第20話は、この作品がずっと積み上げてきた「時間」を、はじめて通貨として使う回である。仲間をヘルモードにしてほしいという願いは通らない。そこでアレンが差し出したのは、これまで費やした経験値そのものだった。公式のキャラクター紹介がそのまま主人公の第一声になっている件も含めて、順番に見ていく。




公式のキャラクター紹介が、そのまま主人公の第一声になっている
「モモンガ?」
ようやく対面がかなった精霊王ローゼンを見て、アレンが心の中で漏らす第一声が「モモンガ?」である。当人は「モモンガとは何だ?」と返し、そばのエルフは「あの子が神様?」と面食らっている。
面白いのは、この第一声が公式のキャラクター紹介の言葉そのままだということだ。放送前に公開されたローゼンの紹介文はこう始まる。「エルフの国・ローゼンヘイムを守護する精霊王。モモンガのような見た目をしており、普段は祭壇で眠っている」(※2)。見た目の説明を、主人公が代わりに言ってくれる作りになっている。
「予言する」と書かれた当人が、予言を否定する
同じ紹介文の続きも効いている。ローゼンは「エルフたちにアレンが世界の救世主であることを予言する」人物として紹介されている(※2)。ところが本編でその話になると、「アレン様は創造神エルメア様に、救世主として見いだされたのですね」という仲間の確信に対し、アレンは「いや、特に何も言われてないぞ。この世界を楽しめってこと以外は」と即座に否定する。
周りが勝手に神話にしていくのを、本人だけが淡々と訂正する。この構図は第1期から変わっていない。公式紹介が「予言」と書いている当のことを、当人が受け取っていないのが、この作品の主人公の立ち位置をよく表している。
願いは通らない。だから、その場で条件を作り直す
公式あらすじが予告していたのは、ここまで
第20話の公式あらすじは「アレンはローゼンに『廃ゲーマー』全員を『ヘルモード』にしてくれるように頼んで……」で終わっている(※1)。作品のタイトルが、はじめて仲間全員にかかるという予告だ。
アレンの言い分ははっきりしている。「私の仲間は成長の上限に達してしまいました。さらなる成長のために、上限のないヘルモードに変えていただきたいのです」。ヘルモードとは「神の試練の難易度を100倍にする」ことわりで、その代わりに成長に上限がなくなる。
「モードは絶対変えられない」
ところが答えは即座の却下だった。創造神に確認したうえで「モードは絶対変えられないってさ」。10倍のエクストラモードでもだめかと食い下がると、「使いの僕じゃ聞いてもらえないよ」と返ってくる。神の世界にも立場の上下があるらしい。
ここで引き下がらないのがこの主人公である。「では、私の仲間を上位職に転職させてくれませんか? 例えば、剣士を剣聖にする感じです」。モードが動かせないなら、職業のほうを動かす。願いの形を変えて、同じ目的にたどり着こうとしている。
差し出したのは、時間だった
「寿命をもらうとか、そんな話だよ」
精霊王が提示した条件がいい。国を救うといった働きでは足りない、「例えば寿命をもらうとか、そんな話だよ」。それに対してアレンが出した逆提案がこれである。「成長の上限に到達するまでの経験値すべてを、引き換えにするというのは?」。
精霊王も「えっ、いいの?」と驚き、「全て失って、レベル1になるけど?」と念を押す。アレンの答えは「つまりはこれまで費やした時間や労力をよこせってことだろ? それで上級職になれるなら問題ありません」だった。
廃ゲーマーがいちばん高く売れるものは、時間
ここがこの回のいちばん重いところだと思う。この作品は第1話からずっと、効率よく時間を積むことだけで強くなってきた物語だ。だからこの主人公にとって、いちばん価値のある資産は装備でも金でもなく、これまで積んだ時間そのものである。
寿命を要求されて即座に経験値へ言い換えたのは、値切ったのではなく同じものを別の単位で払っているのだ。レベル1に戻ると聞いて「問題ありません」と言えるのは、また積めばいいと本気で思っているからで、この一言だけで七話ぶんの説明が済んでしまう。
