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サイツ州の大軍からいったん逃れたものの、陣地も兵糧も奪われたカナレ軍。アルスは敵の魔力水を減らすため、傭兵団シャドーのファムにある作戦を託していた。女装と地下保管庫を使った奇策、シンの技術とシャーロットの魔法が生んだ戦争の革命、そして最後の決戦へ。ファムの奇策、見えない敵陣への砲撃、そしてカナレ防衛戦の決着まで、第28話を振り返る。




第28話「終戦」はカナレ防衛戦が決着する回
『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる 第3期』第28話「終戦」は、サイツ州の大軍からいったん逃れたものの、依然として苦境に立つカナレ軍が、ついに反撃に転じる回だった。アルスがファムに託した作戦、シンの技術とシャーロットの魔法を組み合わせた新たな戦い方、そして最後に訪れる力と力のぶつかり合い。8万対2万8千という大きな劣勢から始まったカナレ防衛戦が決着し、アルスという人物の本当の怖さが敵将の口から語られる、第3期序盤の締めくくりにふさわしい一話だった。
奪われた陣地と残された希望
冒頭、7万の兵から一旦は逃げ切れたものの、設営した陣地は敵に取られ、置いてきた兵糧も奪われていた。よくない状況だと認めながらも、アルスはここまで粘ってくれたことに感謝しかない、と家臣たちをねぎらう。大型触媒機と魔力水を撤収しただけでも偉い、あれがなければシャーロットの魔法が使えず負けが確定していた、という言葉が、撤退の中にも確かな成果があったことを示していた。
敵軍は急いで渡河したため、サイツ州から物資を運びきれていない。補給が完了するまでは大々的に攻め込まれることはない。けれどそれも時間の問題で、魔力水が届き次第、敵は再び攻めてくる。そんな中でアルスが打った手が、傭兵団シャドーのファムへの依頼だった。敵の魔力水を減らす。魔力石がほとんど取れないサイツ州にとって、魔力水こそが戦力の要だった。
ファムと傭兵団シャドーの奇策
無謀な依頼と団長の覚悟
とはいえ、敵は7万。魔力水を失わせる方法は、輸送中を襲うか保管拠点を襲うかの二つしかない。だが輸送部隊には大勢の兵がついていて、保管拠点は守りが固い上に複数ある。とてもじゃないが無謀だ、断ったほうがいいと進言する団員に、ファムは「アルスの命令は絶対だ」と言い切る。あいつは俺たちならできると思ったから頼んだんだ、主人の期待に応えてやろうぜ。変わりましたね団長、と言われるファムの姿に、シャドーがアルスの家臣として一つになってきたことが伝わってくる。
そして、いいことを思いついた、とにやりと笑うファム。ここから始まる作戦は、まさにシャドーらしい大胆なものだった。団長自らが体を張って情報を集め、敵の組織そのものを内側から動かしていく。この作戦の発想の柔軟さこそ、傭兵団シャドーが他の部隊にはない強みを持っていることの証明でもあった。
女装したファムの情報収集
戦続きで若い女でもいないかとぼやく敵の兵士の隣に座ったのは、息をのむほど美しい女性。上に部屋を取ってあるの、よければ二人で飲む、と誘われて有頂天になった兵士だったが、部屋に入ったところで思わぬ事実に気づく。その美女の正体は、女装したファム本人だった。目つきの悪いメイドに扮して敵陣に潜り込む場面まで含めて、女装の天才ファムの活躍は今回いちばんの見どころだったと思う。
団長こいつの情報は十分取りましたぜ、という団員の報告に、さすが団長、大胆な策を思いつきましたね、と感心する声。当たり前だ、とうそぶきながら、あとはお前の仕事だと次の手を託すファム。シャドーの面々が互いに役割を分担し、一つの目的に向かって動いていく手際のよさが心地よかった。
地下保管庫という罠
一方のサイツ軍では、補給部隊を率いるラクトルのもとに、地下に補給拠点を作るべきだという進言が届く。シャドーという傭兵団が補給物資を狙って街中を嗅ぎ回っている、影魔法の使い手で奇襲されればすべての拠点は守れない、地下であれば見つかる可能性は下がり、複数の拠点をつなげば効率化も図れる。前線が有利な今、目立たない補給部隊が評価を上げるには斬新な案が必要だ、という言葉が決め手となり、ラクトルはこの案を採用する。
ところがこの地下保管庫こそが、シャドーの仕掛けた罠だった。向こうに作らせた地下保管庫に、こちらは別の場所から穴を掘り進めてつなげた、そうなれば魔力水なんて盗み放題だ。ラクトルは護衛は固いが考え方自体は柔軟で、軍での昇格を狙っているのが逆にあだになった。「盗んだもん勝ちだろ」と笑うファムが商人に化けて運んできた大量の魔力水に、カナレ軍の面々は目を丸くする。敵の物資を減らすどころか、そっくり奪ってきてしまったのだ。
自分は命令するだけで苦労も考えず、具体的な方法もすべて任せてしまった、と謝るアルスに、ファムは何言ってんだ、と返す。あんたらにできない無理な要望を聞くのが俺らの仕事だ、気にせず使ってくれ、どんな頼みでも答えてやるよ。もちろん、これだけ利益を出したんだからそれなりの報奨金はもらえるんだろうな、と付け加えるのも忘れないのがファムらしい。主従でありながら、互いを認め合う関係がここにはあった。
