この記事の作品:
第83話の副題は「グッドルーザー」。記憶が一つになったスバルは、塔の障害を仲間に振り分けて総力戦に入る。ユリウスへの言づては「さっさと片付けて他の人のフォローに回ってくれ」だけだった。レイドに殻を破れと迫られたユリウスは、「私は私であることを曲げない」と見栄のハリボテをかぶり続けると決める。忘れられたまま名乗った騎士を、アナスタシアはもう一度自分の騎士に選び直す。




副題「グッドルーザー」と、名乗りの続き
公式あらすじは、騎士の名乗りで結ばれる
第83話の副題は「グッドルーザー」。公式サイトのあらすじは「二つの記憶が統合され、エミリアたちとの再会を果たしたスバル」から始まり、「塔に迫る五つの危機に仲間を振り分け」「死のループを終わらせるための総力戦が幕を開ける」と書く。結びは「スバルからの伝言を受け取った騎士は、レイドを前に高らかと名乗りを上げる」。総力戦の回でありながら、あらすじの最後に置かれているのは一人の騎士の名乗りだ。
脚本の並びが、ここで変わる
公式サイトによると、第83話は脚本が梅原英司、絵コンテが尾崎隆晴、演出が柴田彰久と正木陽南子。4th seasonの脚本は、第67話から第82話まで横谷昌宏、中村能子、梅原英司の三人が順番に受け持ってきた。並びどおりなら次は中村能子の番だが、第83話は第81話に続いて梅原英司が書いている。
「俺の名前はナツキ・スバル」
冒頭は第82話の幕の続きで、「俺の名前はナツキ・スバル」「エミリアたんの一の騎士」から始まる。前の回を締めた名乗りが、この回では別の騎士の名乗りへと受け渡されていく。
「ただのエミリアよ」と、帰ってきた我が家
「俺がいたことは確かに残ってる」
再会したエミリアは「ちゃんと一緒になれたの」と聞き、「記憶がない時のスバルもスバルだったから」「その短い間でも一生懸命で」と続ける。スバルの答えは「俺の中にもエミリアたんの中にも」「俺がいたことは確かに残ってる」「だから本当に大丈夫だよ エミリアたん」。記憶のなかったスバルを、エミリアは消えてよい別人ではなく、スバルの一部として惜しんでいる。
「まあ雪解けの早いこと」
ラムの第一声は「まあ雪解けの早いこと」「バルスらしい空騒ぎといったところね」。スバルは「満を持して戻ったぜ」「雪解けの季節の春男」「ナツキ・スバルをどうぞよろしく」と返す。第82話で申し送られたラムの言葉も「雪解けの季節になったら」だった。雪解けという一語が、ラムの予言とスバルの帰還のあいさつを一本につないでいる。
「ただのエミリアよ」
エミリアは「その前に聞きたいことがあるわ」と切り出し、「私はエミリア」「ただのエミリアよ」と名乗る。続けて「いろいろ言いたいことはあるけど」「ベアトリスともラムとも」「同じ方向を見てる家族なんだから」。名前を食べられて周りに覚えられていないエミリアが、肩書きを外した名前で自分を差し出している。
「これぞ帰ってきた我が家感」
ラムは「暴食の仕業でしょ」「ラムはやられっぱなしは嫌いなのよ」と言い、エミリアも「それは私も同じよ」「絶対の絶対」「やり返すんだから」と重ねる。スバルの感想は「これぞ帰ってきた我が家感」。怒りを口にしている場面が、スバルには家に帰ってきた安心として映っている。
障害は四つ、全員で当たる
「この四つなのよ」
塔の障害は「二人の暴食と」「外から来ている魔獣の襲撃」「襲ってくるシャウラ」で、「この四つなのよ」とまとめられる。第81話の公式あらすじが挙げた五つの障害のうち、残る一つは「聖域の時と同じで」「死に戻りを知ったルイのやつがいたからだ」「あいつが引っ込んだ以上」「もう来ないはずだ」と数から外される。ルイとの決着が、そのまま塔の障害を一つ減らす結果になっている。
