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第10話の副題は「海辺にて」。エリーが商談の冒頭で口にした目的は、国外への販路を拡大することだった。ところがそれが手に入るのは、契約書の場ではなく浜辺の雑談のほうだ。特別認可商人としての認可にも、出自を理由にした厳しい監査が一緒に付いてくる。港町での食事も、浜辺での雑談も、そのまま次の商売の下ごしらえになっている。穏やかな一日に見える時間の中身が、ほとんど仕事でできている回だった。




待たされることに、意味がある
第10話は、商談の作法の話から始まる。連れていかれるのは、まだ見習いのルノア・カールトンだ。
指導を頼んだのはルノアの側だ
訓練の効果を聞かれたルノアが、自分から「今後ともご指導よろしくお願いいたします」と切り出す。理由は「父のような商人になりたい」で、教えが「確かに大変なこともある」ことも認めたうえでの申し出になっている。
採用の理由は本人に伝えられない
エリーの内心は「ルノアを迎え入れたのはグランツの娘ということがきっかけだったけれど」から始まる。そのあとに「教えたことを貪欲に吸収するし、苦手なことも克服しようと努力も怠らない」が続く。第3話で駒として使った相手の娘だという事情は、口には出されない。
次のステップが商談への同席になる
「ちょうど良い機会です」という進言に、エリーが「次のステップに進みましょうか」と応じる。中身は同席だけでなく、持っていく手土産の手配まで含まれている。
待たされるのは事故ではない
屋敷に着くと「主人は休養で少々遅れております」と待たされる。エリーの説明が「初めて訪れた商人は必ずこうやって待たせるのよ」だ。狙いは「待たせることで自分の方が立場が上だと暗に主張している」ことにある。
軽食に口をつけることが返事になる
緊張して手を出せないルノアに、エリーは「それでも口はつけておきなさい」と言う。理由が「貴族に対して警戒していないことを示すためにもね」で、出された物を食べること自体が返答になっている。ルノアの感想は「面白い伝統があるんですね」だ。
冒頭の訓練は前回の続きになっている
この訓練が始まったのは第9話の終わりで、そのときの理屈が「たとえ護衛を連れていようとも、最後に自分を守れるのは自分だけ」だった。同じ回で「商売敵と穏やかではない方法で交渉する可能性だってあるわ」とも言われていて、それが今回そのまま起きる。
手土産は、決める人に向けて選ばれている
通されてからの商談は、最初から向こうの申し出で始まる。
支店を置いてほしいと言われる
伯爵の用件が「我が領地にトレートル商会の支店を置いてもらいたいのだ」だ。エリーの応じ方は「私どもも前々から支店の展開を検討しておりまして」で、大きな港がある点を理由に挙げている。
目的をその場で言ってしまう
「港に興味があるのかね」と聞かれたエリーの答えが「国外への販路を拡大するためにも重要だと考えておりますわ」だ。ここで口に出した一言が、回の終わりでそのまま効いてくる。
引き止められても方針を変えない
「君の商会はすでに安定した利益を上げている」「国外に販路を広げずとも良いのではないかね」と探られる。返しが「安定を理由にあぐらをかいてばかりもいられません」「成長し続けなければこの業界、生き残れませんもの」だ。伯爵の反応は「君と話して、全くその通りだと実感したよ」になる。
話を進めたのは伯爵ではなかった
伯爵が明かすのが「今回の話は必ず領地の利益になるからと、妻や娘が熱心に進めてきたのがきっかけなんだが」だ。申し出の出どころが、目の前に座っている相手ではなかったことになる。
手土産はそこに当たっている
ルノアが用意した手土産は最高級の化粧品で、渡すときの言葉が「ご家族にぜひ」だ。選んだ理由は「伯爵様は愛妻家でいらっしゃると聞いていたので、きっと奥様とも今回の件をお話しされてると思ったんです」だった。
次の手土産の話がもう始まっている
エリーの評価が「手土産のチョイス、バッチリだったわよ」で、そこに「今度は奥様たちにもお会いできるかもしれないわよ」が続く。ルノアの返事は「手土産、また考えておきます」だ。
優遇と一緒に、厳しい監査が付いてくる
旅の前に、もう一つ済ませておく用事がある。
認可は前回の続きだ
「本日付で君はユーティア帝国商業ギルド特別認可商人として認められた」と告げられる。第9話の評議会での審査が、ここでようやく書面になる。
優遇の中身が並べられる
