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第6話のサブタイトルは「忌まわしき伝説、嵐を呼んで」。新聞が報じていたのはスメラギがロータスサーカスの記録を超えられるかという記事で、そこから伝説のキャッチャー、エイデン・ジェット・ミッチャーの名前が出る。その流れで瑞佳がブラックロータスの娘だと明かし、翌朝には当のミッチャーが天幕の前に立っていた。団でいちばん強かったはずの瑞佳が、指導も演技もまとめて否定される回である。




公演地を横取りするという話は聞いていなかったもので
アバンの電話は誰にかけられていたのか
第6話は、青い公衆電話から始まる。受話器を握っているのは間宮凛で、話している内容がとんでもなかった。「今回の公演地の件でお電話させていただきました」「いえ、公演地を横取りするという話は聞いていなかったもので」。横取りされた側が抗議しているのではなく、横取りを事前に知らされていなかったことを詰めている言い方になっている。
続く台詞でさらに冷える。「早くご期待に添えるよう動きます」、そして「それでこちらの提示している条件の方はいかがでしょうか」。期待に応えると言い、条件の返事を待っている。凛は団の会計を預かり、団員の食事の準備や健康管理まで担っている人物である。その立場の人が、外の誰かと取引らしきものを進めていた。
伝説の一端が現れると同時に、凛の様子も不穏になった、という受け止めがちょうど良かった。この一分ほどのアバンだけで、視聴後の景色が変わってしまう。誰に何を頼まれているのかは一切明かされないまま、凛はこのあと何食わぬ顔で全員に朝の報告をする。
朝もお昼もおやつもじゃがいも
食卓は相変わらずだった。「朝もお昼もおやつもじゃがいも」で、余った分は「これ、後でフランソワにあげてな」と回される。そんなひまわりに対して、新聞が伝えていたのはよその団の景気の良い話だ。見出しは「スメラギ、伝説のロータスサーカスを超えられるか」。
ここで、これまで名前だけだったロータスサーカスの格が具体的な数字で示される。キルクスコレクション5連覇。しかも未だに破られていない記録で、しかも10年前の話だという。日本代表に選ばれるだけでも名誉なのに本戦で連覇、と団員が言うので、この大会が何段階もの関門を持つ世界規模のものだと初めて分かる。技術も進歩しているから可能性は出てきているのかもな、という言い方が、同時に「今の誰かが超えるかもしれない」という予告にもなっている。
じゃがいもとキルクスコレクション5連覇が同じ食卓に並ぶ、というのがこの作品らしい。世界大会の話をしながら、明日のおかずの心配をしている。この落差が、今回の後半でそのまま突きつけられることになる。
だいたい父親をかっこいいとか思います?
こういうキャッチャーに巡り会えたら
話題は自然とキャッチャーへ移る。「空中ブランコはキャッチャーとの釣り合いも重要だからね」という指摘から、ブラックロータスの相方だったエイデン・ジェット・ミッチャーの名前が出る。新聞に載っている写真を見て、団員が口々に「かっこいい」と言う。
いちばん熱がこもっていたのが桜翔だった。「フライヤーの私としては、こういうキャッチャーに巡り会えたら、すごく嬉しいなって」。空中ブランコで飛ぶ側に立つ人間の、いちばん素直な願いである。そして誰かが気付く。瑞佳はずっとブラックロータスと一緒だったのだから、この人と同じサーカスにいたことになる。
ここまでの流れが本当に上手い。新聞記事から雑談へ、雑談から憧れへ、憧れの矛先がそのまま瑞佳へ向く。誰も詰問していないのに、逃げ場だけが自然に塞がれていく。
ブラックロータスの娘
いいなあ、あんなかっこいい人と同じサーカスにいたなんて、と羨ましがられた瑞佳の返しが冷たい。「かっこいいって思ったことないですけど」。「なんだと」と沸く周囲に、さらに「だいたい父親をかっこいいとか思います?」。言ってから自分でも気付くのだが、もう遅い。
ブラックロータスの娘。「嘘だろ、おい」と全員が固まるなか、一人だけ動じていない人物がいた。凛である。「はい。でも瑞佳ちゃん、言いたくなかったみたいだったので、黙ってました」。知っていて伏せていた、という告白がさらりと出てくる。アバンを見た直後だと、この落ち着きが別の意味に見えてしまう。
正体が明かされて新たな人物も登場、というまとめの通り、今回は物語が中盤に入る合図を二つ同時に鳴らした回だった。父親への辛辣さが、そのまま彼女がサーカスを嫌う理由の輪郭になっている。
