第18話のサブタイトルは「決戦! 学園武術大会」。大会最後の試合で、アレンの相手は人類最強の勇者ヘルミオス。15歳で戦場に出て以来、24歳の今も魔王軍を退け続けてきた男が、この一戦で初めて自分の内側をこぼす。アレンが隠していた対勇者用の秘策と、試合のあとに学園の全員へ届いた予想外の報せまでを追う。




勇者は神から遣わされた救世主のようなもの
我は飲まれたのか。少女を相手に
第18話は、前話から続いていた特別試合の決着から始まる。エクストラスキルを発動した剣聖ドベルグは我を失いかけていて、「もうドベルグ、殺すところだったよ」「君までスキルに飲まれないでよ」と割って入られてようやく止まる。
我に返ったドベルグの言葉が良かった。「我は飲まれたのか。少女を相手に」。そして「お前の勝ちだ。すまなかった。持って行け」と自分から頭を下げ、「ドベルグ様が敗北を認めたので、剣聖クレナの勝利です」と告げられる。前話の「我は負けぬ。お前に会うまでは」の続きが、こういう幕引きになった。
そのあと「友達が心配かな」と声をかけられたアレンが、「クレナを救っていただき、ありがとうございました」と礼を述べる。この直後に自分が戦う相手へ、まず礼から入るのがアレンらしい。勝敗より先に、幼馴染が無事だったかどうかを見ているのだった。
今降参すれば、痛い目を見ることもありませんよ
「それでは本日最後の試合を行います」。ここでアレンの独白が入り、この世界での勇者の位置づけが語られる。魔王軍に数千万人が殺され、滅びの道を歩んできた中で、勇者は神から遣わされた救世主のようなもの。そして「事実、15歳で戦場に出て以来、24歳になった今でも魔王軍を退け続けている。故に人類の希望と呼ばれているのだ」と続く。
ところが本人はまるで神妙ではない。「今はそんなこと関係ないけどな」と切り捨てて、「絶対に魔力回復リングをいただいてやるぜ」。勇者との歴史的な一戦ではなく、賞品の指輪を取りに行く時間だと思っている。
試合前の挨拶も噛み合わない。「この大会を機に君も有名になるだろうね」に「面倒な限りですよ」と返し、さらに「無駄な戦いは嫌いです。今降参すれば痛い目を見ることもありませんよ」。勇者に降参を勧める挑戦者である。ヘルミオスは「面白い冗談だね。無駄な努力をどれだけしたか知らないけど、僕には勝てないよ」と笑い、アレンが「無駄な努力なんてあるわけないでしょ」と返すと、「なら、その努力を見せてよ」と構えた。
お前の鑑定スキルじゃ召喚獣の加護は見えないからだよ
君の耐久力じゃ僕の攻撃は受けきれないはず
序盤は圧倒的な速さと重さに押し込まれる。相手がまだスキルを使わないのは「生徒を殺すわけにはいかないからだ」と読みつつ、それでも「これは受けちゃいけないやつだ」と即座に判断を切り替えていた。受け流せる攻撃と受けてはいけない攻撃を、当たる前に選り分けている。
首をひねったのはヘルミオスのほうだった。「スキルを使わずにこの威力か。あれ、おっかしいなぁ。君の耐久力じゃ僕の攻撃は受けきれないはずなんだけどなぁ。どうしてだろうね」。アレンは「さあ」ととぼけ、内心で種を明かす。「お前の鑑定スキルじゃ召喚獣の加護は見えないからだよ」。第17話で「まだ秘密」と伏せられていたあの種が、ここでようやく読者に開かれる。
そこへ新しく手に入れたBランクの召喚獣が呼び出され、巨大な竜が闘技場に現れて観客がどよめく。「学長によりますと、これは召喚士アレンのスキルとのこと。試合は続行します」という実況のフォローがおかしかった。危険物ではなく本人の能力です、と説明しないと収まらないのである。
ノーマルモードは6個のスキルを持ってる
この試合がいいのは、殴り合いの裏で互いに相手の残り札を数えているところだ。ヘルミオスが空を飛び、回復魔法まで使ったところで、アレンは「これでスキルは3つ目だなぁ。ノーマルモードは6個のスキルを持ってる。攻撃スキルは確実にあるだろうなぁ」と勘定を進める。
ヘルミオスのほうも「魔獣と違って召喚獣のステータスは見えないね」とぼやき、「もう攻撃は当てさせないよ。僕はドラゴンより早く飛べるしね」と間合いを変えてくる。痛打をもらっても「かなり痛いんだけど。だから言ったでしょ、痛い目に遭うって」と軽口で返すあたり、余裕はまだ残っている。
強い者同士がぶつかると、たいていは出力の勝負になる。この試合はそうならず、最後まで情報の勝負でいてくれた。見えていない札が何枚あるかを数え合う時間が、そのまま緊張になっていた。
