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公式副題は第8話「城下町の生活&黒猫と冒険王子」。「&」で二本を並べた題はこの回が初めてで、前半は街猫ハイブチの人間観察、後半は王子スタンの薬草採集講習になっている。別々の話に見えるが、前半の締めは「彼らはどんな成長を遂げるだろう」、後半の締めは「どんな人物に成長するのか楽しみだ」。二本とも、猫が人間を値踏みして、その先を楽しみにする形で閉じている。しかも副題のほうは、第4話「黒猫と王子」が四話あけて戻ってきて、人間の側にだけ言葉が足されている。




三組の駆け出しを、猫のほうが横から見ている
公式副題は第8話「城下町の生活&黒猫と冒険王子」
公式サイトに載っている副題は第8話「城下町の生活&黒猫と冒険王子」(※1)。ここまでの七本はどれも一つの題で三十分を通していたので、「&」で二本を並べたのはこの回が初めてになる。公式あらすじも二段構えで、前半が「城下町の大鐘楼を寝床とする街猫・ハイブチは、今日も街で起こる出来事を見ている。時には彼自身も頼まれ事をしたりして街での暮らしにすっかり馴染んでいる」、後半が「一人前の冒険者を目指す王子・スタンは、基本を学ぶため駆け出し冒険者の通過儀礼である『薬草採集』の依頼を受ける」だ(※1)。
街の話と、森の話。舞台も主役も違う。ところが見終わってみると、二本はまったく同じ形で閉じている。
街の話も冒険の話も、「成長が楽しみだ」で終わっている
前半の締めで、ハイブチはこう言う。「駆け出し新聞記者に駆け出し冒険者たち。彼らはどんな成長を遂げるだろう」。この一日で彼が眺めていたのは、初仕事の新聞記者と、講習へ向かう駆け出しの四人組だった。
そして後半の締め。薬草採集を終えたあと、クロバネを撫でながらこんな言葉が出る。「ケットシーに選ばれた人間を何人か見たことがあるけど、彼はひときわユニークな子だね。どんな人物に成長するのか楽しみだ」。相手はスタン、こちらも駆け出しの冒険者である。
前半が二組の駆け出しを見送り、後半がもう一組を見届ける。二本立ては別々の話を二つ並べたのではなく、同じ視線の例を二つ置いている。しかも見ている側はどちらも猫で、見られている側はどちらも人間だ。公式のイントロダクションは本作を「猫に育てられた竜と猫たち、そして人間たちが織りなす物語」と書いているが(※3)、この回は人間たちの側を、猫の目で採点する回になっている。
副題が四話あけて戻ってきて、足された言葉は人間の側だけだった
「黒猫と王子」から「黒猫と冒険王子」へ
公式サイトに並ぶ副題を第1話から見ていく(※1)。猫と竜/母猫と少女/子猫達と羽のおじちゃん/黒猫と王子/白猫と少女/猫じゃらしの夜/母猫の帰還/城下町の生活&黒猫と冒険王子。
後半の題に見覚えがある。第4話が「黒猫と王子」だった。クロバネとスタンが出会い、スタンが城を飛び出して冒険者を名乗るまでの回である。四話あけて同じ組み合わせが戻ってきて、変わったのは「冒険」の二文字だけだ。
そしてその二文字は、猫の側ではなく人間の側に足されている。黒猫は黒猫のまま、王子が冒険王子になった。第4話のスタンは冒険者に憧れる王子で、第8話のスタンは講習を受け、依頼を受け、魔物に襲われても採集をやり切る。副題の一語が、四話ぶんの変化を測る目盛りになっている。
次回も、まったく同じことが起きる
これが偶然でないことは、公式サイトの次回ページで確かめられる。第9話は「白猫とぐうたら少女」(※2)。そして第5話が「白猫と少女」だった。白猫シロタエと、孤児院育ちのガリーの回である。
ここでも猫の側は据え置きで、人間の側にだけ「ぐうたら」が足されている。第9話の公式あらすじは「孤児院のぐうたら少女・ガリーの魔法の素質を見抜き、一流の魔法使いに育てようと奮闘する白猫のシロタエ」と始まる(※2)。四話あけて同じ二匹(二人)に戻り、人間の側の呼び名だけを更新する——同じ手を、二組続けて使っている。
九本のうち「城下町の生活」だけが、誰も名指ししていない
