この記事の作品:
『ホタルの嫁入り』第4話は、新渡戸との一件に決着がつき、紗都子と進平が互いの心の奥に触れていく回だった。隠してきた傷を勲章と呼んだ夜、部屋いっぱいに放たれたホタルの光と自由の約束、そして本人も気づかない紗都子のやきもちまで、笑いと切なさが交互に押し寄せ、二人の距離がぐっと縮まった第4話を、場面ごとに一つずつ順番に振り返っていく。




第4話 新渡戸との一件の決着
銃で穴だらけにされようが
『ホタルの嫁入り』第4話は、前回の続き、酒で別人格になった新渡戸が紗都子を人質に銃を構える場面から始まる。撃たれた進平は「痛くて死にそうだ」と言いながらも笑みを崩さない。「銃で穴だらけにされようが」、「必ず助けるよ」、「俺は夫だからね」。部屋から出て行けと言われれば出て行き、紗都子の意思が固まるまでは助けに入るのも我慢していたという言葉に、進平なりの筋の通し方が見えた。
妻を傷つける輩はこの世から消すべきだと思っているが、紗都子が殺すなと言うならその通りにする。「全部 全部 紗都子のため」。言っていることはまっすぐなのに、その目の奥にある危うさが怖い。新渡戸を殴り続ける進平を止めようと、紗都子が手に取ったのは行灯だった。「やめてって 言ってるでしょ」と思い切りぶつけてしまい、勢いがつきすぎたと謝る紗都子がおかしくて、緊迫した場面なのに笑ってしまった。
暴力はダメです
額から血を流しながら、ハンカチで拭いてほしいと甘える進平。撃たれたところより「おでこ優しく拭いて」とせがむ姿は、まるで子どものようだ。助けてくれたお礼を言う紗都子に、もっと好きになってくれたかと聞くが、答えは「なってません」。このやり取りの温度差が、この二人らしくてたまらない。
そして紗都子のお説教が始まる。「あなたのすることって過剰なんですよ」、「暴力はダメです」、「どんな人であろうと殺してはいけません」。殺し屋に暴力はダメと諭す紗都子と、たった今行灯で殴ったばかりの紗都子。その矛盾を自分でも分かっていそうなところがまた愛おしい。さらに「撃たれたら動いちゃいけません」、「あなたが死んでしまったらどうするんですか」と続け、死んでほしくないのかと聞き返されると答えをはぐらかす。「なんか想像してた展開と違うな」という進平のつぶやきに、思わず頬がゆるんだ。
必ず生きて帰ります
酔いが覚めた新渡戸は、自分のしたことを知って深く頭を下げる。どう詫びればいいのかと言う新渡戸に、紗都子が頼んだのは桐ヶ谷家への伝言だった。「紗都子は今不可侵の島に囚われていますが」、「必ず生きて帰りますと」。身請けを断った相手にも、恨み言ではなく家族へのつながりを託すところに、紗都子の強さと賢さが表れている。「約束は必ず守る」と答えた新渡戸の言葉が、きちんと届くことを願いたくなった。
互いの傷を見せ合った夜
私の勲章よ
騒動のあと、自分がへまをしたせいで進平を傷つけたと謝る紗都子に、進平は「大丈夫慣れてるから」と返す。そして紗都子の傷の具合を気にかける。前回、別人格の新渡戸にあざけられた手術痕のことを、どこかで聞いていたのかもしれない。そう思った紗都子の前で、進平は上着を脱ぎ、「傷だらけでしょ」と自分の体を見せる。「俺と比べたら紗都子の傷なんて気にならないよ」。
これもこの人なりに喜ばせようとしてくれているのかと気づいた紗都子は、「小さい頃からずっと隠してきた傷」を見せる決心をする。「私の傷はあなたよりずっと大きくて深いです」、「かっこいいでしょ 私の勲章よ」。隠すべきものだった傷を、自分から勲章と呼べたこの瞬間が、第4話でいちばん好きな場面だ。「この人には自分をさらけ出してしまいたくなる」という心の声も含めて、二人の距離がぐっと縮まったのが伝わってきた。
それなのに「でも数は俺の方が多いよ」と張り合う進平と、「張り合わなくていいんです」と返す紗都子。せっかくのいい雰囲気を自分で崩していくところまで含めて、この二人のやり取りは見ていて飽きない。ところが島を出る方法を相談しようとしたところで、紗都子はそのまま倒れてしまう。
ホタルと自由
あなたに自由があると思わないで
倒れた紗都子が見ていたのは、幼い頃の夢だった。熱が下がってまだ三日、美和子たちが遊ぶ様子を眺めるだけでいいから外に出たいと頼む幼い紗都子に、義母は冷たく言い放つ。「あなたは桐ヶ谷家の財産」、「つまり道具なの」、「あなたに自由があると思わないで」。紗都子が名家に嫁ぐことにこだわる理由の根っこが、この言葉に詰まっている気がして胸が痛んだ。
目を覚ますと、三日も眠ったままだったという紗都子を、進平がずっと看病していた。「妻の看病をするのも夫の務めだから」。怖い夢でも見たのかと聞かれ、紗都子は幼い頃の自分を語る。体が弱く、一度体調を崩すとしばらく家から出してもらえなかった。「このまま一人で死んでいくのではと思い」、怖くなったのだと。
俺が紗都子を自由にしてあげる
話を聞いた進平は、ちょっと待っててと部屋を飛び出していく。戻ってきた彼の手には、川辺で捕まえてきたホタル。部屋の中にホタルの光が舞い、「これで中も外も一緒だ」、「俺が紗都子を自由にしてあげる」。外に出られなかった子どもの頃の紗都子に、外の景色を届けようとする進平の発想が、なんとも彼らしくて優しい。「ずっと怖いと思ってたはずなのに」と戸惑う紗都子の気持ちが、そのまま見ているこちらにも伝わってきた。
