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『無自覚聖女』第9話の副題は「暴かれた罪」。ジョナサン大司教の罪は、当時黙っていた神官たちが懺悔するように語り出したことで暴かれる。モニカは薬に手を出したうえで負け、自分がやった手口をそのまま相手に当てはめて大観衆の前で新しい罪を作ってしまう。ところが同じ回の終わりでは、カロリーナが力を隠さなくてよくなり、代わりに姉のフローラが父にも黙ったまま禁忌へ踏み込もうとする。




暴いたのは、当時黙っていた側の人たちだった
告発は、資料を運ぶところから始まっている
冒頭は聖女信仰協議会の設立が可決されたところから。テオドールが深い溜息をついているのは、ギルバートだけでなく商人たちと膨大な告発資料をセレスティア王国から転移させたためだった。「疲れないわけがないでしょう」。
しかも運ばれた側も引き下がらない。「私だってマナ過敏性症候群の身で君の転移魔法に耐えたんだ」「おあいこだよ」。告発の中身より先に、それを運ぶ手間のほうが描かれる。第8話の最後に届いた「告発する準備が整った」という一報が、人と紙の物量として、そして体調を押した移動として画面に出てくる。
神官たちは、聞かれたら答えた
告発の内容が語られる。「私は聖女クローディアの死について、多くの不審な点があることに気づき」「当時の状況を知る神官たちを問いただしたんだ」。
続きが効く。「すると、みんなまるで懺悔するように、彼女の死の真相を語ってくれたよ」。固く守られていた秘密が破られたのではなく、誰も聞きに来なかっただけだった、という言い方になっている。
動機は、慈善活動の廃止だった
語られた真相はこうだ。ジョナサンは権力と金を手にしようと教会内でさまざまな改革を行い、その最たるものが慈善活動の廃止だった。反対した者には金を配って黙らせ、言うことを聞かない者は地方へ飛ばした。聞き手の感想が「まるで恐怖政治ですね」。
その中でクローディアだけが批判の声を上げ続け、最後に国王への告発を決心して殺された。締めが「彼女の死は、教会の腐敗が生んだ悲劇ということだ」。個人の悪意ではなく制度の話として置かれている。
味方が心配しているのは、力の弱さではなく強さのほう
「その絶大さが困りものなんですよ」
試験の前日、ジョナサン大司教が行方不明だという報せが入る。「明日の選定試験に影響しないと良いのですが」という懸念に、「大丈夫さ」「カロリーナの神聖力は絶大だからね」と返る。
ところが、そこへかぶせられるのが「その絶大さが困りものなんですよ」。第8話で出された手加減の注文が、そのまま前日の空気になっている。守るためには勝たねばならず、勝ちすぎると守れなくなる。
支え方が具体的である
エドワードの言葉は精神論ではない。「もし何かあれば、俺がリーナの元に飛んでいく」「だから、安心して試験に臨んでくれ」。
不安を否定せず、起きた場合の手当てのほうを先に約束している。返事は「ありがとう」の一言だけで、この場面はすぐ終わる。
カロリーナが最初に思い出す人
会場でモニカ・アーレント公爵令嬢が挨拶に来る。「カロリーナ妃殿下は魔力なしとお聞きしております」「私、心配で心配で」。エドワードが遮る。「リーナの実力については試験で明らかになるだろう」「お前が心配する必要はない」。同じ心配という言葉が、味方と相手で正反対の意味で使われている。
そのやり取りを受けたカロリーナの内心が、この回全体の見取り図になる。「ただ、モニカ嬢を見ていると、どうしてもフローラお姉さまを思い出してしまう」。
手加減しようとして、二回とも失敗する
第一試験は怪我人の治療
第一試験は、事故で腕や足を骨折した協力者たちを30分以内に治すというもの。カロリーナは祈るように治し、「もう完治していると思うのだけれど」と軽く済ませたつもりでいた。
