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『無職転生Ⅲ』第12話の副題は「終わりと始まり」。第11話の最後に現れた老人は、自分は50年後のルーデウスだと名乗り、地下室へ行ったあとの未来を語り始める。ロキシー、シルフィ、エリスを失っていく順番と、その元凶としてのヒトガミの話だ。狙われていたのは、疑い深いルーデウスが一度だけ従った、あの瞬間だった。「深夜アニメでも始まるのか」と茶化すルーデウスに、老人は「いや終わるんだよ」と答える。




副題「終わりと始まり」は、老人との一往復にそのまま入っている
副題は、原作の話数タイトルと同じだった
第12話の副題は「終わりと始まり」。公式サイトのストーリーにも、この言葉がそのまま載っている。公式のあらすじは「俺は、未来から来た」という老人の一言から始まり、「その全ての元凶について語る……」で締められている。原作のWeb版でも、対応する話のタイトルは同じ「終わりと始まり」だ。第8話「空中城塞」から数えると、副題が原作の話数タイトルと重なるのは五回続いている。
「始まるのか」に「終わるんだよ」と返す
老人は話の初めから急いでいる。「ハリウッド映画みたいな言葉で悪いが」「本当に時間がない」「聞いてくれ」。話が終わりに近づいたところで、ルーデウスは「時間がない」「時間切れ」という言い方にひっかかり、「深夜アニメでも始まるのか」と茶化す。返ってきたのは「いや終わるんだよ」だった。副題の二つの言葉は、この一往復にそのまま入っている。
終わるのは老人の時間で、始まるのはルーデウスの時間だ
終わるのは、50年を生きてきた老人の時間だ。始まるのは、その話を聞いてしまったルーデウスの時間になる。最後の独白で、ルーデウスは「ここは別の世界線」「未来から俺が来て変化した世界だ」と考える。一つの人生が終わったところから、別の人生が始まるという並びになっている。
老人は、前世の言葉で自分がルーデウスだと示していく
疑うための理屈が、信じる理由に裏返る
「未来の俺ってことか」と聞き返すルーデウス・グレイラットに、老人は「俺は今からだいたい50年後のお前だ」と答える。ルーデウスは「いきなりそんなこと言われて」「信じられるはずないだろ」と返す。老人が「俺はお前のかつての名前を知っていた」「信じる理由はそれだけじゃ足りないか」と重ねても、ルーデウスは「この世界には魔術ってもんがある」「記憶ぐらい読めても不思議じゃない」と逃げ道を探す。そこへ「魔術で人の記憶が読めるなら」「タイムスリップがあってもおかしくはないだろ」と続く。疑うために持ち出した理屈が、そのまま信じる理由に裏返っている。
「ハリウッド映画」が、説明なしで通じてしまう
老人は「ハリウッド映画みたいな言葉で悪いが」と言い、ルーデウスは思わず「ハリウッド映画って」と拾う。この世界の誰にも通じないはずの言葉が、説明なしで通じている。第11話は、老人がこの世界に存在しないものの名前を口にして終わった。今回は、その続きを言葉づかいで証明していくところから始まる。
二人とも、前世のたとえで話している
会話の途中にも、前世の言葉は何度も出てくる。老人はヒトガミを「ラスボスだ」と呼び、「漫画で読んだだろ」と言う。エリスは「まるで野菜の国の王子様みたいなやつだな」とたとえられる。ルーデウスのほうも「深夜アニメでも始まるのか」と返し、最後の独白では「あるゲーム風に言うなら」と考える。同じたとえで話が通じること自体が、この老人がルーデウス本人だといういちばんの証拠になっている。
「何もなかったんならいいよ」は、第11話の頼みの答え合わせだった
老人は、ヒトガミがあとで言う一言まで知っている
老人は「地下室には何もない」と切り出す。「俺は地下室に行って何もないと思った」「そして後日」「ヒトガミから何もなかったんならいいよ」「という言葉を聞いて安心することになる」「でもそれは間違いだ」。第11話でヒトガミは「今からちょっと地下室に行って異常がないか見てきてほしいんだ」と頼み、「何もなかったらなかったでそれでいいんだけどさ」と付け足していた。頼んだときの言い方と、あとで安心させる言い方が、ほとんど同じ形をしている。
