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『領民0人スタートの辺境領主様』第9話の副題は「辺境領主様と結婚式」。戦の褒美として金貨を配ったところ、受け取った側が「穴を開けてもいいですか」と言い出す。理由は、紐を通して首から下げ、ずっと持っていたいから。使ってもらうために渡した金貨が、その場で記念品に読み替えられる。そして結納品の相談でも、金貨で買った品ではだめだと突き返される。




副題が「誰が来たか」から「何をしたか」に変わった
八本目までは、必ず人が題に入っていた
公式サイトに並ぶ副題を順に見ると、第1話「辺境領主様と蒼角の乙女」から第7話「辺境領主様と新たな領民たち」まで、後半に来るのはすべて人である。乙女、来訪者、行商人、領主、襲撃者、双子、領民たち。
その並びが崩れるのが第8話「草原の戦い」で、第9話「結婚式」も出来事のほうを題にしている。人が集まってくる話から、集まった人たちが何をするかの話へ、二本続けて重心が移っている。
領民0人から始めた話の、九本目が結婚式
作品の題は「領民0人スタート」である。その九本目に置かれたのが、村の中で人と人が家族になる回だった。連れてくる話ではなく、来た人同士が組み合わさる話になっている。
公式のあらすじが、驚愕で終わる
公式のあらすじは「領民たちに勝利の褒美を渡すことを決めるディアスだが、亜人たちは金貨よりも記念を残したいという」から始まり、「二人の関係に気がついていないディアスは、クラウスから結納品の相談に驚愕するのだった」で締められる。
紹介文の前半と後半が、どちらも「渡す側の思惑が外れる」という同じ形をしている。褒美は望まれた形ではなく、相談は予想もしない相談だった。
放送前後の投稿を並べておく。
金貨を抱えていても腹は膨れない
行商人が代理で来る
訪ねてくるのは、これまで来ていた行商人の弟である。本人は謹慎処分中だという。顔なじみが来ない、という小さな変化から回が始まる。
用件の一つが移住の話で、領民募集の宣伝を頼んでおいた件の返事だった。
「血なし」という言い方
出てくるのが、奴隷を好まないなら移住希望者は「血なし」しかいない、という説明である。血なしとは「獣人でありながら、獣らしさを失ってしまった者たちのこと」で、「体のごく一部に獣の特徴を残しますが、姿や身体能力は人間族にかなり近く」、そのために生まれた土地では冷遇されているという。
亜人であることでも人間であることでもなく、どちらでもない度合いで差がつけられている。この作品がずっと扱ってきた線引きが、もう一段細かいところに引き直された形になる。
自分の領地より隣を勧める領主
ここでディアスが返すのが「もちろん受け入れるが、そういう事情なら隣のカスデクス領でもいいかもな」だった。理由が「奴隷解放と保護に熱心な領主がいて、ここよりも豊かだ」。
領民を集めたいはずの人が、自分より条件のいい行き先を先に教えている。商人のほうは「お隣にも理解があるのか」と受けて、血なしたちに商売を仕込んで交易の拠点にしては、と算盤をはじき始める。ディアスの返事は「か、考えておくよ」。
買い物の判断はアルナーが握る
商人が最初に出すのが工芸品で、ディアスは「食料品と日用品だけで、この金貨で買えるだけ買おう」と言う。ところがアルナーが止める。理由が二段になっていて、まず「金貨を抱えていても腹は膨れない」、そして「ならば行商人に稼がせてやって、私たちは再び商いに来る価値のある客だと教えてやったほうがいい」。
買うこと自体を、次も来てもらうための投資として説明している。ディアスの受け方も「工芸品なら使わずに誰かに売るという手もあるしな」で、二人とも金貨をそのまま持っている選択だけは取らない。
あらすじをまとめてくれている投稿もあった。
褒美の金貨が、使われずに首から下がる
