の二本だった。マナの生い立ちがまとめて語られる第11話には「Origin」が付かず、代わりに「魔人・」が前に置かれる。語りの中身も「いろんなところを回って戦って」「喰らって力をつけて」「私の役に立つ鉢植えも手に入れて」「隠れ家に植え替えた」「そう私は強くなったの」と、生まれよりも強くなるまでの経歴に寄っている。
生い立ちの回なのに、語られるのは強くなっていった順番のほうだ。第10話でラボに残る理由になった「大事な鉢植えはもちろん、いろんな宝物もあるし」の鉢植えも、ここでは「役に立つ」ものとして経歴の一行に収まっている。
第6話の「あいつ」は、セツナだった
語りは「なのに」で折れる。「10年前に会ったあいつ」「私と同じ原種の魔人」。相手は「もうやめよ」と止めに入り、マナは「あんたも魔人でしょ」「食って奪って強くなる以外に」「生きる目的なんてあんの」と返す。答えは「私は違うよ」「一人で世界を壊す個体を止めるために」「私みたいな個体がいる」だった。
マナは「ならやっぱり私の敵だね」「あんたを食ったら私はもっともっと強くなれる」と襲いかかり、「全力で戦って殺し合って」「致命傷は与えたはずだけど」「私は結局あいつを食えなくて」「力を失って」「逃げることしかできなかった」。語りの最後は「もう二度と負けたくなかった」。この「あいつ」の名前は、後半でシイナの一撃を受けたマナ自身の口から「セツナって魔人を知ってる」と出てくる。
第6話で名前の出なかった相手
第6話の蔵木の回想で、マナは「私、他の魔人と戦って負けたんだよね。それで弱くなって死にかけたところ、エイジ君に助けてもらった」と話し、「私を殺しかけたあいつを思うと、時々気が狂いそうになる」とまで言っていた。蔵木の「10年前まで俺には何もなかった」と合わせると、時期も合う。第6話で名前が伏せられていた「あいつ」が、第11話でセツナだと分かる。公式あらすじの「意外な因縁」は、まずここのことだ。
魔人化薬の十年は、再戦の準備だった
第6話で蔵木は「お前を強くする仕組み、俺が作ってやろうか」と言い、魔人化薬の商売を組み上げた。今回マナは「私が10年かけて集めた力」と言い、十年前に負けた相手との「再戦に私は備えて」とも口にする。トワが育った研究所も、トワの両親を奪った炎の魔人も、一度負けた魔人がもう一度挑むための十年の中にあったことになる。第10話の「無駄なんだよね。私は強いし、絶対に負けないの。絶対にね」は、負けた記憶の上に立っていた。
「まだ人間でいたかった」と笑われる側
現在に戻ると、マナはトワに言う。「魔人として生きるなら」「強くなきゃ意味がないでしょ」「私を殺したかったなら」「なんでもっと必死にならなかったの」「魔人を食って原種を食って人を食って」「盗んだ魔人化薬だって」「食いまくればよかった」。そして「もしかして魔人になったくせに」「まだ人間でいたかった」「復讐が終わった後に幸せになりたかった」「甘いよ甘い甘い」「蜂蜜漬けのシュガードーナツより甘い」。
悪口まで、食べ物で量る
マナの言葉は、ほとんどが食べる話でできている。第4話では「想定通りに強くなったら美味しくいただいて私がもっともっと強くて綺麗になるの」と言い、今回も「食って奪って」「食いまくればよかった」、そして「甘い」の比べる先がシュガードーナツになる。相手をけなす「甘い」までお菓子で量る人にとって、魔人も侵略種も人も、同じ皿の上に並んでいる。十年前にセツナへ投げた「食って奪って強くなる以外に」「生きる目的なんてあんの」という問いを、マナは今度はトワにぶつけていることになる。
トワは「まだ動ける」「みんなは死なせない」「来てくれたことも」「戦ってくれたことも」「無駄にしない」と立ち上がり、「戦力差は歴然」と認めたうえで「血が流れてるなら」「殺せる方法はある」「頭と胴を切り離せば」「少しは隙ができるはず」と狙いを定める。返ってくるのは「首が飛んでもすぐ死ぬわけじゃないけど」「割と痛いからね」「結構ムカついた」だった。
二択に「見捨てないし負けない」