第11話で一度だけ疑うのをやめたことが、狙われていた
第11話のルーデウスは「むしろ今まで疑ってて悪かったよ」「今回は何も疑わずお前の言う通りにしてみるよ」と言い、初めてヒトガミの頼みをそのまま受けた。老人はこう言う。「それもこれも」「この一回のため」「疑い深いお前が」「何のためらいもなく従う」「この瞬間のためにだ」。珍しく疑うのをやめた一度が、そのまま狙いどころだった。
「嘘はついてこなかった」には、続きがある
老人は、ヒトガミが「俺のためになるようなことばかりを口にしてきた」ことを否定しない。「確かに今この瞬間まで」「嘘はついてこなかった」とまで認める。ただ、そのあとに「俺にわかるような嘘はな」が続く。これまでの助言が当たっていたことは、次も信じてよい理由にはならないと、老人は言っている。
種明かしは、30年後にヒトガミ本人がした
老人がこの仕組みを知ったのは、ずっとあとだ。「それから一連の出来事が繋がるのは」「さらに30年後」。ヒトガミは最後に「君がバカなおかげで」「僕の思い通りにことが進んだよってな」と言ったという。「種明かしの時の奴の声が今でも耳に残っていた」「お疲れさんと肩を叩かれた時の感触が」。騙した側が、騙し終えてから自分で明かしている。ただ、その目的は老人にも分からない。「オルステッドあたりなら何か知っているのかもしれないが」「俺は50年間会えなかった」。
ロキシーの死は、台所の小さな出来事の積み重ねで起きる
始まりは、地下室の扉を開けることだった
「地下室に行って数週間後」「ロキシーが死ぬ」。ルーデウスが「なんで地下室に行くだけでそうなるんだよ」と返すのは当然だ。老人の説明は「地下室にはネズミがいる」「病気になったネズミだ」から始まる。ネズミは「地下室の扉を開けたお前に驚き」、「台所へとな」逃げて、「昨日の飯の食い残し」をあさる。最初のきっかけは、ヒトガミに頼まれて扉を開けることそのものだった。
家族の誰も、悪いことはしていない
食い残しは「翌日にはアイシャの手で野良猫に分け与えられ」る。捨てずに、猫に回すのだ。ところが「だがその前に」「小腹の空いたロキシーが」「その食い残しを少しつまむ」。アイシャの気づかいも、ロキシーのつまみ食いも、ふだんの家の風景でしかない。それが「その結果」「ネズミの持っていた病気に感染する」へつながっていく。
いちばん嬉しい知らせが、いちばん悪い知らせと一緒に届く
病名は「魔石病だ」。「体が次第に魔石と化していき」「やがて死に至るという難病だ」。老人によれば「人間は魔石病には滅多にかからないからな」、「あの病原菌は体の中に宿る」「もう一つの生命にしか感染しない」。そして「胎児だ」と続く。ルーデウスがまだ知らなかったロキシーの妊娠を、老人は「妊娠してるはずだ」と先に言い当てる。「病原菌は胎児を作り変えて」「母体ごと魔石化させる」。子どもができたという知らせと、その子どもごと妻を失うという話が、同じ場面で届いている。
神級の解毒魔術を持ち帰っても、間に合わなかった
見分け方も具体的だ。「歯が紫色の結晶になっているから一目でわかる」「感染経路は経口感染のみ」。何も考えずに地下室へ行けば「数日以内にロキシーは熱を出す」。ルーデウスの「治そうとはしたんだろ」に、老人は「俺は何とか助けようと」「ミリス神聖国まで行き」「神級解毒魔術の詠唱を手に入れることに成功した」と答える。それでも「だが帰ってきた時にはすでに遅かった」。治す手段は見つけたのに、時間だけが足りなかった。今夜の老人が「本当に時間がない」と急ぐ姿とも、どこか重なって見える。
シルフィも、エリスも、同じ未来で失われる
ロキシーのあとは、シルフィの番になる
老人の話はロキシーで終わらない。「ロキシーの次は」「シルフィだぞ」。ロキシーを失ったルーデウスは「シルフィのことがしばらく考えられなくなる」。「シルフィは傷つき鬱になり」、「そこにヒトガミがルークを操ってつけいる」。「ルークがアリエルに進言し」、「シルフィは俺を捨てて」「アスラ王国に行ってしまう」。一つめの死が、二つめの死の入り口になっている。
ペルギウスの名前が、アリエルの失敗として出てくる
