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『さよならララ』第11話の副題は「魔女グレイス」。一話の大半が、魔女がまだ人魚の城の姫だったころの回想にあてられる。グレイスと姉のリグモアは地上への同じ夢を語り合い、やがて姉は地上の夢より愛を選ぶ。リグモアの死が、ローワンに厳しい掟を作らせた。そして最後に残る「掟ではなく」「愛のために生きろ」は、姉が妹に語った言葉の続きになっている。




副題「魔女グレイス」は、魔女になる前の話だった
副題は、魔女の名前そのもの
第11話の副題は「魔女グレイス」。これまで「魔女」と呼ばれてきた人物の名前がそのまま題になり、一話の大半が、その人がまだ人魚の姫だったころの話にあてられる。あらすじにも「魔女グレイスとその姉のリグモアは、かつて同じ夢を語り合っていた」とある。「魔女」は肩書きで、この回はその肩書きの前にあった一人の姫の話だ。ララの物語の前に、もう一つの人魚の物語があったことが明かされる。
過去は、魔法の鏡を通して見せられる
この回の過去は、「魔法の鏡」を通して見せられる形になっている。「起きろ」「ついてこい」と連れて行かれた先は「グレイス様の隠し部屋」。案内する声は「目の見えない私には無用のものだが」「お前には見えるはずだ」「お前が今見たいと願う世界が」と告げる。別の場面では、「ララ」と呼びかけて「見る者の心を試す」「最後まで」「全てを」と促す声もある。見せられる過去は、見る側の心を試すものとして差し出されている。
双子は、同じ地上の夢を見ていた
「窮屈な城」から出たがったのはグレイスだった
回想は、グレイスの「もうこんな窮屈な城にはうんざりだ」から始まる。「私はここから抜け出して新たな世界が見たい」「だから地上へ行く」。人間については「我々よりもずっと自由な暮らしをしている」「人間はおかしな足を持っていてな」「それがなければ地上を泳ぐことはできないらしい」と語る。地上への憧れは、はじめはグレイス一人のものだった。
リグモアが、それを「美しい夢」と呼んだ
聞いていたリグモアは「じゃあどうやってそこに行くの」と問い返しながら、「でも新しい世界それって美しい夢だわ」「私もこの目で見てみたい」「その世界を」「あなたの夢を」と応える。グレイスは「いつか地上へ」「私たちの新たな夢だ」と受け取った。一人の夢が、ここで「私たち」の夢に言い換えられている。
人間の姿を見て、「背びれが二つ」と言う
二人が人間の姿を確かめる場面は、この回でいちばん軽やかだ。「二本の棒がまたぐらから生えているだろう」「おそらくこれが人間だ」と言うグレイスに、リグモアは「どうして背びれが二つもあるの」「これじゃ泳ぐなんてできないわ」。グレイスは「知るか」と返しつつ、「しかし人間たちはどんなことも試そうとする奴らのようだ」「こうした探求心を我々人魚も持たねばならん」と言う。足を背びれと読むリグモアと、分からないものを試す心として読むグレイスで、同じ姿の見方がもう違っている。
ローワンは、はじめはグレイスの味方だった
城は、双子に「本当の愛の光」を急がせる
城の年長者は、双子の不在に苛立っている。「全くあの双子は姫君であるという自覚が足らん」「一刻も早くこの城に光を与えねばならんというのに」。グレイスについては「昨日など宝物庫を犯すだけにとどまらず」「禁忌の遺物をも荒らしたのだぞ」。城からは「全てはお前たちに託されている」「本当の愛の光を一刻も早く見出すのだ」とも迫られる。光を失いかけた城を救う役目を、双子の姫が背負わされている。ララがこの物語で求められてきたものと、ほとんど同じ役目だ。
ローワンは、グレイスを「思慮深い」とかばう
そこでグレイスをかばうのがローワンだ。「グレイスはあれでとても思慮深いんです」「彼女のような姫君もこの城には必要かと」。返ってきたのは「ローワン」「くだらぬことを」だった。グレイス本人は「泣き虫ローワン」「お前はババアに告げ口をする」と突き放すが、リグモアは「ローワンはあなたの味方よ」「この城を憂えているのはローワンも同じ」と取りなす。のちに掟を作る人は、最初はグレイスの外への関心を認める側にいた。
