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『才女のお世話』第11話の副題は「お嬢様の対決」。成香の友達を作ろうとした伊月は、まず自分の友達を作るところから始め、その輪を通って成香の評判が少しずつ変わっていく。美麗の作戦で、成香は教える側にも回る。休日には、雛子と成香が「伊月と一緒に出かけられる」権利を賭けてテニスで向き合う。勝負を動かしたのはラリーではなく、コートチェンジのたびに持ち出される伊月との思い出話だった。




副題「お嬢様の対決」は、打ち合いより先に言葉の撃ち合いだった
副題の「お嬢様」は、雛子と成香の二人を指している
第11話の副題は「お嬢様の対決」。試合が始まる前には、二人を「かたや完璧なお嬢様」「かたやスポーツ万能なお嬢様」と並べ、「これは学院のみんなが見たがる試合じゃないだろうか」と受け止める語りが入る。副題の「お嬢様」は、雛子と成香の二人をそのまま指している。完璧なお嬢様を演じている雛子と、武道の家で育った成香が、同じコートに立つ。
対決は、ラケットより言葉で決まった
ただ、この対決はテニスの腕だけでは決まらない。最初のゲームを取ったのは成香で、「さすがに雛子が不利か」と思われた流れが、コートチェンジのたびに言葉ひとつで入れ替わる。成香が崩れ、次に雛子が崩れる。「お嬢様の対決」は、打ち合いより先に言葉の撃ち合いとして描かれている。そのやりとりに入ってくるのが、どちらも伊月の話だというのがこの回の面白さだ。
伊月は、成香の友達より先に自分の友達を作り始める
成香の友達を作ろうとして、伊月は自分の問題に気づく
冒頭の伊月は、「俺は自分自身の問題に気づいてしまった」と振り返る。前の晩に静音と話したことが、場面をさかのぼって示される。静音は「よくぞここまでたどり着いてくれました」と受け止め、「今までのお世話係はすぐにやめてしまったので」「学院の人間関係で悩んだのはあなたが初めてです」と続けた。第10話で自分の評判を知ったことが、そのまま次の課題になっている。
最初の目標は、新しい友人を作ること
静音の提案は具体的だ。「まずは交流を広げたいですね」「最初の目標は新しい友人を作ることにしませんか」。渡してあったクラスメイトのリストから選ばれたのは、「IT企業の社長の息子」のキタくんだった。伊月が学院で名乗っている設定と同じ家柄になる。成香のための友達づくりは、伊月自身の友達づくりから始まる。
「まがいもの」を本物にする、という勧め
伊月は「でも、俺はまだ勉強が足りなくて」と尻込みし、自分の知識を「まがいもの」と呼ぶ。静音の返しは「いっそ本当に将来IT企業に勤める気で勉強してみてはいかがですか」だった。「え、俺が」「はい、伊月さんが」。設定として借りている肩書きを、本当に目指す進路に変えてしまえばいいという発想だ。借り物の肩書きのまま友達を作るのではなく、中身を追いつかせる道を静音は示している。
本物の社長の息子は、「七光」と思われたくない
伊月はキタくんに「キタ君って情報学に詳しいと聞いたんですけど」と声をかける。教わりながら、「思った通りずっと先を行ってるな」「いつか追いつけるんだろうか」と感じる。キタくんのほうは「でもちょっとびっくりしたよ」と言い、伊月が「あの、俺って悪目立ちしてましたか」と聞くと、「否定はできないというか」と認めた。編入のときに此花さんと一緒に来ていたので、「僕たちみたいな普通の人には興味ないのかなって」思っていたという。伊月の返事は「というか、俺にとってはあなたも普通の人ではないし」で、そこから「こうして俺は小さな一歩を踏み出した」とつながる。
勉強を教わったあと、キタくんは将来について「ちゃんと技術力のある人になりたいと思ってるよ」と話し、親の「七光って思われたくないし」と付け加える。設定だけの社長の息子が本物を目指し、本物の社長の息子は親の名前以上のものになろうとしている。二人は正反対の場所から、同じ方向を向いていた。
成香の答えは、成果より楽しむための体づくり