参加者は四人で、そのうち二人は骨折の治療が合格ラインに届かず不合格になる。モニカは骨折を完璧に治し、協力者が杖なしで歩けるようになって合格。そのうえで発表がこうなる。「骨折はもちろん、腕の擦り傷や見えないところにあった足の打撲まで完璧に治っています」。本人の反応が「しまった」「テオドール、怒ってるかしら」。抑えたはずが、見えない傷まで消してしまっている。
治した相手の事情まで出てくる
治療された協力者が礼を言う。「これなら仕事を再開できるし」「妻と娘を路頭に迷わせずに済む」。カロリーナの返しが「どうかたくさん働いて」「奥さんや娘さんを養ってあげて」「家族を大切にね」。
手加減の失敗が、そのまま人助けの成功として描かれる。この作品が主人公の力を抑える方向で訓練させ始めたのは第8話からだが、抑えることが正しいとは一度も言っていない。
第二試験は泥水の浄化
第二試験は、30分でどれだけ多く浄化できるかを競う内容。カロリーナは「今度こそちゃんとコントロールしないと」と身構え、相手の進み具合に合わせて浄化すればよさそうだと歩調を合わせる作戦を立てる。
ところが途中で「このままじゃダメだわ」と切り替え、一息に片づけてしまう。周囲の評が「半分が限界なのに、それをいともたやすく」。二つの試験で、抑えるほうが二度とも失敗している。
不正を疑えたのは、自分が不正をしたからだ
モニカは薬を飲んだうえで負けている
第二試験の最中、モニカの内心が動く。「認めたくなかったけど、ジョナサン大司教が言ってたことは正しかったようね」「この女は間違いなく神聖力の持ち主だわ」。そして第8話で渡されていた薬に手をつける。魔力を増幅させる薬で、使用者の魔力を倍以上に跳ね上げるという触れ込みだった。
飲む直前の言葉が「田舎者の分際で調子に乗らないでちょうだい」「私の方が上だって証明してやるわ」。効果自体は出ている。「熱い」「でも魔力が体から溢れそうなくらい高まっている」。それでも倍以上に跳ね上げた状態で、なお届かない。勝負をかけた場面が、そのまま敗着になった。
負けた側が、相手の不正を疑う
優勝が発表されたあとの内心が長い。「私は由緒正しい家柄の名門貴族なのよ」「他の人とは違う特別な存在なの」「本来なら、その賛辞をもらうのは私のはずだった」。そのままカロリーナに詰め寄り、何か手を使ったのだろうと疑ってかかる。
ここが冷たい。相手の不正を疑うという発想が出てくるのは、自分がそれをやったからである。薬を飲んだ本人だからこそ、飲んでいない相手を疑える。
いちばん刺さる言葉を言うのは誰か
首を絞められたカロリーナを、エドワードが割って入って助ける。「どけ」「リーナ、大丈夫か」。そこへギルバートの声がかかる。「無様だねモニカ嬢」「相手の不正を疑うなんて惨めだね」「必死すぎてこっちまで恥ずかしくなるよ」。
モニカの内心が「嫌われた」「未来の夫となるはずだった人に」。第8話で語られた動機は、聖女の座そのものではなくギルバートに届くための踏み台だった。手に入れたかったものの側から、名指しで否定されている。
失脚は、娘を助けたい父の手から出てくる
準備は整っているのに、本人がいない
告発の準備が整った時点で、ジョナサン大司教は行方をくらませている。教会が必死で探しているが見つからない。
証拠と証人がそろっているのに、被告だけが欠けている状態でこの回は始まっている。試験の話と並行しているので忘れがちだが、これがずっと宙に浮いたままだった。
娘の命と引き換えに差し出されたもの
モニカは連行され、皇城の地下牢に入る。処分が決まるまでのあいだ、父である公爵が助命に動く。そこで差し出されたのが「ジョナサン大司教の居場所と過激派の情報」だった。
父自身は直接関わっていないが、情報だけは掴んでいたという。娘が罪を犯したことが、そのまま大司教の居場所を吐き出させる圧力になった。試験会場での凶行と、教会の断罪が、ここで一本につながる。
処分の中身
