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『ふつつかな悪女』第9話の副題は「必ずお助けいたします」。これは玲琳が朱慧月の姿のまま、黄家の女官たちに向かって言う台詞だ。皇后を倒したのは病ではなく呪いで、貴妃の狙いは二話越しにようやく言葉になる。玲琳は三度目の願いを断られ、殿下に許可を求めるのをやめて壁を越えに行く。そして回想では、二十年前に皇后が雅媚へ何を授けたのかまで明かされる。




遮られた「おそらく」の続きが、冒頭で出る
前回、貴妃の狙いは言いかけたところで来客に切られていた。第9話はその続きから始まる。
言いたかったのは、暗殺の二文字だった
慧月が口にするのは「あの時慧月様が言いたかったことは、おそらく皇后陛下の暗殺」という一行だ。人を苦しめる目的ではなく、命を奪う目的だったことになる。言いかけて途切れた台詞が、次の回の冒頭で回収される構成になっている。しかも回収された瞬間に、その暗殺はもう始まっている。
病ではないと言い切る根拠が二つ出る
尭明の「伝染病か?」に対して返ってくるのは「いいえ、きっと呪いです」だ。理由は二つ挙がる。「伝染病なら、陛下より先に姫付きの女官が罹患するはずです」、そして皇家の姫の症状には破魔の弓の弦音が効いた、「それこそが病ではないことの証ではありませんか」。治り方から病名を逆算する手つきは、前回の推理とまったく同じ形をしている。
最初の標的が玲琳だった理由も同時に出る
「最初は計画を邪魔するあなたを排除したかったんだと思うわ」と慧月は言う。皇后を狙う計画にとって、玲琳は邪魔者だった。本人は自分が計画の邪魔をしていた自覚をまったく持っていない。ここから、その邪魔の中身が語られる。
呪いを止めていたのは、玲琳の庭いじりだった
邪魔の正体は策でも護符でもなく、病弱な姫の日課だった。
薬草畑と、ネズミの餌
玲琳が数え上げるのは「私が庭を薬草畑に変えたり、害虫を実験用のネズミの餌にしたりと」という日々だ。そのせいで「知らずに(呪いが)発動できない状況を作り出していたのでしょう」と続く。敵の術を無効化していたのは、対抗策ではなく趣味だった。
だから体ごと入れ替えさせられた
排除の手段が入れ替えだったことも、ここで言葉になる。「慧月様と私を入れ替えさせて、二人とも死に追い込む。それが貴妃様の筋書き」。前回、慧月自身が「入れ替われば二人ともすぐに死ぬと踏んでいたのね」と言っていたのと同じ絵だ。片方は虚弱な体で、もう片方は儀式の罰で死ぬ想定だった。
好奇心を清らかに保っていた、という言い方
玲琳は自分の日課を「好奇心を清らかに保っていた」と表現する。防いだという言い方をしない。面白がっていたら結果として守られていた、という順番でしか語らない。この人の強さがどこから来ているのかが、一行でわかる。
三度目の願いで、玲琳は願うのをやめる
破魔の弓を貸してほしい。その願い出は、理由を聞かれる前に断られる。
断り方に、理由が入っていない
返ってくるのは「ダメだ、お前は休んでいろ」「くどいぞ、何度も言わせるな」「破魔の弓はお前には貸せない」だ。呪いの理屈への反論ではなく、貸す相手の話に終始している。決め手の一行は「今のお前は神器を扱うに値しない」。断られているのは提案ではなく、提案した人物のほうだ。
褒美はいつも先送りされる
そのうえで付け足されるのが「母上の病を払いたいと申し出たことは覚えておこう」「いずれ」である。今は渡さないが、いつか評価する、という形だ。中元節の儀のときも、褒美は「お前自身にではなく、あくまでも舞に対して」渡されていた。この人の評価はいつも、本人に届かない場所に置かれる。
玲琳は三度を数え上げる
ここで玲琳が数えるのは回数だ。「獣人の儀でも、中元節の儀でも、そして今も」「私は殿下に話を聞いてほしい、信じてほしいと、そう申し上げてまいりました」「ですが、三度とも殿下は叶えてくださらなかった」。怒りではなく集計として突きつけている。締めは「ならば、もう結構でございます」。
願い出るのをやめる、という決意
背を向けた玲琳を尭明が呼び止めても、返るのは「もう殿下に許可を願い出ることはいたしません」「好きにさせていただきます」だけだ。願いを取り下げたのではなく、願うという行為そのものをやめている。この回でいちばん静かに固まった決意は、これだ。
