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『ふつつかな悪女』第10話の副題は「呪いも半分こ」。黄麒宮へ向かった尭明は冬雪に阻まれ、冠を外して「今の俺は無冠の身だ」と頼み直す。一方、呪い返しの危険を一人で引き受けようとした慧月に、玲琳はほうき星に願ったもう一つの願いが「友」だったと明かす。副題は、失敗すれば一人に返るはずの呪いを、二人で分けようという命がけの申し出の一言だった。




副題「呪いも半分こ」は、友になってほしいという申し出の最後の一言だった
副題は、四話続けて本編の台詞になっている
第10話の副題は「呪いも半分こ」。本編では、玲琳が慧月に友達になってほしいと申し出る場面の最後に、「刀を振り下ろすなら呪いも半分こいたしましょう」という形で出てくる。第7話から、この作品の副題は毎回、本編の誰かの台詞からそのまま取られてきた。第10話も同じ型で、しかもこの回でいちばん大事な申し出の締めくくりに置かれている。
半分こにするのは、失敗したときに返ってくる呪いのほうだ
分けようとしているのは、手柄ではない。慧月が行う呪い返しは、「破れた呪いは術者に返る」という仕組みの上にある。刀を振り下ろすのが慧月一人なら、失敗したときに返ってくる呪いも慧月一人にかかる。玲琳が半分こにしようとしているのは、その返ってくるほうの呪いだ。副題だけを読むと可愛らしい言葉だが、中身は命がけの申し出になっている。
黄麒宮の前で、尭明は冠を外して頼み直す
見舞いの一行を先に帰し、ひとりで残る
冒頭の尭明は、まず周りを片付けている。「これ以上皇后陛下の病状は触れ回るな」と命じ、「むしろ俺の見舞いを受け入れられるほどに余裕があるというように」「お前たちは笑みを浮かべて先に本宮に戻れ」と、付き従う者たちを帰す。自分については「それ以上の時間はかけない」と区切って、その場に残る。皇后が危ういことを周りに悟らせない段取りを、先に済ませている。
冬雪は、玲琳との約束を理由に口を閉ざす
黄麒宮へ向かった尭明を止めたのは、黄家の筆頭女官の冬雪だ。「開門せよ」と迫り、「お前は知っているのだな」「答えよ」と問い詰める尭明に、冬雪の答えは「申し上げられません」だった。尭明はすでに、「朱慧月と入れ替わったのだろう」「あの女に体を奪われたのではないのか」とまで口にしている。そのうえで「主人を蹂躙されておきながら」「なぜ俺に訴え出ることもしない」と責められ、冬雪は「主人の危機に手を差し伸べられなかった」「私への罰だからでございます」と答える。
冬雪が受けていた言いつけも、短く挟まれる。「かの方とあなた自身を害することを禁じます」「殿下や陛下に真実を告げることも」。あらすじにも「玲琳との約束があるため」とあるとおり、冬雪は約束を守るために黙っている。尭明も「玲琳に言い含められたのだな」と受け取った。冬雪にとって黙ることは、玲琳を裏切らないことと同じだった。
「今の俺は無冠の身だ」は、冬雪が断る理由を消している
冬雪は、断る理由をもう一つ挙げる。「殿下は玲琳様のご意思を超えて状況を一変させてしまえるお方です」「どうかご容赦を」。尭明はその意味を確かめる。「それは皇太子として」「玲琳の意思に反して」「朱慧月を罰してしまえるからということか」。そして冠を外し、「今の俺は無冠の身だ」「いたずらに権力を振りかざしたりしないと誓う」と言い直した。冬雪が恐れていたのは皇太子の力で、尭明はその力のほうを先に下ろしてみせた。最後は「通してくれ」「この通りだ」と重ねる。
冬雪は、道を開ける理由を自分で用意する
冬雪は「どうぞ」と応じ、「道々」話をすると申し出る。そのあとに添えたのが、「もとより皇太子殿下を一女官が退けられる道理などございませんゆえ」だった。尭明が冠を外したあとも、冬雪は「皇太子殿下」と呼び、それを道を開ける理由にしている。約束を破ったのではなく、断りきれなかったという形を、冬雪は自分で整えている。尭明の返事は「感謝する」の一言だった。