最初の首飾りは、偽物として断られる
商人が追加で勧めてくるのが首飾りで、口上が「とても貴重な石で奥様によくお似合いかと」。アルナーの返事は一言、「嘘だな」。
そのうえで「同じ予算で干物と燻製も追加できるだろう」「あと宝石ならこっちの本物をもらおう」「それとそこの酒樽も頼む」と積み増していく。商人が「それでは破産しますよ」と言うところまで行って、ようやく手が止まった。
商談はアルナーの方が上手だった
ディアスの感想が「さすがだな、アルナー」で、そのあとの独白が「どうやら商談はアルナーの方が上手だったらしい」。
この回の首飾りは、まず偽物として断られる形で登場する。あとで出てくるもう一つの首飾りと、正面から対になっている。
褒美は戦場で二枚、村で一枚
戦いの褒美が配られる。「戦場に出たものは2枚、村を守ってくれた者には1枚だ」。危険の度合いで額を分けたうえで、村に残った側にもきちんと渡している。
「この金貨に穴を開けてもいいですか」
ところが受け取った側が持ちかけてくるのが「この金貨に穴を開けてもいいですか」である。理由が「穴に紐を通して首から下げて、ずっと肌身離さず持っていたいんです」。
ディアスは「でもそれはお金なんだぞ」「使ってもらうために渡したのだが」と説くが、返ってくるのは「嫌です嫌です、手放したくないです」だった。渡した瞬間に、貨幣が記念品へ読み替えられている。
「うーん」のあとの「はい」
落としどころの探り方が丁寧である。「思い出の品を残したいのか」「ディアスからの褒美であれば金貨でなくても構わないのか」と順に確かめ、そのうえで「では記念となるご褒美をあげれば金貨は使ってくれるんだな」。
返事は「うーん」と間があってからの「はい」だった。渋々ではあるが、代わりがあるなら金貨は使う、という線で折り合っている。
気持ちを形にする、の中身は手間だった
骨をそのまま出すと断られる
アルナーが出す案が「ディアスが自ら狩った獣の骨で作る首飾りならどうだ」で、犬人族の反応は「はい、とっても嬉しいです」。ところがディアスが持ってきたのは食べ残しの黒ギーの骨で、「これで首飾り作るの」と聞かれた側の答えが「いらない」。
アルナーの一言が「だろうな」。材料が正しくても、そのまま出したのでは受け取ってもらえない。
欲しいのは気持ちを形にしたもの
続く説明が「犬人族たちが欲しているのは、ディアスの気持ちを形にしたものだろう」「一つ一つ丁寧に削り、小さな宝石でも埋め込んでやればいい」。
埋める宝石については「かけらなら山ほど余っている」と付け加えられる。値打ちのほうは余っていて、足りないのは手間のほうだけだった。
三日で一個、五日でここまで
最初の一つができたときの言葉が「やっと一個だ」「だが3日もかかってしまった」で、アルナーが「一度作れば後は早くできるようになる」と受ける。実際、次に出てくるのが「5日でここまで進んだか」「コツさえつかめば早くできるものだな」だった。
時間の使い方そのものが、そのまま贈り物の中身になっている。
一号機は持って行かれる
できあがった最初の一つは、その場で持って行かれてしまう。ディアスの独白が「アルナーにもあげるつもりだったし構わないんだが」。
いちばん時間のかかった一個が、いちばん渡したかった相手には届かなかった。文句を言わないところがこの人らしい。
気づいていないのはディアスだけ
ユルトを建て直す理由が分からない
きっかけは何気ない会話である。「カニスが戻るまでにクラウスのユルトを大きめに建て直すとか」と言われたディアスの返しが「ユルトは何の関係が」。
相手のほうが驚く。「気づいてなかったのか」「あの二人がいい仲になったのは随分と前のことだぞ」。
思い出せるのが味だけ
「思い出してみろ、食事の時なんか睦まじく情を交わし合っていたじゃないか」と言われたディアスの答えが、この回いちばんの笑いどころだった。「まいったな。食事の味が美味しかったことしか思い出せない」。