ブラックロータスに頼まれたの
本当に何者なの、あなた
騒然とする団員たちが次に詰め寄ったのはマリアだった。「瑞佳のこと、なんで黙ってた」に対する答えが、「ちょっと複雑でね。大した話じゃないけど、いつか教えるので待ってちょうだい」。そして、いちばん大きな一言が続く。
「ひとまず瑞佳の面倒を見てやってくれって、ブラックロータスに頼まれたの」。瑞佳がひまわりにいるのは偶然でも成り行きでもなく、父親からの依頼だったことになる。「じゃあ、あいつの借金の話は嘘?」という確認には「それは本物だよ」と即答で、「ブラックロータスはサーカスのこと以外、全くの無頓着な人でね。稼いだお金もどこへ消えてるのやら」と付け加える。
座長の謎に迫ろうとした、という感想がまさにそれで、「ブラックロータスとそこまでの知り合いなんてことも初耳だぞ」「本当に何者なの、あなた」と全員に問い詰められる。返ってきたのは「まあ、それは置いといて」で、すかさず「置いとくな」と突っ込まれる。笑いに逃がしながら、団長の来歴だけが宙に浮いたまま残された。
サーカスをやる理由として、借金は利用させてもらう
そのあとのマリアの本音が容赦なかった。「瑞佳の戦力は大きいでしょ。うちにとってはお値打ちよ。うちの台所事情考えてもね」。そして「あの子には悪いけど、サーカスをやる理由として、借金は利用させてもらう」。「鬼かお前は」と返されても否定しない。
ただし、そのすぐ後に「ただ、あそこまでサーカスをやりたがらないとは思わなかったけどね」と漏らす。計算ずくで縛ったつもりが、想定より根が深かった、という告白である。そして次の公演をどうするんだと聞かれて、「まあ、一応手は打ってやる」。「悪い顔してる」と言われるこの一言が、翌朝の来客につながっていた。
この直後に、凛が次の公演地について報告する。手付金を前払いできたこと、近隣の大きな公演地に他のサーカスの予定が入っていないことを確認済みだと、落ち着いた口調で説明する。アバンの電話を見た側からすると、この報告のどこまでが本当なのか分からない。何も起きていないのに、いちばん不安になる場面だった。
凛の動きが少し不穏、という指摘がここでも出ていた。今回は誰も裏切っていないし、何も壊れていない。それなのに、次にどこから崩れるのかだけが見えてしまう。こういう置き方をされると、次回以降の何気ない場面まで疑って見ることになる。
お供しかいませんね
小さい頃に亡くなった母がくれました
夜、桜翔が瑞佳の読んでいる本に目を留める。家に来た時から持っていたぼろぼろの絵本で、中身は「オズの魔法使い」。「小さい頃に亡くなった母がくれました。何度も読んでて、いつも持ち歩いてるもんだから、ぼろぼろです」。瑞佳の母親についての情報が、ここでさらりと出てくる。
どんな話なのかと聞かれた瑞佳の要約が「主人公のドロシーが、自分のふるさとを目指して、仲間と一緒に旅をする話です」。桜翔が「桃太郎みたいね」と受けたところで、瑞佳が短く刺す。「仲間? お供しかいませんね」。
この一往復が今回いちばん静かで、いちばん怖かった。桃太郎の犬と猿と雉を「仲間」ではなく「お供」と呼ぶ子は、自分が今いる場所も同じように数えている。オリジナルアニメはこうでなくっちゃ、という感想に頷くしかない。説明台詞を一つも使わずに、主人公の世界の見え方が渡された。
あなたと飛んだ時、今までにはなかった特別なものを感じたの
寝る前に、桜翔がもう一度話しかける。「あなた、ブラックロータスさんの娘だったんだね」。瑞佳が「自分で言っちゃいましたね」と苦く返すと、桜翔は責めるでもなく自分の話を始める。小さい頃に見た、あなたのお父様の演技。ロータスブロッサムに憧れて演者を目指したこと。
そして本題が来る。「ずっと夢見てる演技。飛ぶ時は、いつもあの演技を頭の中に描いてるの。それでね、あなたと飛んだ時、今までにはなかった特別なものを感じたの」。だからあの人の娘だと分かって、なるほどなって。憧れの演技を追いかけていた人が、その演技の血を継いだ相手と組んでいたと知る場面である。
ところが、桜翔が「そう、私はあなたと」と続けたところで、瑞佳はもう寝ている。いちばん大事な一言だけが宙に浮いて終わる。過去に優しく寄り添おうとする桜翔と、少しだけ素直になった瑞佳の寝落ち。重い話を重いまま終わらせないこの匙加減が、この作品はとても上手い。
写真と全然違くない!?
