この記事の作品:
第43話のサブタイトルは「白きデジモン」。公式のあらすじはアスカの登場と岸和田の任命までしか書いていないが、本編の大半はキョウが語る四年前の回想に使われる。そこで分かるのは、ヘリオスボアモンが弟を守りたいというアスカの気持ちから生まれたデジモンだったことと、そのデジモンが自分の意思で眠りについたことである。敵として出てきた白い相手の正体が、回想を一本見せられたあとではまるで違って見えるという作りになっている。




公式サブタイトルは「白きデジモン」。案内してきたのはアスカ本人
「よこせ。お前のe-パルスが必要だ」の続きから始まる
前回の最後で兄が言った一言を、そのまま受け取るところから始まる。「よこせ、お前のe-パルスが必要だ」。トモロウの反応は「な、何言ってんだよ兄さん」「それに、そのデジモンは?」で、相手が兄だと分かったうえで話が通じない。
横から止めが入る。「そいつに触れるな! e-パルスを持っていかれるぞ!」。ヘリオスボアモンは攻撃してくるのではなく、触れた相手から抜き取る。戦い方の説明がこの一行だけで済んでいて、以降ずっと近寄れない相手として扱われる。
仲間の言い分も割れている。「あれ、トモロウのお兄さんでしょ?」「なんでデジモン連れて襲ってきたの?」に対し、ゲッコーモンは「あんなの、アスカの偽物だってな!」と否定する。それをトモロウが「いや、俺には分かる。本物の兄さんだ」と引き取る。偽物だと思えれば楽なのに、本人だと認めてしまうところが、この回のトモロウの立ち位置をよく表していると思う。
土の星に岸和田、そして「最後のピース」の居場所
場面が変わってアプラクサス側である。新しい五行星として岸和田が紹介され、土の星に任命されたことが示される。前回、王会長に器を差し出して五行星の座を求めた男が、わずか一話で望みどおりの椅子に座ったことになる。
報告の中身が重い。「やはり、天馬アスカを使えば、ヘリオスボアモンを制御できるようです」「このまま黒く染めた状態で進化させれば、究極体の制御も可能かと」。そして「究極の進化をもたらす、最後のピースのもとへは、天馬アスカ自ら案内してくれました」と続く。
前回、手段を問われた側は、最後のピースは天馬アスカ自身が見つけ出すと答えていた。意思を奪った相手に自分で探させるという不気味な言い方だったが、その答えがもう出ている。案内された先にいたのは弟のトモロウだった。つまり計画の完成に足りない最後の一個は、最初から兄の目の前にいたことになる。
キョウが話し始めた、四年前の話
「もう隠し事はなしでしょ」
引き上げたあと、仲間がヘリオスボアモンについて話す。「聞いたこともないデジモンね」「賞金首でもないし」。そこでキョウの様子に気づいた側が詰める。「何か知ってるんですね」「話して」「もう隠し事はなしでしょ」。
返事は「場所を移そうか」だった。隠していたことを認めたうえで、立ち話では済まないと判断している。この人は前回まで、施設で一緒に育った幼なじみだという話を自分から少しずつ出してきた。今回はその続きを、聞かれる前ではなく聞かれてから話す形になった。
隠し事はなし、という詰め方が効いている。一度ファミリーを抜けると言って全員を叩き伏せた過去がある人なので、この短い一言は「もう同じことをするな」という意味にも読める。
閉鎖された施設で、キョウはアスカと再会していた
回想の時期が明示される。「あれは俺がカリナやミノルたちを失った少し後のことだ」「あの頃の俺は五行星の仕事からも二輪草からも抜け出して、ただあてもなくさまよっていた」。家族を失った直後の、いちばん何も持っていない時期にあたる。
流れ着いた先が、育った施設だった。「閉鎖していたのか」「ここもあの日以来だな」とつぶやいたところへ、天馬アスカが現れる。「無事だったのか、アスカ」「あの時助けてくれてありがとう」。子どもの頃に助けられた側と助けた側が、何年も経ってから同じ場所で鉢合わせている。
