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第90話のサブタイトルは「西方動乱」。西側諸国を混乱に叩き込んだ悪魔の軍勢は、ギィが人類への嫌がらせのために放ったものだった。評議会では議員のひとりが自国の結界を破壊させ、神と呼ばれる存在まで呼び出される。それを剣も抜かずに止めたのが、リムルの代理として送り込まれたテスタロッサだ。そして彼女の本当の名は、原初の白、ブランだった。




原初の赤と黒、二人だけの答え合わせ
ディアブロが倒したレインは、分身体だった
第89話のラストは、ディアブロが原初の青であるレインを退けた直後に、背後から声がかかるところで切れていた。第90話はその続きから始まる。ディアブロが「やはりあなたもいたのですね、ルージュ。いえ、今はギィ・クリムゾンでしたか」と振り向き、ギィが「よう、久しぶりだな、ノワール」と応じる。原初の赤と原初の黒が、ルベリオスの空で向かい合った。
ディアブロの第一声が「なぜこんなところに。暇なんですか」で、ギィが「おいおい、ご挨拶だな」と返す。そこからギィが投げたのが、前回の戦いについての質問だった。「最初からレインの分身体だと気づいてたんだろ。だったらなんであんな大技を披露したんだ」。つまり、ディアブロが打ち倒したレインは本体ではなかったのである。
ディアブロの答えが「ご冗談を。あんな子供騙しで、我ら原初を倒せるはずがないでしょ」。ギィは「直撃をくらえば俺だって無事じゃ済まねえぜ」と言い、ディアブロも「私だって消滅しますよ、直撃をくらえばね」と認める。前回あれだけ大きく見えた決着が、二人にとってはこの程度の雑談で片づく話だった。しかも勝った側は、相手が分身体であることを最初から把握したうえで撃っていた。決着そのものより、決着を語る態度のほうが怖い場面である。
なぜ今まで進化しなかったのか
ギィが次に聞いたのは、ディアブロの進化についてだった。「しかしお前、本当に進化したんだな」と言ったあと、「むしろ、なんで今までしてなかったんだ」と続ける。この質問がそのまま、原初の悪魔という存在の説明になっていた。
ディアブロは逆に問い返す。「ギィ、この世界で我らより強いものが存在しますか」。ギィは「いねえな。強いて言えば竜種だが、あれは自然現象みたいなもんだ」と即答する。そこでディアブロが言うのが、「そう、我らは最強です。なのに進化してしまえば、戦いが一方的で、つまらないものになってしまうではないですか」。強くなれなかったのではなく、強くならないことを選んでいた。退屈を避けるために成長の上限を自分で決めていた、という理屈である。
ではなぜ今になって進化したのか。ギィが「あのスライムが原因か」と言いかけ、「リム」まで口にしたところでディアブロが「リムル様です」と言い直させるのが小気味よかった。そこから始まるのが例の長い賛辞で、「リムル様の成長は目を見張るばかり。まさに進化と呼んで差し支えないほどです。そのお姿は可愛らしく、その魂は気品にあふれ」と続くのを、ギィが「それ長くなる?」と遮る。この二人の距離感が、そのまま長い付き合いの証明になっている。
ディアブロが挙げた理由そのものは真面目だった。リムルの仲間たちも日々成長していて、うかうかしていては自分でさえ遅れを取りかねない。そういう環境にいるから、成長限界を定める理由がなくなったのだという。ギィの返しが「俺と互角に戦ったお前がね」で、かつて引き分けた相手が上を目指し始めたことへの、からかいと警戒が半分ずつ混ざった言い方になっていた。
西側諸国を襲った軍勢の正体
「単なる嫌がらせだ、人類へのな」
ここでギィが本題を出す。「でも残念。そんなリムルの野郎にとっちゃ、面白くないことが起こるだろうぜ」。何のことかと言えば、「奴が支配下に置いた西側諸国で、俺の配下が大暴れするのさ」。サブタイトルの「西方動乱」は、ここから始まっていた。
ディアブロが「やはり暇なのですね。何が目的なのですか」と尋ねると、ギィの答えが「何、単なる嫌がらせだ。人類へのな」だった。国がいくつも巻き込まれる規模の戦火が、退屈した魔王の思いつきひとつで起きている。しかも狙いは人類そのものではなく、「人間と仲良くしようとしてるリムルにとっちゃ、他人事じゃねえだろうな」という一点にある。