警察呼ばなくていい?
翌朝、天幕の前が大騒ぎになる。「おひさー」の一声とともに現れた人物が、いきなり瑞佳を掴んでお手玉のように放り投げ始めた。団員からは「不審者だー」「助けてー!」「警察!」の悲鳴が飛ぶ。ところが当人はまったく気にせず、宙に放った相手へ「久しぶりね。元気にしてた?」「なんて顔してんの、笑顔」と話しかけている。「瑞佳、知り合い?」「警察呼ばなくていい?」と全員が混乱するなか、瑞佳が呼んだ名前が「みっちゃん」だった。
エイデン・ジェット・ミッチャー本人である。全員の第一声が「いやちょっと待って、写真と全然違くない!?」で、当人の返しが「言われてみれば、私もずいぶんと老けたものね」。「そういう問題か?」「変わり過ぎじゃない」と総ツッコミを受けても、まったく動じない。
常識外れぶりは、そのあとすぐ実演される。団員が「瑞佳ちゃん、何があったんですか」とサーカス嫌いの相談を持ちかけると、「うーん、心のしこりね。じゃあ、それ確かめてみる」と受けたミッチャーが、おもむろにナイフ投げを始めるのである。的にされたのは吾野伊万里だった。壁に立たされ、頭の上に一つ、両手と両腕に一つずつ、合わせて五つのリンゴを持たされる。「プロフェッショナルなんだから動いちゃダメよ」と釘まで刺されるのだから、逃げようがない。
しかも投げる直前、思いついたように「目隠しもしちゃおう」。言うだけ言って、本当にそのまま投げてしまう。写真と違いすぎるという驚きが全視聴者共通だったのが分かる反応だったが、違っていたのは顔だけではなかった。その声を聞いた人たちが口をそろえて名前を挙げていたのが諏訪部順一で、登場から数分のうちに、場の空気も団員の安全もまとめて持っていってしまう。
ただし、失望させないでよね
何しに来たのかと問う瑞佳に、ミッチャーは「もちろん、あなたの顔を見たかったから来たのよ」。瑞佳の返しが「はい、もう見れましたね。さようなら」で、「あら、つれないのねー」と流される。この時点で、二人の力関係がもう見えている。
そこへ割り込んだのが桜翔だった。小さい頃にロータスブロッサムを見て演者を目指したこと、自分の空中芸を見てほしいこと。「私、休暇でこっち来てんのよね。それに私、高いわよ」とかわされると、誰かが「あら、伝説の演者という割にはケチンボなのね」と挑発を入れる。そこにマリアが名乗り出て、一宿一飯を持ち出して押し切った。
承諾の仕方も格好良かった。「団長直々に頼まれちゃうね」「準備なさい」、そして「ただし、失望させないでよね」。演技を見終えたあとの評価が「綺麗じゃない」「面白い」「あんた、面白いことしてくれるじゃない」、続けて「体ができてるわね」「それにさっきの挑発、なかなかいい度胸してるじゃない」。褒めるところと直すところをその場で切り分けてくる。
キラキラした何かが出る時が本来の力を引き出せている状態なのか、という見立てが面白かった。そして「でもあなた、悪い癖ついてるわね」の一言に、雫が「僕のせいなんです」と割って入る。それでも瑞佳がキャッチャーになってから、桜翔はのびのび演技できているとかばうのだが、この擁護が結果的に次の話を呼び込んでしまう。
全く錆びてないわね、ヤマダ
ヤマダ? 誰?