神の手違いで星が八個になっていた、という暴露
「うっかり8個にしてしまったんだってさ」
交渉の途中で、とんでもない裏話が挟まる。精霊王いわく、創造神は「君が魔王になろうとしたから、慌てて上位の召喚士を作ったと言ってたよ。星6個にするつもりが、うっかり8個にしてしまったんだってさ」。
アレンの受け止めは「召喚士が星8個だったのは、神の操作ミスだったのか。ラッキー」。シリーズを通しての大前提だった数字が、神の入力ミスとして片づけられる。しかもそれを主人公が一秒で得と解釈するので、悲壮感がまったく出ない。
「ちなみに僕は人の心が読めるよ」
精霊王はこの場面で二度、心が読めると告げている。一度目は不平を思い浮かべたアレンに、二度目は「ですがこれだと、私自身は何も手に入りませんね」という内心に対して「だから心が読めるって」と。
読まれていると分かっている相手に対して、それでも要求を重ねていく。条件は「職業を1ランク上げるだけ」「星は4つまで」「ここにいないメンバーは無理」と絞られるのだが、アレンは後から「転職が1回までって誰が言った? レベルを上げ切ったら、また1つ職を上げてもらうぞ。星4つまでな」と言い出す。仲間から「こいつ、精霊王様を出し抜きやがった」と呆れられるとおりで、言質の穴を後から突くところまで含めてこの回の交渉である。視聴者からも「成長の限界突破の言質確保しましたね」という声が出ていた。
自分の取り分は、妹に振り替える
交渉の締めがまたいい。自分だけ何も得られないと分かったとき、精霊王が出した代案は「君の妹だっけ? 星1個の才能を与えるではどうかな?」。アレンは「ありがとうございます。妹も喜びます」と即答する。
視聴者の反応でも「アレンは自分の代わりに妹のジョブを上げる選択にぐっときた」と書かれていた。あれだけ細かく損得を計算する人物が、自分の枠だけは他人に回す。アレンを演じる田村睦心も公式のコメントで「めっちゃ効率厨というところ以外はどこにでもいそうな」人物だと言っているが(※3)、その「以外」の部分がいちばん濃く出るのがこういう場面である。
隠していた理由は、強さではなく身分だった
「黙ってなきゃいけない理由なんて、とっくになかった」
寝てしまったアレンを問い詰める形で、転生の告白が始まる。独白がこうだ。「身分の低い農奴として、俺はこの異世界にやってきた。平民にも劣る立場で、転生したなんて言おうものなら、忌み嫌われて理不尽な目に遭うかもしれない。だから、親にも黙ってた」。
そして続く一行が効く。「でも、今はどうだろう? 黙ってなきゃいけない理由なんて、とっくになかったんだ」。つまり秘密を守っていた理由は、強さでも神の指示でもなく、身分だった。強くなったから明かせるようになったのではなく、身分という理由のほうが先に消えていたことに、本人が今さら気づくという順番になっている。
35+14=49
打ち明けたあとの空気がまた、この作品らしい。前世では何歳だったのかと聞かれて「35歳」と答えると、父より年上だと驚かれ、ドゴラには「お前、オッサンじゃ!」と言われる。それに対して「アレン様は私と同じ49歳なのですね」と、まったく動じずに足し算で受け止める仲間もいる。
視聴者からも「35+14=49と考える発想に笑っちゃったね」「みんなが『アレンはアレン』だと思っているからこそ受け入れてもらえる感じも良い」という反応が出ていた。重い告白のあとに、年齢の計算と「オッサン」の一言で終わらせる。掘り下げずに受け入れるほうが、この関係にはふさわしい。
「両親にも話してない。誰にも話さないでくれ」
締めの一言も見逃せない。「前世の話をしたのは、みんなが仲間だからだ。両親にも話してない。誰にも話さないでくれ」。家族にすら言っていないことを先に仲間へ渡す、という順番をわざわざ口に出している。直後には「アレンが魔王を選ばなくてよかったぜ」という軽口も飛ぶ。
勝った日のナレーションが、味方の犠牲を数える
四つの町の勝利と、三千名
