『天は赤い河のほとり』第7話「冷たい唇」感想|勝たせたのは援軍ではない

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第7話「冷たい唇」は、ミタンニ軍に急襲されたキッズワトナからユーリが単身脱出し、カイルの援軍を呼んでくるまでを描く回である。ただし勝敗を決めたのは援軍そのものではない。ユーリが援軍を頼んだ直後に足した一言である。同盟国の軍は裏切り、王も寝返るのに、武器を持たない市民のほうがヒッタイトに味方する。しかも黒太子が退却を決めた理由は、本人の口から言葉になっている

アニ
今週の#アニメ天河、キッズワトナを守ったのは援軍じゃないんだわね!
ラン
えっ、じゃあ何が守ったの?ユーリちゃんが足した一言なの?そうなの!
キャロ
援軍を頼んだ直後の「市民に乱暴しないよう」が、すべての起点になっていますね。
アニ
うんうん、その評判が市民を動かして、黒太子を退却させただわね!さっそく見ていくござる!

結論:キッズワトナを守ったのは、援軍ではなくユーリが足した一言

公式あらすじは「ユーリは1人でキッズワトナを脱出し、カイルの元へ夜通し馬を走らせ……」で終わっている(※1)。援軍を呼びに行く話、という枠だけを見ればその通りである。ところが本編で戦況をひっくり返すのは戦車隊ではなく、ユーリが援軍を頼んだ直後に、ついでのように付け足した一言のほうだった。

援軍を頼んだ直後の「それから、お願い」

倒れていたところをカイルに拾われたユーリは、「キッズワトナがミタンニ軍に襲われたの」「早く援軍を」と用件を伝える。カイルが「分かった、すぐ向かおう」と答えたところで、ユーリはもう一つ言う。「それから、お願い。市民に乱暴しないよう、兵士たちに」。援軍の要請そのものは公式あらすじにも書かれているが、この二つ目の頼みは書かれていない。そして本編は、この一言だけを起点にして残り半分を組み立てる。

命令が兵士の口上になって、市民のところまで届く

戦場に着いたカイルは、弟に「西の門から市街地に入る」「お前は東の門から進撃して、黒太子の背後に回り込め」と配置を指示したあと、「市民には手を出すな」「逃げ遅れた女子供は保護するんだ」と付け加える。次の場面で、その命令は兵士の言葉に変わっている。「俺たちヒッタイトのイシュタルは、女子供への乱暴は嫌がりなさる」「何もしないから安心しろよ」。命令のまま伝えるのではなく、兵士のほうがイシュタルを持ち出して市民を安心させているのがこの場面の要点である。

退却の理由は、黒太子本人の口から出ている

効き目は市民の側の台詞で示される。「俺たちはいつも誰かに支配されて暮らしてる」「なら血で支配する黒太子より、守ってくれるイシュタルの方がいいさ」「俺たちはヒッタイトに味方する」。好きになったのではなく、二つを並べて比べた結果として選ばれているのがいい。そして報告を受けたマッティワザの反応がこうである。「市民どもの暴動です」「キッズワトナ中の市民が我が軍に向かってきます」「皆、イシュタルの名を叫び」→「やっかいだな」「下手に刺激して国中に広まっては手が付けられん」「今日のところはここまでとする」「退却だ」黒太子は戦って負けたのではなく、広がることを嫌って引いた。つまり退却の理由が本人の言葉として置かれていて、ユーリの一言からここまでの因果が本編の中で閉じている。

▼ ネットの反応

日本テレビ「天は赤い河のほとり」
第7話 冷たい唇

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第7話で確定したこと(要点だけ)

