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『世界最強の後衛』第11話の副題は「原点回帰の誘惑」。アリヒトは、初めて迷宮国に来た時と同じ場所で我に返り、英雄として迎えられる。職業はほかの誰かに決められ、仲間の声には「もっと楽に行きましょうよ」とささやかれる。その夢を破ったのは、精神の中まで助けに来たテレジアだった。「誰かが前にいてくれて」「初めて何かができる職業」という言葉で、アリヒトは自分の本当の原点に戻っていく。




副題「原点回帰の誘惑」は、二つの原点を指している
公式のあらすじは、夢の入口までを書いている
第11話の副題は「原点回帰の誘惑」。公式のあらすじは、アリヒトが「初めて迷宮国に来た時と同じ場所にいた」ところと、「私たちみんな、死んじゃったみたい」という一言、そして「英雄」と呼ばれる展開までを書いている。副題の「原点」は、まず迷宮国に来た最初の場所を指している。昇格試験の決着と、その先の夢が一話にまとまった回だ。
もう一つの原点は、後衛という職業そのもの
ただ、この回で見えてくる原点はもう一つある。夢から戻ったアリヒトは、「誰かが前にいてくれて」「初めて何かができる職業なのに」と自分の職業を言い直す。誘惑として差し出された原点と、自分で取り戻した原点が、同じ一話の中で並んでいる。どちらの原点に戻るのかが、この回の本当の勝負になっている。
蔓は、すべて背中から伸びていた
デミハーピィの歌で眠らせる
操られた北極星のメンバーを相手に、アリヒトたちは「来いデミハーピィ」と、かつて戦った魔物を呼ぶ。「歌ってくれ」で相手を眠らせる作戦だ。ところが一人だけ眠らない。「どうして眠ってないの」「耐性のある装備を」と言いかけたところに、「彼女が最も強く」「傀儡師の支配を受けているからだ」という見立てが入る。いちばん深く操られている人ほど、眠らせる手が効かない。しかも「直接攻撃は彼女を傷つけてしまう」ので、力ずくでも止められない。
本体は背中にいて、振り向けば支援が切れる
相手の言い分は「その男を最初に取り込めば」「あなたたちも言うことを聞いてくれる」。狙いはアリヒトだ。アリヒトは「後ろを向いて対処すれば」「みんなへの支援防御が切れる」と迷う。そこで「全ての蔓が背中から伸びている」「こいつが本体か」と気づき、「みんな後ろだ」「仕留めるのは今しかない」。後衛が振り向けば前衛の守りが消えるという、この職業の弱点をまっすぐ突かれている。
名前は、アスカ、弥生、ひみこ
戦いが終わると、デミハーピィたちに名前をつける流れになる。「俺ネーミングセンスがなくて」と言うアリヒトに、「羽がある女の子なので」「アスカちゃんってどうですか」、続いて「それならこの子は弥生っていうのはどうかしら」、最後に「ひみこさんってどうでしょうか」と案が出て、「決まりだな」。羽があるからアスカ、そこから古い時代を思わせる名前が続くのが楽しい。「デミハーピィがいなかったらと思うと」「ゾッとするわね」という一言どおり、この戦いは彼女たちの歌で決まっていた。
ギルドセイバーに、アリヒトは「約束はできません」と返す
黒い箱は、ミサキの技能の成果だった
倒した魔物からは「レアドロップの黒い箱」が出る。「私の技能効いてたんですね」と喜ぶのは、レアドロップ率を上げる技能を持つミサキだ。第10話で紹介された技能が、この回の報酬に直結している。仲間たちは「隠し階層に入る権利を得られるなら」「それを放棄すべきではないと思うわ」と話し、アリヒトも「開けてみて鍵が入っていたら隠し階層を目指そう」と応じる。
「約束はできません」
そこへ救助要請を受けたギルドセイバーが現れる。「代わりに任務を遂行してくれたことは感謝する」としたうえで、「救援目的であっても」「レベルの高い魔物に手出しはしないこと」「約束してほしい」。アリヒトの答えは「それは場合によります」「約束はできません」だった。相手は「縄張り意識で言っているのではない」「志半ばで命を落とす探索者を少しでも減らしたい」と続け、アリヒトは「肝に銘じておきます」と受け止める。探索者の死を減らしたいという目的は同じなのに、助けに行くかどうかで答えが割れている。
セラフィナは、アリヒトの名前をもう知っている
名乗り合いの場面では、アリヒトが「俺はアトベと言います」と言うと、相手は「あなたの名前は」「あなたが思うより注目されている」と返し、「私はセラフィナ」と名乗る。アリヒトの名前は、本人の知らないところで広まり始めている。助けに行く探索者として知られ始めていることが、このあとの夢の中身とも重なってくる。
