この記事の作品:
第7話のサブタイトルは「Lv7 出会いは人を変える」。ついに開いたカジノは、初日こそ人であふれるのに、一週間の利益はたった15ゴールド。そしてもう一方では、パルナが魔族を憎むようになった理由が、師匠と過ごした日々ごと明かされる。同じ副題が、正反対の二人にかかっている回だった。




開店直前に持ち込まれたトラブル
足りないのは、最高級の酒だった
第7話はカジノの開店当日から始まる。ただし景気のいい場面ではなく、タカコが「それより、トラブルなの」と鏡をつかまえるところからだった。呼ばれたデビッドが状況を整理する。「なるほど、お酒の数が足りないのですね」。
鏡の「行商人から買ったらどうだ」は、あっさり却下される。「カジノで扱うのは最高級のお酒。数も必要だからそうはいかないの」。そのうえでタカコは「私の確認漏れよ、ごめんなさいね」「どうしたらいいのかしら」と自分の失敗としてはっきり認めてしまう。店を仕切っている側が言い訳を挟まないので、この短いやり取りだけでタカコの働き方が伝わってくる。
答えを出したのはデビッドだった。「おそらくですが、王都の酒蔵で取り扱っている高級酒をサルマリアへ運ぶ荷馬車が、そろそろこの近くを通るはず」「彼らに交渉を持ちかければ、あるいは」。開店を目前にして詰んだはずの問題が、通りかかる荷馬車一台で解ける形になっている。開幕からいったん落として持ち上げる作りで、この回がカジノをきちんと一本の商売として描くつもりなのが分かる。
なぜ日程まで知っているのか
ただし、鏡はそこで感心しない。「なんでそんなこと知ってるんだ」と、助け船のほうを疑いにかかる。デビッドの返事は「こんなこともあろうかと、事前に調べておいたのですよ」「実際通ってくださるかは分かりませんが」で、手回しが良すぎることを隠しもしない。
鏡の内心が続く。「確かに貴族が多く、競争の激しい王都を避け、各地へ酒を運ぶことはあり得るだろうが」「ただの召使いが、なんでその目的地や通り道、日程まで知ってるんだ」。理屈としては成立する、だが一人の使用人が把握できる範囲を超えている、という二段構えの疑い方が丁寧だった。
アリスが無邪気に「鏡さん、デビッドさんがいてくれてよかったね」と言い、鏡が「まだしばらくは、様子見だな」と返す。助けられれば助けられるほど怪しくなる、というねじれた関係が、この時点でもう出来上がっている。ここを最初に置いたおかげで、後半の判断が単なるお人よしに見えなくなるのがうまい。
開店初日と、変わったクルル
やっぱり客がいてこそのカジノだな
開けてみれば、初日は人であふれた。「やっぱり客がいてこそのカジノだな」という一言に、前回まで従業員すら足りていなかった店とは思えない絵が乗る。テーブルが埋まり、声が飛び交い、「結構様になってるな」と言われるだけの形になっていた。
客席で名前を呼ばれているのはアリスだった。「アリス様」「アリス様、私に癒しを」と拝まれながら、本人は「お待ちどうさま」と「豚肉のサルマリア風煮込みと、チョコレートパフェ」を運んでいる。魔族の少女が人間の客に拝まれている構図なのだが、誰もそれに気づいていない。この回の後半を知ってから見返すと、ここがいちばん危うい場面でもある。
衣装を配って回るタカコの「着せましょう、着せましょう」「実はこっちの服も着て欲しくて用意しておいたの」も、止まる気配がない。そこへ「カジノに礼拝堂なんて作っても、誰も来ないって」というティナ絡みの小ネタまで挟まる。開店初日の浮かれ具合を、台詞の密度だけで見せてくるのが気持ちよかった。
ずいぶんと雰囲気が変わられましたな
