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第6話のサブタイトルは「嫌なら俺は逃げるだけです」。誰もが逃げ出す王国で、リオンが自分から総司令官の座を取りに行く話である。そして後半、父バルカスが動き、マリエが全部ぶちまけたその先で、二期六話にしてようやく二人が気づく。




誰もが逃げる国で、一人だけ手を挙げる
守護神を呼んだ代償と、退がる辺境軍
第6話は公国側から始まる。王都へ向かう艦隊の中で交わされるのは姫の容体の話で、「かなり消耗が激しく、ご自分で立つことさえ」「生きておられるのが不思議なくらいですよ」「あの守護神様たちを呼び出してくれたのですから」。前回あれだけの力を出したヘルトラウダが、そのまま無事でいられるはずもなかったわけである。
対する王国側は、もっと寒々しい。「辺境軍です」「蹴散らしなさい」と告げられた先で、その辺境軍が戦わずに退がっていく。「しかし、我々が逃げれば…」という声に返るのは「これまで王宮からどんな目に合わされてきたと思ってる」「我々に戦う義理はない! 逃げろ!」だった。敵が強いから負けているのではなく、そもそも戦う気のある人間が国の中にほとんどいない。開幕十数行でそこまで見せてしまうのが手際いい。
「総司令官ってやつをね」
そんな状況で、リオンが動く理由がまた彼らしかった。「このまま王国の民が死んでいくのは、さすがに気分が悪いですからね」「大勢が死ぬと分かってて、黙って見ている趣味はありません」。ここまでは真っ当なのだが、そこに一言足すのを忘れない。「それに、男の子なら一度くらいは経験してみたいじゃないですか。総司令官ってやつをね」。
立派な動機だけで終わらせないのがこの主人公の型で、本音の半分をわざと軽い言い方に混ぜてくる。前回、逃げるという選択肢を最後まで手放さなかった人が、今度は自分から一番面倒な椅子を取りに行く。しかもその椅子を、やりたいから欲しいという顔で欲しがるのが実に良かった。
「嫌なら俺は逃げるだけです」
信用も実績も足りない男の交渉
ミレーヌの反応は冷静そのものだった。「総司令官ですか」「正直、信用と実績があまりにも足りません」「あなたを推薦すれば正気を疑われます」。学生が全軍の頭になるという話なので、当然の返しである。そこへ置かれたのが、今回のサブタイトルそのものの一行だった。
「嫌なら、俺は逃げるだけです」。続けて「俺以外に、適任者がいますか?」。脅しでも自慢でもなく、事実の確認として言っている。誰も引き受けないと分かったうえで、引き受ける代わりに条件を出しているのだから、これは交渉である。前回さんざん逃げる逃げないで揺れていた人が、その揺れをそのまま取引の材料に変えてしまったのが上手い。
王家の船と、王妃が話すと決めたこと
要求の中身は具体的だった。「今のままでは公国軍に近づくこともできません」「それを打開するために王家の船が必要です」。ミレーヌの「どうして、あなたが王家の船のことを知っているの?」に、「建国の原動力、そして王国の切り札ですよね」と即答してみせる。「あの船はそう簡単に動かせないわ。ロストアイテムよ」「私と陛下では動かなかったのよ」という返しに、「ユリウス殿下とマリエを使います」「他の4人も集めてください」。
処刑を待つ身だと言われても引かない。「なら、罰を受けさせる前にあいつらに王家の船を動かしてもらう」「そこにリビアを乗せるしか勝ち目はない」。勝てるのかと問われれば「勝ちます」。王宮で最大派閥を率いるフランプトンが黙っていないだろう、味方は少ないと釘を刺されても「それでもやるしかないと思いますけど」。ミレーヌは折れて、「でも、ちゃんと帰ってきなさい」とだけ付け加えた。
そのあとの一言が引っかかる。「いくら自業自得とはいえ、他の騎士にもあなたのような忠誠心があればよかったのに」。自業自得という語に反応したリオンへ、地方貴族に負担を強いてきた現状が挙げられ、王妃は「リオン君には全てお話ししましょう」と腹を決める。国が滅びかけている理由を、敵ではなく自分たちの側に置いた場面で、ここは次回以降に効いてきそうだった。
友情という名の力
逃げ支度を始めた学園
リオンは「味方が少ないのは、戦力に期待できないのは分かってる」「でも大丈夫だ。そう、俺には友情という名の力がある」と胸を張る。ところが向かった先の学園は、すでに逃げ支度の真っ最中だった。「俺たち、戦争が怖くて隠れてたんだよ」「貴族や騎士だって大勢逃げてる」「こんな王国のために戦えるかって」「早く実家が迎えに来てくれないかな」。
「おまえら! 貴族の誇りはどうした!」と叫んでも誰も動かない。それどころか「リオンも諦めなよ」「公国って男のほうが立場強いらしいぞ」「マジで? 公国に忠誠誓う」と、寝返る算段まで始める始末。冒頭の辺境軍と同じ理屈が、学園の中でも繰り返されている。