後半はティアモ攻防戦になる。アリの姿をした召喚獣が、自分の半分の能力を持つ分身を100体生み、戦場を数で埋めていく。一体で三十日後には三千体の軍隊が作れるという説明まで付く。視聴者が「くっそトンチキな蟻酸描写」と笑っていたのもこのあたりだ。
ところが勝利のナレーションはこうである。「この日、四つの町は防衛戦に勝利。その裏で、エルフ軍の三千名ほどが犠牲となった」。倒した数も救った数も数字で押してくる作品が、勝った日の締めにも味方の死者を数字で置く。この律儀さが、数字だけの物語に見せない歯止めになっている。
「助けられるのは、よくてたった一人だけ」
同じ場面で、キールが自分のスキルについて漏らす言葉がある。すごいスキルだと言われても、「でも、助けられるのはよくてたった一人だけ」。返ってきたのは「十分すぎるよ、キール」だった。
三千名という数字のすぐ隣に、一人しか助けられないという台詞が置かれている。この配置は偶然ではないだろう。数で押す物語のなかで、数えられない側を担当しているのがこの仲間だ、という紹介にもなっている。
勝ちすぎたせいで、百万が向かってくる
魔王軍が四つの町から全軍を引く
戦果報告のあと、様子がおかしくなる。「どうも魔王軍は4つの町から、全軍を北へ撤退させるようです」。まだ相手に優位な状況なのに、である。アレンは追撃を申し出て、目標は残り250万の殲滅だと言い切る。三万ずつ削っていけば100日で片づく、という計算まで立てている。
理由は「勝ちすぎたこと」だった
ところが北上した先で分かるのは、まったく逆の答えだった。四つの町から引いた軍と北からの増援が合流し、100万の軍勢がティアモへ向かっている。到着はおよそ二日後。理由も明快で、「ここ数日の戦いで、女王陛下がいると判断したのでしょう」。
アレンの一言が「ちと派手にやりすぎたか」。数字で押し切ってきた主人公が、押し切ったことそのものを手がかりにされて、百万を呼び寄せてしまった。効率のよさが初めて裏目に出る引きで、ここまで積み上げた「数える物語」への、いちばん気の利いた反撃だと思う。
次回への予想と、シリーズの位置
ここからは予想になるが、次回はティアモでの籠城戦になるはずだ。要塞が不可欠だと考えていた相手を、要塞のない町で迎え撃つしかない、というところで今回は終わっている。そして今回手に入れた上位職への転職は、レベル1に戻ることと引き換えだった。百万が二日後に来るという状況で、仲間全員が一度レベル1に戻れるのか。この二つの予定が正面からぶつかっているのが、次回への最大の緊張だと思う。なお公式サイトの物語ページは第20話までしか公開されておらず、次回の副題はまだ出ていない。
シリーズの位置も置いておく。視聴者の一人が「20話近くまで自身たちの鍛錬のみで主敵との対決がないというのがヘルモードの凄いところ」と書いていたが、これは的確だ。その鍛錬そのものを神と交渉して作り直すのが今回で、つまりこの作品はいまだに「強くなる方法」の話をしている。原作はハム男(アース・スターノベル)、監督は玉川真人、シリーズ構成は谷村大四郎、アニメーション制作は横浜アニメーションラボ(※3)。なお公式の召喚獣ページは八系統とランクだけで名前を一つも書いていない(※4)ので、劇中で呼ばれている召喚獣のあだ名は本編でしか確かめられない。この記事で名前を出していないのはそのためである。
出典
※1 TVアニメ『ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 2nd Season』公式サイト STORY(第20話「ティアモ攻防戦」あらすじ)公式 STORY
※2 同 NEWS「ローゼンヘイム編から登場する新キャラクター&キャスト情報」第1弾(精霊王ローゼンの紹介文とキャスト)公式 NEWS
※3 同 STAFF&CAST(原作・監督・シリーズ構成・アニメーション制作/キャストコメント)公式 STAFF&CAST
※4 同 召喚獣ページ(八系統×ランクの一覧・特技の仕様)公式 召喚獣


























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