もう一つ気づくことがある。第9話まで並べたとき、副題に生き物の名前が一つも入っていないのは「城下町の生活」だけだ。ほかはすべて、猫か、人か、猫じゃらしか、母猫の帰還かで、必ず誰かを名指ししている。
そして名指ししていないその半分が、「普通の猫」として名乗らずに暮らす猫の話だった。題の付け方と、中身の作り方がそろっている。
街猫は「普通の猫」のふりをして暮らしている
名乗らないことが、観察の条件になっている
前半のナレーションは全部ハイブチの一人称で流れる。冒頭がこうだ。「森の猫は何かに長けた心根の優しい面白い人間が好きだ」。そんな人間の多くは王城にいるので森の猫も王城住まいが多い、と続けたうえで、「どこの世界にも変わり者というのはいるもので」と自分の話に移る。彼の寝床は王城ではなく、街を見下ろす大鐘楼である。
街での過ごし方も本人が説明する。「私はこの街では普通の猫として暮らしているのだ。その方が人間は普通通りの姿を見せてくれるからである」。森の猫は魔法を使い、人間の言葉も話す。街の普通の猫はどちらもしない。その差を隠すことが、観察の条件になっている。
だから飯屋の女房がこの辺では珍しいエルフだと分かると、森の猫だと見抜かれかねないと言ってさっさと退散する。猫らしいのんびりした画面のわりに、観察者としてのふるまいが最初から徹底している。
スパイだと思って尾行したら、初仕事の新聞記者だった
その観察がいつも当たるわけではないのが面白い。地味で目立たない服、辺りを見回す鋭い視線、指のペンだこ、何度も貼り替えた靴底。ハイブチはそこから「もしかしてスパイとかいうやつなのではないか」と踏み込み、「よし、今日はこの人間を尾行だ」と後をつけていく。
行き先は鍛冶職人や家具職人が軒を連ねる職人通り。最新の武器でも入手しに来たのかと身構えたところで、相手が名乗る。新聞社の者で、今評判の椅子について記事にしたい。しかも兄たちに「お前は好きなことをしろ」と言われて始めた初仕事だという。
ハイブチの感想は「スパイではなかったか、ちょっと残念」。それでいて「しかしずいぶん町の生活に密着した記事を書くのだな。彼の書く記事を読むのが楽しみだぞ」と切り替える。読みが外れたことより、次に読めるもののほうを取る。この一言があるから、締めの「どんな成長を遂げるだろう」が唐突に聞こえない。
狩りにも、街の作法がある
頼まれ事として引き受けるのが倉庫のネズミ退治だ。人間の貯蔵庫は隙間もなく作られているはずなのに、いつの間にか入り込まれてしまう、というのが依頼の理由で、ハイブチのほうも「まあ、少し食べ過ぎてしまったかな」とお腹を重くして出てくる。
効いているのはそのあとの一言である。「ゴミはゴミ捨て場に。ネズミの血や食い残しで倉庫を汚すわけにはいかない。その辺をきちんと配慮して狩りをするのだ、町に住む森の猫はね」。
狩りの腕ではなく、狩ったあとの始末を語る。「城下町の生活」という題が指しているのはここだと思う。街で暮らすというのは、人間の都合を覚えることだ。倉庫番のほうも「ネズミはいくらでも出てくるからね」と次を約束していて、一度きりの手伝いではなく続いていく関係になっている。
看板猫の一日が、街の話の枠になっている
公式が言う「ギルドの看板猫」の中身が、ここで画面に出た
街の場面でもう一匹、名前を呼ばれる猫がいる。ミケミケだ。ハイブチの紹介は「森に住む猫で、ギルドの受付所の友人」。声をかけると「今日も冒険者たちのお目付け役かい?」と返され、世話焼きで心配性な友人に頼み込まれた、とぼやきながら出発していく。
公式サイトのキャストコメントで、演じる白砂沙帆は彼女を「ギルドの看板猫さんです」と紹介している(※3)。その肩書きの中身が、この回で初めて画面に出たことになる。ナレーションの説明も具体的だ。彼女はいつも受付所のお願いを聞いて冒険者たちをそっと見守り、問題があれば助けている。
公式サイトの書籍情報には、スピンオフコミック『猫と竜 ミケミケのねこねこギルド』が並んでいる(※3)。自分の名前で一冊持っている猫が、本編ではまず「受付所の友人」として、仕事の場面から紹介される。順番が地味で、この作品らしい。
送り出した四人組が、及第点をもらって戻ってくる