そこへ成香が通りかかる。「はじめまして、私はその、都島成香だ」とぎこちなく名乗ったあと、伊月の「競技大会でいい成果を出すにはどうしたらいいと思う」に、「個人的には成果なんて考えなくていいと思うぞ」と答える。「そもそもスポーツで成果を上げる必要はない」「職業にする人はほんの一握りだ」「しかし、楽しめるように体を鍛えて損はないと思う」「自分の体をゲーム機と考えてみるといい」「ゲーム機の性能が高いほど」「より多くのソフトを楽しめる」。本人いわく「うちは道場で子供たちを教えていて」「よくこんなふうに答えているんだ」。道場で子どもたちに教えるときの言い方が、同級生の前でそのまま出ている。去っていく成香に、「かっこいい」という声がこぼれた。
成香の評判は、伊月の友達の口から変わっていく
「親戚」と聞いて、キタくんの印象が変わる
キタくんは、伊月が成香を名前で呼んでいたことに気づく。伊月は「実は親戚なんですよ」と説明し、キタくんは「なんか、都島さんって」「思ったより話しやすい」と印象を改めた。そして「小さな一歩は次の一歩につながった」。伊月が自分のために踏み出した一歩が、成香の評判のほうへ転がっていく。
スマくんの「噂」を、キタくんが打ち消す
次の日、キタくんは B組のスマくんを紹介してくれる。スマくんが最初に口にしたのは「あの都島さんと親しいと噂の」だった。伊月が「多分その友成です」と名乗る横で、キタくんが「都島さんは噂と違って」「別に怖い人じゃないよ」と言い切る。「いやいや、嘘だろ」と返すスマくんに、「普通にお菓子とか好きみたいだし」「それに頼りになるところもあるし」「素敵な人だよ」。成香のよさを語っているのは伊月ではなく、伊月から話を聞いたキタくんだ。本人が言うより、第三者の口から聞くほうが噂は変わりやすい。
声をかけられた成香は、「人の温かさを感じたぞ」と報告する
成香は「聞いてくれ」と切り出し、「実はさっきクラスメイトに声をかけられたんだ」と話す。相手は「伊月と勉強していた人の友人」らしい。「ああ、とても嬉しかった」「人の温かさを感じたぞ」。別の日にも話しかけられて、「人の温かさに触れた今の私は無敵だ」とまで言う。伊月の輪の端から、成香に声が届き始めている。
「私は強くない」と言える人が、教えるのがうまい
勢いに乗って自分から声をかけた成香は、うまくいかない。「学院中に広まったイメージを」「そう簡単には払拭できないか」。それでも成香は「結局のところ私が地道に頑張るしかない」「よし、最後まで足掻こう」と前を向く。伊月が強さをほめると、返ってきたのは「私は強くない」「むしろとても弱い」だった。「子供の頃」「とある人物に教わったんだ」「自分の弱さを認めることが」「強さへの第一歩だと」。
スポーツも「最初から得意だったというわけではない」「散々みっともない目に遭ってきたぞ」「でもだからこそ自分の弱さを受け入れることだけは」「得意になった」。伊月は、それが成香の「人に教えるのがうまい」理由だと気づく。弱さを知っている人だから、できない人の気持ちが分かる。この気づきが、次の作戦の土台になる。
美麗の「ツーン」から、ノブレス・オブリージュ作戦が生まれる
のけ者にされた美麗は、「ツーンですわ」と返す
伊月が相談に行くと、美麗は「友成さんは最近私をのけ者にしていますから」「ツーンですわ」と取り合わない。雛子と成香と伊月の三人でこそこそ動いているのが面白くないのだ。「ツーンって、そんな子供みたいに」と困る伊月に、美麗が出した条件は「今度お茶会をしてくれたら機嫌が直るかもしれませんわ」。「仕方ありませんわね」「では何なりと申してみなさい」で話はあっさり前に進む。拗ねてみせるのも、話を聞くための口実を自分で用意しているように見える。
目立ちたくないなら、周りを目立たせる
美麗の案は、成香の弱点を裏返すものだった。「目立つのは嫌というなら」「それを逆手に取る方法もあるかもしれませんわね」「自分が活躍するのではなく」「周りの人たちを活躍させるのですわ」「名付けて」「ノブレス・オブリージュ作戦ですわ」。第10話で美麗は、「ポロのチームメイトを優勝へ導く使命」を口にして去っていった。チームを勝たせることを自分の役目にしている人の案だから、この形になっている。