この作品は、キョウが一人になった話を何話もかけてやってきた。その底のところでアスカと再会していたと今さら知らされると、あの一連の話に一本補助線が引かれる感じがある。順番として、ここに置いたのはうまいと思った。
天馬家に起きていたこと
サポタマを作った祖父が、危険性を訴えて消えた
アスカの側の事情が語られる。「園長が行方不明」から始まり、祖父は「e-パルスの研究者としてサポタマの開発に関わっていた」、しかし「e-パルスの作用で現れるデジモンの力を目の当たりにして、サポタマの危険性を訴えるようになったらしい」と続く。
「開発から外された後も、園長をしながら反対運動をしてたみたいなんだが」、ある日いなくなった。さらに何度も捜索を訴えていた両親まで、国民保護省に連れて行かれた。のちに「国民保護省は、あいつにとっては両親を逮捕した連中だ。信用できると思うか」と念を押される。
作った本人が危ないと言い出したら消される、という筋書きである。前回、祖父が孫に「そんなものに頼りすぎちゃだめだぞ」と言い、発明者だと指摘されると「もう忘れた」とはぐらかしていた。あのとぼけ方の裏がこれだったと分かると、同じ場面の見え方がまるで変わってしまう。
「兄さんなんか嫌いだ」と、渡せなかった手紙
残された弟の話になる。「俺に残されたのは」に対して「トモロウだったか」「ああ、6年生になったんだ」「はねっかえりだけど、まっすぐでかわいいやつだよ」。兄が弟をどう見ていたかが、この一行で決まる。
聞いていた本人が口を挟む。「ちょっと待ってくれ」「小六の春」「兄さんが帰らなかった日」。その日、弟は「兄さんなんか嫌いだ」と言っていた。そして書かれた手紙が出てくる。「兄さんへ 嫌いだなんて言ってごめん 兄さんのハンバーグ、また食べたい」。
謝罪と、好きな料理の名前しか書いていない手紙である。小学六年生が書く文面としてこれ以上正しいものはないし、それが兄の手元に残っていたという事実だけで十分だった。言った本人が「まさか、俺のせいで」と青くなるところまで含めて、この回でいちばん見ていられない場面だと思う。
ヘリオスボアモンは、弟を守りたい気持ちから生まれた
「お前を守りたいというアスカの思いが、ヘリオスボアモンを産んだんだ」
当時のアスカの相談は「昨日から家に帰れてないんだ」「俺のサポタマからこいつが出てきちまってな」だった。出てきた相手は自分から名乗る。「私はヘリオスボアモン。初めまして、アスカの友人たちよ」。確認も入る。「じゃあヘリオスボアモンは」「ああ、確かにアスカのサポタマから生まれたデジモンだ」。
生まれた理由が、そのまま答え合わせになる。「お前を守りたいというアスカの思いが、ヘリオスボアモンを産んだんだ」。前回、キョウのパートナーが感情から生まれたことが明かされたばかりで、同じ生まれ方をした相手が二話続けて出てきたことになる。
この作品は、デジモンを与えられるものでも選ぶものでもなく、人の気持ちが形になったものとして描いてきた。今回はそれを敵側の中心に置いた。白い相手が怖いのは強いからではなく、元が誰かの善意だからだと思う。
守りたい相手を、その力が傷つけてしまう
再会したその夜に事件が起きる。「ヘリオスボアモンが突然飛び出したんだ」「お前まだリンクしたままなのか」。倒れていた子どもを助けた形になったが、そのあと力の制御が効かず、周囲からe-パルスを吸い上げてしまう。
襲った側の言い分も出てくる。「その子は金目のものなんて持ってなかったはずだ。なぜ襲った」に対して、「あいつのe-パルス、他と違う」「うまそうな匂い」「こいつが強くなりゃもっと稼げるんだよ」。トモロウのe-パルスが特別だという情報は、四年前の時点ですでに漏れていた。
守りたいという気持ちから生まれた力が、守りたい相手のe-パルスを吸ってしまう。設定として整いすぎているくらいで、この一点だけで今回の回想は成立していると思う。
