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第6話のサブタイトルは「辺境領主様と双子の祈り」。木箱の中から助けを求めていたエイマを双子が救い出し、その流れでずっと伏せられてきたセナイとアイハンの正体が明かされる回だ。二人は森人族で、その力は人間に見せてはいけないという両親との約束を抱えている。そして翌朝、ディアスの畑にはじめて芽が出るのだが、本人だけがその理由を知らない。




木箱の中から聞こえた声
エイマ・ジェリーボア、一応大人で女
第5話のラストで、荷物の箱から「助けて」という声が漏れていた。第6話はその続きから始まる。セナイとアイハンが二人がかりで箱を開けると、中から出てきたのが大耳跳び鼠人族のエイマ・ジェリーボアだった。
自己紹介がまず良かった。「こんな体ですが、一応大人で女なんですよ」と本人が先回りして言うのだ。小さな体に眼鏡をかけていて、双子に「眼鏡似合ってるね」と褒められると「はい、手作りなんです。この勉強用の本も自分で作りました」と返す。一人称は僕で、しゃべり方はやたらと丁寧である。
この第一印象だけで、彼女がどういう立ち位置の相手なのかがだいたい分かる。眼鏡も本も自作できるということは、この世界の亜人としては相当な知識層だ。しかも箱に閉じ込められたまま何日も外に出られずにいた。怖い思いをしていたはずなのに、開口一番が自分の性別の説明なのがおかしかった。
巻き込まれただけの一匹
双子が「エイマはどうして閉じ込められてたの?」と尋ねると、答えは「同じ種族の人たちがディアスさんに悪いことをしようとして、僕は巻き込まれた」だった。第5話で荷車に潜んでいた、ドラゴン殺しを狙う一団の件である。つまり彼女は襲撃側の同族でありながら、計画を知らされないまま連れてこられていた側だ。
「エイマはディアスのお友達?」という質問への「いえ、話したこともありません。ここに来てからずっと外に出られなかったし」も効いている。この村で最初に彼女を見つけたのがディアスでもアルナーでもなく、三、四歳の双子だったことが、このあとの展開を全部決めることになる。
助けられた側がすぐに「秘密の相談」を持ちかけられる、という流れも早い。双子のほうから言い出すのだ。見ず知らずの相手にいきなり打ち明けるのは無防備に見えるが、そもそもこの二人には人間以外の話し相手がいなかった。そこが今回の切なさの入口になっている。
森人族という答え合わせ
森に住み、森を守り、森になる
秘密の相談は、エイマの確認から始まる。「セナイちゃんとアイハンちゃんは、森人族という種族なんですよね?」。双子はあっさり「うん、森人族」と認める。第5話でモールが「森人なら知ってるんだろうけどね」「いるのかどうかも疑わしい存在」と語っていた、あの森人だ。伏線が一話またぎで回収された形になる。
そこからエイマが暗唱してみせる森人族の説明が、この回でいちばん美しいところだった。森人族は森に住み、森を守り、森になる。死の間際、親しい人に自分の種を託す。託された人はその種を守り育てて森を成す。成長した木は、手で触れればその人の思いに触れられ、知識を学べる本のようでもあり、自らの血脈をたどれる家系図のようでもある。
そしてその木々を守るために、魔力を分け与えて草木の生育を早める力と、病や邪気を遠ざける結界を作り出す力が備わっているのだという。双子は「うんうん、合ってるよ」「偉い偉い」「エイマは賢いね」と褒める側に回る。自分たちの種族の教義を、初対面の学者に採点してもらっている画になっているのが面白い。ちなみに二人はまだ大人ではないので、木の実から芽を出したり小さな結界を作る程度しかできないそうだ。
人間に言っちゃいけない、最後の約束
問題はここからだ。「でもこのことは人間に言っちゃいけないの。お父さんとお母さんとの最後の約束」。力を使うところを見られてはいけない、人間に知られると悪用されるから、と言い含められている。第3話で明かされたとおり、両親は双子を里から連れ出したあと病で亡くなっている。その最後の言いつけなのだから、三、四歳の子供が破れるはずがない。
エイマの返しがまた鋭い。「そうでしょうね。すごい力ですし」と納得したうえで、「でもそれなら、なぜ人間族であるディアスさんたちと一緒に暮らしてるんですか」と踏み込むのだ。約束を守るなら、そもそも人間の村にいるべきではない。この矛盾を突かれた双子の答えが、今回の核心になる。
視聴者の受け止め方も同じ方向だった。ディアスたちにさえ言えない理由が何なのかずっと引っかかっていたが、この年頃の子は親の言ったことなら守ろうとする、と考えれば納得できる、と。隠し事の動機が疑いでも打算でもなく、亡くなった親との約束だけだというのが、この作品らしい落とし所だと思う。
それでも一緒に暮らしたい理由
「手が優しかったの」
なぜ人間と暮らしているのか、という問いへの答えはこうだ。約束を守らないといけないから、すぐに逃げようと思ってたんだよ。引き取られた時点では、二人はここを出ていくつもりだったのである。第3話でディアスの食べかけを欲しがるほど懐いていたのは、そのあとの話だった。
