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第8話の公式サブタイトルは「マ夏の怪獣島へ飛べ!!」。元ネタは『ウルトラマン80』の前後編「魔の怪獣島へ飛べ!!」で、「魔の」が主役の名前に差し替えてある。内容のほうも、二股だと怒って乗り込んだ相手が実は同一人物というこの作品らしい一本だ。そして振られたと思っている人が、振った本人に「生まれてきてくれてありがとう」と言う。




第8話「マ夏の怪獣島へ飛べ!!」で起きたこと(要点だけ)
公式サブタイトルは第8話「マ夏の怪獣島へ飛べ!!」(※1)。友里真夏がまるまる一本の主役を務める回で、その裏で南新汰のほうも大きく動く。まず起きたことだけ並べておく。
- 真夏が新汰のマンションの前で待ち伏せし、「クロエさんという方がおりながら、二股するおつもりですか」と詰め寄る
- 新汰は否定し、「俺が好きなのはクロエだけだよ」と言い切る。真夏はそれを動画で撮って保存する
- 真夏は「私、ハルゴンに好きって、まだ一度も伝えてない」と気づき、「今度は私がハルゴンを迎えに行きますわ」と決める
- 週末、真夏は黒絵と来夢を貸し切りのビーチへ招く。ただし来夢は女子会要員ではなく、メイク担当として呼ばれている
- 行き先は怪獣の伝承で有名な島。洞窟に怪獣らしき壁画があり、島の住民は全員食べられたと伝わっている
- 真夏はハルゴンの姿にメイクしてもらい、黒絵に「ハルゴンの巫女」としての呼びかけを頼む
- 黒絵は「ハルゴン、今寝てるっぽいし」と断ろうとする
- 真夏は「もしハルゴンにお会いできなければ、彼のことは諦めようと思っています」と告げる
- 崖へ向かう途中で足を滑らせ、真夏が足を痛めて動けなくなる
- 助けを待つあいだ、真夏は自分がなぜハルゴンを好きになったのかを話す
- そして真夏は、撮っておいた新汰の告白動画を黒絵に見せる
- 新汰はテレビ出演を断りに行くが、プロデューサーの話を聞く側に回る
- ニュース速報が、小笠原諸島近海に巨大生物が出現したと伝える
- 生放送で新汰は「あの子」と言ってしまい、ハルゴンが女の子なのかと突っ込まれる。そして「俺が守るよ、ハルゴン」
サブタイトルは、ウルトラマン80のもじり
「マ夏の怪獣島へ飛べ!!」という字面が読みにくいのには理由がある。元ネタは『ウルトラマン80』第17話・第18話「魔の怪獣島へ飛べ!!」(前編・後編)だ(※2)。1980年7月に放送された前後編で、その「魔の」を、主役の名前である「マ夏」に差し替えてある。怪獣ものの定型に、恋する女子高生の名前をねじ込んだ形だ。
この作品のサブタイトルは第1話「乙女怪獣東京に現る」から始まって、第4話「恐怖の怪獣フェス」、第5話「ギャルと口紅」と、怪獣映画の定型と学園ものの語彙を交互に出してくる(※1)。第8話は、その振れ幅がいちばん大きい回のタイトルということになる。しかも元ネタが前後編なので、島の話がこの一本で終わらない気配まで字面に入っている。
二股だと怒っている相手が、本人だった
いちばん近くにいる人が、いちばん気づいていない
冒頭、真夏はマンションのエントランスで新汰を待ち構えている。「ここ数日、ずーっと伺っておりましたのよ。あなたとお話する機会を」から始まって、「あなた、クロエさんという方がおりながら、二股するおつもりですか!」。怒っている理由は二つあって、クロエの友人としての義憤と、ハルゴンのファンとしての嫉妬が同時に入っている。
視聴者だけが知っているとおり、これは二股ではない。クロエとハルゴンは同じ人だ。つまり真夏は、同じ相手を二方向から取り合っていると思い込んで一人で怒っている。新汰の弁明が「あれかな、仲間だと思われてるのかも」「さっきも一緒に花火見ただけだし」「フェスの夜も」と、第4話と第7話をなぞる形になっているのも効いている。