ルイーザの「文句なしの合格」と、助け合いたいというアリヒト
報告を受けたルイーザは「ギルドセイバーの方より先に救助してしまうなんて」「素晴らしい貢献度です」と言い、昇格試験は「文句なしの合格」になる。報酬の扱いについて頼みごとをしたアリヒトを、ルイーザは「できる限り多くの探索者が」「長く活動を続けられるようにとお考えなのですね」と受け止める。アリヒトは「常に競争ではありますが」「同じ志を持つ仲間なら」「できれば助け合ってやっていきたい」と答えた。ギルドセイバーが止めた「手出し」を、アリヒトは助け合いの言葉で言い直している。
「潮時」の理由は、二つあった
ゲオルグは、操られていなかったのに動けなかった
見舞いに行ったアリヒトに、ゲオルグは打ち明ける。「俺は魔物に操られてなかった」「怪我はしてたが」「まだ戦えたんだ」「なのに足が動かなかった」「笑っちまうだろ」「こんな情けないリーダーじゃ」「パーティーも潮時だな」。操られた仲間より、操られていないのに動けなかった自分を、ゲオルグは責めている。
アリヒトは「だから再起もできる」と返す
アリヒトは「でもみんな生きて帰ってきてる」「だから再起もできる」と言い、「簡単に言うのは」「無責任かもしれないけど」と付け加える。ゲオルグは「励ましてくれてありがたいよ」と受け取りつつ、「潮時の理由はもう一つある」と続けた。励ましで片づかないもう一つの理由が、ソフィーだった。
ソフィーは、目が開いているだけで意識がない
ヒーラーの説明は重い。「他の皆さんは今眠っているだけで」「一度は目を覚ましていますが」「この患者さんは」「目が開いているだけで意識はありません」「魔物の意識と接触することは」「人間にとって極めて負担が大きいのです」。「何か俺にできることはありませんか」と聞くアリヒトに返ってきたのは、「生命維持が精一杯です」「あとは祈ることしか」だった。傀儡師を倒したあとも、ソフィーだけは戻ってきていない。
死んだはずの世界で、アリヒトは英雄になる
我に返ると、最初の場所にいる
考え込んでいたアリヒトは、「すまない」「座って考え事してて」「疲れが出たのかな」と我に返る。そこで聞かされるのが「私たちみんな」「死んじゃったみたい」。「では探索者としての登録をお願いします」「職業をご記入ください」と、迷宮国に来たときのような手続きが始まる。「でも俺は確か見舞いに」と戸惑うアリヒトは、「転生されたばかりで」「記憶の混乱があるのですね」と片づけられる。いちばん最初の場面をなぞることが、そのまま記憶を上書きする仕掛けになっている。
職業欄は、ほかの誰かが埋める
手続きの途中で、「アトベ君が混乱してるなら」「私が職業を決めてあげるわ」という声が入り、「希望は受理されました」「あなたはこの迷宮国の英雄となりました」と告げられる。本人が書くはずの職業欄をほかの誰かが埋め、答えは「英雄」になっている。後衛として仲間を支えてきたアリヒトの肩書きが、ここで丸ごと差し替えられる。
英雄の周りには、怖いもののない仲間が集まる
「英雄と一緒なら何も怖くないわ」「英雄と出会えるなんてラッキー」「仲間に入れてくださいよ」「英雄パーティー結成ね」「さすが英雄」「英雄の力は圧倒的ね」。アリヒトも「俺が英雄になれるなんて」「生まれ変わるのも悪くないもんだな」と受け入れていく。褒め言葉と頼られる役が、何の苦労もなく手に入る世界だ。副題の「誘惑」は、ここにある。
「頼まれてもいないことに命を懸けるのは馬鹿げてる」
それでもアリヒトが「行こう」と言いかけると、仲間の声は止めにかかる。「なんで赤の他人を助けようとするの」「助けなくても誰もアリヒトさんを責めたりしませんよ」「どっかの誰かが死ぬ責任」「お兄さんが背負う必要あります」「もっと楽に行きましょうよ」「助けてくれなんて誰も頼んでないのに」。そして「頼まれてもいないことに命を懸けるのは馬鹿げてる」。森でギルドセイバーに「約束はできません」と返した、その価値観そのものが狙われている。
テレジアは、精神の中まで助けに来る
傀儡師は、幸福を与えて乗り換えようとしていた
夢の正体は、傀儡師の精神の中だった。「この女よりは使えそうだし乗り換えようと思ったのだが」「ここは私の精神」「私を倒さぬ限り抜け出せない」「幸福を与えたにも関わらず」「支配を受け入れぬ愚か者」「ならば壊すまで」「精神を砕けば肉体も死ぬ」。英雄の夢は、アリヒトを新しい宿主にするための餌だった。「最後の機会だ」「私に従え」に、アリヒトは「断る」と返す。