これがヘルモードの特権ってやつだ
70個あるフォルダーを一瞬で入れ替えることができる
今回いちばんの新要素が、アレンの新スキル「高速召喚」だった。「今までは一体召喚するのに最長10秒はかかっていたが、高速召喚によりほぼ0秒になった」。しかも「何体をどの状態で召喚するかイメージするだけでよく、70個あるフォルダーを一瞬で入れ替えることができる」。
恐ろしいのはその先だ。「魔石や魔力の残量に気をつけておけばいいだけで、相手に気づかれないスピードで召喚することもできる」。つまり手札の入れ替えが相手から見えなくなる。「あまりにも有能。これがヘルモードの特権ってやつだ」と本人も上機嫌だった。
竜に続いてもう一体の巨大な召喚獣が投入され、ヘルミオスは「魔王軍と戦ってるみたいだね」「これが召喚士との戦いか」とこぼす。決め手を欠いたまま「埒が明かないね」となり、ついに「アレン君、死にたくなかったら降参しなよ。これは手加減できないんだ」と告げる。アレンの返事は「ご冗談を」だった。
勇者を倒すには勇者の攻撃ってな
六つ目のスキルが来ると読んだアレンが隠していたのが、対勇者用の秘策だった。高速召喚で入れ替えた召喚獣に「よく耐えた、ミラー。反射しろ」と命じ、人類最強の一撃をそのまま撃った本人へ返してしまう。
「勇者を倒すには勇者の攻撃ってな。ステータス的に賭けだったけど」。自分の火力で勝てないなら、相手の火力を借りればいい。そのうえで「降参しますか。これ以降、攻撃はすべて弾き返します」と宣告する。ヘルミオスの「それは、怖いな」がすべてを言っていた。
ここで空気が変わる。ヘルミオスが漏らしたのは悔しさではなく、「精霊王の言葉は本物だったのか。そうか、そうか。よかった。本当によかった。人類にはまだ希望があったんだね」という安堵だった。負けそうな勇者が嬉しそうにしている。この時点でもう、これが普通の決勝戦ではないと分かる。
超えた先が絶望なら、もちろんその絶望をも超えてみせます
虚飾にまみれたハリボテの希望であっても
そして今回の芯にあたる独白が入る。「いつまでこんなことが続くのだろう。魔王の実態は掴めず、神の試練はすべて乗り越え、武器もこれ以上のものはない。多くの仲間を失い、それでも仲間を追加され、戦場へ送り出される」。理由はひとつしかない。「なぜならば、自分は勇者だから」。
極めつけが「絶望することすらも許されない。虚飾にまみれたハリボテの希望であっても」だった。強さの頭打ちも、仲間が減り続けることも、全部見えている。それでも折れる権利だけが与えられていない。回想では指輪を託されながら「彼との出会いは、君にとっての希望にもなるはずだから」と言われていて、この試合は最初から仕組まれた出会いだったと分かる。
それでも勇者は最後の一撃を撃つ。「これが人類最強の一撃だ」。壁まで吹き飛ばされたアレンは、両腕が消し飛んでいた。それでも「生きてるかい? どうだい、勇者の一撃は?」という声に「殺す気か」と返して立ち上がる。手にしていたエルフの回復薬が、失った両腕を一瞬で元に戻したからだった。ヘルミオスも「何それ? エルフの回復薬持ってたの?」と目を丸くしている。「実力差は分かったよね。もう諦めたら?」に対して「相手が強いからって諦めたら終わりじゃないですか」と返し、ヘルミオスの「力を手に入れ、越えた先が絶望だったのか?」という問いに、「超えた先が絶望なら、もちろんその絶望をも超えてみせます」と答える。
「君は一体何者なんだい?」と聞かれたアレンの名乗りが最高だった。「魔王は自身のことを終わりの魔王と名乗っているそうですね。でしたら私は、始まりの召喚士アレン」。決まったと思った直後に「思いつきで言ったけどね」と内心で白状するので、そこは笑わせにきている。
グランヴェル家の用心棒として、何人からもお守りする所存です
指輪はあっさり手渡される。「精霊王から、始まりの召喚士に渡してくれと言われていたからね」。アレンが「でも、これであなたに死なれても困るんですが」と気にすると、ヘルミオスは「ああ、それなら、ほら、お揃い」と自分のぶんを見せた。そこでアレンが選んだ答えが「なら遠慮なくいただきます。では、降参しまーす」である。
