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第145話のサブタイトルは「驚愕!メガレックウザと神秘の地!?」。元ライジングボルテッカーズのポケモンジャーナリストソーダヨに誘われて、リコたちが異世界への入り口だというエリア・デルタへ向かう回だ。満月の夜、呪いの踊りが始まり、嵐が吹き荒れ、ついにメガレックウザまで現れる。ところが翌朝ふり返ってみると、そこで見たものはほとんど何も起きていなかった。戦いの無い、まるごと一本の与太話回である。




クーラーが壊れた日に、その男は来た
「もうこれ以上うんざりなことは起きない」
第145話は、ブレイブアサギ号のクーラーが壊れるところから始まる。オリオが必死に直してくれてはいるのだが、船内はサウナ状態で、みんなだらけきっている。「何もやる気起きねえ」「暑いし退屈だし」と口々にこぼしたあと、誰かが「もうこれ以上うんざりなことは起きない」と言ってしまう。
この作品でこの台詞が出たら、当然そうはならない。直後に「この異常な暑さは超氷河期の前触れか。氷タイプポケモン活発化の謎とは。こいつはスクープだ」という声が飛び込んでくる。暑いという話をたった二行で氷河期に接続する人が現れたわけで、この時点でもう今回の空気は決まっていた。
戦いも敵も出てこない、まるごと一本の与太話回である。ここのところナヴィの加入で新体制の話が続いていたので、その合間に一本こういう回が入るのは呼吸としてちょうどいい。しかも今回は、その与太話を最後まで与太話のまま押し通す。
そうだよと、そうなの
現れたのはソーダヨ。ライジングボルテッカーズの元メンバーで、今は世界を旅している記者だという。リコたちの記事を書いてくれたこともあるそうで、本人の名乗りは「真実を求めるポケモンジャーナリスト」。そして相棒として紹介されるのがソーナノだ。
この二人の並びが、そのまま今回の芸になっている。ソーダヨが何か言うたびにソーナノが「そうなの」と鳴くので、はたから見ると相棒がずっと相槌を打っているように聞こえるのだ。ロイたちが「かっこいい」とはしゃぐ横で、モリーが容赦なく水を差す。「ソーダヨはインチキでトンチキだけどね」「あんたの中に真実は一切ないから」。
言われたほうの返しがまた良かった。「インチキと名のつく真実を求めるポケモンジャーナリストは数知れず。インチキこそ真実の写し鏡なんだぞ、モリー」。何ひとつ反論になっていないのに、言い切る勢いだけで押してくる。追加キャストはソーダヨが土屋神葉、ソーナノが社本悠だった。
エリア・デルタという触れ込み
三角形の岩に囲まれた、異世界への入り口
ソーダヨが取材に来たのがエリア・デルタである。説明はこうだ。ここから南に進んだ先にあり、三角形の岩に囲まれたその場所は異世界への入り口と言われている。そこでは満月の夜、侵入者を拒む怪しげな呪いの踊りが繰り広げられる。それでも足を踏み入れた者には、荒れ狂い吹きすさぶ嵐が襲いかかり、燃え盛る豪火に焼かれた者もいるのだという。
そして最大の謎が、ある恐ろしいポケモンが侵入者を異世界へ連れ去ってしまうことだ。その正体が「伝説中の伝説のポケモン」レックウザで、しかもただのレックウザではない。オゾン層で隕石を喰らい、そのエネルギーを溜めてメガシンカしたメガレックウザだという。
ここでソーダヨがリコたちに声をかけた理由もはっきり示される。「お前たちが黒いレックウザに深く関わっているのは承知の上だ。黒いレックウザと心を通わせてるお前たちなら、メガレックウザとも心が通じ合うと思ってな」。与太話に見せておいて、誘う口実だけは本編の因縁をきちんと踏まえている。この人は嘘つきではあるが、下調べはしているのだ。
断り文句が、全部同意に化ける
この回でいちばん笑ったのが、ソーダヨの会話の運び方だった。モリーが「やめて。これ以上この子たちをあんたのトンチキ話に巻き込まないで」と止めに入ると、返ってきたのが「なるほど、モリー。仲間に入れてほしいんだな。いいだろ」である。リコが「えっと、私たち今回はちょっと」と断ろうとしたときも同じで、「皆まで言うな。お前たちが俺と一緒にエリア・デルタへ行きたいという気持ちは分かってる」で押し切られる。