続く理由がいい。「でもね、手が優しかったの」「声が優しかった」「お父さんとお母さんみたいだった」。力でも身分でも食事でもなく、手と声だったというのが効く。しかもそこで終わらず、「ちょっと汗の匂いはきつめだったね」と余計な一言がきちんと入る。しんみりさせたまま終わらせないのが、この作品の呼吸だ。
そして「それでね、一緒に暮らしたいなって」で締まる。第5話で双子がディアスに投げた「私たちが隠し事していたら、悲しい?」という質問の中身が、ここでようやく分かる。あれは悪だくみの前振りではなく、この家に居続けていいのかを確かめる問いだった。
みんなが寝静まった夜中に
双子の相談の中身は単純だ。「ディアスは畑を作ってて、毎日毎日すごく頑張ってるの。でもダメ」。自分たちの力を使えば解決できるが、それを見られてはいけない。だから「バレないためには結界が必要」なのだという。「ディアスは悪用しないと思うけど、約束だから」と言い添えるところに、この子たちが板挟みになっていることが出ている。
解決策を出したのがエイマだった。みなさんが寝静まった夜中のうちにやってしまえばいい、と提案するのだが、双子の返事は「無理だよ、私たちも夜は寝てるもん」。三、四歳児なので当然である。そこでエイマが「なら起こしてあげますよ。僕は耳が利くので、夜道の案内もできますし」と請け負う。助けられた恩を、その日のうちに返しにいっている。
夜の道行きも細かい。「ドラゴン殺しのディアスさん、気づかれないよう慎重に」と息をひそめ、エイマが「夜にお手洗いとか行きたくなった時はどうするんですか」と聞けば「ディアスかアルナーが一緒に行ってくれる」と返ってくる。つまり夜中に抜け出すこと自体が本来ありえない環境なのだ。そして役目を終えたエイマが「あの、離してくれませんか。このままだと見つかっちゃうんで」と訴えたときには、双子はもう抱きついたまま寝落ちしている。
そして畑で行われるのが、サブタイトルになっている祈りである。台詞はほとんどなく、双子の歌だけで進む場面なのだが、反応はここに集中していた。祈りの歌がとにかく美しかった、幻想的だった、と口を揃えていて、この回に出演した声優からも、収録の際に心が洗われるようだったという声が上がっている。隠れてこっそりやっている悪事のはずなのに、画としては村でいちばん神聖な時間になっているのが、この回の一番のひねりだと思う。
酒場と王都で回っていた話
人間族がサイ人族に惚れた
今回は村の外の場面がやたらと充実している。まずエルダンの領地の酒場だ。新しい領主が王都へ行き、ドラゴン殺しからもらったアースドラゴンの魔石を王に献上する、そうなれば正式に領主として認められ、この領もますます安泰だ、という噂話から始まる。
そこからディアスの話に流れるのだが、伝言ゲームの結果がひどい。亜人の妻がいて人前でも仲睦まじいらしい、亜人嫌いで有名な東部の出身なのに初対面で一目惚れしたらしい、しかもその奥さんには角が生えているらしい、と来て、たどり着いた結論が「人間族がサイ人族に惚れたのか」「すげえな」だった。鬼人族がサイに化けている。
ちなみに領民募集の噂も正確に広まっていて、種族は問わず、悪人と犯罪者はお断り、家と食事は領主が用意する、という条件に小型種の犬人族が何人か看板に釘付けになっていたという。この一言が、後半の来客につながっている。村の中だけを見ていると気づけない形で、募集が効き始めているのが分かる作りだった。
黒い布で体を覆った猿人族
同じ酒場で、もう一つ重い話が転がっている。第5話の襲撃事件について、「あの大耳跳び鼠人族がやらかした件、黒幕がいるらしいな」という噂が流れているのだ。捕まった連中は猿人族を名乗る輩にそそのかされたと供述しているという。
最初は責任逃れの出まかせだと思われていた。ところが、黒い布で体を覆った猿人族にそそのかされたという連中が他にも出てきたことで、話の重みが変わる。第4話で新月の夜に襲ってきた傭兵、第5話で鼠人族が口にした「あの男」。点が三つ並んだところで、その傭兵らしき男が「あいつのせいで俺は。待ってろよディアス、必ず殺してやるからな」と吐き捨てて店を出ていく。
王都のほうもきな臭い。カスデクス領の代替わりで第二王子マイザーの富の源が絶たれ、王位争いが第一王子有利に傾いたと語られる。そのうえでディアーネが動く。200近い兵士と数十台の兵糧の荷車を連れて王都を出た、という報告に対する上役の答えが「追っておけ。どうせ誰かが対処する」だった。第2話でディアスに断られて「いずれ思い知らせてやる」と言い残した人物である。誰も真面目に取り合っていないぶん、かえって嫌な予感がした。
翌朝、畑に芽が出ていた
ネズミを寝床に連れ込むとは何事だ