ミッチャーは雫にも矛先を向ける。いまは何をしているのかと聞かれ、スヴェトラーナとエアリアルシルクの練習を始めていると答えると、「じゃあ、ついでだから、あなたとヤマダのエアリアルシルクも見てあげる。準備して」。団員が一斉に「ヤマダ?」「誰?」「ヤマダとは?」とざわつく。
スヴェトラーナの本名がヤマダだった。本人がまったく訂正しないので、ミッチャーとは相当古い付き合いらしい。演技を見終えたミッチャーの評価が「それにしても、全く錆びてないわね、ヤマダ」で、そこから経歴が語られる。20歳でソビエトの一流サーカスで活躍し、キルクスコレクション本選への出場を2度果たしている。
山田って名前だったのね、という驚きに完全に同意する。じゃがいもを食べている団の中に、世界大会の本選経験者が二度分いた。冒頭の新聞記事で「日本代表に選ばれるだけでも名誉」と言っていた、あの舞台である。「山田だけじゃない。結構いい粒揃えてるんじゃない、団長さん」「うまく鍛えれば、キルクスコレクション本選にだって挑戦できるようになるかもね」と続き、この団の天井が一気に上がった。
あんた、才能ないわよ
ここからが本題だった。ミッチャーが瑞佳を呼び、「今の演技、どう思った?」「この2人に何か助言することないかって聞いてるの」と振る。瑞佳の答えは、呼吸が合っていた、シルクの回し方が綺麗だった、あえて言うなら体の線をもっと意識すればさらに良くなる、という模範解答だった。
返ってきたのが「それだけ?」、そして「ダメ。全然ダメだよ。ダメ、あんたも、今の演技も」。褒めたところも、直すべきところも、まとめて否定される。そして「うまく鍛えれば本選にだって挑戦できる。ただし、指導者さえしっかりしていればの話ね」という但し書きが、さっきの称賛に後から刺さってくる。
決定的な一言はこうだった。「あんた、才能ないわよ。指導なんかしてないで、舞台に立つことに専念しなさい。その方が少しはマシよ」。これまで団の誰よりも上手く、誰よりも先を見て、教える側に回っていた瑞佳が、指導者として才能がないと断じられる。
これまでの最強ぶりを一瞬で相対化した、という表現が的確すぎた。強さの上限を上げるのではなく、強さの種類が違うと言われるのがきつい。しかもこの評価は、瑞佳が「演者はやりたくない」と決めている一点を正確に突きにいっている。
「忌まわしき伝説、嵐を呼んで」まとめと考察
じゃあ、それ、私が分割で払ってあげる
「私、演者はやりたくありません」と言う瑞佳に、ミッチャーは「川澄さんと飛んでるんじゃないの?」と返す。「それは、なりゆきというか、強引にというか」と濁す瑞佳に「それ、川澄さんに失礼よね」。前の晩に桜翔が言いかけた「私はあなたと」を思い出すと、この指摘は効く。
そのうえで、逃げ道を一つずつ塞ぎにいく。父親が瑞佳の大切な場所を奪ったという話は、確認するまでもない前提として交わされ、瑞佳は「知ってるじゃないですか」とだけ返す。ならば、と続く問いが「じゃあ、なんでこの団に居座ってるの? サーカスが嫌なら、とっとと出ていけばいいじゃない」。残された理由は借金だけになる。
そこで放たれるのが今回いちばんの笑いどころだった。「じゃあ、それ、私が払ってあげる。これでやめられるわね」。ところが金額を聞いた直後、同じ台詞をもう一度、一語だけ足して言い直す。「じゃあ、それ、私が分割で払ってあげる。これでやめられるわね」。伝説のキャッチャーが分割払いを申し出ている。
全額から分割への言い直しは、間の取り方まで含めて完璧だった。重い場面のいちばん重い一手が、そのまま最大のギャグになっているのがこの作品の強みだと思う。笑わせておいて、提案の中身自体は一切引っ込めていない。
じゃあ教えてあげる。本当のサーカス
締めの一連が良かった。「そもそも、あんたはまだサーカスってもんを分かってない」。そして「知りたい?」という問い。サーカスが大嫌いだと言い続けてきた相手に、嫌いなものをもっと知りたいかと聞く。続く「じゃあ教えてあげる。本当のサーカス」で、今回は終わる。
副題の「忌まわしき伝説、嵐を呼んで」が、見終わってから二重に効いてくる。忌まわしき伝説とは、瑞佳にとっての父ブラックロータスであり、その相方として嵐のように現れたのがミッチャーである。同時に、その伝説を超えられるかと新聞に書かれたスメラギの記事が、今回のすべての引き金になっていた。記事が話題を呼び、話題が正体を暴き、正体が伝説を連れてきた。
そしてこの回の骨格は、はっきりしている。これまで瑞佳は、団でいちばん上手い人として作戦を立て、演目を組み替え、後輩に教える側にいた。その全部が今回、上から一段で否定される。上には上がいる、という王道を、よりによって父親の相方が持ち込んでくるのが残酷で、しかもその人は「舞台に立て」という、瑞佳がいちばん言われたくない処方箋を出してきた。
瑞佳が楽しく演者をやってくれる姿が見たい、という願いがそのまま次回への期待になる。マリアは借金で縛り、ミッチャーはその借金を肩代わりすると言い、桜翔は言いかけた言葉をまだ言えていない。三方向から引っ張られた瑞佳が、自分の足でどこへ行くのか。アバンの電話という時限装置も残ったままで、折り返し地点にふさわしい、見事に不穏な一話だった。




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