その賑わいの端で、デビッドがクルルに声をかける。「クルル様、ずいぶんと雰囲気が変わられましたな」。続けて「昔は何かに縛られるように、魔族を倒すこと以外には興味を示しませんでしたのに」「今は自ら興味を抱いて接していらっしゃる」。クルルが生まれる前から王家に仕えている人物の言葉なので、比べている過去の幅がとにかく長い。
クルルは「そ、そうじゃないけど」としか返せない。デビッドはそこを追わずに「鏡様も含め、いろいろな方との出会いが、クルル様を変えたのでしょう」とまとめる。そして「出会いは人を変えるわ。よくも悪くもねえ」という一言が置かれ、デビッドは搬入物を受け取りに行くと言って場を離れていった。
サブタイトルがここで、しかもいちばん明るい場面で出てくる。しかも「よくも悪くも」と、わざわざ反対側の可能性まで足してある。この時点では誰のことか分からないまま流せるのだが、回想が終わったあとに思い出すと、この一言だけが後半をまるごと予告していたことになる。置き方として、かなり意地が悪くて好きだった。
角を見られた日
魔族だなんて一言も言わなかった
空気を変えたのはメノウだった。「悠長なことを言っている場合ではないぞ、鏡殿!」「一刻も早く、この地を離れましょう」。レックスも「どうする、師匠」「メノウの話が本当なら、僕たちだってただじゃ済まないはずだ」と身構える。その場でひとりだけ事情を知らないのがアリスで、タカコが「アリスちゃんは、まだ事情を知らないのよ」と間に入っていた。
鏡が「アリスの監視か…」とつぶやき、「どうしてそう思うんだ?」と本人に確かめる。アリスの答えがこの回のいちばん重い一行だった。「え? さっき、デビッドさんに角を見られたんだ」。そしてすぐに言い足す。「魔族だなんて一言も言わなかった」「知ってて、黙ってくれているみたいだったんだ」。
実際、デビッドが王へ宛てて書いていた報告は「今のところ、連中とレックス様、クルル様に不審な行動は見当たりません」で、アリスのことは一行も入っていない。見ておいて、書かない。この人物が味方なのかどうかを、台詞ではなく報告書の中身で見せてくるのが上手かった。メノウが「そもそも、クルル殿の監視が目的なら、カジノの手伝いをする必要も、常に我々に付きまとう必要もない」「そうするには理由があるはず」と詰めるのも、まったく正しい。
アリスが信じるなら、俺は全力でサポートする
メノウは折れない。「やはり! 今すぐ逃げましょう!」に対して、タカコが「落ち着きなさいって!」「ここで二人だけになると、逆に怪しまれることになるのよ!」と押しとどめる。それでもメノウは「報告されてからでは遅い!」「次の報告書で伝える可能性もある!」と食い下がった。
鏡が出したのは「かばってくれている可能性もあるんじゃないか?」という読みで、メノウは即座に「かばう? 理由は」「王都からわざわざかばいに来たわけではあるまい!」と返す。鏡も「まあ、それはな…」と認めてしまう。ここで鏡を言い負かさせているのが誠実で、つまり彼は反論できないまま、それでも結論を変えない。
出した答えが「監視されてるなら、逆にこっちが監視してやろう」「報告されたらまたその時に考える」。そしてメノウの「しかし、鏡殿!」を受けて言うのが、「アリスが信じるなら、俺は全力でサポートする」「それが魔族と人間の共存にも繋がるはずだ」だった。自分がデビッドを信じるとは一度も言っていない。アリスの判断を信じる、という形にずらしてある。
メノウの引き下がり方も良かった。「了解した。それがアリス様の意向なら」。最後まで納得はしていないが、仕える相手の意思なら通す、という筋の通し方だった。タカコが「デビッドさんの監視は私がやるわ」と引き受け、「それから一週間。デビッドがアリスについて報告することはなかったわ」という語りで場面が閉じる。一週間ぶんの疑いを一行で片づけたところが、この作品らしい省略の仕方だと思う。
パルナと師匠の日々
本、嫌いなのかい?