マナは二択を出す。「トワちゃんがいい子で」「あたしの奴隷でモルモットになってくれるなら」「この子たちを殺さないでおいてあげようか」「それとも」「この子たちを見捨てて」「もう一度あたしに挑戦してみる」。この子たちと呼ばれた子分たちは「大丈夫です」「私たちのことは」「気にしないで」と返す。
トワの内側で出た答えは「見捨てないし負けない」「優しい子が優しいままでいられる世界にする」「そのため魔人は殺す」。見捨てるか、負けを認めて従うか、という二択に、トワはどちらも選ばないと答えている。第8話で一人で出ていった人が、今度は仲間を勘定に入れたまま答えを出している。
トワが紹介したかった「大切な子たち」
同じ場面で、トワはシイナのことを考えている。「シイナにはひどいことをたくさんした」「私が嘘をついてたこと」「話も聞かずに責めちゃったこと」「シイナの大切なものを傷つけちゃったこと」。そして「だけどもしもう一度会えるなら」「シイナにはみんなをちゃんと紹介するね」「ずっと私と一緒にいてくれた」「私の大切な子たちだよって」。
第8話でシイナが使った「大切な子」
第8話の決別の場面で、トワに「その力を私に渡して」と迫られたシイナは、「私のこの力は大切な子から送ってもらったものだから」「私の大切な子が最後にくれた贈り物なんだよ」と断っていた。トワの言う「シイナの大切なもの」は、たぶんこの力と、それをくれた妹のことだ。
決別の日にシイナが妹を指して使った「大切な子」を、トワは自分の仲間をシイナに紹介する言葉として選んでいる。第8話の別れ際は「少しの間だったけど、私は楽しかったよ」「さよなら」と過去形で、第10話の伝言は「私のことは忘れて」だった。今回は「もしもう一度会えるなら」で、トワの言葉がようやく再会の側を向く。
マナが「じゃあそろそろバラすね」と言ったところへ、本人が現れる。「国連危険生物調査機関EXCEEDS駆除隊員」「久瀬シイナ」「遅れてごめん」「助けに来たよ」。第9話で強制捜査の口上に使われた「国連危険生物調査機関EXCEEDS」が、今回はシイナ自身の名乗りに付いている。続けて「篠宮マナ」「原種の隠蔽と」「違法薬物製造の容疑で逮捕します」。
殺しに来た人と、連れて帰りに来た人
トワは「魔人は殺す」と言い続けてきた。シイナの口から出るのは「あんたの話は連れて帰ってから聞くんで」「おとなしく逮捕されるならよし」「抵抗するなら」「ぶちのめす」で、トワには「トワとみんなはEXCEEDSの救護を待って」「医療チームが向かってくれてるから」、自分のことは「あいつをぶちのめして連れてくの」「あたしのお仕事だから」。同じ相手を前にして、トワは殺すと言い、シイナは連れて帰ると言う。
しかもシイナは「任せといて」「約束する」のあとに、「ヤバそうだったら」「手伝ってってお願いするかもだから」「そしたらごめん」「助けてね」と付け足す。第6話でトワに「困った時や悲しい時は頼ってくれた方が嬉しい」と言った人が、自分から先に頼る約束をしておく。一人で抱えて一人で出ていったトワに向けて、いちばん強い人がそれをやっている。
贈り物と呼ばれた力を、「食べた」と言う人
最初の一撃で、マナは異変に気づく。「打撃で私がダメージを受けた」「私の生命力が減ってる」「まさかあの子」「同じ能力」、そしてすぐに「違う」「あいつそのものだ」。問いは「君のその力」「どうやって手に入れた」「セツナって魔人を知ってる」「それあいつの力だよね」「やっぱり殺しきれてなかったんだ」と進み、次に出るのが「でもよかった」「原種の力自体は残っててくれて」だった。
「食べた」「拾った」と、「人の妹」
マナの推理はこうだ。「逃げて死にかけたあいつを」「セツナを久瀬ちゃんが食べた」「それでその炎の力を手に入れた」「しかも能力は丸ごと残ってるね」。そのうえで「ねえ」「その力」「あたしにちょうだい」。シイナの返事は「人の妹のこと」「好き勝手言ってんじゃねえ」で、マナは「妹」と一語だけ返す。
第8話でシイナが「大切な子が最後にくれた贈り物」と呼んだ力を、マナは「食べた」と言い、さらに「久瀬ちゃんが拾った原種セツナの力」とまで言う。同じ炎が、片方からは妹の贈り物に、もう片方からは拾い物に見えている。マナが最初に喜んだのも、セツナのことではなく「原種の力自体は残っててくれて」のほうだった。第4話でなのはが話していた「自分の中にセツナちゃんが生きてる実感があるって、よく言ってるからね」を思い出すと、シイナの「好き勝手言ってんじゃねえ」の重さが分かる。
