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第11話の副題は「砂時計」。外交の行き詰まりを前に、ルーデルドルフは軍による一元指導でイルドアを叩く計画を持ち出す。「殴れるうちに殴る」と言う親友に、ゼートゥーアは「戦略が作戦に奉仕するなど」ありえないと激怒する。ゼートゥーアから親友の暗殺を頼まれたターニャは、「ただの浪費です」と返す。「あれは友人だ」と未練を口にしながら、ゼートゥーアは「人間性を燃やし尽くした」と計画を進める。




副題「砂時計」と、残り時間の話
公式あらすじは、ルーデルドルフの絶望から始まる
第11話の副題は「砂時計」。公式サイトのあらすじは「外交の行き詰まりは、ルーデルドルフを絶望させる。」と始まり、「彼には、これ以上、躊躇する時間がなかった。」「ならば、必要なことを。」と続く。結びは「その決断は、しかし、一人の友を激怒させる。」。副題の砂時計は、この回に出てくる人物たちが口々に言う残り時間の少なさと重なっている。
この回を作った人たち
公式サイトによると、第11話は脚本が猪原健太、絵コンテが尾形光洋、演出が細越裕治、総作画監督が三島詠子。脚本は第1話からずっと猪原健太が一人で書いている。第2話から総作画監督を務めてきた細越裕治が、この回では演出に回り、総作画監督の欄は三島詠子に替わっている。
銃後の声
冒頭には、戦地から遠い場所の声が並ぶ。「たった5日の結婚生活だけど悔いはない」「私たちのためなら無駄な犠牲なんかじゃないって」。式典では「徴兵免除を蹴り」志願した若者たちに「帝国の誇りであり」「素晴らしい愛国心だ」と声がかかり、「まったく志願しないのがいるとは信じがたい」「皆が犠牲を払っている時に何の役に立とうというのか」とささやかれる。犠牲を無駄にしないという思いが、銃後ではそのまま次の犠牲を求める声になっている。
式典への爆撃と、ルーデルドルフの焦り
「軍のメンツは丸潰れもいいところだな」
その式典会場が爆撃される。「敵は我が方の式典会場を爆撃」「軍のメンツは丸潰れもいいところだな」「敵の新型高速爆撃機が投じられた模様です」。警報が遅れた理由は、「少数の爆撃機がデコイになり」「我が方の邀撃部隊を誘引する事例が多く」「囮と黙殺したものかと」。誤報を恐れて見逃した一機が本物だったという、狼少年の話を逆に使われた負け方になっている。
「まだ終われぬ」
報告を聞いたルーデルドルフは「遅れるわけにはいかんのだ」「決して遅れを取るわけには」「まだ終われぬ」と自分に言い聞かせる。「時を逃すぐらい」なら、「帝国の今のためにも」動く。副題の砂時計がいちばん強く落ちていくのは、この人物の頭の中だ。
親友どうしの計画書
「よほど私が恋しいか」
ルーデルドルフのもとをゼートゥーアが訪ねる。「よほど私が恋しいか」「否定はせん」「冗談を言ったつもりだが」。軽口から始まった会話は、「計画書は読んだな」「正気か」「無論のこと」「祖国の勝利を思えばだ」ですぐに本題へ入る。冗談を言い合える間柄だからこそ、正気かという問いがまっすぐ投げられている。
「真の総力戦だ」
計画の中身は「イルドアを叩く」「もはやこれしか道はない」。ゼートゥーアは「実現可能性を投げ捨てた点以外は完璧だな」と皮肉り、ルーデルドルフは「そのための軍による一元指導がなれば」「可能性の扉も開こう」「真の総力戦だ」と返す。実現できるかどうかの問いに、意志さえあればできるという答えが返されている。
「すでに活路は断たれた」
ゼートゥーアは「外交で落とし所を探る」「そう納得したのではなかったのか」と問い、ルーデルドルフは「すでに活路は断たれた」と言う。ゼートゥーアは「アホ言え」「活路はある」「条件を提示しようと思う程度には色気を見せたのだ」「いや1000万程度」「双方で殺し合えば」「どんな間抜けでも対話ぐらいはするだろうよ」と返す。第10話の副題だった「活路」が、ここでは二人のあいだで正反対に使われている。一方は活路が断たれたと言い、もう一方は一千万の死の先にまだ活路があると言う。
「殴れるうちに殴る」
「外交の活路は時間とともに閉ざされていく」
ルーデルドルフの理屈は時間だ。「外交の活路は時間とともに閉ざされていく」「今ならばまだ帝国は作戦優位を確保できる」「だが時間とともにこの優位さえ失われるのだ」。ゼートゥーアがまとめると「つまりこう言いたいのか」「殴れるうちに殴ると」。砂時計の砂が落ち切る前に動くべきだ、という理屈そのものは、ゼートゥーアも否定していない。