同じ食卓にいて、同じ場面を見ていて、覚えているのが料理のほうだけである。
結納品の相談で、金では駄目だと言われる
そこへクラウスが相談に来る。自分がアルナーの両親に贈ったものを聞かれたディアスは「アースドラゴンの素材だ」と答え、「黒ギー30頭とかでも良かったらしいが」と付け足す。
ディアスが勧めるのは「渡した金貨で適当な品を買った方が」という現実的な線だった。ところがクラウスが断る。「それじゃダメなんです」「もっとこう、自分の持つ力で得たものじゃないと」。
金貨のほうが二度断られている
この回で金貨が断られるのは二度目である。犬人族は使いたくないと言い、クラウスは買った品では意味がないと言う。渡す側が用意した便利なものが、受け取る側の理由で二度とも退けられている。
落としどころは、黒ギーを買って鬼人族の村で交換してもらう、という手だった。狩りのコツも彼らに教わればいい、と勧めるディアスの理由が「私のやり方は参考にならないだろうし」で、クラウスの相槌が「ええ、人間技じゃないですもんね」。
こだわりを捨てた途端に届いた
縁も本人の力のうち
クラウスは「自分の力のみで狩りをすること」にこだわって、犬人族の手伝いを断り続ける。それを聞いたカニスの言い分が「築き上げた縁もクラウスさんの力ですし、素直に手伝ってもらえばいいのに」だった。
力の範囲をどこまで数えるか、という話になっている。腕っぷしだけを力と呼ぶか、それまでに作ってきた関係も含めるか。
手が上がる理由
カニスの手が動くのを見たディアスが「その手は何をするつもりなんだ?」と聞くと、返ってくるのが「お馬鹿な旦那さんの方をベチンとやって、目を覚まさせるんですよ」。理由も添えられている。「怪我をしたり死んだりしたら私がどれだけ悲しむのか、クラウスさんは分かっていません」。
横で聞いていたアルナーの反応が「何かあれば私も妻として、ベシンとやった方がいいのかと考えていた」。ディアスは止めない。「まあ、ほどほどに頼むよ」。
やるなあ、とは言わない
「やるなあ、とは言わないんだな」と突っ込まれたディアスの答えが「アルナーに叩かれるようなことをしたのなら、叩かれても仕方ないことだと受け入れるしかないさ」。
妻に叩かれる可能性を、先に筋の通ったものとして認めている。この一言だけで、この夫婦の力関係がだいたい分かる。
捨てた途端に達する
そして結果である。後日ディアスが語るのが「クラウスの狩りが、こだわりを捨てた途端、あっという間に目標数に達してなあ」。
一人でやると決めていた間は届かず、手伝ってもらった途端に届いた。カニスが先に言っていた「縁も力のうち」が、そのまま実演された形になる。
式辞が作品の題に答える
結婚式でディアスが読み上げるのが、王国の伝統として欠かせない言葉だった。幼い頃から叩き込まれていて、今でも一字一句間違えず暗誦できるという。
出だしが「人は一人では生きられない」「だからこそ、人は家族という在り方を見いだし、自分ではない誰かを愛するようになった」。領民0人から始めた領主の口から、この一文が出てくる。締めは「存分に食べて、歌い、踊り、その門出を祝福するとしよう」だった。
贈り物の列に、値札の付いた品が一つもない
祝いの品が順に並べられる。削り上げた首飾り、犬人族が集めてきた綺麗な石、メーアの角のかけら、二人の幸せを願う詩、女衆からは当日の料理、そして安産祈願と子宝を意味する刺繍入りの寝具。
この列に、金額の書かれた品が一つも無い。冒頭で断られた「貴重な石」の首飾りとの差が、そのまま回の答えになっている。寝具が出た途端に住人たちが片付けを始めてしまうのが、この作品らしい落とし方だった。




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