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『きみを愛する気はない』第11話の副題は「閉じ込められて…」。紡績工場の倉庫で、エルサはヤルモと二人きりで閉じ込められる。仕組んだのは、一緒に閉じ込められたヤルモ本人だ。「ユリウスはあなたを利用しているのでは」という揺さぶりに、エルサは第1話の「君を愛するつもりは一切ない」を自分で持ち出して答える。そしてヤルモの記憶の底にあったのは、ユリウスに言われた「君は誰だっけ」の一言だった。




副題「閉じ込められて…」は、誰が閉じ込めたのかを書かない
第11話の副題は「閉じ込められて…」。公式サイトのあらすじは「紡績工場に視察に行くユリウスとエルサ」「なぜかヤルモが同行する」と始まり、エルサは「二人きりで倉庫の中に閉じ込められる」。そして一文で種を明かす。「それはヤルモが仕組んだ事だった」。
十一本目で初めて、副題が動きの途中で止まる
公式サイトの副題を並べると、第1話「みせかけの結婚」、第3話「カフスボタンとオルゴール」、第5話「遠い雨音」、第8話「誤解と不実」、第10話「ユリウスの願い事」と、ほとんどが名詞で閉じている。例外は第2話「……ありがとう」だけで、こちらは「……」が頭に付く。第11話は、受け身の動詞のまま「…」で途切れる初めての副題になった。
受け身なので、閉じ込められた者も、閉じ込めた者も書かれていない。第9話「ヤルモの誓い」、第10話「ユリウスの願い事」と二話続けて副題に入っていた人の名前も、ここで消えている。
閉じ込めた本人も、中にいる
あらすじに従えば、倉庫の中にいるのはエルサとヤルモの二人で、閉じ込めたのもヤルモである。仕掛けた人間が、仕掛けの内側に自分も入っている。副題が誰の立場の言葉なのかを決めないまま置かれているのは、この二重の構図によく合っている。
総作画監督が一人だけなのは、第7話と第11話
公式サイトの各話スタッフでは、脚本は金春智子。第2話から金春智子、森田眞由美、吉村愛の順で三周してきた並びが、ここで四周目に入った。絵コンテの中川聡は、第4話、第8話に続いて三本目。演出は前田基匡、八木脩平、三好正人の三人で、演出に三人が並ぶのは十一話で初めてだ。
総作画監督は申羅羅ひとり。総作画監督が一人だけの回はこれまで第7話「思いがけない贈り物」しかなく、そのときも申羅羅だった。
「名前で呼んでほしい」と言うユリウスは、夢の中にいた
本編の冒頭は、ユリウスの「エルサ、俺のことも名前で呼んでほしい」から始まる。ところが次に聞こえるのは「よく眠っているところ悪いが」で、ユリウスは「先にラウンジにいる」と出ていく。視聴者の投稿にも、冒頭の場面がエルサの夢だったと気づいて驚く声が並んだ。
夢では「名前で」、起きると「徐々にでいい」
第10話では、公式アカウントが放送後に「ついにユリウスを名前呼びしたエルサ。」と告知していた。同じ出張先で迎えるこの回で、エルサが見る夢の中のユリウスは、名前で呼んでほしいと自分から頼んでくる。
目を覚ましたあとの本物のユリウスは、「失礼する、待たせてすまない」に続けて「呼び方の件は徐々にでいい」と言う。夢のユリウスは名前を求め、現実のユリウスは急がなくていいと言う。せかしているのは夢の側だけで、名前で呼びたいのは、夢を見ている側の気持ちなのかもしれない。
飾り紐の糸を選ぶ用事が、倉庫への道になる
「みんなで何をしていたんだ?」と聞かれて、「飾り紐の作り方を教わった」。エルサは「王都に戻ったら子供の家のみんなと一緒に作ろうと思いまして」と話し、ユリウスは「工場に飾り紐を作る材料があれば」「子供たちの分を買い付けよう」と、このあとの視察に用事を一つ足す。子供の家は、第9話でエルサがバザーを開いた場所だ。
公式サイトのあらすじによれば、エルサがヤルモと倉庫へ向かうのは「飾り紐用の糸を選ぶため」である。子どもたちのための用事が、そのまま二人きりにされる口実として使われる。
「今日は私はプライベートですので」
