この記事の作品:
第11話の副題は「片田舎のおっさん、激しく憤る」。大聖堂から王子と王女を連れ出す道中、ベリルたちはイブロイが味方だと保証したヴェルデアピス傭兵団と肩を並べる。「あの時も仕事だったからな」と言うハノイに、ベリルは「何も終わっちゃいない」と声を荒らげる。教皇が造ったキマイラとの戦いでは、宮殿に残るよう言われていた仮面の傭兵にベリルが救われる。首都ではミュイが特訓を終え、手料理でお礼をする。




副題「激しく憤る」と、敵と組まされる道中
公式あらすじは「呉越同舟」を掲げている
第11話の副題は「片田舎のおっさん、激しく憤る」。公式サイトのあらすじは「大聖堂に乱入したヴェルデアピス傭兵団。」で始まり、居合わせたイブロイが「彼らは味方だ」と叫んだあと、「呉越同舟とも言える陣容で、王子王女を守りながら宮殿まで移動することになったベリルたち。」と続く。結びは「それは、モーリス教皇によって造り出されたものだった。」。あらすじの真ん中にあるのは、つい先日まで敵だった相手と同じ仕事をさせられる居心地の悪さだ。
副題に初めて「激しく」が付いた
2期の副題は「新たな職場に行く」から始まり、「成長を見守る」「老輩に己を重ねる」「帰省する」「雄叫びをあげる」「父と対峙する」「貴族に招かれる」「求婚される」「教都に行く」「新年を迎える」と続いてきた。どれも動詞でベリルの動きを言い表していて、動きの強さまで書き込んだのはこの回が初めてになる。自分を「しがないおっさん」と引いてみせる人物の感情が、副題の段階ではっきり強調されている。
雄叫びの回との違い
ベリルが大きな声を上げたのは、第5話「雄叫びをあげる」以来になる。あのときは周りが「ベリル殿のあれほどの気迫は初めて見ました」と驚き、本人は「恥ずかしいからあんまり言わないで」と照れていた。第5話の声は獲物に向けたものだったが、この回で声を荒らげる相手は人で、しかも味方として隣を歩く相手だ。
「信用していい、僕が保証する」
イブロイの保証で、傭兵団が味方になる
大聖堂では、傭兵の側から「残念だったな」という声が上がったあと、イブロイが割って入る。「彼らは王子、王女を護衛しに来た」「信用していい、僕が保証する」「彼らと協力して、王子殿下らをここから逃がしてくれ」。返事は「承知しました」の一言だった。剣を交えたばかりの相手を、一人の保証だけで味方として受け入れる形になっている。
第10話の「協力者」とのつながり
第10話でイブロイは「協力者をいくらか抱き込めたよ」「結構な額のお金が飛んでいったけど、それも必要経費だろ」と話していた。この回では傭兵団に「より高い報酬をぶら下げられて寝返ったのか」と問う声があり、「そういうもんでしょうよ」と返事がある。第10話で中身を伏せられていた協力者の話が、この回の寝返りの話とつながって見えてくる。
「問題はないと思いたいですが」
一行は地下水道を進む。「この地下水道で宮殿のちょい手前まで行ける」「地上よりは守りやすいだろ」「そうだろうな」。続けて傭兵団について「信用していいのか」と問われ、返ってくるのは「信用に足る人物が保証したので」「問題はないと思いたいですが」という答えだ。「思いたい」という言い方に、保証を受け取った側の迷いがそのまま残っている。
「仕事が終わるまで寝首はかかねえよ」
ハノイの線引き
傭兵団を率いるハノイの条件ははっきりしている。「依頼を受けた以上」「仕事が終わるまで寝首はかかねえよ」「だがな、守れと言われてるのは」「王子様とお姫様だけだ」「この先敵が現れてお前らがやられても」「助けねえからな」。裏切らないという約束と、助けないという宣言が、同じ仕事の範囲から出てきている。
「鈍いやつがどうなろうと知ったこっちゃねえ」
ハノイは続けて「鈍いやつがどうなろうと知ったこっちゃねえ」と言う。ベリルはここで、第8話の襲撃に巻き込まれた部下のヴェスパーとフラウの名前を出し、「お前からすると鈍いやつなのか」と問い返す。返ってきたのは「誰だよそいつらは」「死んだか」だった。ベリルにとっては名前のある部下が、ハノイの側では名前も知らない相手のままだった。
「こっちも二人殺されてるが」
