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『100カノ』第35話の副題は「こどもも、おとなも、おねーさんも、おかーさんも。」。年上の子持ちは恋愛対象外、という生徒の会話を聞いた花園羽々里を、愛城恋太郎は高校生としての放課後デートに誘う。帰り際、恋太郎は「俺だって同じだけ遠くに生まれてきてやりますよ」と、年の差ごと受け止める。後半は、好本静が隠していた家の事情に栄逢凪乃が気づく。




副題は、羽々里の四つの顔を並べている
第35話の副題は「こどもも、おとなも、おねーさんも、おかーさんも。」。公式のあらすじは、バイト先の店長に告白されて迷惑がる男子生徒の会話を、羽々里が校内で耳にするところから始まる。「一回り年上の子持ちは恋愛対象にならないと話す生徒たちの声に、羽々里は思わず自分と恋太郎の関係を重ね」、そこから恋太郎の誘いへつながっていく。
四つの呼び方が、そのまま一話の中に出てくる
副題の四語は、この回の花園羽々里の姿にそれぞれ当てはまる。放課後の生徒に「理事長先生さようなら」と声をかけられるのは「おとな」の羽々里。高校生の制服で出かけ、愛城恋太郎から「羽々里先輩」と呼ばれるのは「おねーさん」。テディベビーちゃんと「いつも一緒でお世話したり」していた幼い頃を語るのは「こども」。そして土産物を前に娘の分を探してしまうのが「おかーさん」だ。一話のうちに、羽々里は四つの顔を全部見せている。
副題の並びは「こども」から始まり「おかーさん」で終わる。この回のデートも、羽々里の子ども時代の話で盛り上がり、娘へのお土産の話で締めくくられる。
あらすじは「一回り年上」から始まる
あらすじが最初に置くのは、恋の話ではなく年の差の話だ。本編でも、放課後の男子生徒の会話は具体的な数字で始まる。「昨日バイト先の店長に告られてさ」「いいな」「よくねえよ店長29歳子持ちなんだぜ」「え一回り上ってのはさ」「さすがにそれはねえわ」。生徒たちは、年上であることと子どもがいることを、断る理由として並べている。どちらも羽々里に当てはまる条件だ。
「憧れちゃう」と「ねえわ」が、同じ放課後に並ぶ
冒頭の短い時間のうちに、羽々里は生徒たちから二種類の言葉を受け取っている。
理事長としては、憧れられている
最初の場面で、生徒たちは羽々里に「理事長先生さようなら」と挨拶し、「今日も素敵きれいで憧れちゃうよね」と話している。羽々里も「さようなら気をつけて帰ってね」と返す。理事長として見られるかぎり、羽々里は憧れの対象のままでいられる。
恋愛の相手としては、「ねえわ」の側に入る
ところが、放課後に聞こえてくる別の会話では、店長に向けて「さすがにそれはねえわ」が出る。続けて「せっかくいい店だったのによ」「顔合わせずれえし続けらんねえよバイト」。告白されたことで、職場ごと手放すことになる。憧れと恋愛対象外が、年上の相手に向けて同時に成り立っている。あらすじの言う「複雑な気持ち」は、この二つを続けて聞いたところから来ている。
恋太郎の誘いは、「高校生に戻れたら」への返事だった
屋上でのファミリーの時間のあと、恋太郎は羽々里だけに声をかける。
前に聞いた一言を、恋太郎は覚えていた
「今日この後用事とかってありますか」と聞いてから、恋太郎は理由を話す。「前に高校生に戻れたらって言ってたじゃないですか」「それなら高校生としてデートできたらなって思ってて」。誘いの出発点は、羽々里が以前こぼした願いのほうにある。「でもみんなと一緒だと恥ずかしいかもしれないので」と、二人きりの形を選んだ理由まで添えている。
断る逃げ道まで、先に用意しておく
恋太郎はさらに「もちろん無理にとは言いませんし」と付け加え、制服姿が一人だけでは恥ずかしいなら自分も一緒に歩く、と申し出る。誘う側が、断りやすさまで先に用意している。デートの当日、恋太郎は羽々里を「羽々里先輩」と呼び、すれ違う生徒には「3年生かな」と言われる。
周りから高校生として見られることが、羽々里にとって「戻れたら」の答えそのものになっている。
クイズの最後の答えは、幼い羽々里本人だった
恋太郎が選んだ行き先は、羽々里が幼い頃に好きだった番組のミュージアムだった。
恋太郎は、全話を予習してきていた
「羽々里先輩が幼い頃大好きだった番組ですよね」「そのミュージアムができたって聞いて」。羽々里は「放送当時うちの会社がスポンサーで」「お母様がいただいてきて」と、テディベビーちゃんとの思い出を話す。二人で挑むクイズでは難問が続くが、恋太郎は次々に答えていく。種明かしは「羽々里先輩にプレミアムテディベビーちゃんを贈りたくて」「サブスクで全話予習してきたんです」。羽々里が子どもの頃に好きだったものを、恋太郎は前もって自分でも好きになってきている。
「本当の理由」は、関係者にしか分からない
最終問題は「お口が開かなくなった本当の理由」を問う。作中の答えは「嫌いなにんじんを食べたくなくて口をぬったから」だが、恋太郎は「最終問題にしては急に簡単すぎます」「もしかするとひっかけ問題かもしれません」と止める。羽々里が思い出したのは、ある時期から後に出たぬいぐるみの口が閉じた仕様に変わったことと、「閉じた口にとてもがっかりしたから覚えてるわ」という記憶だった。