同じ「外」でも、見ている理由が違う
さらに「日に日に光を失い冷たく変わっていく我らの城は」「このままでは存続しないだろう」「そう思うからこそ」「城の外に世界を見出すお前に感心しているんだ」という言葉も続く。グレイスの答えは「城のためなんかじゃない」「私自身が地上に光を夢を感じているんだ」。城を救う手段として外を見る側と、自分の夢として外を見るグレイスとで、同じ「外」の意味が最初から食い違っている。
リグモアは、地上の夢より愛を選んだ
グレイスが見つけたのは、人魚を人間に変える薬だった
息苦しさを募らせたグレイスは、「ババアも城の者どもも」「私たちにばかり定めを押し付ける」と吐き出し、ついに手立てを見つける。「我々人魚」を「人間へと変える薬だ」「ようやく見つけたんだ」「城の奥深くその禁域で」「命の形をも変える劇薬だが」「これを使えば地上への夢を叶えられる」。ララが人間になるために飲んだ薬の話が、グレイスの若いころの発見につながって見える。
「愛してしまったの」「ローワンのことを」
「行こう」「共に」「私たちの夢を叶えに」と誘うグレイスに、リグモアの答えは違った。「愛してしまったの」「あの人を」「ローワンのことを」「この城と共に生き続ける」。グレイスは「地上への夢を分かち合えたと思ったのは」と言いかける。同じ夢を語り合った姉は、夢ではなく愛のほうを選んだ。
リグモアとローワンの愛で、城に光が戻る
その後、城には光が戻る。「リグモア様がローワン様と本当の愛を結ばれたのだ」「新たなプリンセスの誕生だ」。「今や光は城の隅々まで満ちて輝き」「新たな姫君たちの命も芽吹いた」。城が求めていた「本当の愛の光」は、城に残ったリグモアの側で見つかった。一方で「リグモア様は」「グレイス様が出て行ったのは自分のせいだと」と語られ、「さぞつらかろう」「しかしもう会うことは叶うまい」と続く。
地上でグレイスを待っていたのは、言葉の拒絶だった
人魚は光で、人間は言葉で生きる
城では、地上へ出た人魚の行く末がこう語られる。「我々は光によって生きるもの」「そして人間は言葉によって生きるもの」「人間たちは語り得ぬものを拒絶する」「地上に上がった人魚に待つ」「定めは一つ」。光で通じ合う人魚と、言葉で線を引く人間という違いが、この回の悲劇の前提になっている。
「私は人間だ」は、「人の言葉を使うな」で返される
地上のグレイスにかけられたのは、「私を騙していたのか」「そのおぞましい姿を隠して」という言葉だった。「騙したりなど」と言いかけても「黙れ」、「甘い言葉で我らを籠絡するのが」「人魚という化け物だ」。グレイスが「私は人間だ」と訴えると、返ってきたのは「人の言葉を使うな」「醜い化け物め」。人間になって地上へ上がった人が、人間の言葉を話すことそのものを拒まれている。
グレイスは、自分のしたことに気づく
そのあとには、「私は何を」「何を」「なんてことをしてしまった」という声が続き、「この化け物は」「殺せ」と追い詰められていく。何が起きたのかを、この回は細かく言葉にしない。のちにグレイス自身が、「愛する者をあやめ」「光を失ってしまった」と振り返るだけだ。第10話でララの光が刃の形をとったように、グレイスの光もまた、愛した相手に向いてしまったと読める。
リグモアの「愛のために生きる」と、ローワンの掟
リグモアは、「美しい夢」がまだ見えると言った
追い詰められたグレイスのもとに、リグモアの声が届く。「何も考えず」「たった一人で」「飛び出してきてしまった」という声のあと、グレイスは「叶わぬ願いだったんだ」「こんなところまで来たって」「何の意味もなかった」と崩れる。リグモアはそこへ「私の目にはまだ」「美しいあなたの」「美しい夢が」「見える」「地上だって」「海だって」「関係ない」「愛のために生きることが」「できさえすれば」と語りかける。回想の始まりで「美しい夢だわ」と言った姉が、最後まで同じ言葉で妹の夢を肯定している。
リグモアの死が、ローワンに掟を作らせた