冒頭でハイブチは、普段持ち歩かない武器と、てんでばらばらの服装から駆け出しの冒険者たちを見分け、しょしんしゃの森へ行くのだろうと当たりをつけていた。その四人組をミケミケが引き受けて出ていく。
そして一日の終わり。「おや、教育係の彼女は戻ってきたのか」「じゃあ彼らも?」と気づき、「まるで初めて狩りに成功した子猫のような顔だ」と眺める。結びはこうだ。「どうやらあの駆け出し冒険者たちは、人を見る目の厳しい彼女から及第点をもらったようだ」。
送り出す場面と、帰ってくる場面で、街の話が挟まれている。ハイブチが気ままに街を歩き回るだけの回に見えて、実際にはミケミケの一日が枠になっていた。しかもここでも点をつけているのは猫の側である。
薬草採集が通過儀礼である理由を、講習が理屈で説明した
薬草は、魔獣のいるところにしか生えない
後半は王子スタンの側へ移る。朝食は堅焼きパンに油紙で包まれたチーズ、木片のような固い干し肉で、クロバネは「王族出身の口には合わないだろうに」と横目で見ているが、本人は「今日も冒険者らしい朝食を堪能した」と満足している。そこから「冒険といえば薬草採集」へ話が向かう。
意外なことに、この街の薬草採集には講習がある。「まさか薬草採集に講習があるとは」「普通はないのだな」「聞いたことがないな」というやりとりが入るので、この街だけの仕組みだと分かる。
講習の一つ目が、薬草の生えかたである。薬草に共通するのは、魔獣の糞や亡骸のそばに生えるということ。つまり薬草は、魔獣がいるところでしか取れない。だから冒険者が金をもらって取りに行く。駆け出しの雑用に見える依頼が、なぜ冒険者の仕事なのかに、講習の最初の一分で答えが出ている。
傷薬の効きは、採り方で決まる
二つ目は実演だ。受講生の一人に軽く傷をつけて、どこの街でも手に入るお馴染みの傷薬を使わせる。血は止まり、一昼夜もすればこのくらいは綺麗に治る、という程度。次にこの街で作られた薬を使わせると、効きがはっきり違う。
種明かしはこうだ。「傷薬の効果は質に左右されるんだ。使っている薬草の品種も製法もほとんど同じ。違うのは薬草の質と調剤師の腕だ」。そして薬草の質を決めるのは採る側で、「正しい採取をした薬草が多いほど、この街の調剤師もいい仕事ができる」と続く。
通過儀礼だから薬草を採るのではない。街の傷薬の効きが駆け出しの手つきに乗っているから採らせるのだ。「いろいろ言ったけど、とにかく丁重に扱いさえすれば大丈夫だよ」という締めまで含めて、講習が最後まで実務の話で通っているのがいい。
採る側と作る側が、同じ家にいる
この講習には仕掛けがもう一つある。教官が「うちの奥さんもね」と切り出して、調剤師である妻を紹介するのだ。ところが紹介される直前には、「戦士だと思っていたぞ」という驚きの声が出ている。
種明かしは「彼女は冒険者でもあるからね。すごく強いんだよ」。採る側と作る側が、一つの家に同居している。受け取り方も素直で、スタンはこう続けた。「夫婦なのもびっくりだが、見た目で判断してはいけないな師匠殿」。
講習で語った理屈を、教官が自分の家庭で体現している。薬草採集がこの街の仕事としてどう回っているかを、これ以上短く見せる方法はないと思う。
初めての空の敵を、師匠の一族の魔法で落とした
イワワリオオワシは、初心者が倒せる相手ではない
採集の最中に現れるのがイワワリオオワシである(※1)。クロバネの見立てが具体的だ。強靭な足で殴り殺す。すぐ空へ逃げる。隙を突いて何度も戻ってくる。そして「初心者が倒せる相手ではない」。
段取りもその場で立つ。自分と王子で鷲を引きつけ、その隙に近くの受講生へ呼びかけて、教官役の二人へ連絡を回す。講習の前に、もしもの時に手を貸してほしいと頼まれていた役目を、頼まれたその日のうちに果たすことになった。
電撃は、森の猫が代々得意にしてきた魔法
王子が選んだのは電撃の魔法だった。飛ぶ相手に当てて、そのまま落とす。クロバネの評はこうだ。飛ぶ魔獣を相手にしたのは初めてで、電撃を選んだのは正しく、しかもいきなり成功させた。やってやろうという踏み込みと、それを成功させる技術の両方があると認めている。
