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『転スラ』第93話の副題は「勇者クロノア・後編」。名乗りを決めた直後、名前を付けたヒナタのほうがユニークスキルを失う。公式の用語集で「相手の能力を奪う」と説明されている力が、奪われる側に回った。そこから2000年の旅が始まり、シズ先生を助けた勇者の正体が、シズ先生の教え子だったと判明する。2000年かけてヒナタが出した答えは、自分を許すことではなかった。




名乗りを決めた直後に、名前を付けた側が力を失う
「クロノアに名付けをしたら わたしの簒奪者が消えたわ」
前編の最後でクロエが「わたし 今日から勇者クロノアを名乗るわ」と宣言したところから、この回は続いている。ルミナスは「クロノアか よい名じゃな」と受け、「いつでも訪ねてくるがよい」と送り出す。
ところが名乗った直後、クロエが「あっ これは」「わたしのユニークスキルが」と声を漏らす。そして続けてヒナタが告げるのが、「クロノアに名付けをしたら わたしの簒奪者が消えたわ」だった。
公式の用語集では、簒奪者はヒナタのユニークスキル
公式サイトの用語集を引くと、簒奪者(コエルモノ)は「ヒナタのユニークスキル。相手の能力(スキル)を奪う」と説明されている。
相手から奪うための力そのものが、奪われた。しかも奪った相手は、たった今ヒナタが名前を付けてやった側である。
名付けは、この世界では魔物の側の作法だ
クロエの受け止め方が率直だった。「でも 名付けで力を奪われるなんて クロノアって魔物みたいだよ」。
リムルが配下に名を与えて進化させ、そのぶん自分の魔力を削ってきたのと、起きていることは同じである。人の側の儀式のつもりで名前を贈ったら、魔物の側の理屈が発動した。
消えると聞かされた側の返事が四文字
クロエの説明が「理屈は分からないけど いつも最後には ヒナタの力は わたしに統合されてたみたい」。ヒナタの返しが「つまり いつかここで消えると」で、そのあとに続くのが「まあ いいわ」だった。
何周も繰り返してきた歴史の中で、自分の力が最後にどこへ行くのかを、旅の初日に知らされている。それでも先に進む人である。
放送前後の投稿を並べておく。
感想の投稿も見ておく。
二人で一つの体が、伝説に押し上げられるまで
助けても、そこに留まらない
崩れた橋の場面から旅が始まる。「勇者様だ」「ありがとうございます 勇者様」「お名前を聞いても」と問われ、返すのが「わたしは勇者 クロノアよ」。
ヒナタの独白が「諸国を巡りながら 人々を助け続けた」「途中 助けた人たちから 居住や統治を 勧められたこともあったけど わたしたちは 旅をやめなかった」。助けた先に腰を落ち着けない、という方針が最初に置かれる。
100年目の「慣れておいたほうがいいからね」
旅を始めて100年が経った場面で、クロエが「ヒナタ やってみたい?」と持ちかける。「わたしが主導権を譲れば ヒナタの意識を 表に出せると思う」。
ヒナタが「あなたは大丈夫なのかしら?」と確かめると、クロエが小さな声で「慣れておいたほうがいいからね」と答える。ヒナタの「え? 何か言った?」に、返事は「ううん」だった。
交代の練習として始まったこの提案が、実は引き継ぎの練習だったと分かるのは、この回のずっと後ろである。
体を借りた側の第一声
初めて表に出たヒナタの手応えが「あなたの体 とんでもないわね わたしの体より パワーもスピードも上だわ」。そのうえで「これが真の勇者 わたしには 過ぎた体だわ」とまで言う。
クロエのほうは「ヒナタ すごい! わたしの体を使いこなしてる!」と無邪気に喜んでいる。同じ場面で、片方が感心し、片方が自分を値引きしている。
噂は「何代目だ」「人間じゃないんじゃないか」
何百年も経つと、勇者クロノアの噂が一人歩きを始める。「今 何代目だとか 人間じゃないんじゃないかとか」。
どちらの噂も、外れているようでいて当たっている。中身は途中で入れ替わっているし、一人でもない。伝説になった名前の内訳が、噂のほうにだけ薄く漏れている。
「間借りしている身よ」
ヒナタは「もっと頻繁に 入れ替わっても構わないのに」と勧められても、応じない。理由が「あくまで あなたの体に 間借りしている身よ」。
2000年をともに過ごしても、この線を越えない。借りているという言い方を最後まで崩さないところに、この人の身の置き方が出ている。
2000年の受け取り方は、人によってずいぶん違っていた。
私が世界の勇者なら、ヒナタはそんな私の勇者
折れないのはクロエのほうだった
ヒナタの独白が続く。「クロエは 本当にすごいわ 柳のようにしなって 決して折れない」「2000年という悠久のループを 何度も繰り返せる 強靭な精神力 私は耐えられなかった」。