鷲官長は、切れた弦から黄家の力に考えを向ける
破魔の弓を持ち出したのは、鷲官長の独断だった
一方、鷲官長は国宝の破魔の弓を手にしている。連れの者は「まずいですよ」「勝手に国宝の破魔の弓なんて持ち出しちゃ」と慌てるが、鷲官長は「これは俺の独断だ」「お前が制止したことも記録してあるから」と返す。国宝の弓は、誰かに命じられたのではなく、鷲官長が自分の判断で持ち出したものだ。「記録してくれるんです」「それなら黙ります」で引き下がるやりとりは、張りつめた回のなかの短い息抜きになっている。
呪いを信じない男が、弓を取った理由
「正直鷲官長は呪いや迷信とか信じないと思っていたので」「意外です」と言われ、鷲官長は「本来信じない」と認める。それでも弓を取ったのは、「朱家の姫がこの弓を引くにつれ」「黄玲琳殿の病は退いたのだ」と見てきたからだ。「雛宮一の悪女とて」「陛下のために弓を引きたがったというのに」とも言う。信じていない男を動かしたのは、呪いの理屈ではなく、目の前で起きた結果だった。「殿下は朱慧月の身を案じたのだろうが」「なぜあれほど突き放したのか」と考えかけて、「詮索は鷲官長の職務ではない」と自分で打ち切るところにも、この人の固さが出ている。
弦は、玄家の者の腕の中で切れた
そして弦が切れる。「国宝を破壊したとか処刑ですよ」と慌てる声に、鷲官長は「これほどの強弓が押し負けたりするものか」と返し、「数百年前に弦を張られてから」「切れたことはないと聞く」と続ける。そこから、「弓を引いたとき」「まるで何かに怯えていたようだった」「それが」「馴染みある玄家の者の腕の中で」「重圧から解放され」「文字通り」「緊張の糸が切れてしまったような」と読み解かれる。弦が切れたのは力負けではなく、張りつめていたものがほどけたからだ、という見立てだ。
「土剋水」の先で、言葉は「まさか」で止まる
推理は五行に進む。「水と戦をつかさどる」玄家の職人がこしらえた弓は、「いかなる敵をも穿ち」、炎さえ恐れない。「唯一」「弓を凌駕するものがあるとすれば」「土剋水」、「重き大地は荒ぶる水さえ沈める」。そして「土をつかさどるのは」黄家だ。三刻以上も弓を引き続けたのは朱家の姫のはずで、「朱家は火をつかさどる」「本来」「水とは相性が悪いはず」。朱家の姫の腕では説明がつかない手応えが、黄家を指している。ただ、言葉は「まさか」で止まり、行き先を聞かれた鷲官長は「雛宮に戻る」とだけ答える。
蠱毒は、玲琳の遠慮から生まれていた
蜘蛛とムカデを一つの壺に入れたのは、人の物を借りないためだった
呪い返しに使う蠱毒の出どころも、この回で明かされる。第3話の虫について、玲琳はこう話す。「以前莉莉にもらった蜘蛛さんとムカデさんを」「ネズミさんの餌にしようと思ったのですが」「入れ物がなくて」「人様の私物を使うのはどうかと思い」「唯一手元にあった壺に一緒に入れたところ」「ムカデさんは蜘蛛さんを食べてしまったのです」。返ってきた突っ込みは「遠慮の果てに蠱毒を作り出したのかこの人」だった。呪いの道具は、人の物を勝手に使わないという行儀のよさから生まれていた。
殿下には、もう知られている
玲琳が塀を越えたすぐあとに、殿下が来ていたことも伝えられる。殿下は門を叩き、黄玲琳は中にいるのではなく「つい先ほど飛び込んでいった姫様だと」「確信なさっているご様子でした」。黄麒宮の部屋が空だと分かれば、殿下は「すぐに引き返していらっしゃるかもしれません」。そこで「やはり先に入れ替わりを解消した方が良いかもしれません」という案が出るが、返ってきたのは「入れ替わりは解消しないわ」だった。知られた以上は元に戻るのが先、という筋を、慧月はあっさり退ける。
慧月の断り方には、言い訳が三つ付いている