目的の指輪が手に入った以上、「これさえあれば戦う理由など一ミリもないわ」ということらしい。ヘルミオスの「降参?」からの大笑い、そして「なんかアレン君らしいね」で試合が終わる。勝ち負けではなく取引で幕が下りる決勝戦だった。
一週間後の優勝セレモニーがまた良い。国王から「勇者とよく戦ったな。学園史上最高の試合と言えよう」と褒められ、「グランヴェル卿も人が悪い。このような優秀な才能をなぜ隠していた」と水を向けられたアレンは、「グランヴェル子爵には、私が農奴の頃より多大なる恩がございます。よって今後もグランヴェル家の用心棒として、何人からもお守りする所存です」と返した。第16話でセシルを差し出せと迫られた件への、公の場での回答である。
直後の地の文が効いている。「ラターシュ国王が崩御し、王太子が国王に即位したのは、それから数ヶ月後のことだった。この時の脅しが効いたのか、面倒なことは今のところ起こっていない」。本人も自分の発言を脅しだと認めている。そのあと廃ゲーマーはA級ダンジョン5か所の攻略を全員で達成し、スタンプカードがS級ダンジョンの招待券に変わり、「来年はS級ダンジョン攻略を目指すぞ」と盛り上がった。ところがナレーションはこう続く。「そんな俺たちに、予想外の試練が降りかかった」。
「決戦! 学園武術大会」まとめと考察
総勢1000万。勇者の登場で崩れたバランス
学園に呼び出された5人へ、ラターシュ王国から戦場への出兵命令が出る。ソフィアローネ、フォルマール、メルルにはそれぞれの国からの帰還命令で、学園にいる転入生全員が対象だという。まだ2年生なのに、という悲鳴が上がったが、行き先はローゼンヘイムだと告げられた。
状況は想像より悪い。総勢1000万の魔王軍がローゼンヘイム、中央大陸、バウキス帝国へ侵攻しつつあり、これは例年の10倍にあたる。これまで魔王軍が最弱の中央大陸ばかり攻めていたのは、ローゼンヘイムには精霊王の加護が、バウキス帝国には守りを固めるゴーレムがあったからで、そのバランスを崩したのが勇者の登場だった。
エルフ軍の規模は160万人。もともと少ないうえに回復役が中央大陸へ支援に出ていて、手薄になったところを狙われた。1か月前に300万が侵攻して国土の7割が落ち、首都フォルテニアは3日前に陥落。「1か月も前に侵攻が始まっていたのに、連絡が遅くないですか?」という問いへの答えが「我々エルフは他の種族が国に入ることを嫌うのだ。そんな排他的な国家運営が災いし、後手に回ってしまった」で、第17話で説明された気質がそのまま国を削っているのが重い。
この状況なら、選択肢は一つだ
残りの内訳も明かされる。中央大陸に200万、バウキス帝国に100万が待機中で、予備兵とみられる400万が中央大陸沖にいる。なぜ一気に攻めないのかを、アレンはこう読んだ。「中央大陸の魔王軍は、その回復役がいなくなるのを待ってるんだな」。エルフに帰還命令が出た時点で、中央大陸は回復役なしで200万と戦うことになる。
そこで返ってくるのが「中央大陸には勇者がいる」という言葉だ。しかし前線の主要な要塞だけでも50以上あり、「勇者一人で守れるわけないよな」という当たり前の指摘が続く。ついさっきまで殴り合っていた相手が、たった一人で50以上の戦線を担う側の人間だった。「絶望することすらも許されない」という独白の意味が、ここで数字になって返ってくる。
「私たちって、ギアムート帝国に行くべきなんじゃないの? 帝国が落とされたら、その先はラターシュ王国よ」という声も出る。国民は魔王の存在すら知らされていないから、そうなれば大混乱になる。全員が黙り込んだところで「アレン、どうする?」と振られ、返ってきたのが「この状況なら、選択肢は一つだ。俺たちでローゼンヘイムを救う」。次回は第19話「ローゼンヘイムへ」、8月14日(金)の放送になる。
学園編を一気に畳んで戦場へ送り出す構成だったが、この回でいちばん残ったのはヘルミオスのほうだった。人類の希望と呼ばれることが、そのまま魔王軍の狙いを他の大陸へ広げる引き金になっていた。強くなればなるほど守るべき戦線が増えるという地獄を、彼はひとりで9年続けてきたことになる。アレンが「その絶望をも超えてみせます」と言い切った直後に1000万という数字が置かれるのは、気休めを言わせないための順番だと思う。






















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