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第7話「BYE BYE CLAY」は、メガテク・ボディ社から逃げ出したロボットの中に人形使いが入っていて、政治的亡命を要求した直後に強奪される、という回である。ただしこの強奪は、九課が奪われた場面ではない。九課の側はその場に居合わせていて、動かないまま発信機を四つ付けている。しかも前半で中村部長が語った経緯は、後半で人形使い自身の口から別の話に置き換えられる。




結論:あの「強奪」は、九課が奪われた場面ではない
公式のあらすじは「政治的亡命を要求した直後、何者かによって強奪されてしまう」で終わっている(※1)。文面だけを見れば、公安九課は横から持っていかれた側である。ところが本編は、その直後に当事者自身の口で、そうではないと言わせている。奪われる場面を、九課のほうが使っていた。
「どうして何もしなかったと思うわけ?」
強奪の直後、九課の側は「この件は内務大臣に正式抗議させてもらうよ」「もちろん生きたままでだぞ!」と色めき立つ。そこへ「あんまり怒ると血管切れるわよ」という軽口が挟まり、「そこにいたのならどうして?」と問われた答えがこれである。「どうして何もしなかったと思うわけ?」。答えた側が現場に居合わせていたことと、動かなかったのが選択だったことを、一度に認めている言い方である。問い返しの形なので断定はしていないが、直後の報告がその答えになっている。
発信機は四つ、しかも「第1セット」
続けて出てくる報告が、「中村部長に1個、人形使いに3個発信機付けたし」「まあ、第1セットはこんなもんね」である。奪われる時間が、そのまま四つ取り付ける時間として使われていた。しかも「第1セット」という言い方は、これで終わりではないことを前提にしている。締めに「これ、ボーナスの査定の時、考慮してよね」まで付くので、取り逃がした人間の台詞にはどう聞いても読めない。
「突入の時の荒巻のこけ方が不自然だった」
決定的なのは、そのあとの移動中に飛ぶ一言である。「突入の時の荒巻のこけ方が不自然だった」。倒された側の倒れ方まで作り物だった、しかも身内から見て出来が悪かった、という話になっている。問い返しの中身、発信機の数、そして荒巻の転び方。この三つが揃うと、第7話の強奪は「奪われた」ではなく「奪わせた」として読むしかなくなる。公式のあらすじの一文と、本編の当事者たちの振る舞いが、最初から食い違っているわけである。
第7話で確定したこと(要点だけ)
人物と組織が一気に増える回なので、先に事実だけ並べておく。
- 発端は、サイボーグ用の義体を作っているメガテク・ボディ社の開発局。2時間前に一つの工作台が勝手に全工程を組んでロボットを作り始め、5分前にそのロボットが逃げ出した。扱いは機密で、捜索はバトーが包囲網を敷いて進めている。
- 確保した個体の電脳からゴーストラインが見つかる。会議では「ゴーストをダビングした時に生じる疑似ゴーストラインに似てなくもなかったわ」という見方が出て、工作台の暴走という線は「工作台にそれだけの容量がないから」で切り捨てる。
- 会議でまとまる見立ては最初から一貫している。何者かが最高機密の防壁をくぐり、ロボットを組み立て、ゴーストラインのあるプログラムを送り込んだ。「それも、すぐ捕まるようなやり方でね」。
- 外務省条約審議官の中村部長が回収に現れる。外務大臣のサイン入りの書類を出し、見返りに九課をこの件から外すと言う。九課の説明では、条約審議部の別名が公安六課で、「国境の外が彼らの庭」。
- 中村の説明=この個体の中身は人形使いという、電脳犯罪史上もっともユニークと評されたハッカー。六課は行動パターンを調べ上げ、対人形使い用の攻性防壁を作ってボディに移らざるを得なくした。九課の側は「自分をダビングさせ本体を暗殺したんだな」と応じる。
- そこで当人が喋る。「義体に入ったのは六課の攻性防壁に逆らえなかったためだが、ここにいるのは私の意思だ」「一生命体として政治的亡命を希望する」。「自己保存のプログラムに過ぎん」と切り返されると、「それを証明することは不可能だ。現代科学では生命を定義できないからな」。