成香は、体育の授業で教える側に回る
次の場面では、成香がクラスメイトにシャトルの打ち方を教えている。「頭の真上で打つのではなく」「少し後ろで打つんだ」「そうするとラケットの面が上を向くから」「シャトルが放物線を描くように飛ぶ」「初めは力みすぎないようにするのが肝心だ」。「ノブ・オブってなんだ」と聞かれて、伊月は「力がある人はそれをみんなに分け与えるべきだって」「言いたかったんだと思う」と説明する。美麗いわく「体育の授業で活躍できる実力があるなら」「指導もできるだろう」。見ていたクラスメイトからは「私もお願いします」と声が上がり、成香は「もちろんだ」と応じた。目立つのが苦手な人でも、教える役なら人の輪の真ん中に立てる。第10話で見えた、役割があれば話せるという成香の強みを、美麗は作戦の形に言い直している。
雛子は、寝たふりで伊月の決意を聞いている
伊月は、成香を見習って根気よく勉強する
夜の伊月は、机に向かっている。「普段の授業についていくだけでも精一杯なのに」「これは生半可な努力では足りないぞ」。それでも「でもこんな勉強ができるとは」「子供の頃の俺が知ったら腰を抜かすだろうな」と思い直し、「手早く成果を求めるのではなく」「根気よく勉強していこう」と決める。成香が口にした「地道に頑張る」を、伊月は自分の勉強に持ち帰っている。
「どう思ってるんだ」の答えは、途中で「寝てる」に変わる
そこへ雛子が来る。「たまには一緒に寝よ」と誘われ、伊月は「さすがにそれは遠慮しとく」と断る。「少し前に俺が朝起こすのも嫌だと言ってたよな」「なのに何でしょっちゅう俺の部屋に来て寝るんだ」。雛子は「それは変だったから私」と答えかけ、伊月は思い切って「雛子は俺のことどう思ってるんだ」と聞く。「私は私は」のあとに続いたのは、伊月の「寝てる」だった。いちばん聞きたい答えの手前で、雛子は眠ってしまう。「どういうタイミングで寝るんだ」という伊月のぼやきに、見ている側も同じ気持ちになる。
寝たふりの雛子は、「ふさわしい人」を聞いてしまう
眠った雛子に、伊月は「雛子俺は雛子にふさわしい人になれるよ」「頑張るよ」と語りかける。ところが雛子の心の声は「寝てるふりバレなかった」だった。伊月の決意は、聞かせるつもりのない相手にそのまま届いている。第10話で伊月は、自分は「雛子たちと一緒にいるのにふさわしくない」と思い詰めていた。同じ「ふさわしい」を、今度は目指す言葉として口にしている。
「本当にそれが答えでいいの」と、雛子は自分に聞き返す
雛子の内側では、「変なのが抑えきれない」。伊月のことは「大切なお世話係」「一緒にいて嬉しい相手」と整理しかけて、「それだけ」「本当にそれが答えでいいの」と自分に聞き返す。寝たふりをしてまで聞いた言葉に、雛子はまだ自分の答えを出せていない。朝起こされるのを嫌がった理由を「変だったから」と言った雛子は、その「変」の正体をまだ言葉にできずにいる。
テニスは、伊月との思い出を撃ち合う試合になる
成香の指導は、ほめるところから入る
休日のテニスで、成香は二人をよく見ている。伊月には「だいぶ頭で考えながら動けるようになったな」、雛子には「やはり素晴らしい才能の持ち主だ」「最初に説明した課題をちゃんと意識できている」。そのうえで伊月には「競技大会までできれば毎日少しでもやってみてほしい」と壁打ちをすすめ、雛子には「もう次のステップに行ったほうがいいな」と練習試合を持ちかける。ほめてから課題を出す順番は、第10話でも見えた成香の教え方そのままだ。
蛇口の水をかぶった成香と、あとに続いた雛子
休憩中、壊れた蛇口の水をかぶった成香は「伊月拭いてくれ」と頼み、「雨上がりに私が庭で走り回っていたら」「転んで泥まみれになってしまい懐かしいな」「昔から伊月にこうしてもらうと気分が落ち着いたものだ」と昔話を始める。そこへ来た雛子も「すみませんやってしまいました」と同じ目にあい、「私も拭いてください」。蛇口が壊れていると聞いたばかりなのに、雛子は同じ世話を受ける側に回っている。伊月の「俺の話聞いてた」という戸惑いと、「まさか演技中の雛子をお世話するとは」という心の声が続く。お嬢様の顔のまま、成香と同じことを求めている。
