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第7話「素敵な思い出ができたのは」は、ノンナがハンソン男爵家へお試しで泊まりに行き、独りになったビクトリアがマイルズと手合わせをする回である。ただし順番をたどると、この手合わせは落ち込みを晴らすためのものではない。ビクトリアはここで、裏隣の家に住む人物が、その家の本当の住人ではないことを確かめている。あの家を出ると決めたのは、ノンナのことでもジェフリーのことでもなかった。




結論:あの手合わせの目的は、気晴らしではなく身元の確認
公式あらすじは「気持ちを切り替えて、マイルズと手合わせをするビクトリア。マイルズは何も聞かずに付き合ってくれた」と書いている(※1)。落ち込んだ人が体を動かして立ち直る場面、という読み方でまず間違いない。ところが本編は、その直後にまったく別の目的があったことを本人の口から明かす。
手合わせの直後に置かれる「確かめられた」の一言
マイルズと打ち合って別れたあと、ビクトリアはこう独白する。「マイルズさん、何も聞かなかった。それに、確かめたいことも確かめられた」。前半だけなら、事情を詮索しない年長者への感謝で終わる。問題は後半で、この人は最初から確かめたいことを持って手合わせに行ったと言っている。直前の場面でビクトリアは「マイルズさん、鍛錬のお相手をお願いできますか」と自分から申し込み、「両目を切り裂かれました」「やられた、もう一回」「何度でも」と本気で打ち合っていた。「さすがに急所は外して股関節にしたんですけど」「老人の股関節は急所と同じだ」という軽口まで交わしている。見ている側には、完全に気晴らしの場面として届く作りになっている。
確かめた中身は、利き手と釘の高さと靴下の大きさだった
続く独白で根拠が全部並べられる。「マイルズさんはあの家の本当の住人じゃない。本当の住人は左利きで、もっと小柄だ」「鍛錬をしてはっきりした。マイルズさんは完全な右利きだ」。つまり手合わせは、利き手を確定させるためだけに行われたということになる。残りの二つは家の中の観察で、「低めの位置にある荷物掛けの釘」と、「道具拭きに使われてるらしい古い靴下は、マイルズさんのものにしてはかなり小さめ」。背の低い誰かがふだん使っている家に、背の高い別人が座っている、という形である。
決め手は「日課で走るコースの途中に出会った」
そのうえで、ビクトリアはこう畳みかける。「元工作員の家の裏隣に元軍人が住んでいて、本当の住人とは別人」「その別人とは、私が日課で走るコースの途中に出会った」「これはもう偶然ではない」。結論は「誰かが私の動向を探らせるために、マイルズさんをあの家に住まわせた」で、そのまま「身の危険を感じたら引っ越せと、私の勘がせっついている」へつながる。この回でビクトリアが家を出た直接の理由は、ノンナの養女の話でも、ジェフリーとの関係でもない。隣人が監視だと確定したことである。しかも第6話でビクトリアの正体を言い当てたのはマイルズのほうだった。見抜いた側が、今度は見抜かれる側に回っている。
第7話で確定したこと(要点だけ)
視点が細かく入れ替わる回なので、先に起きたことだけ並べておく。
- 冒頭、クラークにノンナのことを尋ねられたビクトリアは答えられず、「申し訳ありません、私、帰りますね」と授業を切り上げる。クラークは「僕なら絶対にノンナを行かせません」と言う。
- 知らせを聞いたジェフリーが訪ねてくる。「いるんだろ? ドアを開けないなら蹴破るぞ」「鍵なら開いてます」。ビクトリアは「ノンナには、ノンナの人生を決める権利があるのに」「あの子にとって幸せだから、つらいんです」と落ち込む。
- ジェフリーの「男爵の家に取り戻しに行けばいい」「心細いなら俺がついていく」という申し出を、ビクトリアは「あの子の気持ちを一番に考えたいので待ちます」と断る。
- その後、ビクトリアはマイルズに手合わせを申し込む。マイルズは理由を訊かずに付き合い、「またいつでも来るといい。今日は実に楽しかった」と言う。
- 数日後の夜、ノンナが自力で戻ってくる。2階の窓から手すりにぶら下がって手を離し、着地で転がって抜け出してきた。