キョウとカイトの因縁が始まった日
五行星時代、二人は倒した数を競っていた
回想の中に若いカイトが出てくる。「金の五行星か」「俺は烈火のカイト。五行星最強になる男だ」「だから、俺たちと勝負しろ」。結果は「俺たちの勝ちだな」で、カイトは「待て、まだだ」「次は絶対、俺がてめえを倒す」と食い下がる。
日常の会話も出てくる。「おい、キョウ。今月何体倒した」「13」「くそ、また負けかよ」「行くぞ、フレアモン」。倒した数を毎月数えて、負けたと言って帰る関係だった。この頃の二人は、殺し合いではなく順位争いをしている。
現在に戻って「まさかあの時のデジモンがシャングリラ計画の要だったとはな」「因果だな、キョウ」という会話が挟まる。四年前に見逃した相手が、いま世界を丸ごと変える計画の中心にいる。この作品はこういう繋げ方が本当にうまい。
「俺のことはここで殺してくれても構わない」
暴走を止めに来たキョウの前に、カイトが現れる。「俺の島でこすい真似してるバカがいるってんで来てみたが」「こんな雑魚よりよっぽど見逃せねえのがいるじゃねえか」。ムラサメモンと自分のデジモンをぶつけ合う流れになる。
ここでキョウが言う。「こいつを見逃してくれないか」「てめえ黄金のキョウだろ!」「五行星をやめる!」。そして「俺のことはここで殺してくれても構わない。でも、こいつだけは見逃してくれないか」と頭を下げた。返ってきたのは「てめえはもう燃やす価値もねえ」である。
追いかけていた背中が、自分から膝をついた瞬間だった。以降ずっとカイトがキョウにこだわり続けている理由が、これでようやく腑に落ちる。倒したい相手ではなく、もう一度立たせたい相手としてこだわってきたのだと思う。
「白きデジモン」まとめと考察
眠りについたのは、誰かに封じられたからではなかった
回想の締めくくりが、この回の副題の答えである。「私の力は皆に迷惑をかけてしまうようですね」「アスカ、私はあなたの弟を守りたいという温かい心に触れて、その温もりの源に、人間の感情に興味を持ちました」「ですが私がいると、あなたは彼を守ることができない」。
引き止めるアスカの「待ってくれ! 君はトモロウを助けてくれたじゃないか!」に対して、「優しき人、いつか私のようなデジモンでも、あなたたちと共にいられる日が来るまで、私は眠りにつきましょう」と答える。前回、四年前に姿を消したデジモンが自らを器に変えたと説明されていたが、その理由が本人の口から出たことになる。
封じられたのでも倒されたのでもなく、友人が弟を守れるようにするために自分で降りた。敵として出てきた白い相手の中身がこれだと知らされたあとでは、冒頭の「触れるな」がまるで違う意味に聞こえてくる。
次回、あの日の続きが始まる
聞き終わったトモロウの反応は「兄さんが何か隠してるのは分かってた」「全部、俺のためだったのか?」。キョウは「俺が知ってるのはここまでだ」「誰が何のために、ヘリオスボアモンの眠りを覚ましたのか、それは分からない」と線を引く。ゲッコーモンが「今度は俺っちたちがアスカを助ける番だってな!」と締めた。
そして最後にカイトが現れる。「この場所、懐かしいと思わないか?」「あの日の続きをしようじゃないか?」。四年前に「燃やす価値もねえ」と背を向けた場所へ、わざわざ同じ相手を呼び出している。
今回は敵の来歴を全部先に見せてから戦わせるという組み方だった。グローイングドーンにはデジモンをデリートしないという掟があるので、元が善意から生まれた相手だと分かった以上、倒して終わりにはできない。最後のピースが弟本人だという情報も出そろっていて、逃げ場のない条件が揃ってしまった。その状態で先に始まるのがキョウとカイトの決着というのが、順番として一番きついと思う。来週が怖い。




関連作品:














コメント