工場に着くと、ヤルモは「ご一緒させていただきましてありがとうございます」と一行に加わっている。工場側の説明の時間になると、「では、私はエルサ様にお供しましょう」「今日は私はプライベートですので」と、仕事の席を外れてエルサの側につく。ユリウスの「そうだな、見てくるといい」も、この段取りの中に組み込まれている。
第10話でユリウスは、出張を「休暇も兼ねているだけだ」と言い直していた。仕事の場から一歩引くための言い方を、今度はヤルモが「プライベート」と言い換えて使っている。
もっとも、ユリウスの側にも引っかかりは残っている。この回にも「パルニラ伯爵家にもご支援をいただきまして」「大変ありがたく思っております」という、第10話で領主が口にしたのと同じ言葉が出てくる。そのうえでユリウスは「親交が深いという話は聞いたことがない」「再度クレーサ地方の公共事業基金について」「洗い出す必要があるな」と考える。第10話で議長選のやり取りを聞き逃した彼が、別の筋から同じ場所へ近づき始めている。
同じ工場が、エルサには懐かしく、ヤルモには耐え難い
倉庫へ向かう途中、ヤルモは「エルサ様も このような光景は 珍しいのでは?」と話を振る。
「少し懐かしいです」と「私には 耐え難いですがね」
エルサの答えは「いえ 私の田舎では」「夏前になると たくさんの羊毛を集めて」「町の人たちと一緒に 毛糸を作っていたので」「少し懐かしいです」。公式サイトのキャラクター紹介にある、「仲の良い両親・弟と家族4人でつつましく暮らしている」家の娘らしい話である。対してヤルモは「私には 耐え難いですがね」。
公式の紹介でヤルモは「近年急速に力を付けたパルニラ伯爵家の長男」とされ、第9話のあらすじは「幼いころの悲惨な暮らし、伯父に引き取られてから必死に重ねた努力」と彼の過去を書いていた。つつましい暮らしを懐かしめる人と、苦しい暮らしから抜け出してきた人が、同じ工場の光景に正反対の返事をしている。
「入り口を間違えたようです」から始まる芝居
「到着しました こちらからどうぞ」と通された先は、「糸を選ぶお部屋ではないように 見えるのですが」という場所だった。「どうやら 入り口を間違えたようです」「案内の者も 見失ってしまいまして」。扉を確かめると「鍵がかかってるな」、もう一方も「こちらもですね」。
そこから「何かの手違いで 閉じ込められてしまったようですね」「まあ ユリウスには行き先を 告げてありますし」「打ち合わせが終わる頃に 我々が戻っていなければ」「おかしいと思って 探しに来てくれるでしょう」「大丈夫ですよ」と、なだめる言葉が続く。「手違い」も「大丈夫ですよ」も、仕組んだ本人がいる部屋の中で交わされている。あらすじを知ったうえで聞くと、どの言葉も芝居に聞こえる。
外では「そのままお待ちください」
倉庫の外でも段取りは進んでいる。二人を待つユリウスのもとには、「それでは奥様とヤルモ様がお戻りになるまで」「そのままお待ちください」と声がかかる。中では「探しに来てくれるでしょう」と言い、外では「そのままお待ちください」と引き止める。探しに来るはずの人が、待つように言われている。
「利用しているのでは」に、エルサは第1話の言葉で答える
閉じ込められた倉庫で、ヤルモは「エルサ様 時間はありますし」「座っておしゃべりでも しませんか?」と切り出す。
ほめ言葉を重ねてから、疑いを置く
「こんな状況になってしまいましたが」「エルサ様とは一度 二人でお話ししてみたかったのです」。そして「以前 お二人の出会いは お見合いだとお伺いしましたが」と、結婚の成り立ちに踏み込む。続くのは「今までユリウスと親密になった令嬢たちとは」「違うと感じています」「エルサ様は彼の家族や容姿を」「アクセサリーのように扱ったりはしないでしょう」「あなたは無垢で優しすぎる」。
その最後に置かれるのが、あらすじにもある「ユリウスはそんなあなたを利用しているのでは」だ。いくつものほめ言葉が、疑いを受け取らせるための前置きとして並んでいる。公式のあらすじが「ヤルモの巧みな言葉」と書くのは、この順番のことだろう。
「君を愛するつもりは一切ない」を、エルサが自分で口にする
ところがエルサの返事は「珍しくないお話だと思います」。自分も家のために嫁いだのだと認めたうえで、「はじめは」「君を愛するつもりは一切ない」と、ユリウスに言われた言葉をそのまま口にし、「お相手がどんな方でも構わないと思っていたのに」「旦那様と共に過ごす時間が」と続ける。