ホタルは生まれてからずっと水の中で過ごし、地上に出てからはすぐに死んでしまう。その分美しく輝くのだという進平の話を聞いた紗都子は、弱ってきたホタルを逃がしてあげたいと言う。「限られた命ならこんな狭い場所でなく」、「ホタルの望む場所で 輝かせてあげたいわ」。体が弱く、閉じ込められて育った紗都子だからこそ出てくる言葉で、タイトルの意味にも重なっていく美しい場面だった。
ここを出たら毎年ホタルが現れる場所に家を建てよう、夏は一緒に川に潜って魚を捕ろうと夢を語る進平。川に潜ったことなどないと言いながら、「でも、やってみたいかも」とこぼす紗都子の表情がやわらかかった。
逃げるほうがまだ前向きですよ
けれど話は、進平の生き方へと移っていく。「あなたは一生殺しの仕事を続けるのですか」と聞く紗都子に、進平は「俺から殺しを取ったら何も残らないからね」と答える。島に思い入れはなく、父は知らず、母は幼い頃に殺された。母を殺した男が、自分が初めて斬った相手だったという告白に、「あれは快感だった」と付け加え、慰めてほしいとおどけてみせる進平。
その軽さを、紗都子は見逃さなかった。「そういうふざけた態度をとって」、「ずっとごまかしてきたのですか」、「この島から逃げたいのは あなたでは」。そして「ごまかしても 現実は変わらないわ」、「逃げるほうが まだ前向きですよ」、「私と一緒に ここを出て 自由になりましょう」。進平が紗都子を自由にしたいと願ったその直後に、紗都子もまた進平を自由にしようとしている。この対比が本当に見事だった。「俺と一緒に 逃げてくれるの」と聞き返す進平の顔は、殺し屋ではなく一人の青年のものに見えた。
ふくらむ想いと揺れる心
なんだか私変に意識してしまう
包帯を巻き直してあげる紗都子は、「いつも守ってもらってばかりなのに」こんなことでしか返せないと申し訳なさそうにする。進平は「こうしてそばにいてくれるだけで十分だよ」と笑う。役に立たなければ自分はただ手のかかる存在だと思い込む紗都子と、そばにいてくれるだけでいい進平。二人の価値観の違いが、ここでもくっきり描かれていた。
病み上がりの紗都子を抱き上げて布団へ運ぶ進平に、紗都子は「なんだか私変に意識してしまう」とどぎまぎする。ところが今までで一番軽いと言われて、「嬉しくないです」。軽いと言うとみんな喜ぶのにという進平に、「慣れてるんですね こういうこと」とつい棘のある返し。紗都子本人は気づいていないけれど、これはもう立派なやきもちだ。
愛っていうのは
改めて自分のどこが好きなのかと尋ねる紗都子に、進平は「一番は俺を受け入れてくれたところかな」と答える。その言葉に紗都子は、自分を受け入れてくれる相手なら誰でもよかったのではと考えてしまう。「出会ってからたった数日で それほど人を愛せますか」、「あなたが私に向ける愛情は きっと子供や動物に向けるものと同じだわ」。言いながら、自分でもめちゃくちゃなことを言っていると分かっているのがまた切ない。
愛が何か知っているのかと聞き返されて、「つまり相互で育むものですよ」と抽象的なことしか言えない紗都子。そのまま寝ると言い切って背を向け、一人になってから「あの人に ものすごく腹が立ってる」と自分の気持ちに振り回される。好きなわけじゃないと言い聞かせながら、こんなに心をかき乱されている時点で答えは出ているように見えて、もどかしくもかわいらしかった。屋根の上でしょんぼりする進平の姿にも笑ってしまった。
進平様のご贔屓
翌朝、進平は船頭を買収し、「出られるのは10日後だけどね」と安全に島を出る方法を見つけてきた。「もっと俺を頼ってよ」といつも通りの態度の進平に、一人だけ意識していた自分が恥ずかしくなる紗都子。まずは昨日の態度を謝ろうと思った矢先、進平が遊女たちに囲まれる場面に出くわしてしまう。
指南役の遊女から聞かされたのは、「進平様はこの島の全遊女屋の用心棒です」という話。厄介な客を懲らしめて遊女たちを守る進平は、彼女たちの憧れの的で、元締めたちからも一目置かれているという。一方で、どこの遊女とも特別な間柄にならないと聞いていたという言葉もあり、紗都子の存在がどれほど目立っているかが分かる。そこへ現れた遊女たちから「これ以上進平様に近づくな」と詰め寄られ、進平のご贔屓は紫だけだと告げられる。新しい火種の予感に、目が離せなくなった。
第4話のまとめ考察
自由にしたい二人
第4話は、紗都子と進平が互いの傷を見せ合い、相手を自由にしたいと願い合う回だった。閉じ込められて育った紗都子に外の光を届けようとした進平と、殺しにしか生きる場所がないと思い込む進平に逃げてもいいと言った紗都子。どちらも相手の一番深いところに触れていて、ホタルの光の中の会話はこの作品の核心に近づいたように感じた。
そして、本人がまだ気づいていない紗都子のやきもち。好きなわけじゃないと言いながら、進平の言葉ひとつで喜んだり腹を立てたりする紗都子の姿は、二人の関係が確かに動き始めた証拠だろう。島を出るまでの10日間、遊女たちとの間にどんな波乱が起きるのか、そして二人の想いがどこへ向かうのか見届けたい。




関連作品:















































コメント