さらに悪趣味なのが、そのあとに付け足された「まあ、俺たちが手を出さずとも、人間どもで好き勝手やってるみたいだが」という一言だ。自分が火を放つまでもなく、人間の側が勝手に燃やし合っている。この見立てが、このあとの評議会の場面でそのまま証明されてしまう。軍勢を送り込んだのはギィだが、国を売り渡そうとしていたのは人間のほうだった、という順番になっている。
王都に迫る悪魔と、すでに動いていた配下
場面が戦場に移ると、「悪魔がこんなところまで」「このままでは王都に入り込まれるぞ」「援軍はどうなっているの」と、結界を守る側が押されているのが分かる。「何としても結界を守り抜くのじゃ」という声が飛び、ギィの言った「今頃、西側諸国は大混乱だ。あっという間に地獄絵図となるだろうさ」がそのまま画面になっていた。
一方、イングラシア王国の評議会は連合軍の結成を議論していた。「あのリムル様が代理と認めるテスタロッサ殿は、軍事にも明るいとのこと。連合軍を預けるのに不満はありますまい」という声に対して、「大丈夫なの?」「軍事のことを本当に分かっているのか?」と疑う声も上がる。そこでテスタロッサが「ご安心なさいね」と口を開き、すでに自分の配下が各地に散っていることを告げて、モスを呼ぶ。
モスの報告は具体的だった。王都の防御結界の周囲にはすでにテスタロッサの配下を配置済み。国境近郊にはサリオンからも兵が向かっているという情報が入っている。そのうえで「戦場で暴れている悪魔程度ならば、自分たちと、あのハイエルフの配下で十分に駆逐可能でしょう」と締めた。議場が慌てている時点で、手はとっくに打たれていたのである。
そして直後に入るのが、この回でいちばん短くて分かりやすい上下関係の描写だ。テスタロッサが「リムル様の盟友エルメシア陛下をハイエルフ呼ばわりは、感心しないわね」と静かに咎め、モスが即座に非礼を詫びる。テスタロッサの返事は「分かればいいのよ」だけ。エルメシアの名前がここで出てくることで、リムル側の同盟がどこまで届いているのかも同時に示されていた。
評議会に潜んでいた裏切り者
ヨハン・ロスティアの魔法通話
報告が終わった直後、テスタロッサが議場のひとりを名指しする。「ヨハン・ロスティア殿」。「あなたが今、魔法通話でお話ししていた相手は誰かしら?」「この国の防御結界の破壊を命じたのはなぜ?」。指摘の仕方が質問の形なのに逃げ道が一つもない、いやらしい詰め方だった。
議場が「どういうことです? ヨハン殿!」「説明したまえ!」とざわつくと、ヨハンは開き直る。「裏切っただと? 軽々に魔国へとなびき、人類に尽くしたロッゾを先に裏切ったのは貴様らではないか」。そして「清算の時だ!」と叫び、「人類守護を掲げたこの評議会こそが、地獄の始まりに最もふさわしい」と続けた。第88話と第89話で名前だけが流れていった人物が、ここで正体を見せたことになる。
同じ頃、別の一団が「いよいよだ、手筈は整った」「ロッゾの命運が尽きようと、誇りは尽きん」「グランベル様のために、使命を全うするのだ」と動き出していた。ヨハンが「今こそ、お前たちの野望を叶えるがいい」と促し、ジラードが「協力に感謝する。これより、神を召喚する!」と応じる。「全てが滅ぼされ、戦乱の世に突入するのだ!」というのが彼らの目的だった。
怖いのは、ヨハンたちの理屈がそれなりに筋を通していることだ。彼らから見れば、魔国になびいた評議会のほうが先に裏切ったことになる。グランベルが第88話で口にしていた「人類を守護してなお奪うだけの世界など滅んでしまえ」という考えが、こうして実際に国を一つ売り渡す形で下まで下りてきていた。上が壊れると、下は使命感のまま壊れていく。
呼び出された「神」の正体
儀式の詠唱がまた大仰だった。「根源たる我らが緑の神よ。永遠の祈りを捧げ奉る。我が望む破壊の力を尽くさんとし、ここに顕現されたまえ!」。そして光の中から現れた存在に、信者たちは「ミザリー様!」と歓喜し、「神よ! この国の民すべてを捧げます! 我らを神の末席に!」と叫ぶ。
呼び出された神の名はミザリー。ギィに仕える側の存在である。つまり西側諸国で軍勢を暴れさせているのがギィで、その混乱に乗じて呼ばれた神もまたギィの手の内、という構図になっていた。祈りを捧げていた側だけが、自分が誰に祈っているのかを知らない。