第1話の公式あらすじで、結婚式当日にユリウスから告げられたのは「きみを愛するつもりは一切ない」という言葉だった。第10話のあらすじではこの一文から「一切」の二文字が抜けていたが、第11話では、言われた本人が「一切」まで含めて言い直している。揺さぶるつもりで持ち出された疑いを、エルサは最初から知っている事実として受け止めた。
疑いよりも、自分の一言のほうが刺さる
そのあとエルサの口から出るのが、「愛されているからここにいるわけではありませんでしたね」。ヤルモの疑いにはたじろがなかったのに、自分で確かめ直した一言のほうが、エルサをいちばん深く傷つけている。
ヤルモのほうは「俺の言葉で傷ついている」「こんなにも」と受け取る。傷の出どころを、自分の言葉だと思っている。
「君は誰だっけ」と言われた人が、「俺にしませんか」と言う
ここで、ヤルモの記憶が差し込まれる。
背中を追い続けた相手に、名前を覚えられていなかった
記憶の中のヤルモは「俺は死ぬ思いで君の背中を見つめ」、追いつこうとしていた。「なのに」と続いたあとに返ってくるのが「君は誰だっけ」。第9話で描かれた学校の場面と同じ一言である。公式サイトの紹介ではヤルモは「ユリウスとは王立学校の同窓生」で、第10話では自分から「ユリウスとは学生時代からの付き合いで、エルサ様とはパーティーなどでご挨拶させていただいております」と名乗っていた。
ヤルモはその記憶を「君にとって僕は」「あの場所にいた頃のように」「透明で」「名前を知る価値すらないものだった」と言い表す。「学生時代からの付き合い」と紹介した相手に、名前すら覚えられていなかった。第9話のあらすじが書いた「しかし常にヤルモの前にいたのがユリウスだった」は、前にいた側が後ろを見ていなかったということでもある。
夢の「名前で呼んでほしい」と、「名前を知る価値すらない」
この回は、夢の中のユリウスが「俺のことも名前で呼んでほしい」と頼む場面で始まった。同じ回の中ほどで、ヤルモは同じユリウスに名前を覚えられなかった記憶を語る。名前で呼ばれることを願われる男と、その男に名前を知る価値すらないと思わされた男が、同じ倉庫の話でつながっている。
「何もかも与えられてきたユリウスには」
ヤルモは「君は何もかも持っているだろうに」とつぶやき、エルサには「俺にしませんか」「俺なら」「あなたの痛みがわかるはずです」と迫る。理由は「何もかも与えられてきたユリウスには」「エルサ様の気持ちを理解できないでしょう」。
けれど公式サイトの紹介は、ユリウスが「きみを愛するつもりはない」と突き放したのは「幼少期のトラウマから」だと書いている。第9話では、学校時代のユリウスを「いつも一人で笑わない静かな子だったな」と語る声もあった。ヤルモが「何もかも持っている」と見ていた相手は、その頃ひとりで笑っていなかった。そこへ「エルサに何をした」と、ユリウスの声が割って入る。
まとめと考察
閉じ込められていたのは、倉庫の二人だけではない
第11話は、閉じ込める側と閉じ込められる側が同じ人物だという仕掛けから始まった。けれど見終えると、閉じ込められていたものは倉庫の外にもある。ヤルモは「透明で」「名前を知る価値すらない」と感じた学校時代に、エルサは「君を愛するつもりは一切ない」から始まった結婚の約束事に、それぞれ閉じ込められている。鍵のかかった部屋は、二人が前から抱えていた場所を目に見える形にしたものだった。
名前を覚えなかった少年が、呼び方を急がない夫になった
名前をめぐる言葉を並べると、夢の「名前で呼んでほしい」、現実の「呼び方の件は徐々にでいい」、そして記憶の「君は誰だっけ」になる。同じ学校に通った相手の名前を覚えなかった少年が、いまは妻に呼び方を急がせない夫になっている。副題の「…」は、その変わり方がエルサにもヤルモにもまだ届ききっていないところで途切れている。























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