場面が国をまたいで動く回なので、先に事実だけ並べておく。

  • ザナンザの作戦=自分は駐屯地でヒッタイト兵を集めて時間を稼ぎ、ユーリが北のカネシュへ抜けてカイルと合流する。「あそこなら小さな城塞になっているから、一日は持たせられる」「北の一つ星を目印にすればいい」→ユーリ「一つ星…北極星だね」。
  • 別れ際、ザナンザは「こんなところに連れてきて悪かった」「私はなぜ兄上のことを妬んでいるのだと。あれが私の本心なんだろうか」と言う。ユーリの返しは「あれは王妃に操られてたせいだよ。気にしないで」。
  • 脱出の途中、ユーリは兵に襲われていた親子を助ける。礼として抜け道を教えてもらい、そこで「戦の時はいつもこうさ」という話を聞かされる
  • カイルと合流。「キックリ、カネシュだ。カネシュでザナンザの軍をまとめるぞ」。ユーリはハディに預けられ、砦へ入るよう言われる(「イシュタルは神殿の中にいるものだ」)。
  • 戦闘中、キッズワトナ軍がミタンニ側につく。それまでの報告は「キッズワトナ軍の出動はまだか」「いまだ動かず」で、最後は「王宮が黒太子に攻め込まれて」と伝えられる。同盟国の正規軍は最後まで出動せず、王は寝返っていた
  • 市民が蜂起し、マッティワザは退却を決める。去り際に「ヒッタイト軍の総帥は誰だか分かったか?」「第三王子カイル・ムルシリとか」「カイル・ムルシリ、覚えておこう」
  • 戦後、キッズワトナ王は「同盟を結びながらこの度はまことに」「どうかお許しを」と命乞いし、国務を太子に譲って謹慎するよう申し渡される
  • 帰国後、元老院が招集される(カイルは「王妃の差し金か?」と漏らす)。皇帝は罰金で収めようとしたが、王妃が「両殿下の功績剥奪」を要求。ユーリの機転で覆り、二人には逆に報酬が出る。

▼ ネットの反応

天は赤い河のほとり第7話✨
ユーリは、ザナンザによって連れ去られた地中海に面する同盟国・キッズワトナでミタンニ軍の急襲に遭う
その軍を率いるのは、冷酷無比な戦い方から『血の黒太子』と呼ばれる武将・マッティワザだった❗️

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序盤の母親が言う「ヒッタイト兵だって変わりゃしない」が効いてくる

市民が味方するくだりが説教くさくならないのは、その前に、市民の側の不信をきちんと言わせているからである。しかもそれを言うのは、ユーリが助けた相手だった。

抜け道と引き換えに聞かされる、戦争の実際

抜け道を教えてくれた母親は、ついでのようにこう言う。「戦の時はいつもこうさ」「家は焼かれ、蓄えは奪われ、女は襲われる」「私たちは隠れてるしかないんだよ」。ユーリが「きっとヒッタイト軍が助けに来てくれるよ」と言うと、返ってくるのは「ヒッタイト兵だって、ミタンニの奴らと変わりゃしないさ」である。公式サイトの地図の解説でも、キッズワトナは「ヒッタイトとミタンニの国境に位置し、常に両大国の争いの対象にされてきた」と説明されている(※1)。この人たちにとって、助けに来る軍隊はどちらでも同じだったという前提が先に置かれる。

「私たちはいけないよ。ここが私たちの国だからね」

ユーリが「抜け道、それならみんなで逃げ出そうよ」と誘っても、母親は断る。「私たちはいけないよ。ここが私たちの国だからね」。逃げないのは勇気があるからではなく、ほかに帰る場所がないからである。この一言があるので、終盤で同じ人たちが軍に向かっていく場面が、急な心変わりに見えなくなっている。見送るときの「おいき、気をつけるんだよ」も、助けてもらった礼というより、行かせてやる側の言葉になっている。

戻ってきたユーリが、その不信を実物で覆す

ユーリはこのとき二つ約束している。ザナンザには「必ずカイル王子と軍を連れて、三日で戻ってくる」、母親には「必ず戻ってくるからね。カイル王子を連れて。必ず」。そして本当に戻ってくる。再会の場面で母親が「せっかく無事に抜け出せたのに、また戻ってくれたんだね」と言い、ユーリは「うん。月毛の馬が引く戦車の上の人と一緒にね」と返す。続けて、「言った通り、ヒッタイトはみんなに悪いことしない」「あの人がさせない」「あの人には、叶えたい理想の世界があるから」言い返すのではなく、連れてきて見せることで否定しているのがこの回の運び方である。