「総力戦だ」
スバルは「とにかく障害はその四つだ」「それに俺たち全員で対処する」「総力戦だ」と宣言する。エキドナには「お前はユリウスに合流してくれ」、ベアトリスとは「ここであの大サソリの相手をしてやるかしら」、メィリィには「悪いが付き合ってもらうぜ」。記憶が一つになったスバルの最初の仕事は、戦うことより先に、誰がどこに立つかを決めることだった。
「俺とベア子とお前の3人で」
振り分けの中身は「俺とベア子とお前の3人で」「魔獣のスタンピードと大サソリ」「この2つを押さえ込む」。「悪夢みたいな体験だった」とこぼす声には「それはこれからでしょ」と返り、スバルは「やるぜ運命」「いや塔のシステムをぶち壊す」と言い直す。運命と言いかけて塔のシステムと言い直すところに、仕組みとして攻略するという今のスバルの構えが出ている。
「お前に死ねなんて言ってやらない」
シャウラに向けた言葉は「お前に死ねなんて言ってやらない」「俺はお前の400年を」「泣いて終わらせてなんかやらない」。返ってくるのは「お師様」「愛してるっす」。第82話で「助けてやってくれ」と申し送られたシャウラに、記憶の戻ったスバルは死なせないことを約束している。
ユリウスへの言づては、ひとことだけ
「あいつはユリウス・ユークリウスなんだぜ」
エキドナに「ユリウスに言づては」と聞かれたスバルは、「いや特にねえよ」「あいつはユリウス・ユークリウスなんだぜ」と答える。第82話の「ユリウスのやつについては まあ別に言わなくても大丈夫だろ」が、記憶が一つになったあとも同じ形で出てくる。
「さっさと片付けて他の人のフォローに回ってくれ」
ただ、すぐに「あ 言うことあったわ」と付け足す。「他のみんなも大変だから」「さっさと片付けて他の人のフォローに回ってくれ」。励ましでも心配でもなく、早く終わらせて手伝いに回れという言づてが、信頼のいちばん素っ気ない形になっている。エキドナは「分かった」「それをそのまま伝えるとするよ」と引き受ける。
「エミリアたんが頼りだ」
上層へ向かうエミリアには「打ち合わせ通りに」「エミリアたんが頼りだ」。エミリアは「ええ 任せて」「スバルこそ死んじゃダメだからね」と返す。総力戦の割り振りのいちばん先を、スバルはエミリア一人に預けている。
名前を忘れられた者どうし
「暴食の権能だ」
「ベアトリスの顔を見れば分かるさ」という読みに続いて、「暴食の権能だ」「ユリウスと一緒で」「名前はエミリア」と説明される。エミリアもまた、ユリウスと同じく名前を食べられて忘れられた側に回っている。
「君と同じ立場の人間だそうだ」
レイドの前に割って入ったエミリアを見て、ユリウスは「エキドナ 彼女は何者なんだ」と尋ねる。答えは「ナツキ君曰く ユリウス 君と同じ立場の人間だそうだ」。エミリアも「今なら私」「あなたの気持ちがすごーくよく分かるわ」と言う。名前を忘れられた者どうしが、名前を知らないまま同じ立場だと分かり合っている。
「その名前を知らない麗しのあなたよ」
エミリアは「だけどユリウスにはあなたに勝ってもらわなきゃいけないから」と言い残して先へ進む。見送るユリウスの言葉は「行かれるがいい」「私と同じ」「その名前を知らない麗しのあなたよ」「どうか万全に」。名前を呼べない相手への見送りが、そのまま礼を尽くした呼びかけになっている。
ラムは、螺旋階段で『暴食』を待つ
「ロイの奴とも話が通らないし」
螺旋階段では、もう一人の『暴食』が「ルイとも」「ロイの奴とも話が通らないし」とぼやいている。ルイもロイもそれぞれの形で崩れ、残った一人が取り残されている。