結果的に一行が行くことになるのは、ドットが本気で食いついたからだった。憧れの媒体の取材に同行できるなんてこんな機会はない、ぜひ連れてってください、と自分から頼み込む。断ろうとした側の一人が寝返るので、もう誰にも止められない。
現地で取り出される秘密兵器も最高だ。「じゃじゃーん」と出してきた装置について「これはメガレックウザをおびき出すための装置だ」と説明し、「作ったんですか?」と聞かれた答えが「ネットオークションで買った」。スイッチを入れても当然何も起きないのだが、本人だけは「異世界の入り口が開いた!」と確信している。
満月の夜、ピッピが踊る
ナヴィは、寝てしまった
出発は満月の夜、日が沈むと同時と決まる。ロイは「俺も俺も。メガレックウザを必ずゲットしてやる」と乗り気で、ナヴィも当然のように「ナヴィも行きたい」と手を挙げる。「出かけるのは夜だ。起きてられないだろ」と言われても「ナヴィ起きてるもん。絶対絶対行くんだから」と譲らない。
ところが出発時、ナヴィの姿はない。楽しみにしすぎてお昼寝ができなかったせいで、寝てしまったのだ。ウルトの「やかましいのがいなくてせいせいしたぜ」に「やかましいのはウルト」と返されるところまでが一続きで、第144話であれだけ面倒を見ていた人の憎まれ口だと思うと、なおさら可笑しい。
寝過ごした本人は、後日この件をずっと引きずることになる。新入りが最初に味わう悔しさが、怪獣でも事件でもなく「夜更かしできなかった」であるところが、この作品らしくて好きだった。
「今、俺が考えたからな」
道中でソーダヨが夜空を指して言う。緑色の星が三角形に並び、小さな星がひげのように伸びている、あれこそが夏の魅惑の星座、メガレックウザ座だと。「そんなのあるの? 聞いたことない」と突っ込まれた答えが、「もちろんだ。今、俺が考えたからな」。堂々としているので誰も怒れない。
それでいて「南の空にメガレックウザ座が浮かぶとき、メガレックウザが姿を現す」「そしてエリア・デルタの異世界へと導いてくれるのだ」と、自作の星座を根拠に予言まで始める。道すがら、お尻の光を点滅させて仲間と会話するポケモンや、ミツハニのミツを狙うポケモン、たくさんのヤミカラスを引き連れたドンカラスを見つけて「いいショットが撮れるぞ」と喜ぶあたり、記者としての目は確かなのがまた困る。
到着した現地は、リコの言うとおり「見たところ普通の岩場」だった。そこでソーダヨが「見ろ、三角形の岩だ」と指し、続けて枯れ木の枝が三角の形になっていると言い、さらに平たい岩をつなげれば三角形になると言い出す。三つ並べれば何でも三角形になる、という力技である。
最高のショータイム
呪いの踊りの正体
装置のスイッチが入ったあと、本当に何かが始まる。「満月の夜に行われる呪いの踊りだ。みんな気をつけろ」と身構えたところで、ソーダヨ自身が「いや待て、あれは」と気づく。ピッピだった。
そこからの解説は真面目そのものだ。妖精ポケモン、フェアリータイプ。満月の夜にどこからともなく集まり、ピッピたちは踊り出す。月の光を浴びて浮かぶのだ、と。リコの「すごい、ピッピのダンスを見られるなんて。激レアな体験だ」も、ソーダヨの「ポケモンたちの夜のシンクロダンス。まるで月と交信する儀式のようだ」も、この時点では本当にただの絶景である。
ところがここから空気が変わる。嵐が吹き荒れ、炎が噴き上がり、「エリア・デルタが俺たちの侵入を拒んでいるんだ」という展開になるのだ。たどり着いた中心部は「ただ広い場所にしか見えないけど」という眺めなのに、リコが「いや、本当かもね。ソーダヨさんが言ってたことは真実だったんだ」と言い出す。呪いの踊りも嵐も豪火も、順番どおりに起きてしまった以上、疑いようがない。
ヤミラミの一撃で、メガレックウザが倒される