モニカの処分は終身刑。本来なら即刻死刑になるところが、父の提供した情報と引き換えに命だけは残った。爵位の降格と領地の一部没収も合わせての処分で、牢屋での扱いは平民と同じになる。
評が「彼女にとってある意味、死ぬより辛いことかもね」。身分にこだわり続けた人物から、身分だけを抜き取る処分になっている。エドワードの締めは「もう、あの女も過激派たちもリーナに手出しできないってことだ」。
二十分の企みが、証人二人と書類一枚で畳まれる
審問裁判が開かれる
拘束されたジョナサンが教会本部へ連行される。「教皇聖下の命により貴様を拘束する」。裁判の開会の言葉が「哀れな子羊に神のご慈悲があらんことを」。
最初の質問は事実確認だけだった。「あなたは聖女クローディアの死に関与していますか」。返ってきたのが「いえ、聖女の件は事故ですので、関与のしようがないかと」。事故という言葉が、ここで初めて本人の口から出る。
突き落とした本人が証言する
証人が呼ばれる。教会で働いていたバネッサの証言が「私は以前、ジョナサン大司教の指示でクローディア様をテラスから突き落としました」。実行犯が自分から名乗り出ている。
続いて聖騎士だったニルス。殺害に伴う準備をし、その現場を見届ける役目を負ったと語る。そのうえで「落下したクローディア様の姿を見て怖くなり」「告発しようとしました」と続ける。
口止めの書類が、そのまま証拠になる
告発の動きは大司教に知られ、「言えば殺すと脅されて」「さらには誓約書を書かされました」。内容は、殺害の事実について一切他言しないというもの。作成したのは大司教本人だと証言される。
ジョナサンの抵抗は一手だけだった。「それは偽物です」「きっと誰かが私を陥れるために、筆跡を真似て作ったのでしょう」。返ってきたのが「筆跡鑑定は既に済んでいます」「言い逃れはできません」。そして「認めます」の一言で終わる。判決は有罪、終身刑。「死の瞬間まで神に懺悔し、罪を償いなさい」。第8話で二十分かけて組み上げられた企みが、証人二人と書類一枚で畳まれてしまった。
暴かれた罪の隣で、新しい隠し事が始まる
姉は、父にも本当のことを言わない
場面はセレスティア王国へ移る。聖女制度の廃止と大司教の断罪を受けて、フローラは「状況的に仕方ないわ」と受け止める。そこへ父が来て、聖女試験に自国の代表として出るよう告げる。
フローラが先に確かめたのは、父がどこまで知っているかだった。カロリーナの神聖力については知っていても、それによって自分の魔法が増幅されていたことまでは気づいていない、と読む。そのうえで「その話、喜んでお引き受けいたしますわ」と答える。
同じ選択が、同じ回で二度される
引き受けた直後の独白が重い。「こうなったら聖女試験までに魔法の実力をどうにかしないと」「たとえ禁忌に触れることになるとしても」。
薬に手を出して負け、地下牢に落ちた人物を、視聴者はこの数分前に見ている。同じ回の中で、同じ道の入口に立つ人物が二人並ぶ構成になっている。冒頭でカロリーナがモニカを見て姉を思い出したのは、この配置の前触れだった。
隠さなくてよくなった側と、隠し始めた側
帝国側では逆のことが起きている。姉が代表に決まったという報せに、周囲は「今まで散々馬鹿にしてきた憎き姉を見返すチャンスかと」と煽り、カロリーナも「お姉さまを見返すまたとないチャンスだもの」「完膚なきまでに叩きのめす、というくらいの気構えがないと」と乗る。エドワードの返しが「それでこそ、俺の妻だ」。そして手加減を求めていた側から、こう告げられる。「聖女試験で手加減する必要はありません」「思い切り、神聖力を使っていただいて構いませんよ」。返事が「ええ。全力で取り組ませてもらうわ」。
副題は「暴かれた罪」だが、この回で本当に対になっているのは、隠さなくてよくなった側と、隠し始めた側である。罪が一つ裁かれた同じ二十分の中で、次の隠し事がもう始まっている。




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