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湖に浮かぶ小島で一人暮らす魔女ロゼのもとに、ずっと片思いしている騎士ハリージュがやってきた。しかし彼の依頼は、よりにもよって誰かに使う惚れ薬を作ってほしいというものだった。嘘をつけない魔女の正直すぎる言葉、素材集めという精一杯の時間稼ぎ、そして4年前に恋に落ちた日の記憶まで、切なくも温かい恋の物語の幕開けとなる第1話を場面ごとに一つずつ丁寧に振り返る。




惚れ薬の依頼と、魔女の失恋
『どうも、好きな人に惚れ薬を依頼された魔女です。』がついに始まった。湖に浮かぶ小島で一人暮らす魔女ロゼのもとに、ある日やってきたのは、彼女がずっと片思いしている騎士ハリージュだった。しかも彼の依頼は、惚れ薬を作ってほしいというもの。第1話は、恋した相手から失恋を告げられたも同然の魔女が、それでも彼と過ごす時間を少しでも引き延ばそうとする、切なくて愛らしい幕開けだった。
「魔女は嘘をつけない」
物語は、ロゼの静かな語りから始まる。「魔女は嘘をつけない」。だからこそ魔女は人と離れ、別の生き物として暮らしてきた。魔女である母から生まれたロゼは、生まれたときから魔女だった。母は幼いころに亡くなり、一緒に暮らしていた祖母も4年前に世を去った。今は、森の奥深く、湖の真ん中に浮かぶ小島の庵で一人きりだ。
魔女の秘薬を求めてやってくるのは、どこか後ろ暗いものを抱え、身分を隠したがる人ばかり。そんな場所に現れた訪問者は、ロゼにとってありえない相手だった。嘘をつけないという魔女の性質が、冒頭でしっかりと示されたことで、この後のやりとりの一つひとつに意味が生まれていく。
森と湖に囲まれた庵の静けさ、ランプの灯り、薬瓶の並ぶ部屋。画面の美しさもあって、ロゼの孤独がしみじみと伝わってくる導入だった。誰とも深く関わらずに暮らしてきた彼女の日常に、一人の騎士が入り込んでくる。その変化の大きさが、静かな語り口からよく伝わってきた。
「惚れ薬を作ってほしい」
訪ねてきた男は、訳あって身分は明かせないという。けれどロゼは、彼を知っていた。王宮勤めのエリート騎士、ハリージュ・アズム。素直にその名を呼べたならどれだけよかっただろう、とロゼは胸の内でつぶやく。そして彼の口から出た依頼は「惚れ薬を作ってほしい」だった。
とっさに品切れだとかわそうとしたロゼに、ハリージュは、では作れるのだなと返す。嘘をつけない魔女は、作れないとは言えないのだ。しまった、と思ったときにはもう遅い。必要な素材は自分で揃える、代金はいくらでも払う、時間がかかっても待つ。こちらにも譲れない事情があると言う彼の真剣さに、ロゼは依頼を引き受けるしかなかった。
「こうして魔女は惚れ薬によって失恋した」。このナレーションの一言が、作品の題名とぴったり重なる。好きな人が、誰かを振り向かせるための薬を自分に頼みに来た。それは、自分の恋が叶わないと告げられたのと同じことだ。それでもロゼは、魔女として依頼を受けた。その切なさが、物語全体の色を決めているように感じた。
素材集めという時間稼ぎ
惚れ薬の素材集めが始まり、ハリージュは何度も庵を訪れることになる。そこには、ロゼのささやかな企みが隠されていた。
「お客様顔がいいから」
ハリージュが持ってきた素材を、ロゼは丁寧に確かめる。これほどきれいな状態のものは久々に見た、と感心しながらも、渡されるのは次の素材の注文だった。断崖絶壁にしか咲かない花の花粉、天から最初に落ちてくる雫。どれも手に入れるのに時間のかかるものばかりだ。
どうして一度にまとめて言えないのかと声を荒らげたハリージュは、すぐに大声を出して悪かったと謝る。不機嫌で威圧的で口が悪いのに、その声は優しい。思わず見とれてしまったロゼは、理由を聞かれて「お客様顔がいいから」と答えてしまう。嘘をつけない魔女の正直すぎる一言に、思わず笑ってしまった。
