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『うしろの正面カムイさん』第11話「猿夢」で、キスキル・リリーはもう二か月、まともな食事をしていない。カムイが出張で留守の夜、猿夢に取り憑かれた耳塚シヅカの寝ずの番を任されたリリーは、「その前に…」とシヅカの精気を狙っていた。ところが夢の中で口にするのは「この子は私の獲物なの」。朝になると、獲物のはずのシヅカが「私が身代わりになって リリーちゃんを守ってあげる」と言い出す。食べに来た側が、守ると言われて終わる回だった。




食べに来たサキュバスが、守ると言われる
第11話は、リリーにとって二つの目的が同じ夜に重なる話です。シヅカを猿夢から守る寝ずの番と、シヅカの精気をもらう最後の機会。朝になって返ってきたのは、そのどちらとも違う言葉でした。
二か月の空腹と、「その前に…」
冒頭のリリーは「お腹すいた」「最後にまともな食事を取ってから もう2ヶ月になる」「適当な獲物を見つけて」「栄養補給しないと」とこぼします。公式サイトのあらすじが書くとおり、カムイから精気を吸い尽くして以来、人間を襲うことができなくなっている。カムイが出張中の夜、シヅカの番を任されたリリーは、心の中で「こんな状態で あの男が帰ってきたら 私は…」「その前に…」と言いかけます。
守るための寝ずの番が、食べるための最後の機会にも見えている。リリーにとってこの夜は、二つの目的が同じ時間に重なった夜でした。
クレープの話の横で、「極上の獲物」を見ている
空腹の独白のすぐあとで、友人たちは「クレープマジうまかったよな」と、この前食べたものの話で盛り上がっています。その輪の中で、リリーの心の声だけが違うものを見ている。「それも極上の獲物」。視線の先にいるのはシヅカです。
友人たちにとっての「おいしいもの」は甘いお菓子で、リリーにとっての「おいしいもの」は目の前の友達。同じ輪の中で、食べ物の話が二つの意味で同時に進んでいる。この食い違いが、朝のシヅカの「美味しいもの 一緒に いっぱい 食べよう」でようやく一つに重なります。
朝、獲物のほうから「守ってあげる」
目を覚ましたシヅカは「リリーちゃん 私 寝ちゃってたんだ」と言い、「ごめんね 一人にしちゃって」「怖かったよね」と謝ります。理由は、リリーが「震えてたから」。そして「私ね 悪霊に取り憑かれやすい体質なんだ」「だからもし リリーちゃんが 悪霊に取り憑かれそうになったら」「私が身代わりになって リリーちゃんを守ってあげる」。
リリーが震えていた理由を、シヅカは怖さだと受け取っています。本当は精気を狙っていた側を、狙われていた側が守ると言う。悪霊に取り憑かれやすい自分が身代わりになる、という申し出が、いちばん身代わりにしてはいけない相手に向けられているのが切ないところです。
「一緒に いっぱい 食べよう」と「もうお腹いっぱいだよ」
シヅカはさらに「美味しいもの」「一緒に いっぱい」「食べよう」と続けます。その少しあとに返ってくるのが、「もうお腹いっぱいだよ」という言葉でした。
第10話でリリーは、お菓子をすすめられても「食欲はちょっとない」と断っていました。その空腹が実は二か月ぶんだったと分かったうえで聞くと、この「お腹いっぱい」は食べ物の話ではありません。精気は吸えなかったのに、満たされたと言っている。この回でいちばん静かで、いちばん大きな言葉だと思います。
夢の中で「この子は私の獲物なの」
猿夢は、夢の中に現れて人を追い詰める怪異です。カムイの手が届かない場所で、リリーは自分の流儀でシヅカを守りにいきます。
猿夢は、夢の中で死ぬと現実でも死ぬ
ナレーションは「猿夢 夢にまつわる怪異」「猿夢に取り憑かれた人間は 何度も同じ夢を見るようになり」「その夢の中で死ぬと 現実でも死んでしまうと言われている」と説明します。シヅカは眠ってはいけない状態で登校し、友人に「それは怪異の仕業ね」と言われる。お市も「猿夢に取り憑かれるとは」「小娘も難儀な体質やな」とあきれ、カムイの側も、護符は夢の中までは効果が及ばないと言います。
友人たちは「本当にごめん どうしてもシフト外せなくて」「うちも門限が厳しくて」と帰り、「あとは頼みましたぞ」と番をリリーに託します。夢の中に入れるのがサキュバスだと分かるのは、そのあとです。偶然任された番が、実はリリーにしかできない役目でした。
獲物宣言が、そのまま守る宣言になる
夢の中に現れたリリーは、猿夢に向かって「知らなかった」「サキュバスにも夢の中へ入る力があるんだよ」と告げ、「あとね この子は私の獲物なの」「というわけで お邪魔しました」とシヅカを連れ出しにかかります。
言っていることは「私の獲物だから手を出すな」で、やっていることはシヅカを助けること。サキュバスの言い方で言うと、守るは「獲物の横取りを許さない」になる。この一言が、締めの告白の半分をもう先に言っています。
精気は吸えないまま、「最後の機会」が過ぎる
相手が作った夢の中で戦うのは「分が悪いからね」と苦戦したリリーは、「このままじゃ二人とも」「もう仕方ないか」「予定が狂ったけど」と、先にシヅカの精気をもらうことに決めます。ところが、あとでリリーが振り返るのは「私の栄養となる精気を 吸い取ることはできなかった」「きっと今夜が 私に与えられた最後の機会」。