「戦略が作戦に奉仕するなど」
ゼートゥーアが拒むのは順番のほうだ。「ありえん」「戦略が作戦に奉仕するなど」。ルーデルドルフは「応急措置は必要なのだ」と言い、ゼートゥーアは「それでも参謀将校か」「よだれを垂らしてどうする」「いつから犬畜生になり果てた」とたたみかける。勝てる作戦に国の方針を合わせるのは、ゼートゥーアにとって参謀の仕事を放り出すことだった。
「その頭は飾りか」
「黙れ」「言って分からないなら殴り飛ばしてでも」と手が出たあとも、言葉の応酬は止まらない。「現実を見ろ」「貴様どうかしているぞ」「その頭は飾りか」「何のための頭脳だ」。ルーデルドルフは「我々は負けられん」「犠牲に見合った結果を出せずして」「我々が無能だったと」「頭を下げ」と返し、「戯れ言をほざく前に頭を使え」「我々は帝国の軍人だ」と押し切る。二人とも相手に頭を使えと言っていて、頭の使い道だけが逆になっている。
「お互いに安い大将星」
「愚かな友人に付き合うのも楽ではない」
殴り合いのあとの会話は穏やかだ。「まったく」「愚かな友人に付き合うのも楽ではない」「大将閣下の権限で黙らせてやってもよいのだぞ」「ならば一層敬語で話すか」。決裂した直後なのに、二人の口ぶりは古い友人どうしのままだ。
「お互いに安い大将星をつけるとは」
二人とも大将への辞令を受けていた。「どうせ貴様にも辞令が出ているだろうに」「それは耳の早いことだ」「お互いに安い大将星をつけるとは」「まったくだ」。負けかけの戦争で出世を安いと笑い合えるのは、この二人だけが同じ場所から戦争を見ているからだ。
「友人としてできる限りのことはしよう」
別れ際、ゼートゥーアは「お前の断固たる意思は伝わった」「友人としてできる限りのことはしよう」と言い、ルーデルドルフは「恩に着る」と返す。このやり取りがどういう意味だったのかは、次の場面ですぐに明かされる。
「私の親友を一人」
「あれは死んでも治らんな」
ゼートゥーアを迎えたターニャは「ルーデルドルフ閣下はお変わりありませんでしたか」と尋ねる。答えは「相変わらずだ」「あれは死んでも治らんな」。冗談めいた一言が、このあとの頼みごとの前置きになっている。
「我が親友殿の脳漿をぶちまけてくれ」
ゼートゥーアは「中佐」「一つ頼まれてくれ」と切り出し、「私の親友を一人」、そして「我が親友殿の脳漿をぶちまけてくれ」と言う。「友人としてできる限りのことはしよう」の直後に来るのが、その友人を殺せという命令だった。
「ひっくり返してはならないものを」
理由を問われたゼートゥーアは「よりにもよってひっくり返してはならないものを」「ひっくり返すとほざきおったわ」「軍事的合理性でさえ」「断じて国家理性には優越しえない」「戦略なき作戦」「活用なき勝利」「これでは全てが浪費だ」と語る。ゼートゥーアが許せないのは親友その人ではなく、親友が戦略と作戦の順番をひっくり返そうとしていることだ。
「綺麗な出口のための準備が必要だろうな」
ターニャが「その後はどうされるおつもりですか」と聞くと、答えは「綺麗な出口のための準備が必要だろうな」。ターニャは「軍の一元指導そのものを」「厭われるわけではないのですね」と確かめる。「強引すぎる手法では帝国の破産が派手になるのみだ」「どう転んでも混乱は避けねばならん」。ゼートゥーアは戦争を勝つためではなく、壊れ方を小さくするために終わらせようとしている。
「人間は貴重な資源です」
「ルーデルドルフを元帥閣下にしてやってくれ」
ゼートゥーアの言い方は「ルーデルドルフを元帥閣下にしてやってくれ」「邪魔だから」「ただ殺すと」。ターニャの返事は「ありえません」。ゼートゥーアは「必要な犠牲だ」と重ねる。味方殺しを断られたと思ったゼートゥーアは、ターニャが何を拒んだのかをまだ取り違えている。
「単にルーデルドルフ閣下を殺せばただの浪費です」
ターニャが拒んだのは殺すことではなかった。「人間は貴重な資源です」「無駄に殺されるべきではありません」「単にルーデルドルフ閣下を殺せばただの浪費です」「高級将官は今少し有意義に死ぬべきでしょう」。ゼートゥーアが「全てが浪費だ」と言った同じ物差しで、ターニャは親友の死そのものを浪費にするなと言っている。
「選別的に粛軍を敢行」