シルフィが一緒に行くのは、「ペルギウスの取り込みに失敗した」アリエルだ。第11話のルーデウスは、空中城塞でペルギウスとの縁を一つ増やして帰ってきたばかりだった。その先で「アリエルは内乱を起こし」「そして敗北する」。シルフィの最後は「シルフィは戦死だ」の一言で済まされる。老人は「お前はあの二人を失うんだよ」と念を押す。
エリスとは、何年も戦うことになる
エリスの話は、手紙の頼みから始まる。「あいつに今すぐに手紙を書いてやってほしい」「お前のことは愛してるって」。ルーデウスは「愛してない」と突っぱねる。老人も「でも俺は許せなくて」「何年もあいつと対立することになったんだけどな」と明かす。「何度も何度もエリスに殺されかけたよ」「あいつは俺をどこまでも追ってきて」「見かける度に全力での戦闘になった」。それでも「まぁ手加減してたんだな」「俺がピンチになると陰ながら助けてくれたもんだ」。向かってくる相手が、同時に助けてくれる相手でもあった。
「口下手」の一言で、何年分の戦いが説明される
老人は、エリスのことを「あいつは口下手で」「どうしていいか分からないから」「結局殴るしかできなかったんだ」とまとめる。「エリスは俺のそばにいるために」「ずっと頑張ってたんだ」。このままでは「そうギレーヌに責められることになるぞ」「エリスの亡骸の前でな」。エリスもまた、老人の未来では生きていない。
三つの指示は、ヒトガミの助言ほど具体的ではない
一つめは、第11話の約束の続きになっている
老人の指示は「お前がやるべきことは三つだ」と始まる。最初に来るのは「ナナホシに相談しろ」だ。第11話のルーデウスは、恩を気にするナナホシに「困った時に相談に乗ってくれたら嬉しいかな」と言っていた。いつか返してもらうつもりだった約束を、未来の自分が今すぐ使えと言っている。老人の未来では「ナナホシは最後の最後で実験に失敗するんだ」とも語られている。
二つめの手紙だけは、宛先まで決まっている
二つめは「エリスに手紙を送れ」。ルーデウスの「でもどこに送るんだよ」に、老人は「剣の聖地だよ」「うすうす感づいてただろ」と答え、「突き放すようなことは書くなよ」と釘を刺す。「絶対に手紙を送れ」「後悔したくなかったらな」とも言う。三つの中で、宛先と書く中身まで決まっているのは、この手紙だけだ。
三つめは、疑うことと敵対しないことが一つになっている
三つめは「ヒトガミを疑い」「でも敵対はするな」。ルーデウスが「敵対するなって」「騙してたんだろ」と食い下がると、老人は「でもヒトガミには勝てない」と返す。「ロキシーやシルフィの仇を取ることすらできないんだ」「奴を倒すためにこんなに頑張ったのにさ」「届かないんだぜ」「俺の手の届く範囲に奴は来ないんだ」。50年かけて強くなった本人が、勝てないことを先に教えに来ている。だから「媚びへつらってでもいい」「あいつと敵対するな」とまで言う。
「アドバイスね」「懐かしいな」
ルーデウスは「もっと具体的なアドバイスとかないのか」と聞く。老人の返事は「アドバイスね」「懐かしいな」だった。続けて「ていうかあんまり他人に甘えるなよ」「こっちの世界に来た頃は」「そんな誰かに頼ってばっかりじゃなかっただろう」。細かい手順を教えてくれる相手こそ、疑えと言われたばかりのヒトガミだった。老人は、ヒトガミと同じやり方で答えることを避けているように見える。
老人が話し終えたあと、ルーデウスは二人に本当のことを言わない
「どこか悪いのか」に、答えは返ってこない
老人は自分の力も並べてみせる。「時間すら飛び越えて」「過去に飛べるようにまでなった」「まあこの魔術は失敗だがな」。第11話で現れた直後、老人は「成功したのか」とつぶやき、腹を押さえて「成功するはずもないか」と言っていた。今回、ルーデウスが「どこか悪いのか」と尋ねても、返ってくるのは「もう一度言うぞ」だった。自分の体のことより、伝えることを先に済ませようとしている。
力が届いたのは、守る相手がいなくなってからだった
「この世界の魔術ってのは万能だ」と言いながら、老人は「だがこんな力」「もう何の意味もない」と続ける。「俺が強くなった時」「守りたい奴は誰一人として残っていなかった」。何でもできる力を手にしたのは、守りたい相手を全員失ったあとだった。