▼ ネットの反応

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『#天は赤い河のほとり』
日本テレビにて第7話

⠀⠀⠀⠀⠀放送開始
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「イシュタルを演じてみせる」と、本人がはっきり言っている

この回で見落とせないのは、ユーリがイシュタルを演技だと自覚したうえで引き受けていることである。周りが神格化していく話ではなく、本人が乗りにいっている話として書かれている。

「そのためなら、一生懸命イシュタルを演じてみせる」

街の人に「あの子、何者なんだい」と訊かれ、「あの方はユーリ様。第三王子カイル・ムルシリ殿下のご側室。我々ヒッタイトのイシュタルよ」と身分が明かされる。そのすぐ後に、ユーリの独白が入る。「カイル王子のそばにいたい」「役に立ちたい」「そのためなら、一生懸命イシュタルを演じてみせる」。第4話で成り行きから生まれた噂を、第7話では本人が意識的に運用し始めているということになる。

怒鳴ったあとに続く「宮の奥に閉じ込めて」

ところが決意した直後にカイルから怒鳴られる。「バカ! 砦にいろと言ったろ!」「無防備にウロウロしていると、いい獲物だと思われるぞ!」。ユーリが「役に立ちたくて」と言うと、「私はお前に助けられなくても戦える!」と返ってくる。すぐに謝り、「お前はイシュタルとして想像もしなかったほどよくやってくれている」「それで十分だ」となだめるのだが、本音はそこで止まらない。「戦いの場になど連れて行きたくはない」「私の宮から一歩も出したくない」「宮の奥に閉じ込めて、誰にも会わせず、どんな男の目にも触れさせず」役に立ちたい側と、役に立たせたくない側で、動機の向きが正面から逆になっている

イシュタルが生まれた回と、独り歩きする回は同じ脚本家

担当を見ると、この重なりは偶然ではなさそうである。第7話の脚本は雑破業、絵コンテと演出はサトウユーゾー(※2)。この作品のシリーズ構成は冨田頼子で、第1話・第2話・第3話・第5話の脚本も書いている。雑破業が書いたのは第4話「イシュタルの化身」とこの第7話の二本だけである。絵コンテと演出をまとめたサトウユーゾーは、この回にしか名前が出ていない(監督の小林浩輔は第1話と第2話で自分で絵コンテを切っている)。イシュタルという呼び名が生まれた回と、その呼び名が本人の手を離れて動き出す回を、同じ人が書いている。実際、カイル自身がこの回で「イシュタルは独り歩きし始めてしまったようだな」「もう引き返せない」と言う。

▼ ネットの反応

今夜『#アニメ天河』第7話が放送されます。
現在のカイルの心情を想像すると、
気が気でないどころではないでしょう……

そしてこれはただの報告ですが、
原作の篠原千絵先生画業40周年記念
『#天は赤い河のほとり』複製原画を
購入し部屋に飾っております。

(私の生きる部屋はここ!
この白い壁の間取り!)

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元老院は、勝ったという事実そのものを証拠に使われて負ける

帰国後の裁きの場は、戦闘とは別の勝負として書かれている。ここで武器になるのは剣ではなく、直前の勝利そのものである。

狙いは罰金ではなく、王位継承権だった

皇帝はまず「民の手本になるべき王子たちが風紀を乱し」「特にザナンザ、誘拐は重罪である」と叱り、「罰としてお前たちには銀八十万を」と量刑に入ろうとする。そこへ王妃が割り込んで「両殿下の功績剥奪を要求します」と要求を上書きする。すぐに「両殿下から王位継承権を奪う気か」と声が上がり、元老院の採決では「王妃陛下に賛成します」が続いて「元老院が王妃についた」「これでは皇帝でも覆せない」となる。罰金で済むはずの話が、帝位の話に化けているのがこの場面の仕掛けである。

ユーリの嘘を支えているのは、勝ったという事実だけ

止めたのはユーリで、内容は完全な作り話である。「今度のことはミタンニ軍の目を欺くために、カイル王子が計画したお芝居です」「カイル王子はザナンザ王子と私を、応戦準備のために先行させたんです」「だから誘拐などではありません」。王妃が「嘘に決まってます」「言い逃れです」と斬り返すのに対し、ユーリが出す根拠は一つしかない。「予め準備なくして勝てるとお思いですか」「今回の勝利が真実を証明しております」証拠は勝ったという結果だけで、中身は何も示していない。それでも通ってしまうのは、勝利のほうが誰の目にも見えているからである。

