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『黒猫と魔女の教室』第22話の副題は「アリアの夢」。公式サイトの表記では22限目だ。前回アリアは「思い出せた?」とスピカに迫ったが、今回思い出すのはアリアのほうになる。公式あらすじも「かつての自分を思い出すアリア」と書いている。そして父の一言「お前が言い出した夢だぞ」の意味が、回想の順番を見るとひっくり返る。勝負のほうも、夜が明けるにつれて条件が変わっていく。




副題「アリアの夢」は、前回の裏返しになっている
公式サイトの表記は22限目「アリアの夢」。前回の21限目が「スピカVSアリア」だったので、対戦の名前から片方の名前だけに絞られた形になる。
「思い出せた?」と迫ったのはアリアのほうだった
前回、アリアはスピカを氷漬けにしてこう言っていた。「けど思い出せた? スピカはアリアに絶対に勝てないんだよ」。ところが公式あらすじは今回の中身を「夢を語るスピカと戦う内に、かつての自分を思い出すアリア」と書く。思い出させようとした側が、今度は思い出す側に回っている。
前回の答えは、すでに出ていた
スピカのほうは前回のうちに思い出し終えている。「私がどんなに努力しても圧倒的才能で凌駕してくる」「でもさ、それが悔しくて私は、いつかやるって必死にアリアの背中を追い続けた」「そのおかげで今の私があるんだよ」。片方は思い出して強くなり、もう片方は思い出して手が止まる。同じ手続きで結果が逆になる。
タイトルが指しているのは、勝負のほうではない
副題に入っているのは決着でも魔法でもなく「夢」だ。実際、この回の分量のかなりの部分がアリアの子ども時代に使われる。戦っている最中に、戦っていない時間のほうが長く映る。
アリアの氷結を破ったのは、役に立たないと思われていた授業だった
前回の終わりでスピカが賭けたのは、植物園の世話ばかりで終わっていた授業の魔法だった。
ザゼンソウという答え
凍らないのを見て驚くアリアに、スピカは「言ったでしょ、このザゼンソウの特性だよ」と返す。説明はこう続く。「雪山に咲く高温性植物で、自ら発熱し氷点下でも体温を一定に保てる」「氷河期も生き抜いたすごい花なんだから」。凍らせる魔法に対して、凍らない花そのものをぶつけている。
新魔法の名は「リミットブレイク」
スピカの新魔法は「花を巨大化し特性も数倍にする魔法」だと説明される。バラで使えば「トゲもまるで刃物、特性が強化されてる」という状態になる。アリアの感想は「なにそのメルヘンな魔法」だ。相手の口から出た評価が、そのまま二人の距離を示している。
授業の言葉が、そのまま勝ち筋になっている
前回この授業を教える場面で出ていたのは「恋人のように花を慈しみ愛を育む。それこそが植物魔法の翼となるのさ」という一言だった。生徒たちが「全然魔法教えてくれないよね」と言っていた授業だ。役に立たないと思われていた時間が、そのまま切り札になっている。この作品が繰り返してきた、弱点を潰さずに持ち札で勝つ形がここでも通っている。
新魔法には、はっきりした期限がついている
魔法の理屈と限界は、その場でまとめて説明される。
「アニマの応用」という位置づけ
説明はこうだ。「この魔法はアニマの応用だ」「アニマは魔法で植物の成長を促進できるが、植物の成長には限界がある」「だがこの新魔法で大量の魔力を注げば」。新しい魔法ではなく、すでに持っていた魔法の上限を外すという作りになっている。名前の意味もそこにある。
三分と、あと一回
続けて出てくるのが制限のほうだ。「この状態を保てるのは3分程度だろう」「乱発すれば即魔力切れになるぞ」。実際スピカも「私も大量に魔力を使ってしまった」「新魔法はあと一回」と数えている。切り札を出した瞬間に、残り時間が画面に置かれている。
習得条件が、そのままスピカの弱点だ
必要なものは「魔力を根から花の隅々まで注入する繊細さ」と「巨大化する鮮明なイメージ」で、「これらをできるようにならなければ成功はしない」と付く。繊細さは、これまで不器用だと言われ続けてきた側の苦手なところだ。いちばん苦手な条件を満たしたことのほうが、魔法そのものより大きい。
夜が明けると、島が味方をやめる
戦いの途中で、舞台の条件が変わりはじめる。
島は生き物だった
出てくる説明が「もうじき日が昇る」「アスピドケロンの魂は帰り、ただの島に戻る」「ここはもともと海中にあった洞窟」だ。前回スピカが解いた「金剛石は心臓に眠る」の答えは、この亀が動いているあいだだけ入れる場所だった。時間切れが、宝の在処そのものに組み込まれている。