そして「こんな私が 勇者になれないのも納得だわ」で締める。剣の腕でも実績でもなく、耐える力のところで自分を落第にしている。
1000年目に、自分を殺す男が出てくる
旅が1000年を過ぎるころ、かつて勇者と讃えられたグランベルが西方諸国評議会を発足させる。商人たちが「評議会が間に入って バランスを取ってるみたいね」と噂しているのが聞こえてくる。
それを聞いたヒナタの見立てが「目的としていることは 私たちと同じなのよね」だった。第91話でヒナタを消したのがこの男である。1000年前の本人は、同じ側の人として見ている。
「2000年って長いわね」
珍しくヒナタが弱音をこぼす。「2000年って長いわね」。クロエが「どうしたの? 珍しく弱気だね」と拾い、ヒナタは「ただ そう思っただけ」とかわす。
クロエの返しが「そうだね 長いね」「リムルさんに会いたいなあ」。年数を数えている相手に、会いたい人の名前で答えている。この子はずっとこの調子で、そこが強い。
勇者の定義が、二つ並ぶ
ヒナタが「この旅のパートナーが あなたでよかったわ おかげで正気でいられるもの」と漏らすと、クロエが返す。「私が世界の勇者なら ヒナタはそんな私の勇者だね」。
公式の用語集にある勇者の定義は「悪を討ち、善をなす者」である。クロエの定義はそこにない。世界に対してではなく、自分に対して勇者だ、という数え方をしている。
照れたヒナタに「あれ? ヒナタ照れてる」と突っ込むところまで含めて、この回でいちばん軽くて、いちばん効く場面だった。
過去編そのものへの評価も並んでいた。
世界を救った偉業の動機が、私怨だった
名乗りの日の宣言が、ここで果たされる
ルミナスが「ジュラの大森林で あのクソトカゲが暴れているようでなあ」と切り出すと、クロエが「ヴェルドラさんを封印するわ」と応じる。ルミナスは「いや 確かに昔 そんなことを言っておったなあ」と思い出す。
名乗りの日にクロエは「今度 ヴェルドラさんが暴れたら わたしがどうにかするから」と告げ、ルミナスが「なるほど それも決まった未来なのじゃな」と受けていた。数百年越しの言葉が、ここで回収される。
手を挙げたのはヒナタだった
ところが前に出たのはヒナタだった。「心配ないわ ヴェルドラの相手は私がするから」。理由が「私 ヴェルドラには一度 挑んだことがあるのよね」。
回想に出てくるヴェルドラの態度が「それで人類の守護者だと? 笑わせるな!」「敗北を知りたいものだ」「さて そろそろ終わりにしよう 我も暇ではないのでな!」。手も足も出ていない。
魔王のほうも同じ気持ちだった
クロエの通訳が「ヒナタ コテンパンにしてやらないと 気が済まないって言ってる」。ルミナスの返事が「よく分かるぞ あのトカゲは一度 泣かしてやらねばと 我々も思っておるのじゃ」で、そのまま「やれ! ヒナタ!」と煽っている。
世界を救う戦いの前口上がこれである。人類を守る側と魔王が、同じ相手に同じ私怨を持っていて、そこで意気投合している。
「やりすぎないであげてね」の結末
送り出すクロエの注文が「やりすぎないであげてね ヴェルドラさんだって」。戻ってきたヒナタの第一声が「返すわ」で、体を返されたクロエの感想が「やりすぎた」の四文字だった。
見届けたルミナスは「胸がすくとは まさにこのことじゃな」と上機嫌で、その晩は酒盛りになる。「どうせ酔えないじゃない」と言われて「こんな時のために 酔う方法は編み出しておる」と返すあたり、この魔王はぶれない。
用語集は、使った人を「勇者」としか書いていない
公式サイトの用語集には絶対切断という項目があり、その説明は「勇者が暴風竜ヴェルドラと戦う時に使用した」の一行だけである。
誰が使ったかは書かれていない。名乗りは「勇者クロノア」で、その中身は二人いる。用語集の一行が言葉足らずなのではなく、この作品ではもともとそこが割れていた。
同じ場面に反応している投稿を並べておく。
動機のほうを見ている人もいた。
ルミナスの表情に触れた投稿もあった。
助けた少女が、のちに自分の先生になる
「私はその先の記憶がないから 憶測だけど」
討伐を祝う祭りの相談をしていた席で、クロエが切り出す。「私はそろそろ消えると思うの」。もうすぐ自分と兄がこの世界へ転移してくるので、同じ時代に二人の自分は存在できないのだという。
残った体がどうなるかを聞かれたクロエの答えが「たぶん その後はヒナタが引き継いで 勇者として活動するんだと思う」だった。
「つまり シズ先生を助けた勇者って 私なの?」
そこでヒナタが気づく。「あっ ちょっと待って つまり シズ先生を助けた勇者って 私なの?」。クロエの返事が「そういうことになると思う」で、ヒナタの一言が「なんて因果なの」。
公式のキャラクター紹介で、ヒナタの肩書きの前に置かれている一行は「シズさんの教え子の一人」である。その教え子が、先生を助けた勇者だった。順番が逆に組まれている。