ヨハンはここで満足していた。「最後の使命を果たせた。これで私もグランベル様に顔向けできる」。自国も戦火に見舞われるだろうが「皆にはあの世で詫びるとしよう」とまで言う。国を差し出す覚悟まで済ませていたのに、差し出す先の正体だけが分かっていないのが、この人物のいちばん哀れなところだった。
議長が「テスタロッサ殿! この国が消えてしまう! 今すぐリムル様にご注進を!」と叫ぶと、テスタロッサの答えが「いいえ、議長殿。私がいるではありませんか」。続けて「万事は必ず解決されるということです」と言い切る。神が降りてきた直後にこの落ち着きなので、この時点でもう勝負の形が決まっているのが分かってしまう。
原初の白、ブラン
「今はテスタロッサという素晴らしい名前をいただいたの」
空気が変わったのはミザリーのほうだった。テスタロッサを見た瞬間に「ブラン…」とつぶやき、「なぜ気配を消して人間に紛れて…」「受肉している…」と動揺していく。召喚された神が、召喚した側ではなく、議場に座っていた一人を見て固まるという順番が効いていた。
テスタロッサの返しがこの回のいちばんの見どころだ。「そんな呼び名は寂しくてよ。今はテスタロッサという素晴らしい名前をいただいたの」。そのうえで「せっかく挨拶に来てくれたところ悪いのだけど、邪魔をするなら、千年くらいの眠りをプレゼントしてあげてよ」と笑う。彼女の正体は原初の白、ブランだった。
ミザリーは即座に引いた。「今戦っても得るものはありませんね」「私の目的はあなたではありません」。テスタロッサが「あら、つまらない」「早く帰って私たちのことをルージュに報告したいのね」と煽っても乗らない。そのうえで彼女が言った「それにしても、主って素晴らしいものよね。今ではあなたの気持ちもよく分かるわ」に対して、ミザリーが「ならお分かりでしょう。ギィ様のお役に立つことが私のすべて」と返す。主に仕える者同士の会話として、きれいに噛み合っていた。
別れ際にミザリーが残したのが「早くその体に馴染んでおいてください。負けた時の言い訳など通じませんので」。神が一撃も撃たずに帰ってしまい、議員たちは「神が帰った…なぜだ?」「それにブラン…まさか原初の…いや、そんなはずはない!」と混乱するばかり。テスタロッサの「一番の脅威は去りましたわ」で、この局面はあっさり終わった。
国際法で裁くという決着
計画が潰れたジラードが自棄になって斬りかかると、モスがこれを止める。そこでテスタロッサが放ったのが「殺してはダメよ。そちらのヨハン殿もね」だった。モスが「しかし、この者たちはテスタロッサ様に無礼を…」と食い下がると、「モス、私に二度も言わせる気?」の一言で黙る。
モスは即座に膝をつき、テスタロッサの意に背こうとした自分の思い上がりを詫びた。「理解したなら、今回も許しましょう」と言ったあとに「私ってなんて寛大なのかしら」と自分で言うのが、この人の性格をよく表している。殺すなと命じた理由は寛大さではなく、このあとの決着のためだった。
捕らえられたヨハンは「お前さえいなければ成功しておったのだ!」と喚き、「離せ! 我が祖国が黙っておらん! 国際問題になるぞ!」と国を盾にする。そこにテスタロッサが並べたのが条文だった。国家を存続の危機に貶める国家転覆罪、他国から武力行使を行わせた外患誘致罪。そしてこの評議会でヨハンが抵触した内乱罪は、イングラシア王国の管轄で裁判される決まりだと告げる。
「あら、国際法をお忘れかしら?」から始まって、最後は「残念だけど」で終わる。武力ではなく国際法で押し切ったところに、第87話でリムルが三権を分けて託した意味が出ていた。議長が「おお! なんと頼もしい!」と声を上げ、テスタロッサはヨハンに向かって「あなたのおかげで、評議会の皆さんの心を掴むことができたわ。ありがと」と笑いかける。この一言で、彼女が裏切りを泳がせていたことまで分かってしまう。
ヨハンが「くそが! この悪魔め! 地獄に落ちろ!」と叫んでも、返ってくるのは「泣いても喚いてもだーめ。きちんと罪を償いなさい」だけ。議長から礼を言われたテスタロッサの答えが「礼には及びませんわ。加盟国の守護はリムル様より課せられた大切な使命」で、そのまま「いかなる脅威もテンペストの敵ではございませんわ」と続く。外交武官として送り込まれた一人が、剣を抜かずに国と評議会の両方を救った回だった。
ギィが知らなかった三つの名前
ヴィオーレとジョーヌ、そして遊びに行くという宣言