答えは、仕様変更の理由のほうだった。スポンサーの社長から、娘がテディベビーちゃんにキスをしすぎて困る、という苦情があったから。クイズの正解を知っていたのは、苦情の元になった羽々里本人だった。「でもそんな裏事情関係者でもなきゃわかるわけが」と言われたその「関係者」が、その場にいたことになる。
「俺より遠くに生まれてきてくれて」
デートの終わりに、羽々里は帰りたくないと言う。
夢から覚めたくない羽々里
「それじゃあ羽々里先輩そろそろ帰りましょうか」に、羽々里は「帰りたくないな」「帰ったらまた私は羽々里さんに戻っちゃう」「夢から覚めちゃう」と答え、もっと恋太郎の近くに生まれていればよかった、とこぼす。羽々里にとって、高校生の自分は「夢」の側にある。
恋太郎は、年の差のほうを喜ぶ
恋太郎の返事は「俺はよかったですけどね」から始まる。「羽々里さんが俺より遠くに生まれてきてくれて」「高校の頃の羽々里さんもきっと魅力的だったと思いますけど」「今の羽々里さんには絶対かなわないと思います」。そして「もし運命を変えられたとして」「羽々里さんが今より俺の近くに生まれてくるって言うなら」「俺だって同じだけ遠くに生まれてきてやりますよ」「何度だって今の羽々里さんと出会いたいから」。
冒頭の生徒は「一回り上ってのはさ」と、年の差を断る理由にした。恋太郎は同じ年の差を、今の羽々里に出会えた理由として受け取っている。距離を縮めるのではなく、距離ごと選び直すと言っている。
高校生デートの最後に、羽々里は「おかーさん」に戻る
帰り際、羽々里は土産物を見て「羽香里に買ってこうかしら」と言いかけ、「せっかく恋太郎ちゃんが高校生デートにしてくれてるのに」「娘へのお土産だなんて」「私って結局こうなのね」と謝る。恋太郎は「そんな羽々里さんのお母さんな一面に惹かれてしまって」と返し、自分も高校生として見られていなかったと打ち明ける。「おかーさん」の顔は、失敗ではなく、恋太郎が惹かれた理由として迎えられる。
凪乃は、「1ナノメートル」の違いを言葉にする
後半は、好本静と栄逢凪乃の二人の話になる。静のスマホは「故障」で修理に出している、と説明されていた。
友達が、自分の部屋にいる
「今日うちで宿題をしてから遊ぶ約束」で、静は凪乃の部屋を訪ねる。凪乃の心の声は「友達が」「好本静が私の部屋にいる」「なんだか変な感じ」。ある場面の主人公の感情を静に尋ね、「底抜けに可愛いという感情」と教わると、「やはり人間の感情は奥が深い」と受け止める。凪乃にとっては、友達を部屋に迎えること自体がまだ新しい経験だ。
恋太郎が黙っていたことを、凪乃は口にする
一緒に風呂に入る提案にも、凪乃なりの理屈がついている。「胸中を打ち明けやすくなる」。そして凪乃は切り出す。「好本静」「何か隠してる」「うまく言語化できないのだけど」「今日のあなたは」「いつも見ているあなたと1ミリメートル」「いえ1ナノメートルくらいだけ違う」。
続く言葉が「おそらく愛城恋太郎も気づいていた」「彼は隠したがっているあなたの気持ちを優先していたみたいだけど」「でも私にはそんな状態のあなたが」「少し辛そうにも見える」「叶うならどうか」「あなたを助けたい」。恋太郎は隠したい気持ちを尊重し、凪乃は辛そうに見えることを放っておかなかった。同じ違和感に、二人は別の答えを出している。
まとめと考察
最後に、静のスマホの本当の事情と、この回に並んだ二人の母親を整理しておく。
スマホは、故障ではなく取り上げられていた
静が明かした事情は、母親の言葉として描かれる。「スマホを渡しなさい」「あなた今度は本じゃなくてスマホで喋ってるんですってね」「誰かと電話でもしたくなればちゃんと喋れるようになるかと思ったけど」「そんなものを持たせたのが間違いだったわ」「すぐに解約してくるからスマホを渡しなさい」。凪乃は「でも愛城恋太郎に話しましょう」「それはあなたにとってとても怖いことだと思うけど」「私が隣にいる」と背中を押し、電話に出た恋太郎は「たとえ手術中だとしても行くよ」と答える。
恋太郎は「絶対静ちゃんを悲しませるような結果にはしないって約束する」と言って静の家へ向かい、凪乃は「私は気遣いや言葉選びが下手だから」「きっといない方がことが荒立たない」と残る。凪乃は、自分が行かないことまで含めて、静を助ける方法を選んでいる。
二人の母親が、娘の持ち物を正反対に扱う
前半の羽々里は、デートの途中でも娘へのお土産を探してしまう母親だった。後半の静の母親は、娘のスマホを「そんなものを持たせたのが間違いだった」と取り上げる。娘に何かを持たせたい母と、娘から取り上げる母が、同じ一話の前後に置かれている。副題が「おかーさんも。」で閉じられるのは、この二つの母親像を並べて終えるためにも見える。
年の差ごと、家族ごと向き合う約束
羽々里の場面で恋太郎が口にしたのは、年の差ごと選び直すという約束だった。静の場面で口にしたのは、悲しませる結果にはしないという約束だった。場面の最後には「お前は静を救えるのか」という問いが恋太郎に向けられる。この回の恋太郎は、二人の彼女に、それぞれの家族ごと向き合う約束をしている。




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