- 直後に襲撃を受け、上半身だけの状態で運び出される。運搬手段はチェロのケース(「頭だけにしてボストンバッグ?」「ハズレ、チェロのケースだよ」)。六課の仕業と断じる根拠は「光学迷彩みたいだったし」である。
- 追跡は夜通し続く。トグサは結婚記念日を潰し(「結婚記念日なのに残念ね」「俺も残念だよ」)、フチコマは現在地を訊かれても答えず「寝たか」で流される。九課は捜査のために車を盗み、その盗難通報を自分たちで処理させている。
- 並行して、トグサはニュートロン社の戦略研究部長を洗うよう指示される。手口は、家族のルートから銀行の捜査を誘い、口座に潜るというもの。「あんた本当に元デカ?」という呆れ声まで飛ぶ。
- 中村が空軍基地の連絡便への搭乗を要請したところで、九課が車列を制圧。素子が人形使いにダイブし、自称のコードプロジェクト2501にたどり着く。
人形使いが九課を選んだ理由も、本人が言葉にしている
亡命という言葉はあらすじにも出てくる(※1)。ただし本編は、そこから一歩踏み込んでなぜ九課なのか、なぜこの国なのかまで喋らせている。しかも理屈が二段構えになっていて、後半のダイブとちゃんとつながる。
「ここにいるのは私の意思だ」という分け方
最初の一言から言い方が正確である。「義体に入ったのは六課の攻性防壁に逆らえなかったためだが、ここにいるのは私の意思だ」。器に移った理由と、九課にいる理由を、はっきり分けて説明している。移動そのものは追い込まれた結果だが、移ったあとにどこへ入り込むかは自分で決めた、ということになる。ここで、捜査会議で出ていた「それも、すぐ捕まるようなやり方でね」が効いてくる。九課の側は事件の初日に、これは捕まりに来た事件だと読んでいたわけである。
「この国には死刑がないからだ」
決め手として出てくるのが、制度の話だというのがいい。中村に「だが亡命先を間違えたな」「仮に生命体だとしても犯罪者に自由はないぞ」と言われた人形使いは、「時間は常に私に味方する」と返し、その根拠をこう続ける。「ボディと共に死の可能性も得たが、この国には死刑がないからだ」。生命かどうかの議論に勝つ必要はなく、殺されない場所に入りさえすれば時間のほうが働く、という組み立てである。逃げ込み先が国であり、決め手が刑罰の制度であるという一点で、この亡命は空想の飛び道具ではなく、手続きの話になっている。
三者が三様の呼び方をして、どれも証明されない
呼び名も噛み合わないままである。六課は「自己保存のプログラムに過ぎん」と言い、九課の面々は確保直後に「もしかして皆さん、あのロボットにゴーストがあるなんて思ってる?」と揉めていた。そして当人の言い分が「AIではない。私は情報の海で発生した生命体だ」で、これはあらすじにもそのまま書かれている(※1)。三者が別々の名前で呼んでいて、そのどれも証明されないまま話が進む。生命の定義ができないという一言が、証明を要求した側の足場も同時に外しているのがうまい。
中村の説明は、後半で本人に丸ごと置き換えられる
この回がよくできているのは、同じ出来事の説明を、前半と後半で二回させているところである。しかも二回目を喋るのが説明された当人なので、どちらが嘘なのかまで本編の中で分かる。
前半=六課は「追い詰めた側」として語られる
中村の説明はこうだった。六課は人形使いを追い続け、傾向と行動パターンを調べ上げ、その結果として対人形使い用の特殊な攻性防壁を作り上げ、どこかのボディに移動せざるを得なくした。だから自分たちに回収する権利がある、という筋である。九課の側が「奴の死体はどこかで誰とも知れず発見されるわけか」と皮肉ると、「死体は出ない。なぜなら今までボディはなかったからだ」と返す。言われた側が黙るくらいには筋が通っていて、ここまでの六課は、あくまで追う側として置かれている。
後半=移したのは「入力者」だったと本人が言う
ところがダイブ先で、当人がまったく別の経緯を述べる。「私はあらゆるネットを巡り、自分の存在を知った。入力者はそれをバグとみなし、分離するため私をネットからボディに移した」。追い詰められて器へ逃げたのではなく、作った側にバグとして切り離されたという話になる。自称のコードはプロジェクト2501、中身は「企業探査、情報収集、工作」で、やってきたことは特定のゴーストにプログラムを注入し、特定の企業や個人のポイントを増加させることだと本人が説明する。六課は追っていたのではなく、使っていたと読める。前半で中村が持ち出していた、生まれが国外なのだから回収したい、という理屈も、ここで根拠のほうが消える。