渡されるのは、抑え込むための道具
魔王の城で見つけた少女に、ヒナタが問う。「あなたのような少女が なぜ魔王の城にいるのかしら」「どうやって生きてきたの?」。返ってくるのが「戦争があったんです」「空から火が降ってきて」。
見立てが「イフリートと同化した時の状態で 安定してしまっているのね」。差し出したものの説明が「これはね 魔法抵抗を高める効果があるの あなたの中にいるイフリートを抑え込めるわ」。前編で来歴が語られた品を、実際に手渡すのはヒナタだった。
「今までよく頑張ったね」
効果を確かめた少女が「あれ? でも何だろう? この気持ち」と戸惑うと、かけられるのが「もう大丈夫だよ 今までよく頑張ったね 好きなだけ泣くといいわ」。
抑え込む道具を渡してから、泣いていいと言う順番になっている。力を抑える話と、我慢をやめる話が同じ場面で並ぶ。
二人組が伝説として語られ始める
場面が進むと、少女は自由組合の面々に頼られる存在になっている。勇者クロノアとこの子の二人組がいれば災禍級が現れてもどうにかなりそうだ、と噂されるところまで来ている。
責任者に昔話を持ち出されて「もう 昔の話はよしてくださいよ」と嫌がるところまで含めて、第1期より前にあったはずの日々が、ようやく画面に出てきた。
「巣立つ時が来たの」
別れの言葉が「もっと一緒にいたかったけれど あなたは 心身ともに強くなった 巣立つ時が来たの」。そして「大丈夫 きっと また会えるから」。
この約束は本当に果たされる。ただし立場が入れ替わり、救った側が教わる側に回ってからである。
因果のほうに触れた投稿もあった。
許す必要はない、背負って前を向く
2000年守るはずだった約束
別れの前に、クロエがルミナスへ頼み事をする。表に出してはいけない人格を、その時が来たら封じてほしいという依頼である。
ルミナスの返事が「任せるがよい」「精霊力の封印で性質を作れば 現世から隔離されるであろう」、そして「未来でのお主たちの魂を探し出し 完全な形で封印を解くと 約束しようではないか」。
その封印は第91話で横から解かれた。グランベルが「精霊力の封印はわしでも破れなんだ。故に、貴様を利用させてもらったのだ」と言い、ユウキが「まんまとしてやられたよ」と返している。2000年守り抜いた約束が、完全な形で果たされる直前に破られたことになる。
名付けた名前が、破壊の側の名前になる
クロエの説明では、自分もヒナタも眠ったあとに表へ出るのは別の人格で、「クロノアは 破壊の意志そのものだから 表に出すわけにはいかない」という。ヒナタの補足が「名付けをしたとき 私の能力を奪ったやつね」。
第91話でグランベルは「今のあやつはクロノアと名付けられた、破壊の化身のようなもの」と言っていた。公式のキャラクター紹介も、クロノアを「〝勇者〟であり〝破壊の化身〟」と書いている。二人が旅を続けるために付けた名前が、そのまま破壊の側の名前として未来に届く。
「頑張れ 勇者ヒナタ」
最後にクロエが渡すのは、肩書きだった。「ヒナタ あとはお願いね」「あなたのことだから 心配してないけどね」、そして「頑張れ 勇者ヒナタ」。
名乗りを考えたのはヒナタで、名乗ってきたのはクロエで、最後に勇者と呼ばれるのはヒナタである。当のヒナタは「勇者クロノアとして 恥ずかしくない働きをするわ」と応じ、自分の名では働かないと決めている。
一人であと300年
交代した直後、ヒナタが漏らすのが「これほどとは」、そして「これを一人で あと300年 抑え込まないといけないとはね」。
100年目の「慣れておいたほうがいいからね」が、ここに着地する。あの練習は交代のためではなく、一人になるためのものだった。ルミナスの「以降は一人だけとなるが 勇者として励むがよい」が、そこへ重なる。
許す必要はない
最後の独白がこの回の答えである。「今まで私は 自分が許されないと思っていたが けれど そうじゃない 自分で自分を許せずにいたのね」。そして「でも もう大丈夫 許す必要はない ちゃんと背負って 前を向く」。
前編でヒナタは、不幸な現実をなかったことにしようとした自分を悔いていた。その隣にいたのが、本当になかったことにできるスキルの持ち主である。2000年かけて出した答えが、なかったことにしないほうだったのは面白い。
最後の一言は、まだここにいない人へ
締めくくりが「眠りについた私が どうなるのか分からない 次に目覚めるのは クロノアよ」。それでも「あなたなら 何とかしてくれると 信じているわよ」と続く。
この「あなた」は、2000年前のこの場にはいない。信じているわよ、と言い切ってから眠る。答え合わせは、2000年後まで持ち越しになる。
最後にもう一本。




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