見送る側の反応も短い。行かせてよいのかと問われた尭明は、弓を守れとだけ答える。
殿下が気づいたのは、断ったあとだった
公式のあらすじは「断る彼の目に映ったものとは…」と書いている。順番が明記されている。
気づきは、判断のあとに来る
弓を貸さないと決め、値しないと言い切り、背を向けられてから、彼はようやく気づく。判断材料が増えたわけではなく、目に映ったものが変わっただけだ。断るときには持っていなかった情報で、断ったことのほうが覆る。
きっかけは水に映った姿だった
視聴者の受け止めも同じ場所を指していて、水に映った姿でようやく気づいた、という感想が複数上がっている。声でも仕草でも言葉でもなく、映り込みだった。いちばん近くにいた人が、いちばん間接的な手段で気づかされている。
反響するのは、玲琳の呼び方だ
気づく直前、彼の中で朱慧月の言葉が別の声で再生される。「この世に呪いはあるし、奇跡も起こるのだ」に続くのは「お兄様」という呼び方だ。言っている中身は同じで、呼び方だけが違う。同じ台詞を何度聞いても届かず、呼び方が変わった途端に届いている。
気づいた側の遅さは、視聴者からもはっきり指摘されている。
許可の代わりに、玲琳は壁を越える
願い出るのをやめた人がまずやったのは、正面から入るのをやめることだった。
呼び止めるほうが、まともなことを言う
足早に歩く玲琳に莉莉が「なんでそんな足早いんですか」と声をかけると、返ってくるのは「いいところへ来てくれました」「大変申し訳ないのですが、そこへかがんでくれます?」だ。莉莉は即答で「いやです」「絶対ろくでもないこと考えてるでしょう」と返す。この主従は、常識を言う役が女官のほうに固定されている。
言い分が軽すぎる
玲琳の説明は「壁をちょっぴり越えたいだけですから」で、莉莉の返しは「そういうのをろくでもないって言うんだよ」「不法侵入だぞ」だ。皇后の命がかかった場面で、言い方だけがいつも通りに軽い。切迫しているのに口調が変わらないところが、この人の一番怖いところでもある。
会いに行く相手は皇后ではない
莉莉は「そんな格好じゃ、とても皇后陛下には会えませんよ」と止めるが、玲琳の答えは「陛下ではありません」だ。行き先を察した莉莉が「もしかして、慧月様ですか」と確かめ、玲琳は「はい」と答える。助けたい相手のところではなく、助ける手段を持っている相手のところへ先に向かっている。
踏み台になるほうも覚悟を決める
結局、莉莉は身をかがめる。「私の背骨、折らないでくださいよ」に玲琳は「最善を尽くします」と答え、「一、二、三で踏みますから、堪えてくださいね」と数える。断られた願いの代わりに使われたのは、女官の背中だった。
莉莉に約束したのは、黄家の衣だった
壁を越える前に、二人はもっと大事な話を済ませている。
先に不安を口にしたのは莉莉のほうだ
莉莉が言うのは「あんたは、私の初めての主人なんです」「でも、黄玲琳に戻ってしまったら、もう……」だ。入れ替わりが解ければ、この主従は解散する。元に戻ることを、いちばん喜べない立場の人がここにいる。
黄家の情は重い、という答え
玲琳の返事は「舐めてもらっては困ります」から始まる。「黄家の情はね、それはもう重いのでございます」「莉莉はもう、私の内側の人間なのです」「この縁をここで断ち切ったりなんて、決してしません」。身分が戻っても関係は戻さない、という宣言になっている。
守ると言った相手は三人いる
続けて出るのが「私は、内側に入れた人間を、なんとしても、何者からも、守ってみせるつもりです」だ。数えているのは「あなたも、皇后陛下も、あと、もうお一方も」の三人で、三人目は名前を出さない。名前を伏せたその一人が、このあと訪ねていく相手である。
土産は、上級女官の衣
話の締めに玲琳が持ち出すのは、黄家の上級女官がまとう衣だ。「ご興味はありますか?」に莉莉は「もちろん、あるに決まってるじゃないですか」と即答し、玲琳は「それをお土産に、あなたに会いに参りますね」と返す。第4話で口を滑らせた「藤黄の衣をまとう莉莉」という言い間違いが、ここで正式な約束に変わっている。正体を隠すために失言だったものが、正体を明かす前提の約束になった。