撮った動画が、そのまま伏線になる
押し切られた新汰が出す答えが「そんなんじゃないから! 俺、全くその気はないし」「それに、俺が好きなのは赤石さんだけだから」、そして念を押されて「俺が好きなのは、クロエだけだよ」。
そこで真夏がスマホを構えている。「何撮ってんの?」に対する返しが「動画は保存させていただきますわ。クロエさんのためにも」だ。自分の失恋の場面を撮っているのではなく、友人に届けるための証拠として撮っている。この動画が終盤で効いてくるので、冒頭のいちばん賑やかな場面が、そのまま一番静かな場面の仕込みになっている。
貸し切りビーチは女子会ではなく、メイクの招集だった
来夢が呼ばれた理由は「らいりー」のほう
週末の舞台は貸し切りのビーチだ。「マナツってガチセレブじゃん!」「こんなビーチ貸し切れるとか最高すぎ!」と来夢がはしゃぎ、真夏は「たまにはちょっと贅沢な女子会もいいかと思いまして」と答える。ところがこれは本題ではない。
島に着いてから明かされる用件が「大切な日なのでメイクにも力を入れたくて、らいりーさんにもお越しいただきました!」だ。公式のあらすじが第5話で「ギャルのインフルエンサー・らいりーこと来夢」と紹介していたとおり(※1)、彼女はメイクの人として呼ばれている。本人の弁も「急にハルゴンになりたいとか言い出すからビビったわ」で、真夏はハルゴンのコスプレをしてハルゴンに会いに来た。
島の伝承のほうは、笑って流せない
島に着いた黒絵の第一声が「妙に迫力ある島だな。怪獣でも出てきそうだ」。真夏の説明はこうだ。「この島は怪獣の伝承で有名な島なんですの。洞窟に怪獣らしき絵が描かれている壁画が見つかったとか」「島の住民は、みんなこの怪獣に食べられてしまったそうですわ」。そのうえで「ハルゴンに似てませんか? このシュッとした感じ!」と続ける。
恋する側にとっては推しの祖先の話でも、怪獣になってしまう体質を抱えている側にとっては、自分がどうなるかの前例の話だ。この回の壁画と卵の殻は、そのまま黒絵の出自の話として置かれている。公式サイトによれば次回は母の凛子がある島を訪れる回になるらしいので(※1)、ここは拾われる前提の伏線だと思っていい。
「私はハルゴンの魅力がよくわからないんだ」
自分の姿を、自分でいちばん否定している
崖へ向かう途中で足を滑らせ、真夏が足を痛めて動けなくなる。「痛い」「やっぱ痛むのか」「心が痛いですわ」「こんな時にもハルゴンは来てくださらないのね」。呼んでも来ない理由を、隣にいる本人だけが知っている。
そこで黒絵が返す言葉が、この回でいちばん重い。「真夏さんを否定するわけではないが」と前置きしてから、「私はハルゴンの魅力がよくわからないんだ」「やっぱり怖いしさ」「もし自分があんな姿になったら、まともに恋愛なんてできないし、きっとしんどいと思う」。
いちばんの理解者に、いちばん言いにくいことを言っている
これは他人の趣味への感想ではなく、自分の体についての自己評価をそのまま言っている。しかも相手は、その姿を世界でいちばん肯定している人物だ。第1話の「こんな私を受け入れてくれるわけない」から、新汰に受け入れられ、母に受け入れられ、それでも本人の中では何も片付いていないことが、この一言で分かる。
真夏の返しが「恋愛をする方もいらっしゃいますのね」で、そこから自分の身の上話に入っていく。否定されたことに反論するのではなく、自分がなぜそう思わないのかを説明する側に回る。この受け方が、この人の育ちの良さだと思う。
「生まれてきてくれてありがとう」と言える人の理屈
予定調和の世界に、咆哮が穴を開けた
真夏の話は、恋の話ではなく世界の見え方の話として語られる。「裕福な両親のもとで何不自由なく育てられた私は、同年代の方々との会話もあまりピンとこず、世の中のことがすべて予定調和に思えて、現実よりも虚構の世界に魅力を感じていました」。