テレジアは、武器を持ち込めない場所に来る
「では」「死ね」のところで、テレジアが現れる。「どうやってここに」「助けに来てくれたのか」。傀儡師は「ここには武器を持ち込めない」「お前たちに勝ち目はない」と言うが、アリヒトは「支援攻撃」「頼むテレジア」と、いつもの形で戦う。武器のない場所でも、前に立つ人と後ろから支える人という組み合わせは持ち込めた。
「誰かが前にいてくれて、初めて何かができる職業」
戦いのあと、アリヒトは「ありがとう」「おかげで助かった」「ごめんな」「心配させて」と言い、続けて「俺は」「自分で全部守れるって」「勘違いをしてた」「誰かが前にいてくれて」「初めて何かができる職業なのに」と口にする。英雄の夢が差し出したのは一人で圧倒的な力で、アリヒトが取り戻したのは、前に誰かがいてこそ働く後衛の力だった。副題の「原点回帰」は、誘惑の側ではなく、この一言の側にあると読める。
箱を開けるのは、一人ではできないから
ソフィーは目を覚まし、テレジアの素顔の話が残る
傀儡師の残した種は「調教できるとしたら」「かなりの戦力になる」と魔物牧場へ運ばれ、ソフィーは「あなたたちが」「終わらせてくれたのね」と目を覚ます。何か言いかけたソフィーについて、「さっきのテレジア」「マスクをつけてなかった」と思い出し、「俺は後ろにいたから見えなかったけど」「ソフィーさんには見えたんだろう」と話す場面が続く。後衛のアリヒトには、前に立つテレジアの素顔が見えない。「いくら近づけても」「素顔は見えないだろ」という軽いやりとりまで、この回の主題に沿っている。
アリアドネは、黒い箱の危険を知らせに来る
スズナの霊媒で、アリアドネが語りかける。「新しく入手したブラックボックスについて」「警告するために来た」「そのブラックボックスにはアーマメントが入っている」「手に入れれば我の技能は向上し」、ただし「取得されることを拒み」「強力な自衛戦闘を行う」「取得を試みる者が命を落とすことも十分にありうる」。強くなる手段が、そのまま命がけの試練になっている。
「一人じゃ何もできないのは、ここにいるみんなもでしょ」
アリヒトは「俺は箱を開けたい」「命を懸けることになるとしても」と言う。理由は「テレジアを人に戻し」「エリーティアの友達を助ける力に」「他の人たちを助けるためにもきっと役立つ」。そして「ただ俺一人では何もできない」「みんなのことは俺が絶対に守るから」「一緒にやってほしい」。返ってきたのは「一人じゃ何もできないのは」「ここにいるみんなもでしょ」「お互い様ね」だった。夢の中で「頼まれてもいないことに命を懸けるのは馬鹿げてる」と言われたアリヒトが、自分から命を懸けると言い、仲間はそれを「お互い様」で受け止めている。
まとめと考察
誘惑の原点と、取り戻した原点
第11話の「原点回帰の誘惑」は、二重に読める。傀儡師が差し出したのは、迷宮国に来た最初の場所からやり直し、他人に決められた職業で英雄になる人生だった。アリヒトが戻っていったのは、「誰かが前にいてくれて」「初めて何かができる」後衛という職業のほうだった。本当の原点は、生まれ変わった場所ではなく、誰かの後ろに立つという自分の役目のほうにあった。
「約束はできません」から「お互い様ね」まで
この回は、助けることをめぐる言葉が何度も行き来している。ギルドセイバーには「約束はできません」、ルイーザには「できれば助け合ってやっていきたい」、夢の中では「頼まれてもいないことに命を懸けるのは馬鹿げてる」と言われ、最後は仲間から「お互い様ね」と返される。助けに行く人を支えるのは、また別の誰かだという形で話が閉じている。前に立つテレジア、後ろから支えるアリヒト、そのアリヒトを支える仲間という並びが、そのまま後衛という職業の説明になっている。
ゲオルグは「続けるさ」と言った
最後に、ゲオルグたちは探索者を続けると決める。「続けるさ」「探索者も」「このパーティーもな」「アリヒトのおかげだよ」「あんたはまるで」「俺が憧れている侍みたいだ」「腕が立つし心も強い」。「潮時だな」と言っていたリーダーが、同じパーティーで続ける道を選んでいる。アリヒトが夢の中で手放さなかったものが、北極星の続きにもつながった。




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