その先で、リグモアは命を落とす。第10話でローワンが口にした「お前の母リグモアが、人間どもに殺されたために」の中身が、ここでつながる。ローワンは言う。「そして人間どもへの」「絶えることのない憎悪を」「私は掟を作った」「二度と」「人間に近づいてはならないと」「厳しく定め」「魔女を追放した」「地上への憧れこそが」「悲劇を」「生んだからだ」。掟の中身は、リグモアを奪ったものへの憎しみと、地上への憧れそのものへの禁止だった。
同じ「生きる」が、正反対の向きで使われる
掟の言葉は「お前」にも向けられる。「故に」「お前の心の囚われも」「取り除かねばならん」「それが」「人魚として生きる者の掟だ」。姉が最後に語った「愛のために生きる」と、ローワンの「人魚として生きる者の掟」は、同じ「生きる」を正反対の向きで使っている。グレイスをかばっていたころのローワンと、掟を作ったあとのローワンのあいだには、リグモアの死がはさまっている。
グレイスは、ララの物語の続きを見たがっていた
泡を集めさせたのは、「物語の結末」を見るためだった
魔女になったグレイスは、「私は見たいだけだ」「愚かな人魚の」「物語の結末を」と言い、「地上に赴き」「あの泡を集めてこい」「一滴残らずだ」「全てかき集めろ」と命じる。そして「物語の続きを見せてもらうぞ」「何としてでも」「蘇るのだ」。泡になったララを蘇らせたのは、同情ではなく、結末を見届けたいという執着として語られている。第9話の「200年前とは、違う結末が見られるというわけだ」は、ここにつながっていた。
ローワンの光を使い、自分は小さな器に移る
ララを蘇らせるために、「父であるお前の光を吸い尽くし」「与えた」という言葉が出てくる。「あんなに多くの人魚たちを」「眠らせるなんて」という声もある。グレイスは「ならばこの体を捨てるだけだ」「小さな器であれば」「私の力も少しは持つ」「待ち続けてやる」「ララが」「蘇るその日まで」と言う。第8話から語られてきた、魔女が家族を眠らせたという出来事の理由が、ここで初めて見える。第9話で茉里が水槽を整えて世話をしていた小さな魔女の姿も、この「小さな器」につながって見える。
「お前なら」「叶えられるはずだ」
グレイスがララに見ていたものは、はっきり言葉になっている。「愛する者をあやめ」「光を失ってしまった私にも見える」「ただ一つの光」「お前なら」「汚れなき心を持つ」「お前なら叶えられるはずだ」「地上への夢を」。そして「でなければ」「この地上に光がないとしたら」「私はなぜ」「ここまで来たんだ」。グレイスは、自分が叶えられなかった地上への夢を、ララに託していた。
まとめと考察
悪態は、今回は「最後くらい」と一緒に来る
回想のあとには、弱った魔女に呼びかける場面が続く。「動いた」「生きてた」という声に、「うるさい」「最後くらい静かにさせろ」と返り、「口悪いやつ」「大丈夫」「まだ死なんでいいで」と声がかかる。第9話で茉里は、口が悪くなるのを機嫌がいい証拠として読んでいた。今回は、その悪態が「最後くらい」という言葉と一緒に来ている。
「掟ではなく」「愛のために生きろ」は、姉の言葉の続きだった
そして最後に、「見える」「私にもまだ」「美しい光が」という声と、「掟ではなく」「愛のために生きろ」という言葉が残る。リグモアの「私の目にはまだ」「美しい夢が」「見える」と、ローワンの「人魚として生きる者の掟だ」を並べると、この最後の言葉は、姉の言葉を受け継ぎ、掟をはっきり退けるものになっている。ネットでも、この言葉を魔女グレイスの最後の言葉として受け取った声があり、特殊エンディングで泣いたという声が相次いだ。
ララに託されたのは、グレイスとリグモアの二人分の願い
この回で見えたのは、ララの物語が二百年以上前の双子の物語の続きだということだ。地上に夢を見たグレイスと、愛のために城に残ったリグモア。ララはリグモアの娘として生まれ、グレイスの手で蘇った。グレイスが託した「地上への夢」と、リグモアが語った「愛のために生きる」は、どちらもララと茉里のほうへ渡されている。掟の外で生きようとする二人が、それをどう受け取るのかが気になる。




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