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『これ描いて死ね』第9話の副題は「電子の海へ〜誰のためでもなく、自分のために描こう!」。前の回で百の枠を千のネタで埋め返した子が、今回は百という数字に届かないで悩む。同じ百でも、片方は自分の中から出る数で、もう片方は外から来る数だった。作中には「自分を殺して読者のためだけに描く」という言い方まで出てくる。そして締めの一言が、先生の過去編で言われた言葉とそっくり同じである。




百という数字が、二話つづけて出てくる
前の回は、百の枠を千で埋め返していた
第8話で安海が受け取ったのは、見開きに「漫画で描きたい100のこと」と書かれ、その筆跡が消されたノートだった。渡された側は百どころか千のネタでびっしり埋めて返している。
あの回の百は、自分の中から出てくるものの数だった。桁を一つ増やして返せるくらい、出そうと思えばいくらでも出てくる。今回もう一度出てくる百は、そこがまるで違う。
今度の百は、外から来る数だった
SNSに四コマを上げ始めた三人が、途中から口にするのが数の話である。「なかなかこの前みたいに100超えねえな」「まぐれだったのかな」と続き、しばらくして「やっぱ伸びないな」になる。
同じ百なのに、今度は自分では一つも増やせない。前の回でノートを埋めた勢いがそのまま通じない場所に出てしまった、という形になっている。
慰めの言葉が、あまり効かない
落ち込む側にかかるのが「まだまだいけますよ」「がんばろう」という声である。数が伸びないこと自体は誰にも動かせないので、言えることがそこしかない。
そこへ混ざるのが「お前が主役の時よりは人気だけどな」という一言だった。励ましの列に、身内だけが言える比較が一つ紛れ込んでいる。
数え方が変わると、増やし方が分からなくなる
前の回の百は、思いつくだけ書けば増えた。今回の百は、書いても増えないことがある。増やす方法が自分の手元にない数を、毎日見にいくことになる。
だから対策の相談が、内容の話ではなく反応の読み合いになっていく。何を描きたいかではなく、何が受けるかで次が決まりはじめる。
目標は、最初から一つに決まっていた
途中で先生が「皆さんの目標を聞かせてください」と改めて聞く。安海の答えが「自分が納得できる 面白い漫画を描くことかな」である。
これは漫研が動き出した頃に本人が言っていたものとまったく同じだった。副題の「誰のためでもなく、自分のために描こう」は、新しい決意ではなく元の目標に戻ることを指している。
放送直後の投稿を並べておく。
「自分を殺して」という言い方が出てくる
石龍の批評は、いつも短い
新しい四コマを見せられた石龍の反応が「これ面白い」だった。ところが路線を変えたあとの新作には「つまらないね」の一言しか返ってこない。
前のコミティアでも、この人は売れないと分かっている相手を慰めずに「だろうね」と返していた。今回も理由の説明より先に、良いか悪いかだけが置かれる。
「僕は漫画に人を感じたいんだ」
そのあとに続く説明が「前も言ったけど 僕は漫画に人を感じたいんだ」である。面白いかどうかの前に、描いた人が見えるかどうかで読んでいる。
だから路線を変えた新作は、受けるものを狙った時点で読む理由が消えていたことになる。つまらないの一言が、出来ではなく方向についての判定だと分かる。
立派だと認めたうえで、外している
続く言い方が丁寧である。「自分を殺して 読者のためだけに描くのは立派だし 報酬をもらうプロなら当然のことだけど」と、まず全部認めてしまう。
そのうえで置かれるのが「僕たちは趣味で描いてるんだよね」だった。否定ではなく、立っている場所が違うという話にしている。
選ぶのは本人だと言って終える
締めが「他人のため 自分のため どっちも尊いけど 選ぶのは相ちゃんだよ」である。どちらが正しいとは言わずに投げ返す。
受けた側の反応が「そんなの考えたこともなかったな」だった。そもそも選ぶ場面があること自体を知らなかったという返事になっている。
前の回と、殺す相手が入れ替わっている