海が戻ってくる側に有利が傾く
もともとこの空洞は海につながっていて、アクエリアスマジックは水辺で最大まで引き出せる。夜明けとともに水が入ってくれば、条件はさらにアリアへ寄る。スピカは、時間が経つほど不利になる場所で戦っている。
それでも押しているのはスピカのほうだ
氷結が通らなくなったところで出てくるのが「もう氷結は効かないよ、アリア」で、周囲の見立ても「アリアの息が上がっている」「魔力が切れかかってるんだ」に変わる。場所の有利と、その場の優勢が逆を向いている。公式あらすじの「最初は優勢だったアリアだが、徐々にスピカに押され始める」はこの形だ。
アリアが勝ちたい相手は、スピカではない
押されはじめたアリアの内側が、この回で初めて開く。
「胸がざわつく」の理由
アリアの独白はこうだ。「夢に真っ直ぐなスピカを見てると胸がざわつく」「小さい頃の自分を見てるみたいだからだ」。目の前の相手が嫌なのではなく、相手ごしに見えているものが嫌だと本人が言っている。
前回の空白がここで埋まる
二人が初めて話した日、アリアは「悔しいかぁ。その気持ち、アリア分かんないんだよね」と言っていた。感情そのものが手元にない、という受け答えだった。今回の回想は、その在庫がいつ空になったのかを見せる時間になっている。
結論のほうが先に置かれる
回想に入る前に、アリアの答えはもう出ている。「夢見がちのあの頃の自分には絶対に負けたくない」。戦っている相手はスピカだが、負けたくない相手は自分だ。
「お前が言い出した夢だぞ」の前に、父が言っている
回想はフェンシング教室の見学から始まる。ここでの言葉の順番が、この回のいちばん大事なところだ。
順番はこうなっている
見よう見まねで剣を振ったアリアに、コーチが「お子様は天才的ですよ」「本格的に練習すればすぐにでも大会に出られるでしょう」と言う。続けて「君ならアラディア一強いフェンサーになるのも夢じゃない」「それほどの逸材だ」。アリアの反応は「アラディア一? それってすごいの?」で、まだ意味が分かっていない。ここまで、アリアは一度も自分から望んでいない。
父がその言葉を先に置く
「それってすごいの?」に答えたのは父だった。「もちろんさ」「パパも昔フェンシングをやっていた時、アラディア一を夢見たものだよ」。そのすぐあとにアリアが「ディアで一番のフェンサーになるよ」と言い、父は「そうか」「よしパパ全力で応援するぞ」と返す。アリアが口にした夢は、直前に父が自分の夢として置いた言葉だった。
何年もあとに、それが根拠として使われる
後年、父はこう言う。「アラディア一強くなる」「お前が言い出した夢だぞ」。事実として、その言葉を先に発音したのはアリアだ。しかし出どころは父のほうにある。言い出したという一点だけが取り出されて、逃げられない理由に変わっている。
父の本音は、勝った日に出ている
地方大会で優勝した日、母が「さすが私たちの子ね」と喜ぶ横で、父はこう漏らす。「あの子ならきっと私の果たせなかった夢も叶えてくれる」。叶えてほしいのは誰の夢なのかを、本人が言葉にしている。
父が本気になった順番
見学から三ヶ月で、家のほうが先に変わる。
辞めたのは仕事のほうだった
遊んでいるアリアを迎えに来た父の報告が「パパな、仕事辞めてきたんだ」だ。続けて「今日から教室のない日はパパが稽古つけてやるからな」「教室も少し遠くなるがもっとレベルの高いところに変えよう」「遠征もして強い相手と試合をさせてあげるからな」。子どもが夢を口にしてから三ヶ月で、大人のほうが人生を賭けている。
稽古の言葉が、いつのまにか責める言葉になる
「あのなアリア、お前が遊んでいる間に他のライバルたちはどんどん強くなっているんだぞ」「これはお前のためなんだよ」。稽古中は「どうした腕が下がってる」「肘ももっと内側に」「なぜわからない」に変わる。応援するぞと言った人が、そのまま問い詰める側に立っている。
それでも笑える場面が挟まっている
一方でこの回想には、コーチ相手にアリアが一点を突き続けて周りが総ツッコミに回る、新喜劇のような一幕も入っている。重い話のなかに笑いを挟むことで、当時のアリアがまだ楽しんでいた時期があったことも分かる。落差が効いているぶん、そのあとの空気がよけいに重くなる。
この場面の切り替わりの唐突さは、見ていた側にもそのまま伝わったようだ。