「豚のように泣きながら死になさい」
待ち受けるラムは「そんな権利が自分にあるとでも思っているの」と言い、「あなたがラムとレムの姉妹愛を引き裂いてくれたそうです」「豚のように泣きながら死になさい」と告げる。ラムは記憶にない妹とのことを聞いた話として受け取り、それでも自分の怒りの理由にしている。
レイドは、殻を破れと迫る
「お行儀にこだわって負けんのか」
レイドはユリウスの剣を「遊んでんのかよ」とあおり、「気分も変わりゃ剣も変わる」「おめえにはその爆発に期待してんだぜ」「だってのに」「お行儀にこだわって負けんのか」と迫る。レイドが求めているのは、礼儀を脱ぎ捨てたユリウスの本気だ。
「おめえの中身は俺と変わらねえ棒振りだ」
さらに「おめえの剣には必死さしかねえ」「おめえの中身は俺と変わらねえ棒振りだ」「窮屈で見てらんねえよ」。第71話の副題でもあった「棒振り」は、レイドが自分を指して使ってきた言葉だ。レイドは、ユリウスの礼儀正しさの下に、自分と同じ棒振りを見ている。
「自分と同じものを見ていたのか」
ユリウスは「ようやく分かった気がする」「自分と同じものを見ていたのか」と応じる。レイドは「細けえことは知らねえよ」と言いつつ、「そのままじゃ俺に届かねえし」「後ろのマブにいいカッコできねえってよ」と重ねる。挑発の中身が、実のところユリウスを買っている者の言葉になっている。
永遠にかぶると決めたハリボテ
「私は私であることを曲げない」
ユリウスの答えは「その通りだ」「だからこそ」「私は私であることを曲げない」。殻を破れという挑発を正しいと認めたうえで、破らないほうを選んでいる。
「私の出身は平民のそれだ」
ユリウスは自分のことを語り始める。「思い当たる節は多くある」「私はユークリウス家の嫡子ではなくてね」「私の出身は平民のそれだ」「今の父に引き取られるまで」「貴族の教養とは無縁で」「故に私の在り方は作り上げたものだ」。騎士らしい振る舞いのすべてが、生まれではなく後から作ったものだと、ユリウスは敵の前で明かしている。
「ブサイクなハリボテだろうが」
「ブサイクなハリボテだろうが」「そうかもしれない」「私の本質は」「理想を知らない粗野な幼子のほうなのだろう」「しかし私はその理想と出会ったのだ」。自分の本質を粗野な子どもだと認めることが、そのまま理想を選んだ理由の説明になっている。
「それこそが私が永遠にかぶることを決めた」「ハリボテなんだ」
「だからこそ私は憧れを貫き」「騎士を装おう」「見栄にこだわり」「本来の己を封じ込めよう」「背筋を正し」「身だしなみを整え」「そうありたいと願う姿を装い」「意志を貫く杖とする」「それこそが私が永遠にかぶることを決めた」「ハリボテなんだ」。ハリボテを恥じて脱ぐのではなく、自分で選んだ装いとして永遠にかぶり続けると宣言している。
「見栄を眩しく思う者がいるのだと信じている」
「見栄を馬鹿にする者もいるだろう」「だがそれと同じくらい」「見栄を眩しく思う者がいるのだと信じている」「私が騎士の在り方に焦がれ続けるように」。見栄を張る理由が、自分のためだけでなく、それを見て憧れる誰かのためにまで広がっている。
「私と君たちとの新しい契約を」
そしてユリウスは精霊たちに語りかける。「変わることを恐れる私がいた」「そんな弱く」「情けなく」「格好悪い私を返上する」「君たちを解放しよう」「今一度君たちを呼ぼう」「君たちを愛している」「この見栄っ張りの求愛を受け入れてくれるなら」「改めて結ぼう」「私と君たちとの新しい契約を」。変わらないと宣言した直後に、精霊との契約だけは結び直している。変えないのは在り方で、関係は新しくする。