この作品の題は「これ描いて死ね」で、第7話の副題は「殺すつもりで描こう」だった。あそこで殺す相手は、憧れていた描き手のほうである。
ところが今回出てくるのは「自分を殺して」という言い方だった。同じ殺すという言葉で、向きが正反対になっている。読者のために自分を消すのか、自分を出して誰かに刺すのか。題の一語が、二つの意味を持たされている。
「趣味の範囲で」を、いちばんしつこく言う人
三度言われて、生徒が不審がる
見送りの場面で先生が言うのが「あくまで趣味の範囲に徹し」「趣味の範囲内で」「趣味の範囲で頑張ってください」だった。ほとんど同じ言葉を三回並べている。
残された側の感想が「なんであんなしつこく言うかね」「それどういう感情」である。言われている側には、まだ理由が見えていない。
疑われ方が具体的すぎる
続く読みが「嬉しい反面壺でも買わされるのかと」だった。返しが「だったら逆に不安あおるんじゃないですかね」で、そこへ「詳しい」の一言が入る。
締めが「東京は怖いところだ」である。島の高校生にとって、東京は先生が帰ってきた場所という以上の意味を持たない。その東京で何があったかが、このあと出てくる。
過去編のその人は、趣味を選べなかった
場面が変わって、かつて東京にいた頃の話になる。持ち込んだネームが「連載会議でまた通りませんでした」と告げられ、担当が「私はいいと思ったんですけど」と続ける。
説明が「私と担当さんがいいと思っても 連載決定はもっと上の承認がないと決まらないのだ」だった。好きだと言ってくれた人がいても、それでは通らない仕組みになっている。
「プロとして描くとはそういうことです」
差し出されるのが会議で出た修正案である。「うちの雑誌に載せるには変えていくしかない」「不本意かもしれないけど 読者のために描く プロとして描くとはそういうことです」と言われる。
そのうえで「受け入れるということであれば 私もお付き合いします」と添えられる。付き合う側も覚悟を示したうえで、選ばせている。石龍が生徒に投げたのと、形はよく似ている。
断られることを、先に見越していた
答えは「連載が欲しい」「でも私のマグマは 私の描きたいことは消えてしまいます」だった。第8話で出てきたマグマという言い方が、ここでもう一度使われる。
返事が「手島さんはそう言うだろうと思っていました」「もう一つ提案があるんです」である。断られたあとの案が、断られる前から用意されていた。雑誌を移ってみないか、青年誌より少年誌のほうが合う、最初は月刊から、という順で並べられる。
「そのままのあなたのファンなので」が二度出てくる
移籍の話の締めに置かれた一言
移籍を勧める理由の最後に付け足されるのが「そのままの手島さんのファンなので」だった。修正案を持ってきた人が、変えなくていい場所を探して差し出している。
読者のために描けと言った同じ口が、そのままでいいと言っている。仕事として通すための助言と、一人の読者としての本音が、同じ場面に並んでいる。
名前を覚えられていなかった
その直後に来るのが「ひょっとしてまだ名前を覚えてませんでした?」「金剛寺です」というやりとりである。ここまで面倒を見てもらっていて、名前が出てこない。
手島の内心が「クソだな」だった。感謝ではなく悪態で受けるのが、この人の照れ方になっている。前のコミティアの回で「この人にはお世話になった」と振り返っていたのと、同じ相手である。
現在の側にも、毎回リプを付ける相手がいる
投稿を続けるうち、決まってコメントを付けてくる相手が出てくる。「パンダ漬けさん いつもリプくれますね」と話題になるくらいには、毎回来ている。
内容も好意的で、「はちゃめちゃで楽しいです」と路線を戻したあとの回まで褒めている。数字が落ちた回でも変わらず来るのが、この相手だけだった。
締めの一言が、過去編と同じだった
その相手が最後に書くのが「そのままのあなたのファンなので」である。過去編で手島が言われた言葉と、一字違わない。
言われた側が、同じ言葉を誰かへ回している形になっている。誰が書いているのかは作中で名乗られないので、そこは並べて置くにとどめておく。
注意事項を並べた人と、匿名の相手
