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第11幕の副題は「鏡に映るもの」。鏡の迷宮でアリシアの前に立つのは、若い日の父マルゴだった。凍えた娘を背負って帰る父と、亡き母のいる温かな家が、アリシアを夢の中に引き止める。双子は姫に「もう一人の自分と向き合う」度胸があるかを問う。母が最期に残した言葉を思い出したアリシアは、「もう寒くないや」と試練に答えを出す。秘密の部屋では、クレンとヴォーデインが人の姿のまま対峙する。




副題「鏡に映るもの」と、二つの対峙
公式あらすじは、父の姿から始まる
第11幕の副題は「鏡に映るもの」。公式サイトのあらすじは「迷宮の中でアリシアが見たのは、最愛の父マルゴの若かりし日の姿だった」と始まり、倒すまで「この空間から出られない」ことを「これが鏡の迷宮、第二の試練だった」と書く。もう一方では「ルナの力を借りて秘密の部屋へと入っていったクレンはヴォーデインと対峙する」。この幕は、鏡の中のアリシアと、秘密の部屋のクレンという二つの対峙を行き来する。
「絶対に戦いたくないと考える存在と戦う」
第10幕の終わりに、この試練は「この鏡が映すのは、心から尊敬する存在の…姿だ」「絶対に戦いたくないと考える存在と戦う」と説明されていた。アリシアの前に現れたのは「父さん」だった。第11幕は、その相手と本当に剣を交えるところから始まる。
この幕を作った人たち
公式サイトの各話ページでは、脚本が小柳啓伍、絵コンテが齋藤徳明、演出が平田政宗、総作画監督が佐古宗一郎。作画監督には能海知佳ら7人が並ぶ。脚本は第1幕から第11幕まで、小柳啓伍が一人で書き続けている。総作画監督は奇数の幕を佐古宗一郎、偶数の幕を近藤奈都子が受け持つ分担で、第11幕もその並びのとおりだ。
秘密の部屋で、クレンとヴォーデインが向き合う
「入るときの条件は人の姿であることだな」
秘密の部屋に入ったクレンは「古代の遺跡か」「この空間はやはり特別な場所らしい」「領域の力が使える」と確かめ、そこにいたヴォーデインを見て「入るときの条件は人の姿であることだな」「だから貴様もその姿なのだろう」と読む。魔獣王同士の対峙が、どちらも人の姿のまま始まる。
「ただただどうでもよかったからだ」
ヴォーデインは「ここはお前のいるべき場所ではない」「私の邪魔はするな」と言い、クレンは「先に邪魔をしてきたのはそちらであろう」と返す。自分の領域について、クレンは「長年放置していたのは」「ただただどうでもよかったからだ」「だが領域外の者が手を出すのは」と言い切る。怒りの理由が、守りたいものへの執着ではなく、外から手を出されたことそのものに置かれている。
「王は永遠の書の支配下にあった」
ヴォーデインの側から明かされるのは、「ハイデンの王がなぜお前の討伐に動いたのか」だ。「王は永遠の書の支配下にあった」「長い年月を経て書の領域に入ったため」「防衛反応でそうせざるを得なかったのだ」「全ては永遠の意思」。かつてハイデンの王がクレバテス討伐に勇者を送り出したことが、王自身の意思ではなかったと語られる。アリシアがクレバテスと出会ったのも、その討伐隊の一人としてだった。
「言っていることとやっていることがあべこべだ」
ヴォーデインは「永遠の意思は滅んではいない」と繰り返す。クレンの指摘は「言っていることとやっていることがあべこべだ」「勇者伝承とやらを蘇らせようとする」。返事は「それこそお前には関係のないことだ」「後にその門の向こうの真の勇者とやらも葬る」「永遠が何なのかを探るのは」「それからだ」。第10幕でラスウェルも、なぜ今になって伝承と勇者の復活に手を貸すのかを問うていた。勇者を蘇らせる手伝いをしながら、その勇者も葬るつもりだという矛盾は、この幕でも解かれないまま残る。
父マルゴは、娘に「足を使え」と言い続ける
「こいつは本物の父さんじゃない」
鏡の迷宮でアリシアの前に立つのは、若い日の父マルゴだ。アリシアは「こいつは本物の父さんじゃない」「これは偽物」と自分に言い聞かせるが、返ってくるのは「足を使えと言ってるだろうが」「お前は特に腕力で剣を振っちゃだめだ」という、昔と同じ稽古の声だった。偽物だと分かっていても、言われる中身が本物の父の教えそのものになっている。「偽物が何で血を流すんだよ」という叫びが、その苦しさを表している。