「下級女官ごとき」とあしらわれた莉莉は、「おあいにく様」「今は上級女官だ」と言い返し、「あんたは玲琳様に命まで救われておいて」「少しは人の心ってもんがないの」と食ってかかる。慧月は「自分で自分の責任を取る気概くらいあるわよ」と返し、「入れ替わりの解消も大きく気を使うから」「同じ日に両方は無理なの」と説明する。「私の願いを先に叶えてくださると」と聞き返す玲琳には、「勘違いしないでちょうだい」「別にあなたのためじゃないわ」。
理由として並ぶのは、「私を馬鹿にした相手に目に物見せてやりたいだけよ」、「朱家の人間として朱家の妃が犯した罪を正そうとしてるだけよ」、そして「入れ替わりの解消後の酌量に有利でしょ」の三つだ。三つとも自分のためだと言いながら、選んだ順番は玲琳の願いを先にしている。玲琳の感想は「やはり慧月様というのはお可愛らしい方ですね」だった。
「これしか分からないのよ」に、玲琳はほうき星の願いで答える
玲琳は、慧月が一人で危険を引き受けようとしていると気づく
呪い返しが始まり、慧月は「私がやるわよ」と引き受ける。そこで玲琳が止める。「お待ちください」。「破れた呪いは術者に返る」のなら、「万が一失敗したら」「呪いが返ってきて」「術者の慧月様が滅ぼされる」「ということではございませんか」。そして「陛下を救うために」「お一人で命を落とす危険を」背負おうとしているのではないかと問う。慧月の返しは「ヘラヘラしているのに」「妙なところで聡いのね」だった。三つの言い訳の下にあったのは、自分が死ぬかもしれない役を黙って引き受けることだった。
「これしか分からないのよ」の中身は、三つの方法と三つの「なかった」
答えを求められた慧月は、「これしか分からないのよ」と話し出す。分かるのは、「あなたに詫びる方法」「けじめをつける方法」「期待に応える方法」。その理由として、「誰も私に機会を与えなかった」「誇りを教えはしなかった」「期待を向けもしなかった」「だから分からないのよ」と続く。期待を向けられたことのない人が、期待に応える方法を探している。「分からないけど」「何かがしたいの」という言い方に、慧月の不器用さがそのまま出ている。
「星などと言うから」は、第4話の続きになっている
慧月はさらに言う。「あなたが私を星などと言うから」「ずっと泥の中をさすらうように生きてきた私でも」「一度くらい」「小さくていい」「何か輝かしいことをしたいと思ってしまったの」「悪い」。第4話の副題は「わたくしの、ほうき星」で、玲琳は慧月の「慧」の字を彗星の「彗」になぞらえていた。あのときの一言が、六話あとで慧月を動かす理由として返ってきている。
ほうき星に願ったもう一つは、友だった
玲琳は、ほうき星の話で答える。「ほうき星に二つ願い事をしたと申し上げました」。一つめは、第4話で明かされていた健康だ。まだ明かされていなかった二つめが、「友が欲しかったのです」だった。「まるでゆりかごのような」「柔らかな世界」で育ったと分かっていても、「慈しまれるだけではなく」「私が慈しめる相手が欲しかった」「支え合える相手が欲しかったのです」「対等に接してくれる友が」。守られる側にいた玲琳が欲しかったのは、支え合える相手だった。
慧月の返事は、割って入る声に遮られる
玲琳は慧月を「たやすく心を揺らし」「苛烈な思いを持て余し」「憎んだ女に詫びるとなったら」「命までかけてしまう純粋な方」と言い、「私と友達になっていただけませんか」と申し出る。「嫌だと言われても」「勝手に友誼を結んでしまうのですが」と先回りし、最後に「刀を振り下ろすなら呪いも半分こいたしましょう」と添えた。慧月が「あなたね」と言いかけたところで、「おやめなさい」という声が割って入る。第4話で玲琳の「あなた様こそが」が遮られたのに続いて、二人のあいだの大事な言葉は、また最後まで言わせてもらえない。
雅媚は、胡蝶とドブネズミを一文に並べる
雅媚は、入れ替わりを知ったうえで来ている
