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『世界最強の魔女、始めました』第2話「冒険者になってみた!」は、森を出たローナが最初の町イフォネにたどり着き、冒険者ギルドの門をたたく回。夢を諦めかけた青年を救う前半の感動話と、ローナを陥れるはずのギルドマスターが慌てふためく後半のドタバタ劇、その温度差が際立つ。膝に矢を受けた門番の奇跡、人生初の買い食い、そして規格外の力に怯えるエリミナまで振り返っていく。




第2話「冒険者になってみた!」
『世界最強の魔女、始めました』第2話「冒険者になってみた!」は、森を出たローナがついに最初の町イフォネへたどり着く回だった。膝の負傷で夢を諦めかけていた門番の青年との出会いと、ローナを陥れようと待ち構えるギルドマスターの動揺。無自覚に周囲を振り回す最強の主人公と、その規格外ぶりに右往左往する人々の温度差が、前半と後半でくっきりと描き分けられていた。場面ごとに振り返っていく。
止まれないブーツ
森の主を倒して手に入れたのは、移動速度が2倍になるスキル付きのブーツだった。ちょうど靴がぼろぼろになっていたからありがたく交換しよう、と軽い気持ちで履き替えたローナは、インターネットに便利と書いてあったのを見て試しにスキルを発動する。ところが、このスキルは解除するまで止まれない。早い早い早いと叫びながら森を爆走していく姿に、のっけから笑ってしまった。
レベルアップや装備変更で、速度のステータスはもともと大きく跳ね上がっていた。それがさらに2倍になったのだから、止まれないのも当然だ。強すぎる力を本人がまったく制御できていないという、本作らしいギャグが冒頭から全開だった。トリプルSランクの杖といい、あっさり手に入りすぎて感覚がまひしそうになると本人がつぶやくのもおかしい。
門番を辞める日
イフォネの町の門では、二人の門番が森の異変を眺めていた。森で何が起きているのか、門番にどうこうできる問題じゃない、冒険者だったら見に行けるかもしれないが。そう言いかけてすまないと謝る先輩のウォルに、若い門番は気にしないでくださいと返し、今日で門番を辞めることにしたと打ち明ける。
大好きな外の世界を見ていられるからこの仕事を選んだ。けれど、町に来た人たちから旅の話を聞くのが、つらくなってしまった。元宮廷の医者に見せても、膝は治らなかった。かつて二つ名でもてはやされた冒険者は、もう冒険者には戻れない。これからは家庭を持って、冒険者とは無縁の生活を。夢を諦めようとする青年の静かな決意に、思わず胸が詰まる。ここまでは、とても真面目な話なのだ。
先輩のウォルが、冒険者だったら見に行けるかもしれないと言いかけて謝る場面にも、二人の関係がよく表れている。後輩の事情を知っているからこそ、うっかり口にした言葉が傷つけてしまわないかと気づかう。そんな先輩に、気にしないでくださいと笑って返す青年の優しさが、かえって痛々しい。夢を失った人の周りにいる人たちの優しさまで丁寧に描いているからこそ、このあとの展開がより大きな喜びとして響いてくるのだろう。
膝に矢を受けてしまってね
石板とマナポイント
そこへ、昨日から森で天変地異が起きているというのに、よく無事にここまでと驚かれながら到着したのがローナだった。私は何もやってません、無実ですと反射的に答えてしまうあたり、自覚がないようで少しはあるらしい。身分証の代わりに石板に手を当ててもらうと、名前はローナ・ハーミット、レベル22。ベテラン冒険者並みのレベルに驚いた門番は、続いて表示されたマナポイントに言葉を失う。
慌てたローナは、たぶん石板の故障ですね、私はどこにでもいる普通の旅人なのでとごまかす。こんなステータスを持っていたら人間じゃないしね、と笑う門番に、そうですね、人間じゃないとうなずくローナ。本人が一番自分の異常さをわかっていないのに、話だけはきちんと合わせてしまうのが絶妙だ。門番は旅を続けるなら冒険者ギルドに入っておくといいと勧め、冒険者カードは身分証にもなるし、報酬から勝手に納税してくれるからうっかり脱税して捕まる心配もない、と妙に現実的な利点まで教えてくれる。
プチヒール
ずいぶん冒険者のことに詳しいんですねと言われ、青年は答える。「膝に矢を受けてしまってね」。昔は冒険者をやっていたのだと。その言葉を聞いた瞬間、ローナの目の前にサブクエストの画面が開く。インターネットで見た攻略情報どおりの展開に、ローナはいろいろ教えてくれたお礼にと回復魔法プチヒールをかけ、膝、よくなるといいですねと名前を呼んで去っていく。
なぜ僕の名をと首をかしげる青年が、ふと気づく。石板は壊れてなんかいない。足が痛くない、足が動く。「世界はこんなにも広くて」、風はこんなにも気持ちよかったんだっけ。僕はこの世界のどこにでも行ける、もっとずっと先、この地平の向こうにだって。涙を流しながら走り出す青年の姿は、正直に言ってこの回で一番感動的な場面だった。
