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第7話のサブタイトルは「ニャーも親から生まれたにゃ」。ニコチンの悪魔が汚部屋に耐えかねて即退散する冒頭から、祖父の一周忌から帰ってきたヤクねこ、ついに本格登場した母・静江、そして台風で家を流されたペンペンねこまで、短編が次から次へと積み上がっていく回だった。




ニコチンの悪魔は、部屋を見て帰った
寝相で描かれた魔法陣と、即退散
開始数秒で終わる冒頭が最高だった。寝相の悪いヤニねこが偶然魔法陣を描いてしまい、ニコチンの悪魔が召喚される。ところが呼ばれた側の第一声が、「ここの家主は何を考えて」「食後放置された中身入りどんぶりだと」「俺の一番嫌いなタイプだ」。麺の汁が固まって真っ黒になっている、何か動いている、と実況したところで帰っていく。
召喚された悪魔のほうが衛生観念で負けている、というだけの話なのに、この作品の世界観がひととおり説明されてしまうのがすごい。しかも部屋の汚さが結果として世界を救っている。第6話の冒頭が「ライターが切れたにゃ」だったことを思い出すと、この作品はいつも一行目で全部持っていく。
派遣会社と、地下施設の清掃バイト
そこから、今月のタバコ代がやばいという理由でヤニねこが働きに出る。向かった先はヤクねこが登録していた派遣会社で、「すぐ働いて、お金もたくさん欲しいにゃ」という無茶な条件に対して、本日午後の募集がありますよ、と出てくるのが「誰にでもできる簡単な清掃作業です」。この言い方が出た時点で、まともな現場ではないことが決まっている。
実際の現場は、公式のあらすじが言うとおり怪しい地下施設だった。「こんなの割に合わねえよ」「ねえ、あんたもそう思うでしょ」とこぼす声が飛ぶけれど、ヤニねこは相手にしていない。台詞はほとんど無く、画面で見せて終わる作りだったので、ここは見た人だけが得をする場面だと思う。そのあと外へ出ると赤とんぼが飛んでいて、「もう秋か」「光陰矢の如しだな」と季節が変わっている。
ヤクねこの黒髪と、「人は、人はどうして」
祖父の一周忌から帰ってきた後輩
今回いちばん静かに刺さったのが、この短編だった。しばらく姿を見なかったヤクねこが帰ってくる。行き先は祖父の一周忌で、髪も染め直して黒髪になっている。大家に土産を渡し、茶に誘われても「ちょっと疲れてるんで、今日は遠慮するっす」と断って部屋へ戻る。第6話で大家に「お盆、親御さんとこに顔出したか?」と聞かれて「帰ってないっすねぇ」「なんか気まずくて」と答えていた本人が、ちゃんと帰っていた。
いつもの態度から一段落ちていることは、周りにもうっすら伝わっている。「黒髪も可愛いな」「おじいさんも獣人なんですかね」という軽い会話が、本人のいないところで交わされるのもいい。この作品は落ち込んでいる描写に一切もったいをつけないので、かえって残る。
「おめえ、人じゃねえにゃ」
そこへヤニねこが押しかける。「タバコくれにゃ」「あと暗いにゃ、電気ぐらいつけろにゃ」。暗い部屋で横になったままのヤクねこの返事が「カバンの中に入ってるんで、勝手に箱ごと持ってってください」。そして続けるのが「ヤニねこ先輩も、たまには実家に帰ったほうが」、「ねえ先輩、人は、人はどうして」。
重い問いが始まりかけたところに、ヤニねこの返しが「おめえ、人じゃねえにゃ」。笑ってしまったけれど、よく考えるとこの一言でヤクねこの話は止まっている。そして止めた本人が、このあと実家に向かうことになる。たまには帰ったほうが、という言葉だけは、ちゃんと拾われていた。
ニャーも親から生まれたにゃ
静江のマッチと、「一本もらっていい?」
そしてサブタイトルどおり、実家の場面が来る。ついに本格登場したのが母の静江だ。「ヤニ子ちゃんは最近どう?」と聞かれ、いろいろバイトをやって「全部クビになったにゃ」と答える娘に、「そっか」としか返さない。そのうえで火を求められてマッチを擦り、「マッチで吸うと一味違うでしょ」。さらに「一本もらっていい?」と娘のタバコを取っていく。
