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『おっさん剣聖II』第9話の副題は「片田舎のおっさん、教都に行く」。この回は、差し出されたものが一つも受け取られないまま進んでいく。弟子の詫びも、団長の問いも、求婚への返事も、全部あとに回される。そして最後まで身構えていた襲撃すら、とうとう来ない。それでも副題だけは、二話続いた受け身から自分で動く形に戻っている。行き先は故郷ではなく、他国の教都である。




副題は「片田舎のおっさん、教都に行く」、そして行き先は故郷ではない
副題は三つの情報源で揃う
第9話の副題は「片田舎のおっさん、教都に行く」。公式サイトのストーリー欄、公式アカウントの放送開始告知、そして本編のタイトルコールで同じ表記が並んでいる。
この作品の公式サイトには各話のあらすじまで載る一方で、脚本や絵コンテといった話数ごとの担当者は掲載されていない。代わりにニュース欄で、各話を担当したスタッフのコメントが毎週まとめて公開されている。
副題の受け身が、二話ぶりに終わっている
第1話から並べると、行く、見守る、重ねる、帰省する、雄叫びをあげる、対峙する、招かれる、求婚される、そして教都に行く、となる。
招かれると求婚されるで二話続いた受け身が、ここで自分から動く形に戻っている。ただし戻り方は素直ではなく、本人が決めたのは行くことだけで、行き先も役目も他人が決めている。
行き先は故郷ではなく、他国の教都
目的地は他国の首都にあたる都市で、作中では教都と呼ばれる。第4話の帰省とは方向がまったく違う。
今回の遠征は王女の輿入れに随行するもので、道中の宿泊地も護衛の配置も、本人の希望が入る余地はない。それでも副題は、行くという能動の形をとっている。
全体の話数は、公式のイベント告知で分かる
公式サイトのニュース欄に、九月十二日に劇場で第11話と第12話を先行上映するイベントの告知が出ている。
その案内文で第12話が最終話だと明記されているので、全体の長さはここで確定している。上映後には主演と監督とシリーズ構成が登壇するとも書かれている。
魚屋の話は、値段から悔しさへ移っていく
冒頭は魚屋で、値段の話から始まる
開幕はスレナとの買い物だった。うちの田舎じゃこの大きさの魚は口に入らなかったね、という感想から入る。
高いな、という一言に、出始めだからで、冬本番になれば仕入れが増えて売り値も下がる、と返る。この作品らしく、剣の話より先に生活の値段の話が来る。
悔しいと言っているのは、助けられなかった側ではない
話が前回の襲撃に移ると、ベリルは自分の側の落ち度として語る。俺がもう少しうまくやれていれば、と。
ところがスレナの返しは違う方向を向いていた。先生が己を責めることではありません。そして、悔しいです、私が常にお手伝いできれば、先生にそのような思いはさせないのに。立場上それも難しい、と自分で足す。
慰められた側が、借りを作らせる側に回る
返せないと言う相手に、返す機会のほうを渡す
情けないです、気持ちだけで先生に受けた恩を返せるとは、とまで言われる。ここでベリルは慰めを重ねない。
返したのは、じゃあ今日じゃなくてまた今度、スレナのおすすめの店で魚料理をご馳走してもらおう、だった。返せないと嘆いている相手に、返す機会のほうを作って渡している。ミュイも連れてきていい、一軒でいいよ、はしごはなしね、まで足して話を軽くしている。
その焼き魚は、二人とも初めてだった
結局その日のうちに魚を買って帰り、内臓を抜いて塩を振って焼くだけ、という店の人の教えどおりに焼く。
皮が香ばしくて脂が少ないのに旨味は強い、初めて食う味だけどむちゃくちゃうまい、と食卓が動く。そこにベリルの、俺も焼き魚なんて初めてだよ、が重なる。教える側も同じ日に初めてを済ませている。
留守番を選んだのは、預かられている側だった
出張は二か月になる
相談の切り出しは軽い。月末からまたしばらく出張でね、今度は二か月くらいになりそうなんだ。
そのうえで用意していたのが、また学院の寮に短期寄宿できるように手続きしておくよ、という段取りだった。前回と同じやり方をそのまま繰り返すつもりでいる。
寮には行かない、ここが私の家だから
返事は短く、いや、寮にはいかねえ。理由を測りかねて、寮で誰かと会わなかったのか、別の家に住みたくなったのか、と探りが入る。
全部違って、出てきたのが、ここでいいっつってるんだ、である。何もおかしくねえだろ、ここが私の家なんだから。引き取られた側が、家という言葉を自分から使っている。
引き止めではなく、条件付きの許可になる
一人きりになるよ、という心配には、家のことなら大体一人でできるようになった、来月の頭から冬休みだし、と実務で返される。危なくない、には、心配しすぎなんだよ、用心しときゃ大丈夫だろ。
ベリルの内心が、別の意味で心配になってきたぞ、しかしこの独立心は尊重すべきか。結論は、じゃあ、やってみる、という許可だった。ただし困ったら学院長のところへ行くこと、服はちゃんと畳んで片付けること、という条件がつく。
師が留守にする二か月に、弟子どうしの線が引き直される
走り込みは、道場で最初に教わるもの
首都では、走り込みをしていた三人が鉢合わせる。走り込みは全ての基本、ベリル先生の道場で最初に教わるのがこれで、免許皆伝の日までずっとやる、という話になる。
全然足りねえ、木剣を振り抜くと体がブレる、という嘆きに、続けてればいつか必ずできる、が返る。師がいない期間の埋め方が、師から教わった一番地味な稽古になっている。
冬休みの秘密特訓で、敬語が外れる