「拾った」と言いながら「継承」と見立てる
マナ自身の分析は「あの子」「セツナの力を丸ごと継承してる」「ダメージを受けた分だけ持っていかれる」「あたしの命と力を」だった。口では「食べた」「拾った」と言いながら、見立てのほうでは「継承」という語を使っている。
拾い物と呼んだ力を、戦ってみたマナ自身が「継承」と言い直している。シイナはここで「ここで戦うとみんなが危ないから」「場所を変えるよ」「上に行こう」と、トワたちから戦場を引き離す。
原種0号と蔵木、同じ時間のもう一つの戦場
公式あらすじの三つ目、原種0号とEXCEEDS一同の戦いは、本編ではほとんど台詞の無いまま進む。記事内のツイートにも、そちらの手際を挙げる声が多い。
食べない相手が一人だけいる
施設の側では「すでに施設の9割が制圧され」「警備兵もほとんどが」と報告が上がり、「マナ様は国連の魔人と戦闘中で」、蔵木への伝言として「安全なところに隠れてて」「すぐに連絡するから」が届く。何でも食べる話にしてしまう人が、蔵木にだけは「安全なところに隠れてて」と言い残している。第10話でラボに残る理由の一つが「何よりこのラボってエイジ君が指示して作ってくれたやつだし」だったのと同じ向きだ。
その蔵木のもとにも、はやてたちが踏み込む。用件は「違法薬物取引の件と」、蔵木と篠宮マナの関係について「お話を伺ってもよろしいでしょうか」。第6話で「私たちは友達、運命、共同体」と言っていた二人が、別々の場所で同時に追い詰められていく。
決着は、台詞の無い数分で運ばれる
上へ場所を移したあとの戦いで、マナは「私が10年かけて集めた力」「こんな短時間で吸収しきれるわけがないよね」「でも吸収し続けなきゃ私を倒せない」と構え、「返してもらうよ」「私の生命力とセツナの能力」と言う。締めは「魔人も侵略種も」「私が強くなるためのご飯とおやつなんだから」「おとなしく私のお腹に収まってね」。
「返してもらう」ものの中に、セツナがいる
「返してもらう」ものの中に「セツナの能力」が入っている。十年前に食べ損ねた相手の力を、マナはずっと自分の取り分だと思っている。第8話でトワに「その力を私に渡して」と迫られたとき、シイナは渡さなかった。同じ力を、今度は「返して」と言う相手が来ている。
この先の決着は、ほとんど台詞の無い数分で描かれる。次に聞こえるのは「シイナさんがやってくれた」という声で、そのままエンディングに入る。エンディングのあとには「炎は綺麗だね」「私の宝物」という声が残って、回が終わる。決着の中身は、記事内のツイートがそれぞれの見方で書いている。
食べて強くなる以外の答え
十年前、マナはセツナに「食って奪って強くなる以外に」「生きる目的なんてあんの」と聞いた。この回には、その問いへの答えが三つ並んでいる。セツナの「一人で世界を壊す個体を止めるために」「私みたいな個体がいる」。トワの「優しい子が優しいままでいられる世界にする」。シイナの「あいつをぶちのめして連れてくの」「あたしのお仕事だから」。
副題の「魔人」は、いちばん狭い定義
魔人を、食べて強くなるものと定義しているのはマナだけで、同じ魔人のセツナもトワもシイナも、その定義を受け取っていない。トワは「魔人は殺す」と言いながら、マナには「まだ人間でいたかった」と笑われる側に立っている。副題の「魔人・篠宮マナ」は、魔人という言葉をいちばん狭く使う人の名前であり、その「篠宮マナ」も体の持ち主から借りた名前だった。
十年前に負けた相手の力が、妹を思う姉の中に残っていて、その姉が「助けてね」と言いながら戦う。マナの十年は、その一点で計算が合わなくなったのだと思う。




















































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