正典に書いてあるとおり、静江は家では禁煙の体裁を守っている人だ。その体裁が、娘が帰ってきた日だけ堂々と崩れる。妹子の「お母さんもちゃんと注意して」「ほんとお姉ちゃんに甘いんだから」がまったく効いていない。ちなみに追加キャストの発表では、この母の役名が佐藤静江と表記されていた。姓が出たのは、たぶんこれが初めてだと思う。
映画館の席が、なぜ遠いのか
三人で映画に行く場面が、今回のいちばん優しいところだった。予約席に案内されたヤニねこが「なんかニャーだけ席遠くないかにゃ」とこぼすと、妹子の答えが「タバコ吸うでしょ。だから離したの」。それを見た静江が「当たりが強いようで、気兼ねなく吸える配慮をする妹子ちゃん」「なんだかんだお姉ちゃんのことが大好きなのね」と言い、「お母さんちょっと黙ってて」と止められる。
そして「こんな時間がずっと続いたらいいのに」という独白が置かれる。視聴者の反応では、これを静江のものとして受け取っている人がいて、しかも娘がいると吸えるチャンスが増えるからという読み方をしていた。身も蓋もないけれど、たぶん当たっている。そしてこの作品の場合、その身も蓋もなさが愛情を打ち消さないのが強い。喫煙の口実として娘を惜しんでいるだけでも、惜しんでいることに変わりはない。サブタイトルの「ニャーも親から生まれたにゃ」は、たぶんこういう温度のことを指している。
妹子が並んで帰った相手
「卒業前に死ぬよ」と、その帰り道
一方、アルねこは健康診断の結果で怒られている。採血のとき手が震えて難しかったと聞いたよ、それ普通に依存症だから、というところから、「それと、このASTの数値の高さ。GPAと反比例するんだけど」。検査値と成績を並べて見せる医者の言い方がひどくて笑った。締めが「お酒やめて大学に来なさい」「卒業前に死ぬよ」だ。
その帰り、落ち込んで歩いていたアルねこに声をかけるのが妹子だった。この辺は通学路だから、おうち帰る途中?、もしよかったら一緒に帰らない?と誘い、そのまま並んで帰る。何か嫌なことあった?、うん学校で、というやりとりから、妹子が自分の話を始めるのがよかった。小学生のとき短い間だけいじめられていて、男子に猫女と呼ばれたり、靴やリコーダーを隠されたりした。その主犯が中学の卒業式に告白してきて、好きだからあんなことをしたのだと言われた。それを聞いて、そんなことでか、と思った。「悩みの根源って、思ったより大したことないんだなーって」。受け取った側の心の声が「不幸風モテ自慢」なのが最高で、それでも最後は「元気出たかも」になっている。妹子の締めが「ちょっと不思議な子だったな」「少しお姉ちゃんに似てるかも」だった。
主人公が追放する側の、追放もの
後輩が書いた小説を読まされる短編も相変わらず切れがいい。今回の投稿先はかけよめで、ジャンルは追放もの。孤高のドラゴンメイジがどうこう、という導入に対して「相変わらず説明が長ぇにゃ」と斬られ、「そこは説明しないと世界観が」と返される。
そして肝心の話が、主人公のほうが「お前をパーティーから追放する」「お前もう船降りろ」と言い出す。ヤニねこの突っ込みが「主人公が追放してどうするにゃ。普通逆にゃ」、後輩の返事が「え、そうなの?」。締めの「お前、テンプレ作品読んでないにゃろ」で終わる。テンプレを書きたい人がテンプレを読んでいない、というだけの短編なのに、第4話から続く後輩のキャラクターがきれいに一段深くなっていた。
地震と、大家と、ケンタウロス
ケンタウロスか、新種のケルベロスか
アパートが揺れる。カンサイねこの「古いからよう揺れるわ」「いや長っ」から始まって、地震そのものは軽く流されるのだけれど、被害を受けたのが大家だった。揺れで歪んだのかドアが開かず、部屋に戻れない。しかもその姿を見られたら社会的に死ぬ、という状態で締め出されている。本人の判断が「裏に回ってベランダのガラスを割って入るしかねえ」だった。