「母さんも足は凄かったぞ」
稽古の合間に、父は「母さんも足は凄かったぞ」「挟まれて失神しかけたことがある」と笑う。「今のはいい一撃だった」「だが足がお留守だ」「これでお前は死んだ」「よし帰るぞ」「今日の修練はここまで」。母の話が、稽古の軽口の中に最初から混ざっている。
「寒いに決まってるだろう」
我に返ったアリシアは「なんだこれ」「何なんだこれ」「父さんを倒さないと」「この空間から」「出られないって」と焦る。そこへ父は「そんな格好」「寒いに決まってるだろう」「修行にしてもやりすぎだ」と言い、「家までおんぶしてやる」と背中を向ける。倒さなければならない相手が、凍えた娘を心配して背負って帰ろうとする。「大きくなったな」「父さんの背中は今も広いね」。
温かな家で、凍え死ぬ
「罰として3日間肉抜きです」
家では母が待っている。「火にあたれ」「温まる」。母は「こんな時間まで家事をサボって」「剣の修行なんて」「まったく親子そろって」「いつまでたっても子供なんだから」とあきれ、「アリシアは雪で凍えていたんだ」「休ませてやれよ」とかばう父に「そんなところに連れ出すあんたが悪いんでしょ」「罰として3日間肉抜きです」。「おい そりゃないだろ」「じゃ 4日間」。もういないはずの母との暮らしが、どこまでも昔のままの調子で続いていく。
「目にゴミでも入った」
泣き出したアリシアに、母は「どうしたの アリシア」「目にゴミでも入った」と顔をのぞき込み、「大丈夫 赤くなってない」と言う。涙の理由を知らない母の優しさが、そのままアリシアを家に引き止める力になっている。「それから寒いところへはもう行かない いい」「分かってるよ お母さん」。
「温かな夢に抱かれて」「凍え死ぬ」
家族の団らんに重ねて、「温かな夢に抱かれて」「凍え死ぬ」「アリシア・グレンフォール」という声が落ちる。第二の試練は、戦わせる試練である以前に、温かさの中で動けなくさせる罠になっている。第10幕でも、アリシアをフルネームで呼んだのは敵の側だけだった。
双子と姫は、鏡から目をそらさない
「一つの体に二つの人格」
別の場所では、双子が姫を連れて迷宮をさまよっている。「ここは鏡の世界」「閉じ込めたのは姫のもう一つの人格っつう話だろ」「一つの体に二つの人格」「切り離そうと思ってできるもんじゃないと思うぜ」「肉体の主導権が向こうにあるなら」「出ようと思っても出られないはずだ」。乱暴な口ぶりのまま、双子は姫が置かれた状況をいちばん正確に言い当てている。
「私の中の黒い想像を代弁する存在」
姫は「うすうすは気づいていました」と打ち明ける。幼いころの記憶には「ハチさんの羽をむしるとどうなるのかな」「やってみようよ」というやり取りがあり、「彼女は鏡の中の存在でした」「私の中の黒い想像を代弁する存在」だったという。見えなくなったのも「自分が成長したからだと」「勝手に思い込んでいました」が、「実際には私は彼女に度々支配され」「それに全く気付かず」。表の姫は、裏の姫を消えた過去ではなく、自分の中にずっといたものとして認める。そのうえで「私のことは構いません」「お二人だけで逃げてください」と言う。
「俺たちは鏡じゃない」
双子の返事は「逃げる何言ってんだ」「俺らが言いたいのはどっちが正解かっつう話だ」「鏡に背を向けんのか正面切って見据えんのか」。そして「鏡ってのはよ」「良くも悪くも真実しか映さねえ」「俺らは双子だ」「だから鏡があれば当然そこにも二人映る」「それが真実」「鏡写しだとガキの頃から言われてきたが」「俺たちは鏡じゃない」。鏡に二人映ることを認めたうえで、自分たちは鏡ではないと言い切っている。副題の「鏡に映るもの」に、いちばんまっすぐ答えているのはこの双子だ。
「嫌なら優劣をつけろ」
双子の過去では、父親が「鏡のようで気味が悪い」「家督を継げるのは一人だけだ」「二人はいらん」「いつまでも横並びなら」「放逐する」「嫌なら優劣をつけろ」と迫っていた。双子は「俺らは別々の道を歩むこともできた」「そうしなかったのは」「クソオヤジへのあてつけと」「双子だという真実を正面から受け止めるため」「二人でのし上がり」「クソオヤジの家督を奪い取ると決めた」。比べて一人を選べと言われた二人が、二人のまま上に行くほうを選んでいる。