アナスタシアの、一の騎士
「忘れられやすい名なので」「覚えていただきたい」
戦いのさなか、「おめえ なんてったっけ」と聞かれたユリウスは、「ユリウス・ユークリウス」「忘れられやすい名なので」「覚えていただきたい」と答える。名前を食べられて誰にも覚えられていない騎士が、その事情を冗談めかして自分から名乗り直している。返事は「適当に」。「ここから帰った暁には」「我が友ラインハルトに挑もうと」とも言っている。
「ケチな君らしくないじゃないか」
そのころエキドナは、オドの中にこもったアナスタシアに語りかけていた。「覚えているかい アナ」「ここで僕は君と出会ったんだ」「あらゆるすべてを手に入れたいと言った」。外に出ればユリウスのことを忘れてしまう、だから出てこない。「君はそれが怖いんだ」「失うことが何より怖い」「だけど本当にそれでいいのかい」「君の騎士の一番かっこいいところを見ないなんて」「そんなもったいない真似」「ケチな君らしくないじゃないか」。忘れることを恐れる相手を、損をするのかという言葉で外へ連れ出している。
「最後まであなたの勝ちだ」
戦いの終わりに、レイドは「つまんねえ幕引きになっちまった」「俺以外の器に収まりきらねえってこった」とぼやき、ユリウスは「ロイ・アルファルドの肉体が」「あなたに耐えきれなかった」と応じる。レイドの「俺ん勝ちだぜ ユリウス」に、ユリウスは「最後まであなたの勝ちだ」「レイド・アストレア」と返す。副題の「グッドルーザー」は、勝ちを譲ったユリウスにも、器が尽きて退くレイドにも読めるように置かれている。
「私はユリウス・ユークリウス」「あなたの一の騎士」
外に出てきたアナスタシアは「えらいかっこいいお兄さん」「お名前は」と、初めて会う相手のように尋ねる。ユリウスは「私はユリウス・ユークリウス」「あなたの一の騎士」「お忘れかもしれません」「ですが私はあなたに剣を捧げた身」「あなたのために持てる力のすべてを尽くし」「その志をお支えする者」と名乗る。アナスタシアは「よう覚えてへんのやけど」「でも一目見て思うたんよ」「このお兄さん うちのもんにせなあかん」。忘れられたまま名乗った騎士を、主は覚えていないまま、もう一度自分のものに選び直している。
まとめと考察
名乗り直しが続く回
第82話の幕の「エミリアたんの一の騎士」から始まり、エミリアの「ただのエミリアよ」、ユリウスの「改めて名乗ろう」、そしてアナスタシアへの「あなたの一の騎士」と、この回は名乗りが続く。名前を食べられた者たちが、それでも自分の名前と立場を自分の口で言い直していく回だった。
殻を破らない強さ
レイドは最後まで「殻を破ったほうが強くなれたぜ」と言った。ユリウスはそれを否定せず、破らない道を選んだ。変わらないことを選ぶのにも強さが要る、という答えを、この回はハリボテという言葉で描いている。精霊との契約だけを結び直したのは、変えるものと変えないものを自分で選んだということでもある。
スバルの言づての意味
スバルがユリウスに言づてたのは「さっさと片付けて他の人のフォローに回ってくれ」だけだった。それを受けたユリウスは「彼が殻を破ったならば」「私もまた負けてはいられない」と言っている。殻を破って一つになったスバルと、殻を破らないと決めたユリウスが、同じ言づて一つで並び立っている。
塔の頂で待つ問い
回の最後、上層に至ったエミリアの前でボルカニカの声が響き、「頂へ至る者の志を問わん」と告げる。名乗りを重ねてきた回が、志を名乗れという問いかけで終わっている。
































コメント