最後の機会だと分かっていて、吸えなかった。吸えなかった理由は語られません。その直後に置かれているのが、朝のシヅカの「守ってあげる」です。並べ方だけで、リリーが何を得たかが伝わるようになっています。
留守番電話の言霊と、「ちょっと癪だけど」
窮地を変えたのは、シヅカの携帯の留守番電話でした。「ただいま電話に出られません」「60秒以内でメッセージをお願いします」のあとに吹き込まれるカムイの声が、言霊として夢の中の猿夢に効き、リリーも「それだけでこの威力」と舌を巻きます。そして「ちょっと癪だけど あいつの除霊のやり方 真似させてもらおうかな」。
カムイの除霊は、この作品ではいつも赤面もののやり方です。リリーは、シヅカのそばにいる男のやり方を借りて、シヅカを守った。本人が「癪だけど」と前置きするところに、二人の距離がよく出ていました。
賑やかで「場当たり的」な毎日が、心地いい
猿夢の夜の前に、第11話はシヅカたちの日常を短く挟んでいます。リリーの気持ちが動いた理由は、むしろこちらに書かれていました。
「任せて」の中にある二つのもの
番を託されたリリーの返事は「うん 任せて」でした。けれど心の中には「その前に…」もあった。引き受けた番と、隠していた計画が、同じ「任せて」の中に同居している。このあとの夜は、その二つのどちらが勝つかの時間でもありました。
食べる量の差
夜、シヅカは「おなかすいてない リリーちゃん」と気づかい、リリーが「こんなに食べて大丈夫」と聞くと「食べないと元気が出ないし」と返します。そして「リリーちゃんこそ それだけでいいの」。リリーの答えは「うん 私はこれで大丈夫」。
眠ってはいけないシヅカは食べて体力をつけ、空腹のリリーは少ししか食べない。リリーの空腹は、食卓の料理では埋まらない種類のものです。第10話でお菓子を断ったのも同じ理由だったと、ここでつながります。
「非合理的で 場当たり的」なのに心地いい
リリーの独白は、シヅカたちをこう見ています。「シズカたちの毎日は とても不思議だ」「彼女たちはいつも騒々しく」「とても非合理的で 場当たり的だ」「でも そんな毎日がなぜか心地よくて」。
獲物を観察する目で並べた言葉が、途中で好意に変わっています。悪口のような分析のあとに「なぜか」が来るのが、この独白の要です。締めの「私はシヅカが好きだ」は、ここから始まっていたように思えます。
公式の各話スタッフ:第11話は第7話と同じ顔ぶれ
公式サイトのSTORYには、各話の脚本・絵コンテ・演出・作画監督が載っています。第10話で演出の順番が崩れたことに前回の記事で触れましたが、第11話でその続きが見えました。
演出は、第10話と第11話で入れ替わっていた
演出に名前が載るのは金元会・小野田雄亮・中山敦史の三人で、第1話から第9話まで「金→小野田→中山」の順に回っていました。順番どおりなら第10話は金、第11話は小野田のはずですが、実際は第10話が小野田、第11話が金です。崩れたのではなく、二話ぶんが入れ替わっていたことになります。
絵コンテ・演出・作画監督が、第7話とそろう
第11話の担当は、絵コンテ 松尾慎、演出 金元会、作画監督 WUXI HUAXIAN ANIMATION PRODUCTION と王建・范东东・童文楠・曹杰の4名。この組み合わせは、第7話「トイレの花子さん」とまったく同じです。脚本は第1話から通して中條元史が担当しています。
作画監督の欄も、海外スタジオの回と山本正嗣の回がほぼ交互に並んでいます。WUXI HUAXIAN ANIMATION PRODUCTION が第1・3・6・7・9・11話、山本正嗣が第2・5・8話、第4話は韓国のスタッフ4名、そして第10話だけが石堂伸晴。第10話は、演出も作画監督もいつもの並びから外れた回だったことが、表にすると分かります。
同じ顔ぶれの回が、四話おいてもう一度来ました。演出の入れ替わりと合わせると、第10話からの並びは制作の都合で組み替えられた可能性もありますが、公式は理由を書いていないので、ここでは事実だけを記しておきます。
まとめ:「私はシヅカが好きだ」
冒頭で「獲物」と呼んだ相手を、リリーは締めで「好き」と言います。第11話は、その言い換えまでの一晩でした。
獲物から、好きな相手へ
除霊は済んだはずなのに、カムイは「電話の向こうに少し気になる気配を感じてな」と戻ってきて、「やはりお前か」と言います。リリーの答えは「私はシヅカが好きだ」。「それがお前の決断か」に続いて「消えてもらう」という言葉が置かれ、回は幕を閉じます。
夢の中の「この子は私の獲物なの」は、半分はもう告白だったのかもしれません。食べられなかったことで、リリーは食べる以外の理由でシヅカのそばにいることを選んだ。そう読むと、「もうお腹いっぱいだよ」がこの回の答えになっています。
この先の見どころ(予想)
ここからは予想です。精気を吸えないまま最後の機会を過ごしたリリーと、その気配を電話越しに感じ取ったカムイ。シヅカのそばに誰がいるのかをめぐって、二人が正面から向き合うことになりそうです。シヅカ本人がリリーの決断をどう受け取るのかにも注目したいところです。




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