- エバがハンソン家の事情を説明する。翌日、男爵から荷物と手紙が届く。ジェフリーによれば、兄のエドワードが男爵に「ノンナの保護者はビクトリアであることを忘れないでほしい」と釘を刺していた。
- ジェフリーとエドワードは、それぞれ別にビクトリアが脱走工作員だという答えに届いている。
- その後のある朝、ビクトリアはノンナを連れて姿を消す。マイルズ宛てとジェフリー宛ての手紙が残されていた。
家庭教師の仕事そのものが、兄の置いた監視である
この回でいちばん重いのは、ビクトリアの独白でもジェフリーの推理でもなく、エドワードが一人で口にする一行だと思う。彼女が手に入れた「普通の暮らし」は、最初から観察装置の中にあったと分かってしまう。
「彼女を目の届くところに置いておきたかったからだ」
エドワードの独白はこうである。「アンダーソン伯爵にクラークの家庭教師としてビクトリアを勧めたのは、彼女を目の届くところに置いておきたかったからだ」。家庭教師の仕事は、第4話でエバから頼まれたものだった。働きながら子供を育てる女性にとって、安定した収入と身元の後ろ盾を同時にくれる、いちばんありがたい話である。それを持ってきたのが、彼女を疑っていた人物だった。裏隣のマイルズについても「マイルズからの報告によると」と当たり前のように話す。働き先も、住まいの裏隣も、報告の上がる先は同じだったということになる。
報告書で出てきた食い違いは三つ
エドワードが挙げる材料は具体的で、数えると三つある。一つ目は時期で、「夜会事件の女性についての報告書」「そして今回の脱獄事件」「全て関わっているのは若い女性」「それも、彼女が入国してから起きている」。二つ目は身の上で、「彼女の両親は火事で死んだとジェフリーから聞いた」「だが報告書では、ビクトリア・セラーズの両親は生死不明」。三つ目が決定打になっていて、「馬の扱いに関しては軍人の兄に習ったと言ったらしいが、本物のビクトリアには兄はいない」。締めが「油断したね、ビクトリア」である。変装も偽造もできる人が、雑談の中でだけ足を出しているという書き方になっている。
保護と引き渡しが、同じ天秤に載っている
ただし、エドワードは敵として書かれていない。「彼女は何かから逃げている」「理由によっては保護したいが、同時に理由によっては当事国に引き渡さなければならない」。さらに「彼女はジェフリーを心の牢獄から連れ出してくれた恩人だ」「彼女ならば、弟の心の奥のより深い闇に光を与えてくれるかもしれない」「できるなら二人の関係を応援したいが」とまで言う。それでも動けないのは「助言しようにも、ジェフリーは俺が第三騎士団であることを知らない」からで、最後は「誤ったことをしないといいんだが」と心配するだけで終わる。善意と職務が同じ人の中で並んでいて、どちらもビクトリアを追い詰める側に働く。
ジェフリーはもう答えを出していて、それでも動かない
兄とは別の道筋で、弟も同じ場所に着いている。しかもこちらはビクトリアが消える前に、消えることまで予想している。
「そこから導き出される答えは一つ」
母親から縁談の話を向けられて「まだ何も決まってないんです」とかわしたあと、ジェフリーの思考が並ぶ。「ビクトリアも俺を嫌ってはいないように思う」「しかし、俺が一歩踏み込むと、彼女は一歩下がる」。そこから材料を数え上げていく。「夜会の時、不審な男に誰よりも早く気づいたのは彼女だ」「腕の立つセドリック殿下を追い詰め骨折させたが、彼女自身は無傷だった」「四カ国語に堪能で、掃除と料理も得意」「体術と剣術の腕も立つ」。結論は「そこから導き出される答えは一つ」「脱走工作員」で、「ビクトリア・セラーズというのも偽名だ」まで届いている。「過去を話したがらないことも、何を恐れているかを決して言わないこともうなずける」という後片づけまで済ませている。
籍を抜いて平民になる、というところまで考えている