受けられるのは「土地の購入や国からの融資、所有制限品の緩和など」だ。対価として「認可税の納税や商業ギルドからの監査を受ける義務が生じる」と説明される。
監査だけが他より重い
そこへ足されるのが「なお、君の商会の監査は通常より厳しくなる」「これは君の出自によるものだ」だ。第9話では祖国での扱いが信用してよい理由として採用されたのに、同じ出自がここでは条件を重くする理由になっている。
返事に一言も足していない
エリーの返事は「ええ、問題ありませんわ」だけだ。抗議も交渉もせずに受け取り、「これからも帝国経済の発展のために励んでくれたまえ」にも「ええ、もちろんですわ」と返している。
積荷が少ない理由は先に決まっている
出発の準備で「あれ、商材少ないんですね」と気づかれる。答えが「今回は港で輸入したものを受け取るからよ」で、行きが軽いのは帰りに積むためだ。
契約より先に、家族のほうが会いたがる
伯爵領に着くと、話はまず景色から始まる。
海水浴は領地の売り出し方だ
伯爵の説明が「我が領地はこの美しい海が売りでね」「泳げるように砂浜を整備して、さらに人を呼ぼうと考えているのだよ」だ。観光の計画のほうが、契約書より先に語られている。
契約は一読で終わる
契約書を前にしたエリーの一言が「事前に詰めた内容と相違ないわね」で、そのままサインになる。もめる場面は一つもなく、「これで契約は完了だ」で片づく。
家族が会いたがっている
続けて出てくるのが「家族が君にぜひ会いたいと言って聞かなくてね」だ。入ってきた夫人と娘の第一声が「私たち、トレートル商会の化粧品のファンですもの」になる。
挨拶の品が試供品を兼ねている
エリーが差し出すのが「再来月から販売予定の新作香水エルミア」で、続けて「よろしければ使用感のご意見を伺わせてください」と頼む。そこへ「あとは、広報にもお力添えを」まで足される。第9話で香水づくりの中心に据えた花の名が、そのまま商品名になっている。
見ていた人がそれを言葉にする
一連を見ていた伯爵の感想が「抜け目ないな」だ。贈り物と依頼が同じ動作で行われていることを、その場の全員が分かっている。
庇護を頼みに来た側が、首をすげ替えると言う
港町を歩いていると、いかにもな連中に声をかけられる。
誘い文句がそのまま条件になっている
「こんなところにいたら危ないよ」「安全な場所まで案内してあげる」と来て、そこに「もちろん有料でね」が付く。エリーの返事が「ご親切にどうも」で、断りの言葉になっていない。
相手の売り文句を、そのまま使う
場が収まったあと、エリーが言うのが「あなた、私たちを案内してくれるって言ったわね」「ボスのところに案内してもらえるかしら?」だ。「それは言葉のあやってもんで」と逃げようとする相手に、自分の言葉のほうで詰めている。
前回教えていたスキルが、そのまま尋問に使われる
ここで使われるのが、第9話で無属性スキルとして説明されていたサプレスだ。そのときの紹介の言葉が「尋問に使えるからおすすめよ」で、文字どおりの用途で出てきている。
挨拶の中身が庇護の要求だ
ボスと向かい合ったエリーの用件が「ご挨拶に伺ったのよ」「あなたの組織の庇護下に加えてもらえるようにね」だ。根拠として「この街の表向きの治安を守っているのは伯爵。だけど裏はあなたたちマフィアによって守られているわ」を挙げている。
断られた場合の話を先にする
「もしお断りしたら?」と聞かれた答えが「少し手間だけれど、あなたの首を私の息がかかった者にすげ替えるわね」だ。庇護を頼みに来た側が、断られたときの処理を先に説明している。
交渉の相手は目の前にいない
エリーが持ち出すのが「あなたの後ろにいるホーキンス氏のことを考えれば慎重に動かざるを得ないわ」だ。その正体が「帝国商業ギルド評議員の一人」で、第9話で認可を出した側にいる人物が裏組織の頭目でもあることになる。「帝国の裏組織を牛耳る男を敵に回すことだけは避けたい」が、交渉に来た理由になっている。
迷惑をかけた側が迷惑料を払う
話がまとまると、エリーが「こちらが月々の見返りですわ」と差し出し、「今回の迷惑料として多めにお支払いさせていただきます」と付け足す。先に手を出したのはこちらなので、迷惑料という言い方が筋としては通っている。
わざわざ喧嘩を売った理由が説明される
ルノアの質問が「なんでこんな喧嘩を売るような方法にしたのですか?」だ。答えが「所詮私たちは駆け出しの商会」「連中に力を見せて、舐められないようにしておく必要があったの」で、暴力そのものが挨拶の様式になっている。締めは「いずれルノアも取引することになると思うわ」「その時まで、今日のことをしっかり覚えておきなさい」だ。