九課は392日前から同じ疑いを持っていた
そう考えると、その場で九課の側が漏らす一言の意味が変わってくる。人形使いが「392日前、九課の存在を入力された時も、プラチナ採掘企業のポイントを上げた」と述べたところで、中村に向かって「あの件では外務省と貴様の繋がりを証明できなかった」という一言が飛ぶ。過去に一度、同じ疑いで調べて、届かなかったと自分から明かしている。すぐ横から「それ、奴には聞こえてませんよ」と突っ込まれるのが可笑しいのだが、この一言があるおかげで、なぜ九課が奪わせてまで中村を泳がせたのかが一本につながる。欲しかったのは人形使いではなく、持ち去る相手のほうだったということになる。
冒頭の雨と、終盤のネットが同じ言い方で結ばれている
派手な捜査劇に隠れているが、この回は最初の一分と最後の数分が、同じ言葉づかいでできている。一度気づくと、間に挟まった三十分ぶんの事件のほうが前置きに見えてくる。
冒頭=義体をすり抜けて、ゴーストを直接包む
話は雨から始まる。「雨って嫌だわ」という独白に続けて、嫌な理由が説明される。雨の音が義体をすり抜けて、ゴーストを直接包んでいるみたいだ、という言い方である。痛いとも怖いとも言っていない。外側の器を通さずに、中身のほうへ直接届いてしまうのが嫌だ、という一点だけを述べている。事件はまだ何も起きていないので、この時点では手ざわりの話にしか聞こえない。
終盤=電子の防壁をすり抜けて、ダイレクトで返ってくる
ダイブの終盤、草薙素子は自分の感覚がおかしいことに気づいて言う。「専用デッキを通してないのに視覚変換されてる」、続けて「この脆いネットが電子の防壁をすり抜けて、ダイレクトでフィードバックしてるんだわ」。器を通さずに中身へ直接届くという、冒頭とまったく同じ形の出来事である。違うのは、届いてくるものが雨の音から人形使いに変わっていることだけで、言い回しのほうは「すり抜けて」「直接」で揃えてある。冒頭で気持ち悪いと言っていたことが、そのまま終盤で本当に起きる、という順番になっている。
消えるのは記憶ではなく、記憶を置いていた場所
その間に素子が口にする観察も噛み合っている。「私の場合、記憶は義体の一部。神経網の物理的構造だったようだ」「記憶のトリガーは記憶本体がなくても残っている」「イメージだけが私の内部を迷走する」。記憶が消えたのではなく、記憶を置いていた場所のほうが先に消えている。そのうえで「言語野は私のだから鮮明だけど」と付け加える。言葉の機能だけが自分のものとして残っている状態で会話が続くので、この回の後半は理屈っぽさが一気に増す。読みづらさが演出の趣味ではなく、素子に残っている機能がそれしかないという状況の説明になっている。
この回の言い分は、公式サイトの用語解説と裏で噛み合っている
公式サイトには「LOG」という用語解説のページがあり、どの話に関わる項目かを示すタグ付きで公開されている(※2)。第7話ぶんはまだ出ていないのだが、この回で交わされる議論の前提は、すでに第3話と第4話ぶんの項目で先に定義されている。あとから読み合わせると、人形使いの台詞がいちいち踏まえていることが分かる。
「時間は常に私に味方する」の裏側
第3話のタグが付いた項目に、こう書かれている。「このクラスのAIはコピーが可能であり、寿命が存在しないため、『時間が多い少ない』といった概念は生じないと考えられる」(※2)。人形使いの「時間は常に私に味方する」は、この裏返しである。しかも本人は同じ場面で「ボディと共に死の可能性も得た」と認めている。時間を数える必要がなかった側が、器を得たことで数える側に降りてきて、それでもなお時間は味方だと言い切っていることになる。直後に持ち出す根拠が死刑の有無なのだから、勘定はきっちり合っている。
「さらなる上部構造にシフトする時だ」の裏側
同じ第3話のタグに、もう一つある。「義体を持ったAIにおいても、食欲や性欲、名誉欲は設定しない限り生じない。ただし、ネットの拡大など、情報体としての成長への欲求は発生しうると考えられる」(※2)。そしてこの回の最後、人形使いが言い残すのが「制約を捨て、さらなる上部構造にシフトする時だ」である。欲望としてではなく、成長として書くという方針が、四話も前に文章のほうで置かれていたことになる。人形使いが金も権力も要求せず、亡命という手続きだけを求める理由も、この一行で説明が付く。