そして冬休みのあいだ三人で秘密特訓をやることが決まる。持ちかけたのも、乗ったのも弟子の側である。
そこに、休みの間は先生と生徒じゃない、同じ先生の弟子だから敬語はなし、という取り決めまでつく。師が留守にする二か月に、弟子どうしの線が引き直されている。
例え話は、出した本人が取り下げる
副団長のほうが、団長の様子に気づいている
出発の打ち合わせが終わった後、ヘンブリッツが残って切り出す。先ほどの団長のお言葉に含みを感じたのですが、辺境伯領でベリル殿と何かあったのですか。
答えは、何もありませんでした、から始まる。ただし続きが長い。先生と私はずっとそれで構わない、ずっとそう思っていたはずなのですが、分からなくなりました。第8話の余波が、本人ではなく部下の観察から入ってくる。
あくまで例えばの話、と前置きしてから引っ込める
滞在先へ向かう途中、アリューシアが言い方を選びながら口を開く。あくまで例えばの話として聞いていただきたいのですが、と。
その人が幸せになるなら何でもできる、命すら惜しくない、本心からそう思える人がいて、でもその人は自分より他の人と一緒にいた方が幸せになれるとしたら。先生ならどうしますか、まで言って、答えを待たずに自分で引っ込める。やはりこれは自分で考えるべきことでした、で終わる。
断る理由の三つ目が、直前に出された問いだった
申し出は、転居の相談の形でやってくる
夕食を運んできたのがシュステだった。もてなしは兄と父に任せておけば大丈夫です、と言って居座る。
切り出し方は、私、バルトレーンへの転居を考えているのですが。理由を聞かれて返すのが、ベリル様がいらっしゃるので。聞き間違いかと確かめられても同じ言葉を繰り返し、本気でお慕い申しております、まで進む。
断る理由を、自分の予定で三つ並べる
好意そのものは受け取っている。そう思ってもらえるのはすごく嬉しいよ、素直にね。そのうえで、少なくともすぐには答えられない、と保留にする。
不相応でしょうか、と聞かれての返しが、シュステは良い子だよ、これは俺の問題なんだ。並べたのは、後見人をしている子が独り立ちするまでは優先したいこと、父に勝った以上は剣の頂を目指さないと裏切りになること、そしてどちらに転ぶにせよ答えを出さなければいけないことがある、の三つだった。三つ目のところで、先生ならどうしますか、という声がよみがえる。
待たせていただきます、で終わる
そんなに誠実に断られては返す言葉がありません、と言いながら、シュステは引かない。ますます好きになってしまって困るのです、と足してくる。
そして、待たせていただきます、ベリル様が先になされたいことを全て済ませるまで。忘れられたら悲しい、と言われて返るのが、忘れることはないさ、あの押し花はずっと大事にしてる。第8話で庭の花で作ったものとだけ書かれていた贈り物が、ここで正体を明かしている。
構えている側の準備は、装備と日程のほうに出る
支給されたのは鎧ではなく外套だった
護衛の任を受けると、その場で装備が出てくる。騎士の鎧は叙任を受けないと下賜されないが、これなら支給できる、という理屈だった。
揃いの方が体裁はいいか、と受け取りながら、やけに準備がいいね、と突っ込む。返ってきたのが、お引き受けいただけると思っていましたので。断られる想定が最初から無い。
訓練の組み方は、出発の日から逆算されている
打ち合わせの最後にベリルが出した助言が実務的だった。団員たちの修練はしばらく強めに追い込んで、出発の数日前から負荷を下げる方向にしていただければ、と。
本番の日から逆算して、仕上げる期間と抜く期間を分けている。怪我が完治したばかりの団員が、しばらくきつい鍛錬になると言われて、今はそれくらいの方がむしろありがたいです、と返すのも同じ時期である。
稽古の裏に、静かな一行が混ざる
訓練では団員の木剣を借り、柄から先は全部刃が付いている想定で打ち込んでくれるかな、と頼んでいる。実戦の間合いに体を戻しにいっている。
その裏で流れる内心が、この連中が来る可能性は高い、どう戦うか考えずにいられない、である。そして、何にせよ、奴の始末は自分の手でつけたい、まで出る。責任を感じている、という言い方では収まらないものが一行だけ混ざっている。
構えていた襲撃は、とうとう来なかった
行軍前の指示が、この人の教え方そのもの
街道に入れば、いつ襲われてもおかしくない。こっちの戦力はあの時と比べ物にならないが、どんな手で来るか分からない連中だ、と前置きが入る。
続く指示が二段になっている。気を抜くな、ただし気負いしすぎるな。目いっぱいで気を張り続けていたら長旅は持たないし、体の動きも硬くなる。何が起きてもこの線を取る、まずはそれだけでいい、で締める。
到着しても、何も起きていない
道中は下見のときより行軍速度が落ち、これほどの大編成を動かすなら致し方ない、という会話になる。着いた先の第一声が、いやー長かった。
宿舎に落ち着いてからの独白が、来なかったな、あの傭兵連中。こちらの警備体制を見て諦めたのか、と自分で言ってすぐに、いや、と打ち消す。わざわざ団長のような強敵をあらかじめ潰しておこうとするような連中が、素直に手を引くのか、と続く。
公式のあらすじだけが、見ている者に触れる
本編は、その独白のあと何も起こさずに終わる。台詞のうえでは、襲撃は起きなかったという事実だけが残る。
ところが公式サイトのあらすじは、到着したベリルを見つめる者がいる、と書いている。先送りにされたものが四つ重なった回の最後に、まだ名前のない視線だけが足されている。




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