ここから王都に場面が移り、パルナの回想になる。始まりは「あの日も私は、この好きではない場所へ通わされていた」「魔法のための知識や見聞を広げるため」という、本人の意思がどこにもない一日だった。つまり彼女もまた、与えられた役割に閉じ込められていた側である。
そこへ声がかかる。「本、嫌いなのかい?」「だったら、これを読むといい」。「誰、あんた」と警戒する彼女に返ってきたのは「君と同じ。無理やりここに通わされてるものだよ」「図書館は魔法を覚えるためだけの施設じゃないからね」。命令で来ている場所を、命令の外側にある場所として説明してみせたわけで、この一言でパルナが変わってしまうのは納得しかない。
相手の描写は「二つ年上で頭一つ背が高い」「本の読みすぎで眼鏡が手放せない」「優しい笑顔を浮かべる人」。そして「その日以来、私は図書館がそんなに嫌いではなくなった」と続く。彼は「知識と魔力を操作する技量が飛び抜けていただけでなく」「気になったことは片っ端から調べに行った」人物で、パルナは「私はそんな彼をいつしかこう呼ぶようになっていた」と言う。この回で何度も出てくる「師匠」という呼び方は、彼女が自分で選んだものだった。
結果はあっけなかった
回想は、そのまま破局へ向かう。「師匠は理想を語り、それを実現するために行動していた」「だがそれは長所でもあり短所でもあった」という前置きが、先を全部言ってしまっている。
彼が言い出したのは魔族との交流だった。「お互いの持つ知識を共有し合うんだ」「二つの種族が手を取り合えば、今よりずっと豊かで暮らしやすい世界になる」。パルナの「魔族のことが知りたいなら、他にも方法があるでしょ」に対しても「時間をかけて理解し合わないと分からないこともあるだろ」と譲らない。彼女は「私は反対し続けたが、諦めさせようとはしなかった」「私自身が師匠に可能性を感じていたのかもしれない」と振り返る。
そして師匠は本当にやり遂げてしまう。何度も通い、魔族に受け入れられ、「みんな、ありがとう。本当にいろんなことを教えてもらったよ」「今度は人間のことを知ってほしい」「人間の村に招待したいんだ」「絶対に危害は加えない。信じてほしい」まで届かせた。魔族の側も「彼を信じよう」と応じている。交流の地に選ばれたのは、王都に近く、魔族への反感が薄かった彼女の故郷だった。
その先を、この回はほとんど描写しない。「結果はあっけなかった」。この一行と映像だけで、招き入れた村ごと、師匠ごと失われたことが分かる作りになっている。「危害は加えない」という言葉が直前に置いてあるぶん、説明が無いことがそのまま効いていた。続く「私一人の力ではどうにもならなかった」が、彼女がその場に居合わせたことまで教えてしまうのもきつい。
そこから先は復讐の話になる。「でも出会ってしまった」「勇者と賢者」「魔族と戦うことを宿命づけられた二人も」。パーティーへの合流すら、彼女にとっては手段だったことになる。そして「たとえ世界の仕組みが神様のせいだとしても、私の大切なものを奪った事実は変わらない」。この作品はずっと世界の仕組みのほうを疑ってきたのに、パルナだけがその逃げ道を自分で塞いでいる。締めの「返してもらうわよ、村人」で、狙いが鏡に向いていることまで明示された。
「Lv7 出会いは人を変える」まとめと考察
一週間の利益が15ゴールド
カジノに戻ると、数字が出ている。「売り上げが圧倒的に足りない」「一週間の利益がたった15ゴールド」。理由もはっきりしていて、「市民は低レートで遊ぶ人がほとんどだし」「貴族は初日しか来てくれませんでしたからね」。初日の大盛況が一週間もたなかったという落とし方が、妙に生々しかった。
来なくなった理由も容赦がない。貴族の側の「豚の匂いがするぞ」「庶民なんぞと遊べませんわ」である。これにはデビッドも「あの方たちは自らは何も果たそうとしないのに、プライドだけは高いですからね」「民あっての国なのに」と吐き捨て、「まさかここまで貴族が一般市民を嫌うとは思っていませんでした」「私の想定不足です」と自分の読み違いを認めた。王家に仕える人間がこの言い方をするのは、それ自体が情報になっている。
鏡の対応は「言っても仕方がない」で切り替えが早い。貴族向けの特別な部屋を用意する案を出しつつ、「あとは俺がモンスターを倒しまくって足しにする」「問題はどこで稼ぐかだ」と稼ぎ口の話に移る。メノウにレアモンスターを量産してもらう案も出るが、そもそも生み出す仕掛けの在り処が分からず、一定数を出すと砕けて、再生してもどこに現れるか分からない。魔力を吸収するのにも時間がかかるため、鏡は「結構非効率なんだよ」と退けていた。
ダークドラゴンという幻