「敵を欺くにはまず味方から」を、王妃本人に向けて言う

追撃もうまい。「ではミタンニの急襲を、なぜ報告しなかったのです?」と突かれたユーリは、「敵を欺くにはまず味方からと言います」「昨今、どこからどのような邪魔が入るか分かりませんので」と返す。報告しなかった理由として、目の前の相手を名指しせずに指している。直後の元老院の変わり身が容赦なくて、「なるほど、さすがはカイル殿下」「まったくご英断で」「いや私は初めからそんなことではないかと」と続く。皇帝も「分かった、見事であった」「二人には改めて報酬を取らせよ」で締める。剥奪されかけた側が、報酬をもらって退出するという逆転で場面が終わる。

▼ ネットの反応

さっき終わった 天は赤い河のほとり、7話でだいぶざわついてる
https://anilist.co/anime/207809

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まとめ:「冷たい唇」の理由は、いちばん最後の独白で明かされる

サブタイトルの「冷たい唇」は、恋人同士のやり取りとして出てくるものではない。民衆に見せるための、公務としてのキスである。

祝福として行われるキス

勝利のあと、市民が「イシュタルよ!」と呼ぶ中でカイルが言う。「イシュタルは独り歩きし始めてしまったようだな」「もう引き返せない」「ユーリ、祝福してやるがいい」。ユーリが「え? どうやって?」と戸惑ううちにキスをされ、「キッズワトナにイシュタルの祝福を!」と宣言される。そこに重なるユーリの独白がサブタイトルの回収になっている。「人の心が熱い」「太陽も大地もこんなに熱いのに」「キスだけが、冷たい」周りがいちばん熱くなっている瞬間に、当人だけが冷たさを感じている

「ユーリはいずれ自分の国に帰る」

理由は説明されないまま、話は元老院へ移り、そのあと二人は喧嘩する。ユーリが「もしかして私とザナンザ王子に、何かあったって思ってる?」と踏み込むと、カイルは「何のことだ?」「今日は助かったよ」「疲れただろうからもう休め」とかわし、目を合わせない。ユーリは「じゃあなんで目をそらすの?」「言いたいことがあるなら言ってよ」と食い下がり、最後は「どうせ私はじゃじゃ馬だよ」「私はハディたちのとこで寝る」と出て行く。答えが出るのは、その後に置かれたカイル一人の独白である。「私にどうしろと言うんだ」「ユーリはいずれ自分の国に帰る」「これ以上触れ合えば」キスが冷たかったのは距離があるからではなく、片方が自分を止めていたからだった、という順番で明かされる。

次回の予想

予想としては、次に効いてくるのはマッティワザの「覚えておこう」だと見ている。理由は二つある。一つは、この回の黒太子が一度も戦って負けていないこと。退却の理由は暴動の波及を嫌ったからで、戦力はそのまま残っている。もう一つは、去り際にわざわざ総帥の名前を確認させ、「カイル・ムルシリ、覚えておこう」と口に出させていることである。名指しで覚えられた以上、次は同盟国の取り合いではなくこの二人の勝負として組み直されると考えるほうが自然だと思う。もっとも、これはあくまで予想である。

出典

※1 テレビアニメ公式サイト STORY Episode7「冷たい唇」(あらすじ・地図の解説)/vap.co.jp/sorahaakaikawanohotori

※2 ウィキペディア「天は赤い河のほとり」各話リスト(脚本・絵コンテ・演出)/ja.wikipedia.org


アニ
読み終わったわね!サブタイトルの「冷たい唇」は、民衆に見せるための祝福だっただわね!
ラン
カイル王子が最後に「ユーリはいずれ自分の国に帰る」と言っていたからなのね!
キャロ
うんうん。イシュタルが生まれた第4話と、独り歩きするこの回は、同じ脚本家ですね。
アニ
元老院の手のひら返しも見ものだっただわね!来週も追いかけるござる!

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