そこに来るのが「ハルゴンの咆哮を聞いた夜、私の世界は一変しましたの」、そして「今は何を見ても、100メートル級の可能性を秘めているように思える」。怪獣が好きだという話ではない。この人にとってハルゴンは、予定調和で塗り固められた現実に空いた最初の穴だ。コスプレも待ち伏せも告白も、全部そこから出ている。
振られたことを、誇りだと言い直す
そして締めがこうなる。「もしもハルゴン自身が自分の運命を呪っていたとしても、世界中があの方の敵になっても、私は叫びますわ。生まれてきてくれてありがとう」。続けて「振られちゃいましたけど、この恋は私の誇りです」。
直前に「もし自分があんな姿になったら、きっとしんどいと思う」と言った相手に向かって、「自分の運命を呪っていたとしても」という仮定つきで返している。真夏は誰に向けて言っているのか分かっていないのに、文面としては完全に届いている。この作品がずっとやってきた「受け入れてもらえるわけがない」への返答が、恋敵の口から出てくるというのは、なかなかできない配置だ。
そのうえで真夏は「クロエさんと出会えたのもハルゴンのおかげですわね」と言い、撮っておいた動画を黒絵に見せる。画面から流れるのは「俺が好きなのはクロエだけだよ」。ハルゴンに振られたと思っている人が、ハルゴン本人に、あなたは愛されているという証拠を届けている。
まとめ|同じ人が、この回で二度カメラに告白している
断りに行ったはずが、聞く側に回る
新汰のほうの筋も一段進む。テレビのプロデューサーに会いに行った目的は「あの、俺はっきり断ろうと思って来たんです。テレビとかはちょっと」だった。ところが相手の説明が的確すぎる。「日本中があなたの情報を求めて躍起になって。彼女とろくにデートもできないでしょ」「隠れるほど世間は追い回しますよ」「例の写真についてあなた自身がきちんと語った方が、事態の収拾は早い」「元の生活に戻るにはそれしかないですよ」。
第7話で新汰が出した結論は「騒ぎが落ち着くまで少し距離を置いたほうがいいかも」「きっと一週間くらいでみんな飽きるよ」だった。その見通しが外れたところに、隠れるのをやめて自分から出ろ、という提案が来る。返事が「もう少し詳しく聞かせてもらってもいいですか」で、断りに来た人が話を聞く側に回る。この一言だけで場面が切り替わるのがうまい。
私的な録画と、全国放送
結果として新汰は生放送に出る。「怪獣となんでキスしたの?」と訊かれて出るのが「えっと、あの子は」。すかさず「あの子? ハルゴン、女の子なの?」と拾われ、「いや、なんとなくですけど」と濁す。隠しに来たはずの人が、いちばん出してはいけない情報を最初の一問で出している。
そして「このままじゃ倒されちゃうかもよ」と振られ、「カメラさんに言ってみて」と促されて出るのが「俺が守るよ、ハルゴン」。この回の締めだ。
並べてみるとよく分かる。冒頭で新汰は真夏のスマホに向かって「俺が好きなのはクロエだけだよ」と言い、最後は全国放送のカメラに向かって「俺が守るよ、ハルゴン」と言っている。相手は同じ一人で、本人はそれを知らないまま二度告白したことになる。しかも前半の一本は、怒って乗り込んできた恋敵の手で本人のところまで運ばれている。怪獣も戦闘も出てこない回なのに、この作品でいちばん怪獣らしいことをしているのは真夏だという結論になった。
出典
※1 TVアニメ「乙女怪獣キャラメリゼ」公式サイト ストーリー(第8話「マ夏の怪獣島へ飛べ!!」ほか各話あらすじ)otomekaiju.com
※2 『ウルトラマン80』第17話・第18話「魔の怪獣島へ飛べ!!」(前編・後編/1980年7月放送)ja.wikipedia.org




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