SNSを始める前、先生は長い注意を読み上げていた。心ない言葉をかける人がいる、性別を明かすな、私的な発言は避けろ、危険な人が語りかけてきたら距離を取って報告すること。
「安海さんは特に警戒心が低いので 心配で心配で心配ですが」とまで言う。顔の見えない相手に気をつけろと言った回の締めが、顔の見えない相手からの言葉になっている。
ネットに出たことへの反応も多かった。
紙で会った相手と、電子でつながり直す
持ってきた道具が、要らないと言われる
投稿の方法で詰まっていると、先生が「こんなこともあろうかとスキャナー複合機を持ってきたんですよ」と現れる。添えられるのが「重かった」の一言である。
ところが「スマホのメモアプリにあるスキャン機能を使うと綺麗に取り込めるよ」で片がついてしまう。重い機械を運んできた側が、その場で用済みになる。この回はこういう入り方をしている。
最初に反応をくれたのは、買わなかった人だった
ハッシュタグを付けて再投稿した途端に返信が来る。相手の名前を見て「あれ? この名前」となり、コミティアで会った七畳島の同人作家だと分かる。
前の回で、この人は安海の本を最後まで読んだうえで買わなかった。その相手が、ネットでは真っ先に反応してくる側に回っている。
「買っておけばよかった」が、二度目になる
書き込みの中身が「圧倒的才能」で、そこに「コミティアの本も 買っておけばよかった」が続く。
前の回の閉会間際にも、この人は同じことをつぶやいていた。会場で一度言った後悔を、今度は本人に届く場所で書いている。買わないという判断は変わらないまま、言葉だけが相手のところまで来ている。
「誰でも投稿読めること 知らねえのか」
独り言のつもりで書いたらしく、それを読んだ側が「こいつ 誰でも投稿読めること 知らねえのか」と突っ込む。返信ではなく、公開されている場所に書いてしまっている。
それでも感想が「案外 いい人そうだね」になる。面と向かってはけんか別れした二人が、文字だけになると当たりが柔らかくなる。
絡み方のほうも、最初は物騒だった
別の返信では「お前の垢に粘着してやるぞ」とやり返す場面もある。悪態の応酬に見えて、やっていることは相互の反応である。
先生が警戒しろと言っていた種類の言葉と、仲間内の軽口が、同じ画面に並んでいる。危ない相手と面白い相手の見分けが、最初からつきにくい場所に出たということでもある。
路線を変えた記録が、題名にそのまま残る
出発点が「人気があるもの」だった
何を描くか決める場面で出てくるのが「安海さん家の猫ちゃんの話が気になります」という提案である。理由が「猫ってSNSで人気ですし」「ツンツンしたキャラの意外な一面を描いた漫画も人気ありますよね」だった。
実際の猫は「懐かなくて全然可愛くないんだよ」と言われている。企画の入り口の時点で、受けるかどうかが基準になっている。悩みの種は最初から仕込まれていた。
「ダークフワ」からの改題
一本目は悪の使いを名乗る猫の話で、「勘違いするなよ これから毎日ミルクを持ってくるが 飲み切れないゴミを捨てるだけだ」という調子だった。
それが二本目、三本目と続き、途中で「ダークフワ 改め三つ子猫ちゃん 育児日記8」になる。題名が変わっていく過程が、そのまま反応を追いかけた記録になっている。
変える理由も、その場で言葉になっている
路線を変えるときの相談が「今までダークフワの暴力が良くなかったのかな」「うるさいって言われたら」という具合である。返ってくるのが「私もっと作画ペース上げます」だった。
受けなかった理由を推測して、絵の量で埋めようとしている。数字は本当のところを教えてくれないので、当てずっぽうで直すしかない。
戻したら、もっと減った
終盤で元の路線に戻すと、返ってくるのが「路線戻したらいいね減ってるぞ」である。合わせても伸びず、戻したらもっと減ったことになる。
それでも「俺は好きだけど」「私も好き」と続く。数の話がひとしきり終わったところに、数えられない側の言葉が残る形で置かれている。




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