朝、双子がエイマを抱いて寝ているのをアルナーが見つける。「ネズミを寝床に連れ込むとは何事だ」という叱責は本気で、理由も「ネズミは死病の元になり得るからだ」ときちんと説明される。薬草で全身を清めないと家には入れられない、エイマは自分で自分の体を洗っていろ、三人ともしばらくここで反省していろ、と裁定が下る。
ディアスの受け止め方が良かった。「かなり応えているが、本気で叱られることも大切だよな。大切な経験だ」。第4話で夜更かしをした双子に対して「家族になったばかりの子供が大人を試すのはよくあること」と庇っていた人が、今度は叱られるのを止めない。そしてアルナーの魂鑑定でエイマが強い青と出たことで、警戒も解ける。
この場面が効くのは、双子が本当に悪いことをしていないからだ。彼女たちは畑を助けるために抜け出して、案内してくれた相手をそのまま連れ帰ってしまっただけである。叱っている側も叱られている側も、どちらも正しい。そういう行き違いを、この作品はいつも丁寧に描く。
諦めない強い心が実を結んだ、という誤解
そして畑である。第5話でどれだけ土を作り直しても芽が出なかったあの畑に、作物が根付いていた。しかも「二種類の土を作ったのに、その違いにはお構いなしで、こんな綺麗なまんまるに生えるなんてね」という妙な生え方をしている。この時点で不自然なのだが、誰も理由にたどり着かない。
アルナーの喜びようが凄い。「ディアス、やったじゃないか。まさか本当に根付くとは。これはすごいことだぞ。奇跡と言ってもいいくらいだ」「やはりお前はすごい男だ。お前の諦めない強い心がついに実を結んだんだ」。第5話で「やはりこの草原で畑は無理なんだ」と言った本人が、全面的に前言を撤回している。
これを受けたディアスの返事が、この回でいちばん好きだった。「もちろん畑がうまくいったことは喜ばしい。しかしアルナー、私にとってより嬉しく思えるのは、君がこんなにも喜んでくれたことだ」。手柄はまるごと誤解なのに、その誤解の上で交わされる言葉だけが本物になっている。双子の力だとは誰も気づかないままだ、というところを面白がる声が反応でも多かった。この気づかなさこそが今回の味である。
「辺境領主様と双子の祈り」まとめと考察
しゃべる鳩と、肉球のある犬人族
エイマが入っていた箱を調べていたディアスに、箱のほうから「お初にお目にかかります、ディアス様」と声がかかる。驚いた本人の第一声が「うわー、しゃべったー」。名乗ったのはゲラントで、エルダンに仕える伝書隊の隊長、種族は鳩人族だという。「そ、それは失礼した」と慌てて詫びるディアスに「いやいや、お気になさらず」と返すやり取りが穏やかでよかった。
持ってきた手紙の用件は、小型種の犬人族が領民募集に強い関心を寄せている、受け入れの可否を検討してほしい、というものだった。ゲラントの解説によれば、犬人族には大型種と小型種がいて、大型種は力が強く人間族に近く、小型種は原種に近い姿で力も弱く、肉球があるので不器用なのだという。彼らはイルク村に滞在した大型種から話を聞いて、ここでの暮らしに憧れているらしい。
ディアスの答えは「村のみんなから賛同を得られたら受け入れを決定する」で、アルナーに相談したときも「まず、アルナーの意見を聞きたい」から入る。領主が一人で決めない形が、第3話の老女たちの受け入れからずっと変わっていない。ついでに口が滑って「アルナーは私にとって最高の妻だからな」と言ってしまい、慌てて「とても頼りになる存在だと言おうとしたんだが」と付け足すあたりも相変わらずである。
双子のそばにいたい、という残留希望
双子については、アルナーが「どうしてネズミを抱いて寝ていたのかは頑なに教えようとしないな」と報告する。それに対するディアスの答えが「それ相応の理由があるんだろう。いつか向こうから話してくれるのを待とうじゃないか」。第5話で双子に言った「少しくらいの隠し事は誰だってするものだ」と、同じ人が同じ態度を取り続けている。知らないまま守っている形になっているのが、なんとも言えない。
エイマの残留希望も面白い。エルダンの領地にいればいずれ故郷に帰れるはずなのに、なぜここがいいのかと問われて「セナイちゃんとアイハンちゃんのそばで、二人の力に」と言いかけ、慌てて「じゃなくて、今後の成長を見守りたいというか」と言い直す。そのうえで読み書きができることを売り込み、教育係として置いてほしいと頼み込む。秘密を共有した相手が、そのまま村の一員として残る流れになった。
そして最後にアルナーが来客に気づく。はっきり分かるのが一人、小さいのが複数、あと、やたらでかいのが一匹。小さいのは例の犬人族だろうと当たりがつくのだが、でかい一匹の正体が分からない。現れたのは巨大なアナコンダのようなモンスターで、そこで話が切れる。サブタイトルの「祈り」が畑を実らせた翌朝に、村へ来ようとしている新しい領民ごと危険が迫っている、という置き方だった。秘密を抱えた双子、黒い布の猿人族、200の兵を連れたディアーネ。静かな回に見せて、火種だけはきっちり三つ置いていった回である。




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