割って入ったのは朱貴妃の雅媚だ。「私に断りもなく」「何をしようとしているのです」と現れ、「随分と正体が広まってしまったことね」と慧月に呼びかける。続けて「所詮ドブネズミには」「胡蝶の真似事など無理だったということかしら」「何と使えない娘ですこと」。雅媚は、入れ替わりを知ったうえでこの場に来ている。
作品名の「蝶」と「鼠」が、雅媚の一言にそろう
作品名の後半は「雛宮蝶鼠とりかえ伝」。玲琳は「胡蝶」、慧月は「ドブネズミ」と呼ばれてきた。雅媚の「所詮ドブネズミには」「胡蝶の真似事など無理だった」は、その二つを一文に並べて、とりかえは失敗だったと言い切る言葉になっている。第8話で慧月は、「誰からも愛される胡蝶のようなあなたに」なりたかったと打ち明けていた。その願いを、同じ朱家の妃がまとめて切り捨てている。
「お友達の命」と「あなたの体」は、同じ一人を指している
雅媚は壺と刀を置けと迫る。「呪い返しはまだできていないでしょ」「せっかくできたお友達の命が惜しいならば」「あなたの体が惜しいならば」「その壺と刀を置きなさい」。入れ替わっている今、慧月の体に入っているのは玲琳だ。友の命と自分の体という二つの脅しは、どちらも同じ一人に向けられている。人質に取られた側からは「私にはどうぞ構わず」「事をなさってください」という声が返り、雅媚は「やかましい胡蝶ですこと」と切って捨てる。
雅媚が差し出した取引は、皇后の座と引き換えだった
雅媚は、呪い返しが完成したら何が起きるかを自分で説明する。「私はきっと死んでしまうでしょう」。そして慧月も「逃れられずに死ぬ」。刀を置けば、「あの女が死んで私が皇后になる」「その時はあなたを丁重に遇するでしょう」。友達のほうも「生かしてもいいですわ」、ただし「意識を奪った状態ならね」。助けると言いながら、差し出しているのは友の意識を奪ったあとの暮らしだ。
張りつめた場面は、思わぬ形でほどける
この場面の終わり方は、それまでの緊張とかけ離れている。「良ければ最後に慧月様も」と虫を勧める声に、「全く不要な気遣いを」「近づけないで」と返す声が続き、「あっ死んだ」で締めくくられる。ネットの感想でも、最後に虫を仕留めたのは玲琳だという声が並んだ。命がけのはずの呪い返しは、玲琳のいつもの調子で幕を引いている。
まとめと考察
冠を外すことと、呪いを半分こにすることは、同じ向きの話だ
前半の尭明と後半の玲琳は、同じことをしている。尭明は冠を外して「今の俺は無冠の身だ」と言い、皇太子の力を振りかざさない形で冬雪に頼んだ。玲琳は「対等に接してくれる友が」欲しかったと明かし、呪いを分け合おうと申し出た。どちらも、上から守るのではなく、同じ高さに立とうとしている。「下級女官ごとき」に「今は上級女官だ」と言い返す場面まで含めて、この回は立場の上下をならしていく話になっている。
一人で背負おうとする癖は、二人ともにあった
第9話の玲琳は、帰り道で「全てこの事態を私が丸く収めてみせます」と一人で決めていた。第10話の慧月は、失敗すれば自分に返る呪いを、黙って一人で引き受けようとした。「呪いも半分こ」は、一人で背負いがちな二人が、初めて分け合おうと決めた言葉だ。玲琳のほうから言い出したことにも意味がある。前の回で一人で抱え込もうとした本人が、今度は相手に一人で抱えさせない側に回っている。
入れ替わりを知る人は、この回で一気に増えた
第7話で冬雪が気づき、莉莉も知った入れ替わりは、この回で尭明にも見抜かれ、鷲官長も五行の理屈から黄家に考えを向け、雅媚は「随分と正体が広まってしまったことね」と口にする。秘密のままで守れる段階は、もう終わっている。慧月が入れ替わりの解消を後回しにした今、二人が元の体に戻るときをどう迎えるのかが気になる。
























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