ハノイは「お互い様だろ」「こっちも二人殺されてるが」「お前らを恨んじゃいねえ」「そいつらは腕も運も足りてなかったってだけだ」と言う。第8話の報告でも、敵側の死者は2名とされていた。ハノイは自分の仲間の死にも同じ物差しを当てていて、その割り切りに嘘はない。
「何も終わっちゃいない」
「誰も死なずに済んだんだ」
ベリルは「仕掛けてこなければ」「殺さずに済んだ」「誰も死なずに済んだんだ」と返す。ハノイの答えは「そうはいかねえ」「あの時も仕事だったからな」「それはそれ、これはこれだ」。ベリルは死を起きなくてよかったものとして語り、ハノイは仕事の結果として語っていて、二人の話がかみ合う場所がない。
「終わったことをいつまでも」
ベリルの「黙れ」に、ハノイは「やっぱおっさんてのはしつけえな」「終わったことをいつまでも」と言い、ベリルは「何も終わっちゃいない」と声を荒らげる。すぐに「剣を収めてくれ」「今やり合うのは得策じゃないだろ」と止めが入り、「先生」と呼ぶ声も重なる。第9話で「奴の始末は自分の手でつけたい」と胸の内にしまっていた思いが、ここで表に出ている。
「俺は剣士だ」
ハノイから「戦場じゃ使いもんにならねえな」と言われたベリルは、「俺は剣士だ」「兵士でも戦士でもない」と答え、ハノイは「そうかい」とだけ返す。傭兵団の側も、別の場面で「俺らは傭兵、誇り高き騎士様とは違うんでね」と言い切っている。傭兵、騎士、剣士という三つの立場の言葉が、同じ道中に並べられている。
ホワイト・メイデンと「救世の聖戦」
「本命はキマイラだ」
道中、傭兵団は次の危機を明かす。「合成獣、キマイラっつうのか」「そいつがこの都市で暴れ回るんだとよ」「獣とかモンスターの死体をつなぎ合わせて」「大聖堂にいた動く死体の上位魔術っぽい」。大聖堂の襲撃は「王子殿下の足止めが主な目的で」「仕留められれば僥倖ってのが向こうの腹積もりだったのか」と整理され、「ああ、本命はキマイラだ」と返される。大聖堂で片づいたように見えた襲撃は、前置きにすぎなかった。
「ホワイト・メイデンと名乗る流れ者の傭兵」
情報の出どころは「ホワイト・メイデンと名乗る流れ者の傭兵」「この仮面の女だ」。「依頼人からこいつの話はあてにしていい」と言われていて、本人は「口が利けないらしい」「こいつから俺たちに何か話すときは全部筆談だ」という。傭兵団には「割のいい仕事を仲介してくれたしな」という借りもある。第10話で教皇の側にいた傭兵も「口の利けぬ傭兵」と呼ばれていた。口が利けないという一点で、第10話の教皇の場面とこの回の道中がつながっている。
「全能なるスフェン神に乞う」
教皇の側では、一人が「全能なるスフェン神に乞う」と祈り、「ここに捧ぐ」と自分の命を差し出す。続く言葉は「救世の聖戦を」。第10話で語られていたのは「町を蹂躙し、尊き者を害する魔物」と、「これを討ち取るはまさに救世主」という筋書きだった。魔物を造るために命を捧げることが、この信仰の中では救世の側に数えられている。
ミュイの特訓と「私一人でできるからな」
「秘密特訓の総仕上げ」
首都では、第10話から続く特訓が仕上げに入る。「だいぶ飛ぶようになってるっす」「というわけで秘密特訓の総仕上げをやるっす」「クルニとミュイで模擬戦」「まともにやったらミュイは勝てない」「なのでハンデをつけました」。「100本くらいある」と告げられ、ミュイが勝てばそこで終わりという決まりだ。勝てない前提で数をこなさせる組み方は、第10話の「できなくてもいい」と同じ考え方で作られている。
「勝ち方にこだわったら負ける」
一本ずつ取られていくミュイに、「立ち合うと型が乱れるのはよくあることっす」「あと72本残ってるし」と声がかかる。「闘争心はすごいけど真正直っす」と見立てられたミュイは、やがて「ミュイちゃん見事な一本っすよ」と言われる一本を取る。勝ち方を責められないのかと気にするミュイに返ってきたのは、「言うわけないっす」「勝ち方にこだわったら負ける」「前にも教えた」。ミュイは「おっさんが剣ぶん投げた時か」と思い当たる。ミュイが思い出したのは教わった言葉より先に、ベリルが実際にやってみせた場面だった。
「掃除も片付けも私一人でできるからな」