ダビングの定義も、先に置かれている
第4話のタグにはこうある。「ゴーストダビング:脳神経網、電脳を高精度スキャンし、別のマイクロマシン神経網に構造を複写する技術」、そして「複製も完全なものではない」(※2)。この一行があるので、九課の側から出た「自分をダビングさせ本体を暗殺したんだな」が具体的に効く。複製が完全でないなら、コピー元さえ消せば差は誰にも分からなくなるからで、人形使いの手口が成立する条件そのものが、四話前の解説で示されていたことになる。確保直後に出た「疑似ゴーストラインに似てなくもなかったわ」という見方も、同じ定義を踏まえた台詞として読める。
まとめ:「BYE BYE CLAY」が置かれた位置と、次の予想
サブタイトルはBYE BYE CLAY。この作品のサブタイトルはすべて英語で、公式サイトのSTORYページに一覧で並んでいる(※3)。並べ方そのものが、この回の重さを示している。
第4話から、1話につきタイトルが一つになった
一覧を上から見ると、第1話は「PROLOGUE + SUPER SPARTAN i」、第2話は「SUPER SPARTAN ii + JUNK JUNGLE i」、第3話は「JUNK JUNGLE ii + MEGATECH MACHINE i + ii」と、一話に二つ三つのタイトルが束ねられている(※3)。ところが第4話以降は「ROBOT RONDO」「PHANTOM FUND」「DUMB BARTER」、そしてこの「BYE BYE CLAY」と、一話につき一つに落ち着く。序盤で詰めて進めていた歩幅が、第4話でぴたりと一定になっている。書き手が変わらないのも効いていて、原作は士郎正宗のコミック、シリーズ構成と脚本はここまで全話が円城塔ひとり、第7話の絵コンテと演出は横山彰利で、この回にしか名前が出ていない(※4)。制作はサイエンスSARU。話数ごとに書き手が入れ替わらないので、第3話の用語解説とこの回の台詞が噛み合うのも当然といえば当然になる。
この回が置いていった鍵は、ニュートロン社にある
本編がはっきり次へ渡している仕掛けが一つある。人形使いの証言である。「記録は186日前、ニュートロン社の中央記憶野に私が隠した」「私との接触が滞ると自動的に九課に送信される」。「そのことを証明できる記録が必要だわ」と促されて出てきた答えで、中身にはポイントを増加させた特定の企業や個人の名前も含まれるという。ここで前半が生きる。九課がトグサに洗わせていたのは、まさにニュートロン社の戦略研究部長だった。まったく別に見えた二本の捜査線が、ダイブの中で合流している。
次回の予想
予想として書くなら、次に動くのは人形使いの奪い合いではなく、隠された記録のほうだと見ている。理由は二つある。一つは、送信の条件が「接触が滞ると」という、人形使いが無事でなくなった場合にこそ作動する形になっていること。つまり相手が人形使いを消せば消すほど、九課の手元に証拠が届く。もう一つは、荒巻がわざわざ「証明できなかった」という言い方をしていることで、足りなかったのは疑いではなく材料のほうだったと自分で言っている。その材料が向こうから届く仕掛けがもう動いている以上、話の重心はそちらへ移るはずである。もっとも、これはあくまで予想である。
出典
※1 テレビアニメ公式サイト STORY EPISODE 07「BYE BYE CLAY」(あらすじ)/theghostintheshell-anime.jp
※2 同 LOG(用語解説・関連エピソードのタグ付き)/theghostintheshell-anime.jp/log
※3 同 STORY(各話サブタイトル一覧)/theghostintheshell-anime.jp/story
※4 ウィキペディア「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」各話リスト(脚本・絵コンテ・演出)/ja.wikipedia.org




















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