「変な夢見て」は、半分だけ嘘だ
物音に気づいた二人が「誰かいるの」「泥棒ですか」と声をかける。ルーデウスは「ごめんちょっと寝ぼけてさ」「変な夢見て魔術使っちゃったんだ」とごまかす。第11話のヒトガミの頼みは、この夜の夢の中で聞いたものだった。変な夢を見たのは本当で、その夢から何が起きたのかだけを言っていない。
「ルディが言うなら」で、二人は理由を聞かずに従う
「悩みがあれば遠慮なく言ってくださいね」と言われて、ルーデウスが返したのは「じゃあ一つお願いなんだけど」「二人とも今晩はもう部屋を出ないでほしい」だった。「えっとなんで」と聞かれても、理由は言わない。それでも二人は「分かりました」「ルディが言うならそうしましょう」「ルディが言うなら」と受け入れる。理由を言わない頼みを信頼だけで通してもらう形は、第11話でヒトガミがルーデウスにしたことと同じだ。違うのは、ルーデウスがそれを二人を守るためにしていることだ。
「後悔して死にたくもない」
二人とのやり取りのあと、ルーデウスは「いろいろと唐突すぎて信じきれないのも確かだが」と前置きしながら、「俺はあの二人を失いたくない」「そしてあの老人のように後悔して死にたくもない」と考える。第11話でパウロの死のいきさつを聞かされたときは「後悔してもしょうがない」と受け止めていた。老人のことは「パウロと同じ場所に」埋めると決め、「老人が本当に俺なら」「それが一番嬉しいはずだ」と考える。父のそばに、未来の自分を眠らせることになる。
ルーデウスは、老人の言葉を一つずつ確かめ始める
老人の言ったとおりのネズミがいた
「老人は行くなと言った」。それでもルーデウスは、話を確かめる側に回る。画面には、歯が紫色の結晶になったネズミの死体が映る。ルーデウスは「この死体は魔術ギルドあたりに預けて研究してもらおう」と決め、「老人の言った魔石病の情報と合わせて報告すれば」「本当かどうか確かめる術にもなる」と考える。老人の話をうのみにせず、確かめられるところから確かめている。
日記を読んでも、その通りにはならない
手元には老人の日記がある。「これを読めばこれから先に何が起こるか分かるかもしれない」「だが歴史は変わると言っていた」。「この日記を読んで予習をしても」「その通りのことは起こらない可能性も高い」。答えが書かれているかもしれない日記を、答えとしては使えない。第11話で自分の日記をつけ始めたばかりのルーデウスが、最後に向き合うのは老人の日記だった。
三つの指示が、最後にもう一度くり返される
最後に、老人の指示がもう一度くり返される。「お前がやるべきことは三つだ」「ナナホシに相談しろ」。そして「日記を放置して次に進むわけにはいかない」。老人の話は、確かめることと、三つの指示と、読むべき日記になって、ルーデウスの手元に残った。
まとめと考察
未来を変えるための話が、そのまま最期の言葉になっている
第12話は、ほとんどが老人とルーデウスの会話だ。老人はロキシー、シルフィ、エリスを失っていく順番を語り、その元凶としてヒトガミの名を挙げ、三つの指示を残す。未来を変えるための話が、そのまま老人の最期の言葉になっている。「深夜アニメでも始まるのか」「いや終わるんだよ」の一往復は、副題の「終わりと始まり」をいちばん短く言い表していた。
疑い深さを取り戻したところから、別の世界線が始まる
第11話のルーデウスは、珍しく疑うのをやめた。第12話の老人は、それこそが「この一回のため」だったと明かし、「ヒトガミを疑い」「でも敵対はするな」と言い残す。ルーデウスは老人の話さえ、うのみにせずネズミで確かめている。疑い深さを取り戻したところから、この世界線は始まっている。
日記は、答え合わせにしか使えない
老人の日記には、これから起きることが書かれているのかもしれない。それでもルーデウス自身が「その通りのことは起こらない可能性も高い」と考えている。先が見えていても、同じ結果になるとは限らない。ナナホシへの相談と、エリスへの手紙がどう動くのかを見ていきたい。




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