注目したいのは、そのあとに続く覚悟のほうである。「彼女と共に生きることを選ぶなら、迷惑をかけぬよう家から籍を抜き、平民になるのが最善の道だ」。相手が敵国の工作員かもしれないと分かったうえで、切り捨てる側ではなく、自分が身分を捨てる側の計算をしている。第6話でビクトリアが助けを断ったとき、この人は「俺は君を見放さないが」と返していた。言葉だけではなかったことが、ここで示される。
「姿を消す気がする」が、その数日後に当たる
それでもジェフリーは踏み込まない。理由も自分で言っている。「だが、肝心のビクトリアは踏み込んでくれるなと訴えているように見える」「一緒に暮らそうと告白した途端に、ノンナを連れて姿を消す気がする」。そして「彼女が本気で姿を消したら、もう俺には…見つけられないだろう」。この予想は、告白しなかったのに当たってしまう。数日後の朝、ビクトリアはノンナを連れて出て行く。踏み込んでも踏み込まなくても結果は同じだったという形で、この人の慎重さが空振りに終わる。最後の一行は「俺はあれほど、いきなり消えないでくれと言ったじゃないか」で、これは第4話で本人がビクトリアに頼んだ言葉の返しになっている。
ハンソン夫妻の話が、ビクトリアの8歳につながる
養女の話は第6話の続きだが、第7話でようやく男爵夫妻がなぜノンナに執着したのかが説明される。そしてその説明が、ビクトリア自身の生い立ちにそのまま乗り移る。
養女の申し出は、噂に賭けるしかなかった親の続きだった
事情を語るのはエバである。4年前に高熱の出る病が流行り、「亡くなる子供や老人が少なくなかった」。クラークもかかったが助かった。外務大臣の家だったために「他国のいい薬を使ったらしいと噂されたの」「誤解だったけれど、どんなに否定しても噂は消えなかったわ」。そこへ男爵が来て、「涙ながらに、薬を譲ってほしいと頼まれたのよ」「このままでは娘は死んでしまうと」。ビクトリアが「アンダーソン家には何の責任もない話ですわ」と言うと、エバは「理屈ではね。でも、彼らには理屈じゃないのよ」と返す。養女の話は横取りでも逆恨みでもなく、存在しない薬に賭けるしかなかった親の、その後だったということになる。
翌日に届いた荷物と手紙
翌日、男爵から荷物と手紙が届く。手紙には「少しでもドロレスを取り戻したような時間をくれたことに感謝する」と書かれていた。荷物は「高そうなドレスに靴、アクセサリーやバッグもあるわよ」で、受け取ったビクトリアは「私は胸が詰まった」と地の文で言う。部屋に鍵をかけ、ドロレスと呼び、家族が揃ったと言って泣いた家から、謝罪ではなく礼が届いたという置き方になっている。ノンナのほうも「奥様だけのときは少し嫌だった」「あと、家族が揃ったって言って泣くのは怖かった」と言いつつ、「でも、もう気にしてないよ」で終わらせる。
「あの時、8歳の私を手放した後」
荷物を前にしたビクトリアの独白が、この回でいちばん静かな山だと思う。「これらの品を手放すとき、夫妻はどんな思いだっただろうか」「我が子の代わりは誰もいないのだと納得してくれただろうか」。ここまでは他人の話である。ところが次の一行で主語が入れ替わる。「あの時、8歳の私を手放した後、両親は寂しいと思ってくれただろうか」。公式のキャラクター紹介では、ランコムは「幼い頃のビクトリアを貧しい家族から引き離し、組織で工作員クロエとして育てた」人物とされ、「クロエにとっては上司であり、兄のように慕う存在でもあった」と書かれている(※2)。一方でエドワードは「本物のビクトリアには兄はいない」と指摘していた。兄がいないはずの名前を使う人が、とっさに兄の話をした。この二つが同じ回に並んでいる。
ノンナが養女の話を受けた理由は、エバのハンカチにある
第6話でノンナは「七回泊まればいいの? それとも六回?」と数字を出し、「五回お泊りして嫌だったら断ってもいいの?」と念を押してから引き受けていた。なぜ引き受けたのかは、第7話で本人が説明する。理由は思っていたより具体的で、しかも観察に寄っていた。
「困ったとき、エバ様はハンカチをギュッとする」