飛行船の売買契約という人質
ここでリオンが取り出したのが、一枚の紙だった。「これを見ろ!」「飛行船の売買契約?」「それがどうしたの?」。そこから畳みかける。「お前ら、俺から飛行船を受け取ったな」「お前らの飛行船は俺の実家の工場でしか整備できないのは知ってるよな」「あれがないと困るんだろ?」「せっかくの船を手放すのか?」「婚活でも大きなマイナスになるぞ」。
さらに逃げ道も塞ぐ。「俺は公国と戦う」「俺から戦力供与を受けてたお前らが、簡単に公国へ下れると思ってるのか?」「もし俺が負けたら、当然お前らも仲間とみなされる」「下手すりゃ奴隷か皆殺しだよな」。青くなった相手に「でも、大丈夫だ。俺は必ず勝ってみせる。俺を信じろ」と締め、「ろくでもねえクズが!」と罵られて「見たか、公国? これが友情の力だ」と胸を張る。
以前ばらまいた飛行船が、そっくり人質になって返ってきた。商売の場面をきちんと描いてあったからこそ効く回収で、しかも当人は一切照れない。友情という言葉の意味を全力で取り違えたまま押し通す図太さが、今回いちばん笑ったところだった。
それでも味方は集まらない
24隻と50隻
ルクシオンの算盤は容赦がない。「学生が総司令官になるなど聞いたことないぞ」という声に「それでもマスターは総司令官の座を求めています」と答えつつ、「現状で確保できる戦力はパルトナーを含めても20隻程度」「神殿側も今回の失態で疲弊、当てにはなりません」と並べる。地方貴族の協力を尋ねられれば「他国による侵攻で手一杯のようです」「もっとも、王宮への忠誠心が低く、すでに降伏した者も多いようですね」。
理由もはっきり言われてしまう。「領主たちが王国に従うのは、軍事力で押さえつけていたからにすぎないのだろう」。のちに合流した大臣からは「まともに動かせる飛行船は50隻程度だ」と告げられ、リオンは「いえ、予想より多いですよ」と返して自分の側の24隻をそこに足す。敵の到達まではおよそ30時間。本当に勝てるのかと問われて「勝てます」と言い切りながら、内心では王家の船が動くかどうかに全部を賭けているのが分かる。
前を向くアンジェと、うつむくオリヴィア
同じ時間、アンジェも動いていた。実家を頼りたいが「家名に泥を塗った私は、もう勘当されたも同然だ」。それでも頭を下げに行き、「公爵令嬢が平民と頭を下げていますよ」「情けない」「レッドグレイブ家も落ちぶれたものね」と陰口を浴びる。それでも「私は自分のできることを探し、リオンの力になりたい」「ああ、私はリオンを信じる」と迷わない。
その隣で、オリヴィアだけが立ち止まっている。「アンジェはいつも前を向いている。それに比べて私は…」「私の…私のできることは…」。リオンが「そこにリビアを乗せるしか勝ち目はない」と言っている当の本人が、自分には何もできないと思い込んでいる。台詞の量は少ないのに、この数行だけで次回の役割が予告されてしまうのがうまかった。
バルカスという父
「俺の大切なものを傷つける奴は許さん」
避難で騒然とする実家に、リオンが顔を出す。「お前、無事だったのか?」「捕まってたんでしょ? 脱獄したわけ?」に「まさか、もう釈放扱いだ」「俺はハメられただけだ」と答え、「すでに証拠も掴んである」「俺を取り込もうとした貴族たちが、取引材料としていろいろ喋ってくれたよ」と続けた。囚われていた間に、逆に相手の口を割らせていたわけである。
問題はその先だった。話を聞いた父バルカスが、「こいつは、俺の息子を売ったクズ野郎だ」「絶対に許さん!」と身内に向き直る。「待ってくれ! 話を!」には「黙れ」「当然の報いだ」、そして「俺の大切なものを傷つける奴は許さん」。普段は気のいい田舎貴族として描かれてきた人が、ここまで低い声を出すとは思わなかった。
「お前なんかの血は流れていないわ」
バルカスは義理の息子ルトアートに出陣を命じる。「お前はゾラの長男として何不自由ない生活を送ってきた」「だが、それも今日までだ」「お前も大切な人たちを守れ」。返ってきたのは「嫌だ!」「私に命令するな!」「田舎漁師の野蛮人が!」で、ゾラも「誰のおかげで今まで暮らしてこられたと!」と加勢する。
それでも「ルトアートをよこせ」「バルトファルト家の長男として出陣させる」と引かないバルカスに、ゾラがついに言ってはいけないことを口走った。「ルトアートは私の愛した人の子よ」「お前なんかの血は流れていないわ!」。言った本人が「嘘! 嘘よ!」と青ざめるのだが、遅い。バルカスの返事は「そんなことだと思っていた」「これでせいせいしたな」「ここでお別れだ、ゾラ」「婚姻関係は解消する」だった。
驚いていないのが怖い。この人はずっと知っていて、それでも家として抱えていたことになる。戦の話の合間に家庭の話が挟まっているのではなく、守るものを守るために切るものを切るという同じ動作が、父と息子で同時に起きている。今回の裏の主役は、間違いなくこの父だった。
