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二層の試験官は、箸一膳で騎士を蹂躙する規格外の男だった。よもやの形で試験を突破するエミリア、正体が判明する初代剣聖レイド・アストレア、そして独り敗北へ向かうユリウス。1期の王選の場に隠されていた「感銘」が明かされる、サブタイトルどおりの神回だ。第72話を振り返る。




剣と箸、絶望的な力量差
「ちげえよ、箸だ箸」
無手の相手に切りかかるのは騎士として恥ずべき行為。ユリウスは律義に剣を投げ渡すが、男は「死にてえのか」と鼻で笑い、取り出したのは箸だった。一番いい角度に、一番いい速さで振れば「箸だろうと切れねえもんなんかねえよ」。
その言葉どおり、最優と呼ばれた騎士の剣技は箸一膳にことごとくいなされ、ユリウスは為す術なく叩き伏せられて気絶。「つまんねえな、おめえ」。男の圧倒的な強さと退屈そうな顔が、二層の絶望を物語っていた。
剣を渡した誇り高さが、そのまま格の違いの演出に変わる残酷な導入だ。得物が箸という頓知のような絵面なのに、笑えないほど強い。この理不尽さがたまらない。
「勝てる方法を用意してください」
次に立ったのはエミリア。だが彼女は剣を構える前に、まず交渉を始めた。あなたはすごく強そうだから、きっと戦っても勝てない。「だから、勝てる方法を用意してください。一歩でもあなたを動かせたら私たちの勝ち。それで勝負しましょう。ダメ?」。
口説き文句には「ごめん、ちょっと何言ってるのかわかんない」と天然の塩対応。この度胸に男は「嫌いじゃねえぞ、おめえ」と笑い、勝負のルールが確定する。エミリアはアイスブランドアーツで氷の武器を生み、真っ向から挑みかかった。
力比べを避け、ルールそのものを固定しにいくエミリアの発想が面白い。怖いもの知らずの真っ直ぐさが、あの傍若無人な男に通ってしまうのだから痛快だ。
エミリア、まさかの突破
隙だらけだったもの
勝負の最中、男は下品な揺さぶりでエミリアの体に触れる。並の相手なら動きが鈍る場面。だが彼女はまるで動じなかった。「え? 体に触られただけでしょ。あなた隙だらけだったもの」。あっけにとられた男は体勢を崩し、一歩どころではなく動いていた。
「ふざけんな! どういう育ち方してんだ!」と絶叫する男に、周囲は冷ややかに宣告する。どんな経緯であれ、勝ちは勝ち。男も「言ったことは言ったことだ」と、渋々エミリアの通過を認めた。
セクハラが自滅になるという、史上まれに見る決着に笑うしかない。浮世離れしたエミリアの純粋さが最強の耐性になっているのが皮肉で、スバルとベアトリスの怒りっぷりも含めて完璧なコントだった。
試験は、七人ぶん
男いわく、塔にいる挑戦者は全部で七人。「抜けたのがおめえの女がまず一人。次は誰が俺を抜いてくれんだ?」。つまりこの試験は、一人ずつ全員が通過しなければならないのだ。
四層へ引き上げた一行は、気絶から目覚めたシャウラの証言で試験官の正体を確定させる。赤い髪、青い目、自称「棒振り」。その名はレイド・アストレア。とうに寿命で死んだはずの初代剣聖だ。シャウラは「生きてたっす! やっぱり殺しても死なないやつっす!」と半泣きで怯え、当のユリウスは姿を消していた。
全員通過という条件の重さが、エミリアの快挙を一瞬で覆す構成が意地悪い。あのシャウラが本気で怖がる姿に、レイドという存在の格が改めて刻まれる。
誇りと、無様と
独り、負けに行く騎士
ユリウスは単身で二層に戻り、再びレイドの前に立っていた。「ルグニカ王国近衛騎士団所属、ユリウス・ユークリウス」。その名乗りを、レイドは「つまんねえ肩書き」と切り捨てる。「俺は剣持って3ヶ月しか経ってねえぞ、おめえ」。
届くまで触れていない、届くまで振っていない、足りない。役者が違う、お呼びじゃない。殴られ、蹴られ、倒されながら、それでもユリウスは立ち上がり続ける。「私には強さが必要」。返ってきたのは「天剣に至る資格なし」という非情な宣告だった。
勝てないと分かっていて、それでも向かう。名前を失った騎士に残された、たった一つの吐き出し方だったのだろう。何度でも立つその姿は無様で、だからこそ胸を打つ。
階段に、一人きりにしない
倒れたユリウスを背負って階段を降りるスバル。目覚めたユリウスは「一人で立てる」「君の手を煩わせる必要はない」と意地を張り、背から降りて壁伝いに歩こうとする。それを見たスバルは、一度は歩き出し、そして引き返した。
「何が一人で立てるだ。へっぴり腰なのが丸見えなんだよ」。途中から勝てないと分かっていたんだろう、それでも向かっていくしかなかったんだろう、「それしか吐き出す方法がなかったんだろうが」。自分もそうだったから分かる。だから、「お前をこの階段に一人きりにしてやるもんか」と、スバルは肩を差し出した。
誇りを守るために突き放すのではなく、無様ごと受け止めて肩を貸す。かつて負け方まで晒し合った二人だからこそ成立する距離感で、ネットでも「神回」の声が相次いだのに深く頷く。
「ユリウス・ユークリウス」まとめと考察
ただ一人、感銘を受けた男
スバルはユリウスに告げていた。「お前の強さは俺の目が知ってる。俺の恥が知ってる。誰が忘れたとしてもだ」。そして幕切れに、1期の王選の大広間が回想される。王族と賢人会を前に「エミリア様の一の騎士」と大見得を切った、あの大ぼら吹きの名乗りだ。
「おそらく誰も信じたりしないだろう」とユリウスは独白する。勢い任せの発言に、「ただ一人、感銘を受けた男がいたことなど」。全員を敵に回したスバルの無様な啖呵こそが、誇り高き騎士の心を打っていた。今回のユリウスの姿は、あの日のスバルそのものだったのだ。
勝てなくても立つことを知る者同士、という二人の対称性をサブタイトルひとつで回収する構成に唸る。決闘で剣を交えた因縁が、6章でこう実を結ぶとは。長期シリーズの醍醐味が詰まった一幕だ。
秘密の同盟と、これから
幕間の「有言実行備忘録」は一転してコメディ調。中身がエキドナだと知らないユリウスが甲斐甲斐しく世話を焼くたび、エキドナは「僕はアナとユリウスの接し方を知らないんだよ」と冷や汗をかき、事情を知るスバルに援護を頼み込む。「僕と秘密の関係を結んだ君だけがね」「なんかいかがわしく聞こえるから言い方考えてくれる?」。
仲良しな主従を微笑ましく見守るエミリアに、スバルが「そんなとこもEMT」と返せば、「ごめん、ちょっと何言ってるのか分かんない」とお株を奪われる小ネタも。エミリアが超えられたのなら、レイドは決して超えられない障害ではない。ユリウスの言葉を希望に、攻略はまだ続く。














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