場面がルベリオスに戻ると、ギィが荒れていた。「ブランが受肉して名前まであるって…てめえ知ってやがったな」。ディアブロの答えが「当然です。全てはリムル様の計画通り」で、そのうえで「ギィ、あなたも利用された者の一人ということです」と言い切る。自分が仕掛けた嫌がらせが、そっくり相手の計画に組み込まれていた形になる。
ギィが「あいつが抜けたなら残りの二人はどうなってんだ」と聞くと、ディアブロは「ウルティマとカレラですか?」とあっさり返した。ギィが「は?」となり、「待て! ちょっと待て! ウルティマとカレラってのは…」と言いかけたところに、「ああ、ヴィオーレとジョーヌですよ」がかぶさる。第88話でレオンの陣営から忽然と消えたジョーヌの行方が、ここで判明したことになる。
名付けたのは誰かという問いにも「もちろん、リムル様です」と即答が返る。ギィの動揺の理由も台詞で説明されていた。「そこらの魔王じゃ原初に名付けなんかできやしねえ。そもそも実力を認めなきゃ原初は従わねえってのに」。そこにディアブロが「まあ、勧誘したのは私なんですけどね」と付け足すので、ギィの「お前が原因か!」が出る。
ディアブロの言い分もひどかった。リムルに仕える栄誉を与えてやったのに、三人はリムルとの顔合わせで無礼を働いたので殺してやろうと思った、というのである。ギィのほうは「ノワールは変人だから気まぐれで従うこともあるだろうが、ヴィオーレやジョーヌまでとなると笑えねえ」と頭を抱え、さらに「原初の中で一番誇り高いあのブランがだと?」と続けた。テスタロッサが名前を自慢していた場面の意味が、ここで裏から補強される。
結論としてギィが出したのが「直接話を聞くしかねえか」で、そのまま「じゃあよ! 今度リムルのとこに遊びに行くわ」。ディアブロが「面倒ごとが増えそうなので遠慮しますよ」と断ると、「リムルの支配地は素晴らしく栄えてるって噂じゃねえか。ちょっと見てみたくなったんだよ」と食い下がる。最終的にディアブロが「そういうことなら歓迎しますとも。きっとリムル様も喜ばれます」と折れ、ギィは「リムルによろしくな」と去っていった。
ギィが消えたあとのディアブロの独白が「どうやらやり過ごせましたか」。ここでギィに邪魔をされたら事態がどう変化するか分からない、自分でもギィの相手は難しい、だからもっと強くならねばならない、と続く。同じ頃、テスタロッサも「こうなることを読んで私を使わせたに違いありません。全てはリムル様の手のひらの上」と言い、ルベリオスにいるリムルへ「こちらは私たちに任せて、心置きなく、お力を振るってくださいませ」と念を送っていた。二人とも、リムルの計算を勝手に大きく見積もっているのがおかしい。
ルベリオスで向かい合うリムルとレオン
グランベルが仕掛けた扇動
そのルベリオスでは、リムルが送り込まれた異世界人たちを相手にしていた。「異世界人にしては弱すぎる」「もしかして、こいつらを俺に当てたのは時間稼ぎか?」。そこから「だとすると、マリアベルの敵討ちが目的じゃない。グランベルの目的は何だ?」という疑問に行き着く。この引っかかりが、最後まで解けないまま回が終わる。
そこへレオンが現れる。グランベルが「おお、待ちかねたぞ、魔王レオン殿」と迎えると、レオンは「馴れ馴れしいな。誰だ貴様は? 顔を合わせるのは初めてだぞ」と切り捨てた。そのうえでグランベルが明かしたのが、レオンが商人を通じて集めていた子供たちは自分が用意したものだ、という話だった。「貴公から教わった術式で、子供たちを召喚し、商品として流していたのだ」。
ラファエルは三度警告している。最初が「危険です。個体名グランベル・ロッゾは、言葉巧みにマスターとレオンを敵対させようとしています」、次が「明らかな扇動です」、最後が「これは罠です」。それでもリムルは「ああ、分かってる」「分かってる、だが…」と言いながら足を止められない。分かっていても聞かずにいられない話を選んで出してくるのが、グランベルのやり方だった。
リムルが「おい! 今の話は本当か?」と叫ぶと、グランベルが「我ら商人は求められれば、どんな商品でも提供するものさ」と横から答える。リムルの「お前には聞いていない!」が良かった。そのうえでレオンに向き直り、「お前、シズさんだけじゃなく、他にも召喚していたのか?」と問う。レオンの答えは「ああ」の一言だった。