戦争の革命とカナレ防衛戦の決着
シンの飛行装置とシャーロットの砲撃
魔力水を盗まれたサイツ軍は大きく混乱し、補給部隊はしばらく機能不全に陥る。けれど敵は、こちらが知らない渡河地点を見つけて渡ってきた相手だ。時間が経てば必ず立て直してくる。叩くなら今しかない。そこでアルスが用意していたのが、シンの作った小さな飛行装置だった。触媒機から音魔法を地面に向けて発射し、反射してきた音を変換装置で読み取ることで、その場所の高度が分かる。強い反応があればそこに敵の陣地がある。
丘を挟んだ向こう側から、見えない敵陣を正確に狙い撃つシャーロットの魔法。なぜこんなにも正確に狙えるんだ、と動揺するサイツ軍。丘を挟むことでこちらの場所は見つからず、射程距離も伸びて遠距離攻撃が可能になる。「戦争の革命だ」という言葉どおり、技術と魔法の組み合わせが戦場の常識を覆していく。この戦略はアルスと考えた、という戦場に呼ばれたシンの言葉からも、アルスが一人の天才ではなく、人の才能を組み合わせる天才であることがよく分かる。
敵将の決断と鉄砲水
このままでは魔力水を消費するだけだと判断した敵将は、せっかく奪った陣地を即座に放棄し、全軍に撤退を命じる。武器も兵糧も捨て、最低限の装備でよい。これはあくまで一時撤退で、また後で何度でも取り返せばいい。陣地を手放す決断を一瞬で下せるのはさすがだ、とカナレ側にも言わしめる判断の速さだった。殿を自ら引き受け、カナレを占領してアルス・ローベントを手に入れたい、と語る敵将の野心も不気味に響く。
しかしアルスの読みは、さらにその先を行っていた。敵軍の大半を撤退させたうえで川を氾濫させ、本体と残された部隊を分断する。鉄砲水によって陣地に取り残された2万の軍は、前に出ざるを得ない。これまでは戦術が中心の知恵比べだったが、最後は力と力の真っ向からのぶつかり合い。敵ながら素晴らしい作戦だ、そして恐ろしいのはそれを完遂させる力を持つ敵将アルス・ローベントだ、という敵の言葉が、この戦いの本質を言い当てていた。
アルスに迫る刃と勝利
決戦の中、ボロッツは自らアルスの本陣へ迫る。あの子供がアルス・ローベントか、その首頂戴する。間一髪の危機を乗り越えたアルスに、駆け寄ったリーツは心配で取り乱していた。もしもアルス様を失ったらリシア様に申し訳が立たない、亡きレイブン様との約束も反故にしてしまう。そんなリーツに、アルスは心配をかけたと謝りながら、リーツさんがくれたものだから、きっと僕を守ってくれると信じたんです、と答える。リーツとアルスの絆が、最後の最後で命を救ったのだ。
こうして、8万対2万8千という大きな劣勢から始まったカナレ防衛戦は、一致団結した勇猛な戦いによってアルス軍の勝利で幕を閉じた。まさか本当に勝てるなんて、という家臣の声には、ここまでの戦いがどれほど苦しいものだったかがにじんでいる。撤退するボロッツを追うブラッハムの姿も含めて、前話で心を一つにした家臣たちが最後まで奮闘した勝利だった。ムーシャよくやった、とねぎらわれる場面もあり、新たに加わった家臣たちがそれぞれの持ち場で役目を果たしたことが伝わってくる。もしもアルスを失っていたら、という不安と隣り合わせの戦いだったからこそ、この勝利の重みはひとしおだった。勝ったあとに見せた家臣たちの安堵の表情も、この長い防衛戦の締めくくりにふさわしいものだった。
第28話のまとめ考察
アルスを取り巻くすべてが規格外
第28話は、アルス個人の才覚ではなく、アルスが集めた人材の力で勝ち取った勝利を描いた回だった。ファムの奇策、シンの技術、シャーロットの魔法、ブラッハムやムーシャたちの奮闘、そしてリーツの忠誠。鑑定スキルで見抜いた才能を、それぞれが最大限に発揮できる場所へ配置していく。それこそがアルスという領主の本当の強さなのだと思う。人を見る目と、人を信じる心。その両方があってこそ、この劣勢は覆せた。
戦いのあと、敵将はこう分析する。驚異的なレベルの魔法兵、常識では考えられない謎の攻撃、優秀な将兵、そしてそれらを使った作戦の数々。総督はアルス個人だけに注目していたが、それを取り巻くすべてが規格外だった。奴を生かしておいてはいけない、いずれは大陸全土にとてつもない影響を与える男になる。敵にここまで言わせたアルスの成長と、この勝利がサマフォース大陸にどんな波紋を広げていくのか、第3期のこれからがますます楽しみになった。
また、今回はファムという人物の魅力が存分に描かれた回でもあった。独立した傭兵団だった頃なら断っていたかもしれない無謀な依頼を、主人の期待に応えるためだと引き受ける。女装で敵の兵士を手玉に取り、敵の補給部隊の幹部に地下保管庫を作らせ、その下から穴を掘って魔力水をそっくり奪う。報奨金の話もしっかり忘れない抜け目のなさまで含めて、ファムは今やアルス軍に欠かせない存在になっている。シャドーという傭兵団がアルスのもとでどう変わっていくのかも、これからの楽しみの一つだ。




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