「僕はまた冒険者になれるでしょうか」と尋ねる青年に、ウォルはなれる、なれるさと答える。神が治してくださったんだという声に、本当にそうだったのかもしれないなと応じる二人。ローナにとってはサブクエストの一つにすぎなかったことが、一人の青年の人生を丸ごと救っている。主人公の無自覚な善意が、誰かの奇跡になるという構図が、このエピソードを特別なものにしていた。有名なゲームのネタをそのまま持ち込んだ一言から、ここまで真っすぐな感動話に着地させる手腕も見事だった。
エリミナの憂鬱
人生初の買い食い
町に入ったローナは、名物のパイで人生初の買い食いを楽しむ。口の中にじわっと広がる果汁、濃厚な甘みと爽やかな酸味、さくさくのパイ生地。家では美味しいものを食べさせてもらえず、こんなふうに買い食いもできなかった。「旅っていいな」というしみじみとした一言に、屋敷に閉じ込められて育ったローナの過去がにじむ。
もっとも、パイを買ったせいで所持金はほとんど残らず、宿代もない。何かいい金策はないかとインターネットで調べたローナがたどり着いたのは、FX、仮想通貨、オンラインカジノ、ここをタッチするだけでお金がもらえる、スキルなしでも月収100万稼げる副業といった、どこかで見たような広告の数々だった。ネットの怪しい誘惑をそのまま異世界に持ち込む風刺の効いたギャグに、思わず苦笑してしまった。
目立たないように
気を取り直して素材の換金と冒険者登録に向かうことにしたローナは、とにかく目立たないようにしようと心に決める。ところが、ギルドの入り口で立ちはだかった冒険者は、止まれないブーツの勢いのまま吹き飛ばしてしまう。受付では、冒険者でもないのにこれだけの素材をと驚かれ、登録にはまず試験が必要だと告げられた。目立たないようにという決意は、到着早々に崩れ去っていた。
一方、ギルドではすでにローナを待ち構えている人物がいた。ギルドマスターのエリミナ・マナフレイム。消滅の魔女と呼ばれる彼女は、ググレカース家から、ローナ・ハーミットという娘が来たら試験で痛めつけてから落とせと命じられていた。Aランクスキルを発現させてもてはやされ、ググレカース家の専属魔術師に任命された過去を持つ彼女は、この世界ってちょろすぎと高笑いする。
エリートな人生
ギルドマスターなんかじゃ終わらない、ググレカース家に取り入って、ゆくゆくは大貴族まで上り詰めてみせる。最高にエリートな人生はここから始まるのよ、と宣言したあとの「よいしょ」という小さなかけ声に、思わず笑ってしまった。大物ぶっているのに、どこか小物感が隠しきれないエリミナのキャラクターが、この一言で見事に伝わってくる。
受験者たちを片っ端から不合格にしていたエリミナだったが、ローナが触れもせずにマナを測る水晶を破壊した瞬間、すべてが変わる。まさか、あれがローナ・ハーミット。違うと言って、お願いだから。ギルドの男たちがエリミナの機嫌を取ろうとローナに不合格を告げるのを、やめろ、私にヘイトを移すなと必死に止める姿は、完全にリアクション芸人のそれだった。ローナの規格外の力に気づいているのが、よりによって彼女を陥れるはずの人物だけという皮肉が、後半の笑いを支えている。
第2話のまとめ考察
二つの温度差
第2話は、前半と後半の温度差が際立つ回だった。前半は、膝の負傷で夢を諦めかけた青年が、ローナの何気ない回復魔法で再び冒険者を目指せるようになる、まっすぐな感動話。後半は、ローナを陥れるはずのエリミナが、彼女の力に怯えて右往左往するドタバタ劇。どちらもローナ自身はまったく自覚がないまま事態が進んでいくという点で共通している。
追放されたローナを敵とみなせば、ググレカース家の御用達である自分とも敵対していることになる。不合格にすれば殺されるかもしれない、合格させればググレカース家を裏切ったことになる。ありえない、私はエリートな人生を送るのよと頭を抱えるエリミナは、なんとかローナを不合格にしてもう二度と試験を受けないようにするため、黄昏の地下神殿での試験を決める。ダンジョンだとはしゃぐローナとの対比が、何ともおかしい。
主人公が強すぎる作品は、周りの人々の反応でこそ面白さが決まる。ラインハルテの涙も、エリミナの悲鳴も、ローナの規格外さを際立たせる鏡になっていた。無邪気な最強主人公に振り回される人々の喜怒哀楽こそが、本作の一番の魅力なのだと、この回で改めて感じた。
黄昏の地下神殿で、エリミナはどんな策を仕掛けるのか。そしてローナは、それを策とも気づかないまま、またしても予想外の結果を引き起こしてしまうのか。冒険者としての第一歩を踏み出そうとするローナの姿を、楽しみに見守りたい。
振り返れば、ローナにとってこの町は、生まれて初めて自分の意思で訪れた場所だ。門番と言葉を交わし、名物のパイを頬張り、ギルドの扉をたたく。どれも普通の旅人なら当たり前のことだが、屋敷に閉じ込められて育ったローナにとっては、一つひとつが新鮮な体験になっている。最強の力よりも、旅そのものを楽しむ気持ちこそが、ローナという主人公の原動力なのかもしれない。だからこそ、彼女の旅路の先で、次はどんな人々との出会いが待っているのか気になってしまう。




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