そして「来るぞ、最大の謎が」の声とともに、本当にメガレックウザが現れる。ソーダヨは「メガレックウザの導きだ。俺たちを不思議な異世界へ誘ってくれたのだ」と絶叫し、一行はそのまま夢のような光景に呑まれていく。
ここからの数十秒が今回の山場で、しかも完全に頭がおかしい。誰かが「メガレックウザの好物はヤミラミだよ」と言い出し、ソーダヨが「これは世紀の大発見!」と食いつく。そしてヤミラミのパワージェムがメガレックウザを一撃で倒してしまう。伝説中の伝説と紹介された相手が、開始数秒で沈む。「大金星!」という叫びだけが妙に爽やかだった。
後から見返すと、この場面に出てきた面々の人選が仕込みになっている。登場したポケモンが、あやしいひかりやサイケこうせん、みずのはどうといった相手をこんらん状態にできる技の使い手ばかりなのだ。その中でコイキングだけが場違いに混ざっている、と指摘している人もいて、そこまで見ている視聴者の目のほうが少し怖かった。
「驚愕!メガレックウザと神秘の地!?」まとめと考察
全部、ゆびをふるだった
我に返った一行が、種明かしにたどり着く。きっかけはピッピのダンスで、「ほら、踊りながら指を振ってる」という一言だった。ピッピの「ゆびをふる」は、さまざまな技をランダムで発動させる。つまりあの踊りの最中、あやしいひかりを筆頭にいろいろな技が飛び交っていたことになる。「じゃあ僕たちは」「こんらんさせられてた」で全部つながる。
嵐も炎も異世界も、こんらん状態が見せていた幻だったわけだ。そして肝心のメガレックウザの正体が、目を回している色違いのアーボだった。通常のアーボは紫だが、色違いは緑になる。緑色の細長いポケモンを、こんらん状態の目で見上げたらどうなるか、という理屈である。何もしていないのに伝説扱いされて叩き落とされたアーボが、いちばんの被害者である。
面白いのは、この大混乱の中でソーダヨだけが最後まで正気の目をしていた、と見ている人がいたことだ。ポケモンで無事だったのはキャプテンピカチュウとソーナノあたりではないか、という読みも出ていた。いちばん与太話に浸かっていそうな人が、いちばん幻に呑まれていない。ちなみにリコは、過去の二件と合わせてこれで三度目の心を操られる展開だという指摘もあった。
ソーナノが「そうなの」と言うとき
後日、ソーダヨの記事が更新される。そこに書かれていたのは「こうして我々は呪いの踊りから逃れ、メガレックウザの導きで異世界に迷い込んだのだ」。写真が載っていると盛り上がったところで、「残念ながら何者かの妨害により異世界を写真に収めることはできなかった。しかし、妨害こそが真実の証し」と続く。ドットの「何の真実も明かされてないし」がすべてである。
それでもリコは「でも私はピッピのダンスも見れたし楽しかったよ」と言い、ナヴィは「ナヴィも行きたかった」と悔しがり、ウルトは見間違えた件をからかわれて「うるせえ! お前は寝てただろ」と八つ当たりする。何も解決していないのに、全員それなりに満足している後日談だった。
そして最後に、この回でいちばんうまい仕掛けが置かれる。モリーが前に言っていたことがある、という話から、ソーナノが「そうなの」と鳴いたときは、珍しくソーダヨが本当のことを言っている、という見分け方が明かされるのだ。ずっと相槌にしか聞こえていなかった鳴き声が、実は嘘発見器だったことになる。そこで誰かが「じゃあ、メガレックウザの時は?」と聞き、「うーん」で話が止まる。視聴者のほうも、正体が色違いのアーボだったと分かったうえで「メガレックウザがいること自体はやっぱり本当だったんだね」と受け取っていた。
与太話を一本まるごとやり切ってから、最後の三十秒だけでその与太話に信憑性を戻してくる。全部嘘でしたで終わらせず、どこまでが嘘だったのかを観客に預けて切り上げるのが気持ちよかった。次回はポケモンスリープとのコラボ回で、ネロリ博士が登場するスペシャルエピソードになるらしい。カビゴンのお腹の上と、絶対眠りバターカレーが待っている。




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