マリエが全部ぶちまける
聖女ではないと白状したあとで
神殿から引き渡されてきたマリエは、見る影もなかった。聖女ではないと白状したとたんに周りの態度が変わり、取り巻きには見捨てられ、神殿でもひどい扱いを受けたという。リオンの「何それ、ちょっと笑える」に「こっちは全く笑えませんよ」と返る。「処刑されちゃうんですか?」という問いにも「聖女を騙るのは重罪だからな」「たとえ戦争に勝っても命はないと思う」と、容赦がない。
そこでマリエが爆発する。五人をかばう言葉に「あんたを利用したのは、そこのモブ野郎が嫌がると思ったからよ」「友達なわけないでしょ!」と噛みつき、止めに入った相手には「剣術しか能がないくせに」「そっちの脳筋も、口だけの役立たず」「そこのナルシストも気持ち悪い!」と順番に投げつけていく。極めつけが元王太子への「地位も名誉も財産も捨てて、女が喜ぶと思ったの!?」だった。
最後はリオンにも向かう。「うるさい! 消えろ!」「お前がいるから、私は幸せになれないんだ!」と叫んで、そのまま倒れてしまう。本音であることは間違いないのに、全部が八つ当たりでもあるのが痛い。この作品がマリエというキャラクターに逃げ場を与えないところは、毎回見ていて息が詰まる。
夢の中の「お兄ちゃん」
眠ったマリエが見るのは、以前も見た夢の続きだった。帰ればいいのに意地になって、泣き疲れるまでその場にいた子供の自分。そこへ迎えに来たのが兄で、「最初からそうしなさいよ、このクズ兄貴」と憎まれ口を叩きながら手を引かれる。「兄は口は悪いけど優しかった」。
そして続きが重い。その兄は死んでしまい、自分は外国に行っていて「最後は会えないまま」だった。「いつもみたいに文句を言ってよ」「いつもみたいに助けてよ」「お兄ちゃん」。その寝顔を見ながら、リオンは「こいつを見てると、前世の妹を思い出す」「あいつにも散々振り回されたからな」とこぼしている。視聴者だけが両方の手札を見せられている状態で、ここの数十秒はかなり残酷だった。
「嫌なら俺は逃げるだけです」まとめと考察
二期六話にして、ようやく気づく
目を覚ましたマリエは「お兄ちゃんが来るまで何もしない」と言い張り、リオンは「お前に兄貴? なら、どうせろくでもないクズ野郎だろ」と煽る。そこから始まるのが、互いの身内を持ち出しての罵り合いだった。「俺の妹のほうがまだマシだ」「確かに頭おかしくてわがままだけど、お前よりは100倍マシだ!」に、「私の兄貴だって、口も悪くて、性格も最悪で、おまけにモブ顔だけど」「あんたの100倍マシよ!」。
種が割れるのは、そのあとの本題だった。「あの乙女ゲーをクリアしたなら、ラスボスを倒すにはリビアの力が必要だと知ってたはずだろ?」に「そんなの知らないわよ!」と返され、問い詰めると「私は兄貴に、お兄ちゃんにゲームをクリアしてもらったの」「でも、お兄ちゃんは死んじゃって」「エンディングのムービーとかでしかゲーム内容は見てないもの」。呆れたリオンが「俺は妹にゲームクリアを頼まれて、きちんと最後までやったからな」「当然…」と言いかけたところで、二人の言葉が止まる。「海外旅行に行く間にクリアしとけって押しつけられて…」。
ここまで散々「前世の妹」「クズ兄貴」と言い合ってきた二人が、同じ話の裏表を持っていたことにようやく気づく。しかも気づかせたのが感動的な回想ではなく、どちらが相手をより悪く言えるかの張り合いだったのが最高だった。第3話で二人そろって「やり直しを要求する!」と叫んだところから、ずいぶん遠回りしてここに着いたことになる。
逃げていいと言った人が、逃げなかった
改めて並べると、今回は逃げる人しか出てこない回だった。辺境軍は退がり、学生は実家の迎えを待ち、地方貴族は降伏し、ゾラは船に乗せろと叫ぶ。そのなかで、いちばん堂々と逃げると口にした人間だけが残っている。サブタイトルの「嫌なら俺は逃げるだけです」は、本当に逃げる気がある人の台詞ではなく、断られる可能性を先に自分から引き受けた台詞だった。
そしてもう一つ、今回は守り方の話でもある。リオンは飛行船の契約で級友を縛り、バルカスは家から義理の妻を切り、アンジェは家名を捨てて頭を下げた。誰も綺麗なやり方をしていないのに、守りたいものだけははっきりしている。逃げるか残るかではなく、何を差し出せるかで人が分かれているのが今回の骨だった。
次回のサブタイトルは「汚い口を閉じろ、ゴミが」。予告では裏切り者の話と「生き残るのは覚悟を持つ者だけ」という言葉が並び、最後に「俺に従え。嫌なら、さっさと逃げろ」と締められる。今回の題名をそのまま人に向け直したような一行で、総司令官の椅子を取りに行った人間が次に何を言うのかは、だいたい想像がついてしまった。




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