莉莉の照れ隠しも通常運転で、跪いてもいいと思った相手が壁越えを頼んできたことに呆れている。
二十年前、皇后が雅媚に授けたのは恨みだった
この回の回想は、貴妃がなぜここまでするのかではなく、誰がそうさせたのかを明かす。
見舞いに行かなかった側の告白
絹秀の独白はこうだ。「二十年前、わらわと同時期に妊娠した雅媚は、予定より早く産気づき」「皆が雅媚を見舞う中、わらわは一度とて会いにはいかなかった」「どの面を下げていける?」「雅媚の王子は死に、わらわの子は生きているのに」。行かなかった理由は冷たさではなく、行けなかったという類のものだった。
そこへ、告げ口をしに行った者がいる
代わりに雅媚のもとを訪れた女官は、生まれた王子の吉兆を並べ立て、「大輪の花は間引かれた花の犠牲の上に咲き、王者とは幾多の屍の上に玉座を敷くもの」と続け、さらに「朱貴妃様は、殿下を我が子として可愛がればよいですわね」と言い置いた。子を失った直後の相手に、他人の子の栄光を数え上げている。絹秀が「まさかお前、朱貴妃にもそう言ったのか?」と問い詰めても、返るのは「なぜお怒りになるのです?」「讃えただけですわ」だけだ。
皇后が来ていないことまで伝えられている
その女官はさらに「皇后陛下だけがお見舞いに来ていないことも教えて差し上げたら」と報告する。結果は「お怒りのあまり、枕を床に叩きつけてましてよ」。絹秀は「ずっと床にあった雅媚が、身を起こし、腕を振り上げた?」と繰り返す。絹秀が食いついたのは侮辱された事実ではなく、寝たきりだった相手が起き上がったという一点だ。
悟ったことと、渡したもの
そして「その瞬間、雅媚に必要なものは何か悟った」と続く。「絶望の淵から立ち上がるのに必要だったのは、慰めなどではなく、全身を燃やす恨みの炎」。だから絹秀は針を持てと言う。「わらわを刺すがいい」「その手を休めてはならぬ」「恨みを杖に立ち上がるのだ」「いつの日か、傷が癒えるその時まで」。立ち上がらせるために、自分を的として差し出している。
前回の副題の答えが、ここで出る
前回の副題は「武器を授けることの意味」で、そこでは絹秀が「たとえすぐに駆けつけられぬほど離れてしまっても、その武器が自分の代わりにお前を守り続ける」と言っていた。刀か槍か弓か、と候補を挙げながら、実際の礼はまだ渡されていなかったはずだった。渡されていた武器は刀でも槍でも弓でもなく、自分に向けさせた恨みだった。そして現在の絹秀は、その針仕事がまだ終わらないのかと問う。刺繍には人柄が現れる、と言った人が、二十年ぶんの図案の話をしている。
副題は、他家の姫の姿のまま言われる
皇后の宮に駆けつけた玲琳を待っているのは、身内であるはずの家の拒絶だ。
まず追い返される
黄家の女官たちの反応は「武の者がなぜ」「鷲官に突き出しますよ」で、朱家の姫が来たとしか見えていない。助けに来た本人が、いちばん不審な人物として扱われている。
庇うのは、正体を知っている一人だけ
そこへ割って入るのが冬雪だ。「お待ちくださいませ皆様」「このお方は大切な姫君なのですから」「この方の献身は、破魔の弓でも明らかなこと」「陛下の急を知って、たまらず駆けつけてくださったのでしょう」。第7話で入れ替わりに気づいたこの女官が、公然と朱慧月を守る側に立っている。気づいた人が一人いるだけで、通れる門ができている。
副題の台詞が出る
そこで玲琳が言うのが「私が必ずお助けいたします」「私の何をかけてでも」だ。この回の副題である。皇后の姪としてではなく、他家の姫の名前のまま、姪の役目を引き受けている。礼を言われた玲琳が「筆頭女官殿、ありがとうございます」「とはいえ、他家の者が失礼いたしました」と自分から線を引くのも同じ理屈だ。
指示は番号で出てくる
冬雪への申し送りは具体的だ。「陛下の呼気が弱っていました。薬で空気の道を広げてあげてください」に対して「粉薬など飲めぬご様子で」と返されると、「経皮で効くものがあります」「氷室に置いた53番の軟膏を、胸と背に塗れば」と番号で答える。嘔吐が続く場合の水分の取らせ方まで続く。身体は入れ替わっても、置き場所と番号は本人の頭の中にある。
その帰り道の自省