「もう一人の自分と向き合う」
最後に双子は「あんたはどうなんだ姫様」「真実を正面から見据える度胸はあるか」と問い、「もう一人の自分と向き合う」度胸があるかと重ねる。姫にとっての鏡も、双子にとっての鏡と同じく、背を向けるか見据えるかの二択として差し出される。
勇者を目指した、本当の原点
「なんで私って勇者を目指してたんだっけ」
二度目の稽古で、父は「難しくてもやるんだ」「なるんだろう」「勇者に」と言う。アリシアの口からこぼれたのは「なんで私って勇者を目指してたんだっけ」。試練の側からは「完全な不正解ルートだな」「最も尊敬する存在がもたらす理想の姿を拒絶することなど不可能だったのに」「拒絶したところでそれも不正解」と言い放たれる。倒しても拒んでも不正解になるように、この試練は組まれている。
「憧れないものなどいない」
勇者になりたい理由を問われた父は、「人は皆」「心の奥底に」「勇者魂を」「子供の頃から読み聞かされた物語」「そして実際に勇者に選ばれた者たちの武勇伝」「憧れないものなどいない」と語り、母に「バカ言ってんじゃないよ」と一蹴される。父の語る勇者は憧れの物語で、アリシアの原点はそこにはなかった。
「私もいろんな出会いがしたい」
思い出の中で、母は勇者の物語を読み聞かせたあとに「勇者の物語どうだった」と聞く。幼いアリシアの答えは「すっごく強いところ」「それにそれに」「仲間でしょ」「それに王様」、そして「私もいろんな出会いがしたい」。幼いアリシアが勇者に惹かれたのは、強さだけでなく、物語の中の出会いの多さだった。
「いろんな出会いが待ってる」
その母は、長雨の日に命を落とす。最期に母が娘に残したのは「アリシアおいで」「あなたは大丈夫」「いろんな出会いが待ってる」「多くの出会いがある」「その道に向かって」「まっすぐ」「突き進んで」。勇者を目指した本当の原点は、母が最後に口にした出会いの約束だった。試練の側からは「思い出せなくてよかったのに」という声が漏れる。
「いいもんだね」「親孝行」
家に戻ったアリシアは、母に何かをしてあげようとする。「どうしたの急に」「いいでしょお母さん」「やってみたかったんだ」「じゃお願い」「いいもんだね」「親孝行」。亡くした母にできなかったことを、偽りの家の中で一つだけ済ませてから、アリシアは外へ出る。
まとめと考察
「もう寒くないや」
父に「待たせてごめん」と告げたアリシアは、「もう寒くないや」と言う。「やり残したことはないんだな」「ないよ」「楽しいこと」「辛いこと」「全部」「それがあってこその私だから」「何一つなかったことにはできない」。温かな夢で凍えさせる試練に、アリシアは夢の温かさではなく、辛いことも含めた自分の過去で温まって答えている。
「今のお前は俺よりも強い」
「ちょっと寂しいな」とこぼす父に、アリシアは「でも世界をもっと広げるためだから」「ほっておけない奴もいるし」と返す。父は「それは聞き捨てならないな」と言いながら、「戦うまでもない」「成長したな」「今のお前は俺よりも強い」と認める。倒さなければ出られないはずの父を、アリシアは剣を交えずに越えている。
「試練を強制終了する」
ところが試練の側は「始まりの町の書の正当後継者権限により」「試練を強制終了する」「お前には何も残さない」と、突破の結果そのものを取り上げにかかる。別の場所では、第二の試練が「ありのままの自分をすべて肯定して」「前に進むための戦いだ」と言葉にされている。褒美を取り上げられても、アリシアが持ち帰ったものは試練の外にある。
三つの鏡
この幕には鏡が三つある。偽りの家族を映すアリシアの鏡、もう一人の自分を映す姫の鏡、そして二人を映す双子の鏡だ。三つとも、映ったものを消すのではなく、映ったまま受け止めることで前に進んでいる。「俺たちは鏡じゃない」も「何一つなかったことにはできない」も、同じ向きの言葉だ。
クレンの側に残った問い
秘密の部屋の対峙は、この幕では決着がつかない。ハイデンの王を動かした永遠の書と、永遠を探りながら勇者伝承を蘇らせるヴォーデインの矛盾が残る。アリシアたちが自分の過去に答えを出した幕で、クレンの側の問いだけが次に持ち越されている。




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