「不安定に召喚された子供が、長く生きられないのも知っての上でか!」と迫るリムルに、レオンは「それは…」と言い淀む。そこへグランベルが「貴公からの依頼は、十歳に満たない異世界人の提供だったな」とかぶせ、不安定な子供を救って兵器として利用しているのだろう、と決めつける。リムルが「だから、外にいるレオンの配下から精霊の気配が…」と気づくところまで含めて、全部グランベルの掌の上で進んでいた。
シズさんとの最後の約束を、やっと果たせたよ
ところがリムルが出した結論は、グランベルの期待と逆だった。「はじめは冷たいやつかと思ったけど、根はそうじゃない」。シズにイフリートを宿したのも、強く鍛えたのも、城に残したのも、全部レオンなりのやり方だったのだと理解する。扇動の材料にされた事実そのものが、逆に相手の人となりの証明になってしまった。
そのうえでリムルはレオンを殴る。「シズさんの残した思いをぶつける…最後の約束…やっと果たせたよ」。第1期からずっと持ち越されてきた宿題が、扇動の真っただ中でようやく片づいた。殴ることでしか渡せない預かりもの、という置き方が良かった。
殴ったあとのリムルの頭は冷えている。「レオンは敵じゃない…だけど、グランベルがわざわざレオンを呼んで、俺と戦わせようとするのは何でだ?」。ラファエルの答えは「個体名グランベル・ロッゾの目的を確定するには、情報が不足しています」。頼りにしている相棒が、ここで初めて答えを出せなくなる。
レオンの「気が済んだか?」に対して、リムルは「まだだね!」と返した。「シズさんの思いは伝えたが、俺の分が残ってる」。そして「今から語り合うとしようか」。レオンのほうも一連の行動からリムルが白であること、黒幕がグランベルであることを読み切っていて、「よく知りもしない俺を信じるとは、豪気な奴だ」「始めようか」と受けて立つ。殴り合いがそのまま会話になっている、この作品らしい和解の形だった。
リムルの側にも計算はあった。あえてグランベルの罠にはまったふりをして目的を暴く、それさえ分かれば裏をかけるはず、という組み立てである。ただし最後に残ったのが「だけどなんだ…何かを見落としている気がする…」という一言で、そのまま次回に持ち越された。
第90話「西方動乱」まとめと考察
嫌がらせが一周して自分に返ってきた回
今回は三つの場所が並行して動いていた。軍勢に押される西側諸国とイングラシアの評議会、ルベリオスの空で雑談している原初の二人、そして地上でグランベルと向かい合うリムルとレオンである。ばらばらに見えるが、動乱の出どころがすべてギィだったという一点で全部つながっていた。
軍勢を放ったのがギィで、ジラードたちが呼び出した神もミザリーだった。西で起きていた混乱は、ほとんどが同じ一人の退屈しのぎから出ている。ところがその本人が、テスタロッサ、ウルティマ、カレラという三つの名前を知らされて動揺し、最後には「今度リムルのとこに遊びに行くわ」と言い出してしまう。人類への嫌がらせのつもりが、一周して自分の予定を狂わせていた。
テスタロッサが最後まで一度も戦っていないのも、今回の面白さだと思う。神は名前を見せただけで帰り、裏切り者は国際法の条文で潰された。第87話でリムルが三権を分けて託したとき、彼女に渡ったのが外交武官という役職だったことを思い出すと、この決着の付け方はきれいに筋が通っている。力で殴れる者がわざわざ法で殴るところに、テンペストが法治国家として進んだ距離が出ていた。
一方でリムル側は、勝ったのに何も解決していない。シズとの約束は果たせたし、レオンとも通じ合えた。けれどもグランベルの本当の狙いだけが宙に浮いたままで、ラファエルも情報不足と答えるしかない。第89話でルミナスの秘宝が持ち去られていること、グランベルが娘の婚礼で妻を失った過去を抱えていることを合わせると、本命はまだ動いていないと考えるほうが自然だろう。
次回は第91話「死と消失」。タイトルだけで不穏だが、リムルが最後に漏らした「何かを見落としている気がする」がそのまま前振りになっている。評議会は守り切った、レオンとも和解した、それでも盤面はグランベルの側に傾いたまま。この回は勝ち方が鮮やかだったぶん、勝ったはずの側が何も掴めていないことのほうが後に残る一本だった。




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