宮を出た玲琳の独白は厳しい。「なんと傲慢で独りよがりだったのでしょう」「本来なら、黄家の宮で二番目の地位にある黄玲琳が指揮を取るべき場面だったのに」。そして「のんきに健康な体を喜んでいました」「夢のようだった入れ替わり生活は、もうおしまい」と続く。この回のいちばん重い一行は、楽しかったと認めたうえで終わらせると決めるところだ。
呪いを解く虫は、九日前にもう集まっていた
九日ぶりに直接会った二人の会話は、最初から最後まで実務の話になる。
前置きなしで本題に入る
扉を開けさせた玲琳の切り出しは「単刀直入に申し上げます」「入れ替わりを今、解消してくださいませ」だ。そのうえで「本当は、慧月様の望む限り時間をかけたかったのですが、状況が変わりました」と足す。相手の気持ちを待つ約束を、自分から破ると宣言してから頼んでいる。
血のついた手を、先に見つけられる
慧月が最初に反応するのは用件ではなく「ちょっと、何なの、その血は」だ。玲琳の答えは「お体を傷つけてしまって申し訳ございません」「少しばかり弓を引きすぎてしまって」。自分の体だから怒っている、という形を取りながら、心配の順番が先に来ている。
そもそも引く人が違う、という指摘
続けて出るのが「そもそも、なんであなたが引くの」「そんなの、武官にやらせればいいでしょ」だ。理由として「確か神器は玄家の管轄だし」と挙げ、鷲官長に引いてもらったほうが弦音も冴えるのではないかと言う。破魔の弓を管理してきた家が、ここでようやく名前で出てくる。玲琳が一晩かけて証明した誠意は、事務的には最初から不要だった。
数日かかるはずのものが、もうある
呪い返しの話になると、慧月は材料の心配をする。「まず、蠱毒を作るための虫から集めなくてはならないのだけど」「それじゃ、完成まで数日かかってしまうわね」。そこへ玲琳が差し出すのが「共食いを生き残った虫さんがあれば、よいのですか」という一言だ。数日かかるはずの材料は、九日前の嫌がらせの後始末として、もう一つの壺の中で出来上がっていた。
第3話の軽口が、そのまま解決策になる
慧月が「蜘蛛を捕食できるような大型の虫が必要だけど」と条件を出すと、返ってくるのは「入れ物が足りないから、蜘蛛さんとムカデさんは一緒にどうぞ」という、あの日の言い方そのままだ。当時の反応は「そんなことしたら食い合うぞ」だった。食い合わせたことを咎められた行為が、そのまま呪いを返すための材料になっている。
払おうとする玲琳と、返そうとする慧月
二人が組んだ瞬間から、手段の考え方がきれいに割れる。
対処が生ぬるい、と言われる
慧月の評は容赦がない。「だいたい、対処の仕方が生ぬるいのよ」「呪われたから、呪いを散らすために弓を引く」「そんなの、飛んでいる蚊を手で一時的に追い払うのと一緒」「何の解決にもなっていないわ」。結論は「呪われたなら、呪いで返さなきゃ」だ。払うのは症状への対処で、返すのは相手を止める手段だと言っている。
返す先を、玲琳は確認する
玲琳の返しは反論ではなく確認だ。「呪いで返すということは、この場合、朱貴妃様を返すことになるのでは」「慧月様は、それでよいのですか」。慧月の答えは「呪いというのは、そういうものよ」の一言だけだった。自分を引き取ってくれた相手を的にする話なのに、一度も言い淀まない。
考え方が身体に引っ張られている
健康な体を得た玲琳は前へ前へ進み、病弱な体に入った慧月は座ったまま筋道を立てる。視聴者からも、猪突猛進の玲琳と冷静に分析する慧月という形で同じ指摘が上がっている。入れ替わったのは体だけのはずなのに、考え方のほうが体に合わせて動いている。
出ていく順番も玲琳が決める
締めは「慧月様、参りましょう」だ。「何なの」と戸惑う相手に「ご説明は道々」「裏口から突破しますよ」と言い置いて連れ出す。願い出るのをやめた人は、説明する順番まで後回しにしはじめている。許可を取るのをやめた人の行動は、驚くほど速い。
最後に残るのは、呼びかけだけ
一方の尭明は宮の前で止められ、皇太子としてあるべき場所へ戻るよう促される。そして玲琳の口から出るのは「おばさま、今お助けします。待っていてください」という短い呼びかけだ。助けに行くと決めた人と、行き場を失った人が、同じ夜の別の場所に立っている。





































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