母は逃げ道を出したが、その場では使われない
この家には、止める役の人がちゃんといる。
「やめてもいいのよ」は口に出されている
母の言葉はこうだ。「アリア、嫌だったらやめてもいいのよ」「だって最近全然楽しそうに見えないもの」「ママが言ってあげようか」。続いてアリアの側に並ぶのは「やめたい」「もっといろいろしたいこともある」「ピアノだって、友達と買い物にも行きたい」という言葉だ。やめたい理由も、代わりにやりたいことも、すでに全部そろっている。
準優勝の日にも、母は同じことを言う
大会のあと、母は「あなた、ちょっともういいじゃない」「準優勝も立派よ」と止めに入り、「友達、他にもやりたいことがあるかもしれないわよ」とも言う。返ってくるのは「君は口を出さないでくれ」「こんなところでつまずいていたら、今までの時間がすべて無駄になってしまう」だ。止める側の言葉は二度とも同じで、二度とも通らない。
当のアリアは、その空気のほうを見ている
このときのアリアの独白は「嫌だな、この空気」「胸がチクチクする」で、フェンシングの話ですらない。そこへ父の「アリア、どうなんだ」「他にもやりたいことなんかあるのか」「そんなわけないよな」が来る。問いの形をしているが、答えは先に埋められている。
「優勝してどうなるの」で手が止まる
勝ち続けていたアリアが初めて負けるのは、相手が強かったからではない。
試合中に問いが割り込む
剣を交えながらアリアが自分に言い聞かせるのは「勝てば優勝だ、勝つんだ」だ。ところがそこへ「あれ」が挟まり、「優勝してどうなるの」が出る。いったんは「そうだ、アラディア一になりたいんだ」と戻すが、続けて「なんで」「誰のため」が来て止まる。技術ではなく、理由のほうが先に切れている。
コーチの講評が、それを言い当てる
結果は準優勝で、アリアの弁は「でもパパはひどく落胆していた」。コーチの講評は「技術的にはアリアの方が上だった」「だが心で負けていた」で、父は「これからはもっと厳しく練習だな」「メンタル面も鍛えていこう」と受け取る。原因を正しく言われているのに、対処の方向だけが逆を向く。
「夢は人を狂わせる」
詰め寄られたアリアが行き着くのは「あの時、あんなこと言ったからパパは」で、そこから出てくる結論が「夢は人を狂わせる」だ。以後の生き方は「私はそれから夢を口にするのをやめた」「無謀な夢は見ない」「好きなことを適当に楽しく」「それがアリアの生き方」になる。魔術学校に入った理由まで「なんとなく楽しそうだったから」で説明される。何でもそつなくこなす天才の中身が、この一行で埋まる。
返ってきたのは、四話前に自分が渡した優しさだった
追い込まれたスピカを助けたのは、この回で用意したものではなかった。
アリアは終わらせにかかっている
決着の直前、アリアはこう言う。「あんたの諦め悪くて真っ直ぐなところ、もう少し見ていたかったけれど」「これ以上はもう無理ね」。スピカのほうも「今度こそアリアに勝てるって思ったのに」と落ちている。この時点で、勝負としては終わっている。
第18話の一言がそのまま返ってくる
そこへ現れたものを見て、スピカが言うのが「もしかしてアロエの恩返し?」「どうやって来たか分からないけど」だ。第18話でスピカは、試験時間を大きく削ってレッドアロエを採りに行き、メロウの大切な友達であるイルカのジョニーを助けている。別れ際の言葉が「そしていつかその優しさは、きっと回り回ってあなたに返ってくるわ」だった。四話前のその一言が、台詞ごとそのまま画面に戻ってくる。
スピカの返事は「本当だね、メロウちゃん」
助けを受けたスピカの一言は「本当だね、メロウちゃん」で、そのあとが「私まだ諦めないよ」だ。勝ち筋を自分で作ってきた人が、この回だけは自分で用意していない助けで立ち上がる。第19話は発想、第20話はコントロール、前回は執念で押していたので、外から来る助けはこの試験で初めての形になる。
それでも、努力の話に落ちている
助けが来ても、氷結を破ったのは授業で覚えた花で、押し切ったのは魔力を数えながら残した一回だった。助かった理由は運でも、勝った理由はやってきたことのほうにある。決着はスピカに付き、狙っていたダイヤもその手に渡る。夢を捨てた側と、夢を語り続けた側の勝負が、こういう形でつくのがこの作品らしいところだ。




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