ハリージュは、ロゼが自分に片思いしていることはおろか、ロゼのことさえ知らなかったに違いない。ずっと前に、ロゼが勝手に一目惚れしただけ。世捨て人の魔女にできることは、せいぜい薬を手渡すまでの時間稼ぎ程度だ。素材を小出しにするのは、少しでも長く彼に会うための、ロゼなりの精一杯の抵抗だった。
時間稼ぎといっても、ロゼが嘘をついているわけではない。必要な素材は本当に必要で、ただ伝える順番を少しずつにしているだけだ。嘘をつけないという制約の中で、ぎりぎりの工夫をしているところが、いじらしくて愛らしかった。
「美しい男の溜息は薬の材料になりますから」
次にロゼが求めたのは、虹色のキリギリスの触角。それも、必ず満月の夜にとってこなければならない。満月は先週終わったばかりだとこぼすハリージュに、時間がないのなら仕方ありませんね、とても残念ですと返すロゼ。結局、ハリージュは引き受けてため息をつく。そこまでして振り向かせたい相手がいるのだと、ロゼは改めて思い知らされる。
それでもロゼは、次にため息をつくときはぜひ教えてください、と頼む。「美しい男の溜息は薬の材料になりますから」。ハリージュは絶対に言うものかと返すが、このやりとりがなんともおかしい。好きになってほしいなんて考えてもいない。ほんの少しでも覚えてもらえたら、それでいい。叶わない恋だと分かったうえでの、ささやかな願いが胸に残った。
ロゼのせりふは、正直さゆえに相手を戸惑わせるものばかりだ。けれど、その正直さこそがロゼの魅力でもある。顔がいいと言われて照れたような表情を見せるハリージュとの掛け合いが、切ない物語の中に軽やかな笑いを生んでいた。
「幸福だよ」
一方のハリージュは、騎士団の仲間から珍しくあくびをしていると指摘される。一晩中キリギリスを追いかけていたのだという。輪切りの玉ねぎを吊るして、食いついたところを引く。コツをつかむまでが大変だが、やってみると存外夢中になる。童心に帰った気分だと語るハリージュの姿が、なんとも微笑ましい。
そんな彼に、仲間は、もっと他に追いかけないといけないものがあるのではないかと問いかける。犯罪者か、と真顔で返すハリージュに、仲間はお前が追うべきものは「幸福だよ」と告げた。誰かいい人はいないのかと聞かれ、ハリージュは「ないな」と答える。
では、惚れ薬は誰のためのものなのか。好きな相手がいないのに惚れ薬を求める理由は、まだ明かされていない。ハリージュの譲れない事情が、この物語の大きな謎として残された。ロゼの失恋が本当に失恋なのかどうかも、この謎しだいなのかもしれない。
ティエンと、4年前の記憶
ロゼの暮らしには、もう一人、欠かせない人物がいる。祖母の代から付き合いのある、なじみの商人ティエンだ。
なじみの商人ティエン
桟橋に誰かが近づくと鳴る、ご先祖が作った魔法の鐘。その音に気づかなかったロゼを、ティエンは珍しいと笑う。ロゼが作った薬は、こすると温かくなる薬に、髪に塗ると若返る薬、頑固な鍋汚れを落とす薬。魔女の秘薬はもちろん、普段使いの薬を作るのがうまいと、ティエンはロゼの腕前を褒める。
魔女は魔女からしか生まれず、その存在だけでも貴重だ。今の時代、これほどの力を持つ魔女はそういない。「ロゼはもっと自信を持っていいと思うよ」というティエンの言葉には、幼いころからロゼを見守ってきた者の温かさがにじんでいた。
デートの前に首に振りかける薬を、かわいらしい瓶に詰めて売ろうと持ちかけるティエンに、ロゼは興味がないとそっけない。すっかりやさぐれてしまったと嘆くティエンが、自分をお兄ちゃんと呼ぶと、ロゼは10以上離れているのだからおじさんだと言い返す。気心の知れた二人の軽口が、ロゼの素顔をのぞかせてくれた。