そこへ出くわしてしまうのが、通りがかりの住人だ。第一声が「それ仮装ですか? ケンタウロスの」、続けて「いやちょっと違うか。ケンタウロスは頭2つもないもんな」「あ、もしかして新種のケルベロスとか?」。大家の返しが「殺してくれ」「今日俺は死ぬ」で、この二段構えがひどすぎて笑った。
「漫画家経験が生きた!」
相手が達郎だったのが、この短編の勝ち筋だった。落ち着きましょう、と言ったうえで始まるのが推理で、獣人型のラブドールと合体中に地震が来て、避難しようとしたが離れず、裸で飛び出したもののドアが開かなくなって戻れなくなった、ということではないでしょうか、と全部言い当てる。大家の「当たった!」と、達郎の「漫画家経験が生きた!」が同時に来る。
そのあと、修理業者が来るまで私の部屋にいてください、男性用の部屋着を買ってきますんで、と面倒まで見る。そして歩きながら「もうちょい後ろ歩いてもらっていいですか」。人見知りで気弱という設定のまま、やることは全部やっているのが達郎の良さだと思う。ちなみにヤニねこはこの騒ぎを全部寝過ごしていて、「なんか変な夢見たにゃ」「大家がケンタウロスになって」と言い出す。
第7話「ニャーも親から生まれたにゃ」まとめと考察
大家がペンペンねこに言ったこと
そして最後に、台風でテントを流されたペンペンねこの話になる。こっそり住みついていたことを大家は知っていて、「河原で住むのも大変だろうしな」と受け入れたうえで、「親御さんとかと連絡取ってんのか?」と聞く。血の繋がりなんて関係性という概念を型にはめるだけ、といういつもの返しに対して、「そういうこと言ってるんじゃねえんだよ」。
そこから先が今回いちばん良かった。「別に出て行けって言ってるわけじゃねえよ」「知らねえ仲じゃなし、もう家族みたいなもんじゃねえか。お前もみんなも」「それだったらよ、腹割って本気で話してくれよ」「アパートの一角ぐらい、いくらでも貸してやるから」。そして照れ隠しの「ガラにもないこと言っちまったな」「今日はおごるからみんなで飲むか」。第6話で軽トラの中、ヤクねこに「顔出したら喜ぶだろう、いい人たちだし」と言っていた人が、今度は行き場のない相手に部屋を差し出している。無欲を説きながらテントに執着していたペンペンねこが、ここで初めて「家族?」と聞き返すのも効いた。
いい話のまま、終わらせてくれない
ところが公式のあらすじが予告していたとおり、この直後に思わぬアクシデントが起きる。大家の身体が不可抗力の反応を返してしまい、本人の弁明が「違うんだ、これは男の生理現象で不可抗力」「しょうがないんだ」「家族、家族だろ」。さっきまでの名台詞が、全部その一点で台無しになる。
ここがこの作品の芯だと思う。いい話を書けないのではなく、いい話のまま終わらせることを毎回きちんと拒否している。第6話も、無欲を語りきった直後に自分のテントが流れていく画で締めていた。今回も同じで、大家の言葉自体は本物のまま、本人の身体だけが勝手に裏切る。誰も悪くない、という一番始末に負えない形で落とすのがうまい。
そして締めが換毛期のブラッシングだった。少し梳いただけでごっそり取れる毛を見て「これ、もう一人ヤニねこちゃん作れるんじゃない?」。地下施設からの帰りに飛んでいた赤とんぼと、「春と秋は毎年こんなもんにゃ」で、季節がきちんと一つ進んでいる。今回はニコチンの悪魔から始まって、祖父の一周忌、母のマッチ、映画館の遠い席、並んで帰る帰り道、そして家族みたいなもんじゃねえかまで、全部が誰かの身内の話だった。サブタイトルの「ニャーも親から生まれたにゃ」は、その全部にかかっている。汚部屋で悪魔を追い返す生活をしていても、この猫にも実家があって母がいて、帰れば席を離されるし、タバコを一本取られる。そのことだけを、二十数分かけて言っていた回だったと思う。




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