この魔法には出どころがある。電気の魔法は、森に住む多くの猫が先祖代々得意にしてきたもので、第3話では猫竜が子猫たちに手ずから教えていた。そして第4話でスタンに魔法と戦い方を教えたのがクロバネである。師匠の一族が代々使ってきた魔法で、弟子が初めての空の敵を落としたことになる。
派手さのない見せ場なのに手応えが残るのは、当てたことより先に、何を選んだかが褒められているからだ。第5話でシロタエがガリーに魔法を仕込んだのと同じで、この作品は、猫が見込んだ人間に魔法を渡す話を繰り返し描いている。
襲われた直後に、採集へ戻る
面白いのはこのあとだ。鷲を退けた王子は「悪いんだけど、ここにいてくれないかな」と言い出す。行き先は薬草である。「魔獣の一匹や二匹に襲われたからといって、遅れを取るようでは英雄たりえんだろう」「やはりここは、今日一番の収穫を挙げるんだよ」。
講習で出された課題は真昼までに一人一株だった。魔物の襲撃という事件が起きても、彼は依頼のほうを取りこぼさない。困難であればあるほど成し遂げたときに英雄へ近づく、というのが道中ずっと口にしていた理屈で、その理屈のまま、事件を課題の一部として処理してしまった。副題に足された「冒険」の二文字は、たぶんここに掛かっている。
まとめ——変わり者の猫が、人間の駆け出しを見ていた
変わり者に一話を渡すのが、この作品のやり方
冒頭の「どこの世界にも変わり者というのはいるもので」は聞き流しやすいが、よく聞くと自己申告である。王城へ行かず街を選んだ猫、というのがハイブチの名乗りになっている。
前例がある。第6話「猫じゃらしの夜」の初代モシャモシャだ。人間の住む町へ出向いて畑の作り方を見てきて、森に戻って土地改良を始め、周りから「あいつ変わり者だからな」と言われながら猫じゃらし畑を完成させた猫だった。どちらも、森の外へ出て、森の猫がやらないことをやっている。公式イントロダクションの「森の猫たちの生き方は十猫十色」(※3)は、こういう形で実装されている。
原作は第2巻と第3巻にまたがっている
この記事に載せたマンガボックス公式のポストによれば、第8話はコミックス第2巻と第3巻収録のエピソードである。第6話が第2巻、第7話が第4巻だったので、アニメは原作の巻順に並べていない。公式サイトのイントロダクションが「オムニバス形式でアニメ化」と書いているとおりの作り方だ(※3)。
そして第8話だけが二冊にまたがる。二本立てだからで、副題の「&」と、原作の巻数が同じことを言っていることになる。
次回「白猫とぐうたら少女」の見どころ(予想)
次回は第9話「白猫とぐうたら少女」(※2)。公式あらすじは、シロタエがガリーの素質を見抜いて一流の魔法使いに育てようと奮闘し、練習を面倒くさがっていたガリーがついに「爆炎」以外の小さな火の魔法を出せるようになる、というところまで書いている(※2)。
ここからは予想になる。第8話が四話あけて第4話の組み合わせに戻り、人間の側だけを更新する回だったなら、第9話も同じ形になるはずだ。第5話「白猫と少女」で見た二匹(二人)が、ガリーの側だけ更新されて戻ってくる。公式あらすじの終わりが「ガリーの確かな才能を実感したシロタエに、司祭はとある」で切れているので、育てる側に何かが持ちかけられるところが山になりそうだが、これは本編で確かめたい。
第8話に戻れば、この回で気持ちよかったのは、猫の側が誰ひとり偉ぶらずに人間を採点していたところだった。ハイブチは尾行を外して残念がり、ミケミケは受付所に頼まれてついていき、クロバネは弟子の選んだ魔法を先に褒める。見ている側が全員、見られている側の次を楽しみにしている。「城下町の生活」という、誰も名指ししない題がついた理由は、たぶんそこにある。
出典
※1 TVアニメ「猫と竜」公式サイト STORY 第8話(サブタイトル・あらすじ/各話サブタイトル一覧)公式 STORY 第8話
※2 同 STORY 第9話「白猫とぐうたら少女」(サブタイトル・あらすじ)公式 STORY 第9話
※3 同 トップページ INTRODUCTION/CAST/COMMENT/BOOKS(ミケミケ役・白砂沙帆のコメント、スピンオフ書籍情報)公式トップ




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