そこで名前が挙がるのが、前回の引きでアリスが思い出していたモンスターだった。「魔王と同等かそれ以上の力を持つとされる最強のモンスター」で、鏡いわく「書物に記録はあるが、実在するか分からない幻の存在だろ」。アリスの「倒せたらどれぐらいのお金になるのかな」に、鏡は「お金は強さに比例して増えるから、本当に最強なら相当な金に」と乗ってしまう。
止めたのはメノウだった。「やめておいた方がいい」「書物にはレベル500とあるが、それは基準的な強さで、モンスターの性質や特性によって大きく変化する」。鏡の「分かってるよ、それぐらい」に「分かってないだろ」と食い気味に返したうえで、「ダークドラゴンの強さはおそらく魔王様に匹敵する」「魔王様ご自身がそうおっしゃっていた」と明かす。「そもそも我々魔族すら近づいてはないから」まで付くので、危険度の説明としては十分すぎる。
それでも鏡は行く。理由が三段になっているのが良かった。「1万ゴールドがなければ魔王は助からないし、また戦争になる」「そうすれば目指すべき魔族と人間の共存は実現できない」がまず一つ。次に「今回の件で思い知ったよ」「この世界は金がなければ何もできない」。そして最後に「それに、幻と言われてる存在にも単純に会ってみたいんだよね」。カジノで赤字を出した回の結論が「金がなければ何もできない」なのは、話としてきれいにつながっている。
連れて行くのはレベル176のメノウだけ。レックスもクルルも同行を申し出て、クルルは「私も行きます」「修行もつけてもらう、そういう条件ですから」と食い下がるのだが、鏡は「今回のダンジョンは何があるか分からない」と譲らなかった。アリスにも「カジノだって大切だ」「アリスはカジノの手伝いを頑張ってほしい」と留守番を頼んでいる。
見送りの支度がまた賑やかで、ティナの「メノウさんは歯ブラシは持ちました?」「食料は?」「ポーションは?」「あー、足りない!」「これじゃ足りない!」が止まらない。「メノウさんは武器は持たなくていいんですか?」にはメノウが「魔法があるから必要ない」と即答していた。鏡の「ダンジョンは王都の近く。せいぜい1ヶ月で戻ってくる」も軽い。重い回想を挟んだ直後にこの温度差を持ってくるのが、この作品はうまい。
愛らしさは武器ですぞ
出発前、アリスが「鏡さん、カジノの手伝い以外にやっておいてほしいことはないの?」と聞く。答えが「うーん、健康でいることかな」だった。続けて「今の俺がいるのはアリスのおかげだ」「お前に何かあってみろ」「俺のやる気ゼロになっちゃうって」。戦力としてではなく、いてくれること自体を頼まれているのが伝わる言い方だった。
そのうえで鏡はデビッドを呼び、「留守の間、アリスのことを頼もう」と言う。疑っている相手に、いちばん見られたくないものを預けたことになる。デビッドの返事も「その願い、我が誇りにかけてお受けいたしましょう」で、受け方に一切の含みがない。ここまで来ると、彼を疑い続ける理由のほうが薄くなってくる。
締めはその二人の会話だった。「随分と不満そうですな」と言われたアリスが「みんなのように鏡さんの役に立ってないのかな」とこぼす。デビッドは「鏡様もおっしゃっていましたが、アリス様の存在そのものが皆様のお力になっているのです」と返し、「私たちのようにサポートするだけが役に立つ方法ではありません」「時には独自の方法を提案したり、気づかず成果を上げることで、鏡様だけではたどり着けなかった道へ導くことも」と続けた。客だってアリスにねだられればつい買ってしまうでしょう、「愛らしさは武器ですぞ」という例えまで出てくる。
そして「他にも、レックス様、クルル様のように、少しでも自分の能力を上げるよう努力することも」「決して今できることだけが大切なのではないのですよ」。アリスが「そういうことを増やす努力をすればいいのかな」と言い、デビッドが「私もサポートさせていただきます」と受ける。角を見て黙っていた人物が、最後にはアリスの伸ばし方まで一緒に考えている。疑いの答えを台詞で出さずに、行動だけで積み上げていく描き方が今回はずっと続いていた。
こうして並べると、副題は三重にかかっている。デビッドに「ずいぶんと雰囲気が変わられましたな」と言われたクルルは、出会いによって良いほうへ変わった側。師匠を失ったパルナは、同じ出会いによって反対側へ振り切れてしまった側。そして留守を預けられたアリスとデビッドは、これから変わる側だ。だからこそ、賑やかなカジノの中で流れた「よくも悪くもねえ」という一言が効いてくる。
同時に、危険な配置でもある。鏡は1ヶ月ダンジョンに潜り、残るのは魔族だと知られたアリスと、正体の読めない使用人。そこへ「返してもらうわよ、村人」と決めたパルナが向かってくる。カジノの数字も、ダークドラゴンも、パルナの回想も、全部「鏡が街を空ける」という一点に集まっていた。第7話はにぎやかな回に見えて、その実いちばん静かに盤面を組み替えていった回だったと思う。




関連作品:




















コメント