なぜ引き受けたのかと訊かれたノンナはこう答える。「あのとき、エバ様が困ってたもの」「困ったとき、エバ様はハンカチをギュッとする」「だから言ったんだよ」「断っていいって言ったもん」。つまりノンナは、大人の手元の癖を読んで、その場を収めるために引き受けていた。人の仕草から状態を読む力は、この作品ではビクトリアの職能そのものである。それを子供が別の目的に使っている。ビクトリアの返しは「でもね、だったら最初から引き受けなければいいのに、って私は思うけど」である。困っている人を見ると引き受けてしまうところは、この二人でよく似ている。
脱出の手順は、全部ビクトリアが教えたものだった
戻ってきた方法も具体的である。「2階の窓から手すりにぶら下がって、手を離した」「教わったとおり、ちゃんと着地するときゴロンしたよ」。ビクトリアがノンナに身を守る術を教えた目的は、第4話で語られている。「悪い大人に襲われた時に自分の力で逃げられるように」だった。その技術が、貴族の屋敷から保護者のもとへ帰るために使われている。襲われたときに逃げるための訓練が、戻ってくるための手段になったということである。
「鍵をかけられたら非常事態」
ビクトリアが「それは非常事態のときだけって」とたしなめると、ノンナはこう返す。「鍵をかけられたら非常事態」「死んだ子供の代わりも非常事態」。言われた条件を、自分でその場に当てはめている。実際、屋敷では部屋に鍵をかけられ、「私のことドロレスって呼ぶ」「お父様、お母様って言いなさいって」と要求されていた。ノンナの答えは「嫌だよ、ドロレスじゃないし、親じゃないし」である。名前を取り替えられることを、この子ははっきり拒んだ。名前を取り替えて生きてきたビクトリアの隣で、である。
まとめ:第1話と同じ脚本・演出で、正反対のことが起きている
最後に担当者を見ると、この回の位置づけがはっきりする。第7話は、第1話を書いた人と作った人が揃って戻ってきた回である。
福島直浩が書いたのは第1話・第2話と、この回
第7話の脚本は福島直浩で、絵コンテは大畑清隆、演出は村田尚樹(※3)。福島直浩はシリーズ構成で、ここまでで自分が脚本を書いたのは第1話・第2話とこの第7話だけである。演出の村田尚樹も、第1話とこの回にしか名前が出ていない(第1話は監督の木村延景との連名なので、監督ぶんを除いて数えている)。物語のうえでも、この人が住む場所を変えるのは第1話とこの回である。
「誰にも縛られず自由に」から「素敵な思い出ができたのは」へ
サブタイトルを並べると、もっと分かりやすい。第1話は「誰にも縛られず自由に」で、これは工作員をやめた人が選んだ生き方の宣言だった。第7話は「素敵な思い出ができたのは」で、出どころはジェフリーへ残した手紙の一文である。「素敵な思い出ができたのは団長さんのおかげです」。同じ手紙には「こんなに楽しい生活は生まれて初めてで」「もっと早く出て行くつもりでした」「楽しくて幸せで、ぐずぐずと先延ばしにしていました」とも書かれている。縛られないために出た人が、縛られたせいで出発が遅れたと詫びている。第1話の宣言が、七話かけて反対側から言い直された形になっている。見送るヨラナの言葉が「いつまでも泣くのはおよしなさい」「そしていつか帰ってらっしゃい」であるのも、出て行く回としては珍しい閉じ方だと思う。
次回の予想
予想としては、次に動くのはエドワードだと見ている。理由は二つある。一つは、彼が「理由によっては保護したいが、同時に理由によっては当事国に引き渡さなければならない」と天秤を口にしたまま、まだどちらにも傾けていないこと。もう一つは、マイルズの報告が上がる先が彼だということである。そのマイルズがビクトリアの不在に気づいて動いたのが、この回の終わりだった。ビクトリアが消えたという情報は、いちばん早く第三騎士団に届く。もっとも、これはあくまで予想である。
出典
※1 TVアニメ公式サイト STORY 第7話(サブタイトル・あらすじ)/victoria-anime.com/story
※2 TVアニメ公式サイト CHARACTER(ランコムほか登場人物の紹介文)/victoria-anime.com
※3 ウィキペディア「手札が多めのビクトリア」各話リスト(脚本・絵コンテ・演出)/ja.wikipedia.org




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