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第12話の副題は「この一撃に愛をこめて」。公式のあらすじは、沈黙したハルゴンの背中を新汰が一人でよじ登り始めたところで切れている。意識のない黒絵が見ていたのは、パンケーキを分け合うだけのデートの夢だった。着られる服が一枚もないと泣く相手への返事が「もう着てるよ」「だから戻っておいで」で、副題の「一撃」はハートの形をした放射熱線だった。




副題「この一撃に愛をこめて」と、最終回のあらすじ
公式のあらすじは、登り始めたところで切れている
第12話の副題は「この一撃に愛をこめて」。公式サイトのあらすじは、アカエのビームを受けて「完全に沈黙するハルゴン」から始まり、街が壊されていく中で「新汰は一人、ハルゴンの背中によじ登り始めて」と、途中で切れる。怪獣同士の決着ではなく、人が一人で登り出すところがあらすじの締めになっている。最終回の紹介文が、いちばん大きな敵ではなく、いちばん小さな行動のほうで終わっている。
副題の「一撃」は、放射熱線のことだった
副題の「一撃」が何を指すかは、終盤まで分からない。ハルゴンが目を覚ましたあとに放つ熱線は、ハートの形をしている。愛をこめてという言い方が比喩ではなく、そのまま形になっていた。題に入っていた「愛をこめて」が、攻撃の見た目そのものを説明していたことになる。
十二本の副題で、動詞が命令でも宣言でもないのは珍しい
第11話の副題は「クロエVSアカエ」で、主人公の名前が入るのも「VS」が入るのも十一本目で初めてだった。その次に来たのが「この一撃に愛をこめて」だ。戦いの札を並べた題のあとに、その一撃の中身を説明する題が置かれている。対戦の題から、込めたものの題へ移って幕が下りている。
大地が引き受けた約束
「大地、赤石さんのこと好きか?」
崩れかけた足場から助け出された小学生に、南は名前を聞く。「名前は?」「大地」「俺は新田」と交わし、続けて「大地、赤石さんのこと好きか?」と尋ねる。返ってきたのは「好きだ!大好きだ!」で、そのあとに「俺、小学生だけど」と付け足される。助けた相手にまず聞いたのが、姉を好きかどうかだった。
「じゃあ、ライバルな」「認めてやる。助けてくれたしな」
答え方が対等だ。「じゃあ、ライバルな」と言われ、「認めてやる」と返る。第10話で「俺、子供じゃねえし」と言い、第11話で「俺小学生だけど、お前には絶対負けねえかんな」と言った相手が、ここでは助けられた側として同じ言い方をしている。張り合いの言葉が、そのまま受け入れの言葉として使われている。
「もし俺に万が一のことがあったら、赤石さんのこと守ってくれよ」
そして南が託す。「もし俺に万が一のことがあったら、赤石さんのこと守ってくれよ」。その場を離れようとしない南に、大地は「おい、何してんだ!早く来いよ!」と叫び、「姉ちゃんお前と喧嘩した後泣いてたんだぞ」「彼氏ならお前が守れよ」と続ける。最後は「だから」と言って送り出す。守ってくれと頼まれた小学生が、頼んだ本人を送り出す側に回っている。
一人でハルゴンの背中を登る
「ハルゴンは生きてる」「もっと近くで呼びかければ目覚めるかもしれない」
動かなくなったハルゴンの上に、南は一人で登っていく。理由は「ハルゴンは生きてる」「もっと近くで呼びかければ目覚めるかもしれない」だ。周りは「あんた何考えてんのよ」「何言ってんのいいから戻ってきなさいよ」と止める。根拠は確かめようがないのに、確かめに行く側だけが動いている。
中継のカメラは、彼が何をしているのか分からないまま映している
状況はニュースの中継としても流れる。「巨大生物の体の上に人がいるとの情報が入りました」と伝えられ、「こちらからはしっかりと確認できません」「彼の目的は一体何なのでしょうか」と続く。見ている人たちは「危ねえな」「もっとカメラ寄って」と言い、「てか怪獣王子に似てない」「いやいやまさか」と噂する。命がけの行動が、正体不明の映像として消費されている。
「本当に一瞬、気のせいじゃありませんわ」
信じる側もいる。ハルゴンの体が光ったと言い張る声に、周りは「え、どこ?」「どこも光ってないけど」と返す。それでも「本当に一瞬、気のせいじゃありませんわ」「本当ですのよ!」「ハルゴンはまだ生きてますのよ!」と譲らない。誰にも見えなかった一瞬を、見えたと言い切る人が残っている。
黒絵が見ていた夢と、行けなかったデート
「怪獣映画じゃあるまいし」
意識のない黒絵は夢を見ている。目が覚めて「夢?」「よかったー」とつぶやき、「最悪すぎだろ」「怪獣映画じゃあるまいし」と笑う。そこから「今日はみなみくんとデートの日だ!」と飛び起きる。怪獣であることのほうが夢だった、という順序で目が覚めている。
「みなみくんとシェアすればどっちも食べられるではないか!」
夢の中身は小さい。「バターズのパンケーキ楽しみだなぁ」と言い、「どっちにしよう」「決められないぞ」と迷い、「みなみくんとシェアすればどっちも食べられるではないか!」と思いつく。結論は「どっちも美味しいね!」「デートってすごいな」だった。世界を壊す怪獣の中で見ている夢が、パンケーキを分け合うところで満ちている。