ティエンが帰ったあと、ロゼは一人つぶやく。4年間もひっそりと片思いしてきた人が、愛する人に使う惚れ薬を求めてやってきた。やさぐれもする、と。その一言に、彼女の心の痛みが凝縮されていた。
「魔女も人には違いない」
片付けの途中で、ロゼは4年前のことを思い出す。祖母が亡くなってすぐ、調合の材料が尽きて、初めて一人で王都を訪れた日のことだ。いつも祖母に連れられて来ていたロゼは、一人では行きつけの店の場所もわからない。華やかな街の人々は、自分の情けなさを感じさせるだけだった。
そこで耳にしたのは、湖の魔女が死んだという噂だった。人々は、これで安心だと喜び合い、魔女の死に乾杯までしようとする。その時ロゼは初めて、魔女が死んで喜ばれるほど疎まれていたことを知った。祖母はずっと一人で、この悪意に耐えていたのかもしれない。幼いロゼにとって、それはあまりにもつらい現実だった。
その空気を破ったのが、ハリージュだった。人が死んで安心したとは胸くそが悪い。「魔女も人には違いない」。あんたらは魔女に何か悪さをされたことがあるのか。藍色のマントの騎士の言葉に、周りの客たちは黙り込む。誰も味方のいない場所で、魔女を人として扱ってくれた人。その日、ロゼは恋に落ちた。
決して手が届くことのない相手だと分かっていた。それでもこの記憶があったからこそ、ロゼは4年間ひっそりと思いを抱え続けてきたのだろう。ハリージュにとっては何気ない一言だったのかもしれないが、ロゼにとっては救いそのものだった。
「私は自分にさえ嘘をつけない」
そのとき、桟橋の鐘が鳴る。もしハリージュ様が今来たら、と慌てるロゼは、これまで彼が夜にしか来なかったことを思い出し、それはないと自分に言い聞かせる。別に他意はない、と言いかけたところで、その言葉が嘘になってしまうことに気づく。心をこんなふうに揺さぶられることに、ロゼは慣れていなかった。
4年前に抱えた恋心も、たまに一人で取り出して眺めては、いい思い出だったと振り返る程度だった。それなのに今は、鐘が鳴るたびに胸が高鳴り、そして怯える。ハリージュは自分に会いに来るのではなく、魔女に会いに来るのだ。それを理解しなければならない。届かなくてもいいと言えればよかったのに、「私は自分にさえ嘘をつけない」。この独白が、第1話でいちばん胸に刺さった。
まとめと考察
第1話は、嘘をつけない魔女ロゼが、片思いの相手から惚れ薬を依頼されるところから始まる、切なくも温かい恋の物語の幕開けだった。
嘘をつけない魔女の恋
嘘をつけないという魔女の性質は、ロゼの恋をいっそう苦しいものにしている。好きな人の前で気持ちを隠すことも、自分に言い聞かせてごまかすこともできない。けれど同時に、その正直さが「お客様顔がいいから」といったおかしな場面も生み出している。切なさと笑いが、同じ性質から生まれているのがこの作品のうまいところだと思う。
素材を小出しにする時間稼ぎも、嘘をつけないロゼにできる精一杯の工夫だった。叶わない恋だと分かっていても、少しでも長く彼のそばにいたい。その気持ちがいじらしく、思わず応援したくなる。
惚れ薬の行方
好きな人はいないと言うハリージュが、なぜ惚れ薬を求めるのか。その譲れない事情が明かされるとき、ロゼの失恋の意味も大きく変わるのかもしれない。4年前、魔女を人として扱ってくれた騎士と、その言葉に救われた魔女。惚れ薬が完成するまでの時間の中で、二人の関係がどう動いていくのかを見守りたい。
庵の静かな日常、ティエンとの軽口、そしてハリージュとのぎこちないやりとり。どの場面にも、ロゼという人物の不器用な優しさがあふれていた。美しい映像とともに、これからの物語をじっくりと味わっていきたい。
惚れ薬の素材は、まだいくつも残っている。ハリージュが次に庵を訪れる日を、ロゼと一緒に待ちたくなる初回だった。




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