賭けは「伊月と一緒に出かけられる」権利
練習試合には賭けがつく。「勝ったほうが負けたほうに何かしてもらえるとか」という流れで、成香が「じゃあ勝ったら伊月と一緒に出かけられるとかどうだ」と言い出し、伊月の「え、俺」をよそに雛子は「いいでしょう」と受けて立つ。賭けられているのは、審判をしている伊月本人だ。本人の返事を待たずに話が決まるあたりに、二人の本気が出ている。
雛子の一撃は、「二人で出かけた」と「下の名前」
第一ゲームを落とした雛子は、コートチェンジで話しかける。「都島さんはどうして友成くんと出かけたいのですか」「友成くんは一緒にいて心地いいですからね」「この前二人で出かけたときもとても楽しかったですし」。さらに「それに伊月くんは」と言いかけて、「と、失礼、友成くんは」と言い直す。成香は「今、なんて言った」「私は知っているんだぞ」「伊月が此花さんのことを下の名前で呼んでいることを」と動揺し、ここから二ゲーム続けて雛子が取る。わざと言い間違えたようにも聞こえる一言で、流れが雛子に傾いた。
成香の反撃は、「この髪型は伊月が考えてくれた」
次のコートチェンジでは、成香が反撃に出る。「先ほどは此花さんも伊月に髪を拭いてもらっていたな」「もしや、普段も伊月に髪の手入れをしてもらっているのか」と探りを入れ、「伊月は髪の手入れがうまいだろう」「なにせ初めてではないからな」と続ける。道場で髪を伸ばしっぱなしにしていたら、伊月が「それじゃ動きにくいだろと言って結んでくれたのだ」「以来、伊月に手入れをしてもらっていた」「この髪型は伊月が考えてくれたものだ」。直後に「フォルト」の声が響き、今度は雛子の調子が崩れる。勝敗を分けたのは、打ち返せない思い出話だった。
勝ったのは成香、ただし約束の日付は決まっていない
試合は成香の勝ちで終わる。「約束だからな、今度一緒に出かけるぞ」と念を押す成香に、雛子は「まあ、友成くんは忙しいですから」「その約束がいつになるかは分かりませんけどね」と返す。「それは卑怯だぞ」と抗議されても、「日時の指定はしていなかったはずです」。試合には負けても、雛子は約束の中身で取り返しにいっている。「二人とも仲良くなったな」と言った伊月は、二人ににらまれることになる。
まとめと考察
伊月が自分のために踏み出した一歩が、成香を助けた
第11話の前半は、助け方の順番を入れ替えた回だった。成香の友達を作るつもりで始めたことが、伊月自身の友達づくりになり、その友達が成香の噂を打ち消していく。静音が言った「本当の意味で」学院の生徒になるための一歩が、そのまま成香への助けになっている。自分の問題を先に片付けることが、人を助けるいちばんの近道になっていた。成香の「地道に頑張る」が伊月の勉強に移り、美麗の作戦が成香の教える力を引き出すというように、この回は助けが人から人へ回っていく。
「お嬢様の対決」の武器は、どちらも伊月の世話だった
テニスの勝負で二人が持ち出したのは、どちらも伊月にしてもらったことだった。雛子は二人で出かけたことと下の名前で呼ばれていることを、成香は幼いころから髪を結んでもらってきたことを出す。お嬢様どうしの対決なのに、打ち合っているのは伊月の世話の記憶だ。最後に雛子が「私の髪型も何か考えて」と頼むのは、成香の「この髪型は伊月が考えてくれたものだ」への返事でもある。ネットでは、伊月が整えた雛子の髪型に反応する声が多かった。
雛子の「それだけ」は、まだ閉じていない
夜の場面で、雛子は伊月を「大切なお世話係」「一緒にいて嬉しい相手」と言い表しかけて、「本当にそれが答えでいいの」と止まった。休日のテニスで下の名前を持ち出し、髪型をねだる雛子の行動は、その問いに少しずつ答え始めているようにも見える。言葉にできない答えを、雛子は行動のほうで先に出している。




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