開戦をそそのかした側が、名指しで叱られている
場面が変わって、王国のほうが短く挟まれる。
城への評価が本人の口から出る
王太子フリードが言うのが「ロゼリアといい、城にはろくな女がいない」「俺の心を癒してくれるのは君だけだよ、シルビー」だ。買い物に付き合いながらの一言で、政務の話は出てこない。
叱っている側は名乗らない
続く場面の第一声が「どの面下げて私の前に来れたんです? グレアム大佐」だ。相手は名乗らないまま、「無能王子をそそのかして開戦させたのが無駄になったじゃないですか」と切り込んでいる。
第5話の開戦の出どころがここで分かる
大佐の弁明が「女商人の邪魔が入ったんだ」「俺らの部隊をめちゃくちゃにしてくれたよ」だ。第5話で「飛び抜けて練度の高い一団」と評された部隊を率いていたのが、この人物だったことになる。
負ける側だったと自分で認めている
続くのが「あのまま戦っていれば負けていたのは俺だろうな」だ。大佐が? と驚かれても否定せず、「あれだけの実力ならいずれ面倒な存在になる」と評価のほうを口にしている。
上からの指示がもう出ている
締めが「しばらく目を離すなとのお達しだ」だ。この人物の上にさらに誰かがいて、エリーはすでに監視対象になっている。
商談で口にした目的が、海水浴で叶う
仕事の合間の時間が、ここから続く。公式のあらすじも「報復の合間に、こんな穏やかな一日があってもいいわよね。」で結ばれている。
帝都に売っていないものがある
港町の食事で、ルノアが気づくのが「花は帝都でも売っていますが、エビや貝は売ってないな」ということだ。「こんなに美味しいのに」という感想に、エリーが「買おうと思えば買えるわよ」と返す。
値段が場所だけで別物になる
「ただし、すっごく高いわよ」「帝都で買うなら、エビが1匹、銀貨5枚くらいかしら」。目の前で食べている串が銅貨1枚なので、同じものの値段が運ぶ距離だけで桁ごと変わっている。
高い理由が魔法の人件費だ
説明は「貝や甲殻類は傷みやすいから、輸送の時は氷の魔法が使える魔道士を雇って冷やし続けなければならないの」と続く。結果として「一度に運べる量にも限りがあるから、帝都じゃ高級レストランくらいにしか卸されないわ」になる。
庶民に届かないという指摘だけが残る
ルノアの受け止めが「それじゃ美味しくても庶民には手が出せませんね」だ。エリーの答えは「分かったわ」「二人とも、この話はまた後で」「まずは仕事を終えましょう」で、否定も肯定もしていない。
遊ぶことも仕事だと言われる
浜辺では「やっぱりこれ遊びですよね、お仕事は」という声が上がる。ミレイの答えが「あなたの年齢では遊ぶのも仕事ですよ」で、遊ばせるほうにも理由が付いている。
悩みが向こうから出てくる
夫人が話すのが「私のお友達を招待したとき、彼女たちは日焼けを気にして海に入らなくて」だ。伯爵が語っていた砂浜の整備と、そのまま噛み合っていない部分が、ここで言葉になる。
用意していた新商品を出す
エリーが差し出すのが「次に出そうと思っている新商品」で、中身は「肌が日に焼けるのを防ぐクリーム」だ。説明は「皮膚の表面で弱い治療効果を発揮するもの」で、そのうえで「生産の都合上かなり高価にはなってしまう」と先に断っている。
言い出したのは向こうのほうだ
夫人の申し出が「うちの領地に優先的に卸していただくことって可能かしら?」だ。理由も自分から並べていて、「貴族の間で海水浴が流行すれば、商品の需要は間違いなく高まりますわ」と根拠まで付けている。
対価が、最初に言った目的そのものだった
続けて出てくるのが「もちろんタダでとは申しません」「トレートル商会は国外への進出を検討していらっしゃるのでしょう」「私どものツテで販路や国外の取引先をご紹介できますわ」だ。商談の席で口にした目的が、契約書ではなくここで手に入っている。
差し出す物までそろえてある
エリーの返事は「まあ素敵なご提案ですわ。ぜひお願いいたします」で終わらない。「クリームの試供品をいくつかご用意しておりますので」と続き、その場で使用感の依頼まで済ませている。
穏やかな一日の中身は、ほとんど仕事だった
見ていたルノアの感想が「はい、さすがエリー会長です」だ。手土産も、港町の食事も、浜辺の雑談も、全部が次の取引の下ごしらえになっている。そのうえで置かれる締めが「報復の合間に、こんな穏やかな一日があってもいいわよね」で、休暇という言葉のほうだけが本人の口から出てくる。





















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