ターニャの案は「反逆の首謀者として」「あやつ一人をガンとして取り除くのではなく」「その死をトリガーとして」「選別的に粛軍を敢行」「危機対応を口実に」「一元的戦争指導へなし崩しで」。ゼートゥーアが「それこそがクーデターに聞こえるがね」と言うと、「手順は合法でやれるかと」「一個憲兵中隊もあれば」と返す。一人を消す話が、軍全体を握り直す話に広げられている。
「悪くない、いや完璧だ」
「表向きルーデルドルフ閣下には事故死していただくのが一番かと」
方法は「表向きルーデルドルフ閣下には事故死していただくのが一番かと」「遺品整理中に陰謀の証拠を発見してからの」「粛軍開始が理想的です」。ゼートゥーアの答えは「悪くないいや完璧だ」。親友の死を悼む手順と、その死を利用する手順が、同じ段取りの中に組み込まれている。
「一元的戦争指導を担われる覚悟のある方」
ターニャは一つだけ条件を付ける。この計画には「一元的戦争指導を担われる覚悟のある方」が要る。ゼートゥーアは、その役を自分が引き受けると答える。親友を消して空いた席に、ゼートゥーア自身が座ることになる。
「巻き添いにするわけか」
飛行機の事故に見せかけるため、ターニャは「機材の整備と保守には」課題があると言い、「確実な事故のため私の魔導部隊も護衛につけ」ると申し出る。ゼートゥーアは、護衛にあたる者まで「巻き添いにするわけか」と念を押し、ターニャは「痛恨の極みであります」と答える。「お口元が緩んでおいでのようですが」という一言も挟まる。ゼートゥーアは「貴官らには苦労をかけるな」「では必要のために血を流そう」と結ぶ。痛恨と言いながら口元が緩む、その食い違いがこの場面の温度を決めている。
連合王国と連邦も、同じ首を狙う
「帝国側の要人を暗殺するための大胆な陽動とは」
連合王国の側では、「限界を超えた長距離爆撃で帝国にさらなる負担を課す」シャトル爆撃が、実は「帝国側の要人を暗殺するための大胆な陽動とは」と明かされる。狙いは「ルーデルドルフ大将の首」、情報源は「帝国中枢のスパイでしたか」。帝国の中と外で、同じ一人の命がほぼ同時に狙われている。
「連邦に知られることなく仕留めろと」
条件は「連邦に知られることなく仕留めろと」「ついでの偽装工作も頼むよ」。一方の連邦では、「帝国を爆撃した連合王国機が連邦領土に着陸」する計画が「国際友情の発露です」と説明され、「国際友情とは素晴らしい」と返される。「友情」という言葉が、帝国の二人の友情と並べて、国どうしの打算の看板にも使われている。
「ハリボテのピーキーな新型宝珠とやら」
連邦の魔導師には、友人たちを出迎える「つまり爆撃部隊の受け入れ誘導と警護か」という任務と、「ちょっとしたサプライズを見せたいと」いう注文が付く。「新型宝珠を装備する精強な魔導士」「要するに舐められる前に力を誇示しろか」「ハリボテのピーキーな新型宝珠とやら」「無茶を言う」。ルーデルドルフの乗る空には、帝国の護衛と、新型を背負った敵の魔導師の両方が集まろうとしている。
まとめと考察
「あれは友人だ」
計画が動き出したあと、「本当によろしいのですね」と念を押されたゼートゥーアは「待て」「あれは友人だ」と口にし、「どうやら私にも未練が残っていたらしい」と続ける。親友を殺す命令を出した人が、最後にもう一度だけ友人だと言い直している。
「この上なく人です」
ターニャは「我々全員が人間です」と言い、「意外だな中佐」「貴官は人間かね」と問われて「この上なく人です」「神だの悪魔だのが私の道に立ちふさがるならば」「人間の力で叩き潰す定めだとすら信じてやみません」と答える。ゼートゥーアは「そうか」「だが私はもう人間性を燃やし尽くした」。人間は資源だと言ったターニャが人間であることに誇りを持ち、友を惜しんだゼートゥーアが人間性を燃やし尽くしたと言う。
砂時計の砂は、どちらにも落ちている
ルーデルドルフは時間がないから殴ると言い、ゼートゥーアは時間がないから親友を消す。同じ砂時計を見ていた二人が、正反対の結論にたどり着いたところに、この回の副題の重さがある。第10話の「活路」が対話を指して出てきたのに対し、この回の活路は親友の死の先にしか置かれていない。
「転職前に厄介な仕事を押し付けられるのは」
最後はターニャの心の声で閉じる。「転職前に厄介な仕事を押し付けられるのは」「円満退職のためには」。国の行く末を賭けた暗殺が、ターニャの頭の中では退職前の厄介な仕事として片付けられている。その軽さが、ゼートゥーアの重さとちょうど釣り合っている。




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