「新しい服」「褒めてくれるかな」
準備も細かい。「2時間前に準備したかったのに」と悔やみ、「えっとリップにハンカチ財布」と数え、迎えに来た相手からは「ゆっくりでいいよ」と言われる。鏡の前で出るのが「新しい服」「褒めてくれるかな」だ。いちばん見せたかったものが、服だった。
「ごめん、行けない」
ところが玄関で止まる。「ご、ごめん…ミナミ君…」「ちょっとだけ待っててくれないか?」「すぐ戻るから!」と言って引き返し、「着替えなきゃ」を繰り返す。クローゼットを開けて「これだけあれば」と探しても、出てくる答えは「ごめん、行けない」だった。待ち合わせに間に合わなかったのではなく、着ていくものが無かった。
「一枚もないんだよ」に、「もう着てるよ」と返す
「私が着られるかわいい服」「一枚もないんだよ」
理由がようやく言葉になる。「だってないんだ」「私が着られるかわいい服」「一枚もないんだよ」。怪獣の体になってしまえば、服は入らない。会いたい気持ちと、会いに行けない体が、服という一点でつながっている。世界の危機の真ん中で、口から出たのは着る服の話だった。
「もう着てるよ」「だから戻っておいで」
返事は短い。「大丈夫」「もう着てるよ」「だから戻っておいで」。そして「パンケーキ食べに行こう」と続く。無いと言われたものに対して、無くていいとも、買ってあげるとも言わず、もう着ているという答えが返っている。足りないと言われたものを、数えずにもう足りていると言い換えている。
夢で見ていたパンケーキが、誘い文句として戻ってくる
この「パンケーキ食べに行こう」は、直前に黒絵が夢で楽しみにしていたものだ。夢の中で「どっちも美味しいね!」と言っていたものが、目を覚まさせるための言葉として使われている。夢の細部を知らないはずの相手が、その夢の続きを差し出している。
「大好きだよ」と、ハートの形をした一撃
「よかった」「ごめんね」「赤石さん」
目を覚ましたハルゴンは、体が再生していく。そこで漏れるのが「よかった」と「ごめんね」「赤石さん」だ。戦える体に戻ったことへの安心と、謝罪が同じところで出ている。待ち合わせに行けなかったこと、心配をかけたこと、怪獣として街を巻き込んだこと。そのどれに対する謝罪なのかは言われないまま、名前を呼ぶところで止まる。戻ってこられたことよりも先に、謝る言葉が出ている。
「ああ、ピンク色の世界だ」
視界の描写もはっきりしている。「ああ、ピンク色の世界だ」という一言のあと、放射熱線が撃たれる。その形がハートで、副題の「この一撃に愛をこめて」がそのまま画面に出る。周りの反応は「すげえぞ ハルゴン」「ハルゴン ありがとう」と、初めて怪獣を褒める形に変わる。ずっと怖がられてきた姿が、この一撃で街の側から名前を呼ばれている。
「大好きだよ」
撃つ前に叫ばれるのが「大好きだよ」だ。第7話で南が「俺、本当に赤石さんが大好きだ」と言い、第11話では黒絵が「早く、早く会いたい」と願っていた。同じ言葉が、今度は怪獣の大きさのまま、いちばん大きな声で出ている。ためこんできた言葉を、いちばん人間離れした体で言い切っている。
「私、怪獣なんだよ」
決着のあとも黒絵は引いている。「なんで、どうしてまだ笑ってくれるの」「私、怪獣なんだよ」と言い、離れようとする。返ってくるのは「行かないで」「もっと聞かせてよ」「赤石さんの話」「もっとたくさん」「一緒にいよう」「俺たち」だ。そして「棘だらけの体でもいい」「俺ちっとも痛くない」「飛び込んできてよ」「宇宙一かっこよくて」「宇宙一かわいい俺の彼女」と続く。怪獣でなくなることを条件にしない返事が、最後まで一度も揺れていない。
まとめと考察
「ずっと夢を見てる」「夢じゃない」
締めの言葉が対になっている。黒絵の「ずっと夢を見てる」「ミナミ君に出会ってから」に、南は「夢じゃない」と返す。冒頭で黒絵は怪獣であることを夢だと思って目を覚ましていた。夢だと思いたかったものが本当で、夢のようだと思っていたもののほうが本当だった、と順番が入れ替わる。
最後まで、同じ問題は残っている
人の姿に戻ったあとの会話も軽くない。「でもさすがに」「その格好は直視できないかな」と言われ、「落ち着いて」と返され、それでも「まずい」「私ドキドキすると怪獣になってしまうんだ」「どうすれば」と慌てる。締めは「赤石さん行こう」だ。解決していないことを解決したふりにせず、二人で持ったまま歩き出している。
十二本かけて動いたのは、体ではなく相手の言葉だった
この作品は、怪獣になる体質が治る話ではなかった。最終回でも体質はそのままで、変わったのは向けられる言葉のほうだ。服が無いと言われて「もう着てるよ」と返し、怪獣だと言われて「宇宙一かわいい俺の彼女」と返す。街の人たちも最後は「ハルゴン ありがとう」と呼ぶ。避難を呼びかける放送では、ずっと制圧すべき巨大飛翔生物として扱われていた相手だ。直らないものを直そうとせず、呼び方だけを変えていった十二話だった。




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