特訓を終えたミュイは、お礼にと家へ招く。「しばらくミュイちゃん一人だし」「もっと散らかってると思ってたっすよ」と言われ、ミュイは「おっさんが帰ってきた時」「家が汚いと気が休まらねえだろうし」「なるべく綺麗にしてんだ」「掃除も片付けも私一人でできるからな」と返す。第9話でミュイは「ここが私の家なんだから」と言って留守番を選び、ベリルは「服はちゃんと畳んで片付けてね」と条件をつけていた。留守番を選んだときの言葉が、この回では片付いた部屋として形になっている。
「手料理なんて最高のお礼っすよ」
お礼はミュイの手料理だった。「手料理なんて最高のお礼っすよ」「いただきます」のあとに、ミュイの「よかった」と「大げさなんだよ」が続く。教都で傭兵とにらみ合うベリルとは別の場所で、ベリルの家の食卓はきちんと回っている。ベリルの留守を預かるミュイが、預かる側としての振る舞いを覚え始めている。
キマイラ戦と「助かったよ、ロゼ」
「守るべき者を襲う手引きをした」
宮殿に着いた一行に、キマイラが4体向かっているという知らせが入る。「足を止めようとした教会騎士と」「レベリオの騎士が何人かやられたらしい」。討伐に出る前、仮面の傭兵には「君はここに残ってグレン王子を守る」「それが君の果たすべき役目だ」という言葉がかけられ、「守るべき者を襲う手引きをした」「贖罪にはなると思いたい」と続く。王子の「ベリル、この者は」に、ベリルはガトガへの信頼を引き合いに出して「彼女も信頼に値します」と答え、王子も「私はガトガを信頼している」と受ける。傭兵団がイブロイの保証で受け入れられたように、仮面の傭兵もガトガへの信頼を通して受け入れられている。
「やっと先生のお役に立てます」
迎え撃つ場所では「ここで迎撃に失敗すると」「防御は困難になります」「ああ、通すわけにはいかない」。傭兵団が「右端の先行してる奴は俺たちで受け持つ」と引き受け、「まず真ん中の2体を俺とアリューシアで倒そう」と決めたところで、残る一体を任される人物が現れる。スレナだ。「ギルドを通して依頼があった」「それ以上のことは言えない」「やっと先生のお役に立てます」「お任せください」。第9話で「私が常にお手伝いできれば」と悔しがっていたスレナが、この回ではその言葉どおりに駆けつけている。
「あの剣では勝ち目が薄い」
戦いの最中、ベリルは「しかしアリューシアは」「あの剣では勝ち目が薄い」「早く助けに行かないと」と気をもむ。一方でアリューシアは、一人で一体を仕留めている。弟子の身を案じるベリルの心配を、弟子の側が結果で追い越している。
「助かったよ、ロゼ」
ベリルの側では、「こいつの気を引いてくれ」「これで終わりだ」という声のあとに、「このままでは」と追い込まれる局面が来る。そこでベリルの窮地を救ったのは、宮殿に残るよう言われていた仮面の傭兵だった。ベリルは「助かったよ、ロゼ」と声をかける。第10話では、ロゼについて「どんな手を使ってでもロゼを消しておきたいだろう」と教皇の側の思惑が語られていた。教皇に狙われる側だったロゼが、教皇の造った魔物の前でベリルを救う側に回っている。
まとめと考察
終わったと言われたものが、どれも終わっていない
この回には「終わる」をめぐる言葉が何度も出てくる。ハノイは死を「終わったこと」として扱い、ベリルは「何も終わっちゃいない」と返す。大聖堂の襲撃は片づいたように見えて「本命はキマイラだ」と明かされ、「これで終わりだ」のあとにも「このままでは」が続く。終わったと言われたものが、どれも終わっていなかった回だった。
保証でつながる味方
傭兵団はイブロイの「僕が保証する」で、仮面の傭兵は依頼人の言葉とガトガへの信頼で、それぞれ味方の側に入ってくる。ベリルはロゼの過去を「贖罪」という言葉で語り、ハノイは自分たちの過去を「それはそれ、これはこれだ」で片づける。ベリルが許せなかったのは傭兵の過去そのものより、過去を終わったことにする言い方のほうだったのかもしれない。
勝ち方にはこだわらず、生き方にはこだわる
首都でミュイが一本を取れたのは、勝ち方にこだわらなかったからだった。教都のベリルは「俺は剣士だ」と言い、戦場の理屈には乗らなかった。勝ち方にこだわるなと教えてきた人が、自分が何者かという線引きには強くこだわっている。全12話の11話目まで来て、傭兵団との関係もロゼの行く先も、まだ終わっていない。




関連作品:



















コメント