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『ドッジ弾子』第11話の副題は「闇をなぎ払え!伝説のシュート!」。けれど、この回で本物の炎のシュートはまだ一度も撃たれていない。蘭は、娘に危ない技を教えなかった弾平を「腰抜け」と呼ぶ。追い詰められた弾子を支えたのは、幼い頃に聞いた「強いライバルは宝物だぞ」という父の言葉だった。父が渡したのは、シュートではなくライバルの見方だった。




副題「闇をなぎ払え!伝説のシュート!」の一球は、まだ撃たれていない
公式のあらすじは、弾子が伝授されていないところで止まる
第11話の副題は「闇をなぎ払え!伝説のシュート!」。公式のあらすじは、球川闘球部とブラックアーマーズの戦いが佳境を迎え、内野に残ったのが弾子と珍子、蘭と皐の各チーム2人だけになったところから始まる。締めくくりは、弾平が父の弾十郎から受け継いだ伝説の炎のシュートを、弾子は伝授されていないと蘭が知っていた、という一文だ。副題の伝説のシュートは、この回ではまだ本物が一度も撃たれていない。
冒頭は、前の話の続きから
冒頭は、珍子が煌の技までコピーして口撃を跳ね返した場面の続きになっている。ブラックアーマーズ側は「やはりこいつは危険だな」と警戒を強め、ナンバー2の高山皐が珍子を仕留めにかかる。前の話で言葉の技まで写し取った珍子が、この回の前半の主役になる。
残ったのは、どちらも幼なじみの組
内野に残ったのは、球川が弾子と珍子、ブラックアーマーズが蘭と皐。弾子と珍子は幼なじみで、皐も回想で「幼馴染の蘭は仲間を守るために」と語る。最後の2人ずつが、どちらも幼なじみの組になっている。この並びが、試合の後半に効いてくる。
家族の声援で「スーパー珍子」になる
「少し遅れてしまったが」家族が駆けつける
珍子のもとに、家族が応援に駆けつける。父は「少し遅れてしまったが」「みんなで駆けつけたぞ」と言い、遠くに行っていた母も「お空で見守っているぞ」と続ける。まるで亡くなったかのような言い方だが、母は元気に応援に加わる。前の話で気になっていた、遠くにいた母の件が、ここで笑いとして片づいている。
「た、確かにうざい」
家族は応援グッズまで用意して、「世界で一番」「めちゃくちゃすごいんですよ」と会場をあおる。それを見て漏れる感想は「た、確かにうざい」。前の話で珍子が口にした、うざいほどの愛が、会場全体に伝わっている。愛されていない証拠だと言われた名前の子に、これ以上ないほどの声援が集まる。
声援が、そのまま力になる
声援を受けた珍子は、公式のあらすじが「スーパー珍子」と呼ぶ状態になる。家族の声援が、そのまま技の出力になっている。この作品では、応援の熱量まで試合の力に換算される。前の話で名前の由来を受け入れた珍子が、その名前を連呼されて強くなるという流れもきれいだ。
皐は、蘭のために強くなった
ドーピングで迎え撃つ副キャプテン
対する皐は「かなりギアが上がったようだな」と受け、「ならばこちらも」と、公式のあらすじのいうドーピングで限界を超える。家族の声援で強くなる珍子と、薬で強くなる皐が、真正面からぶつかる。力の出どころがまるで違う二人だ。
「命をかけて強くなると誓った」
皐の回想は、幼なじみの蘭の話だ。「幼馴染の蘭は仲間を守るために」「常に強いリーダーであろうとした」。だから皐は「命をかけて強くなると誓った」。皐が守りたいのは、仲間を守るために強くあろうとする蘭そのものだ。公式のキャラクター紹介にも、蘭を、ひいては仲間たちを守るために強さを手に入れたとある。
「強くなって蘭を守ることが」「仲間を守ることだから」
皐の理屈は「強くなって蘭を守ることが」「仲間を守ることだから」。守る相手が一人に絞られているぶん、皐には迷いがない。薬に頼ることさえ、その誓いの中では迷う理由にならない。
珍子は技を重ねて、二人まとめて狙う
平子と柔里の技を写し取る
珍子は「ボールの力をコントロールしてる」と評され、公式のあらすじのとおり、平子や柔里の必殺技をコピーして皐からヒットを奪う。一度見た技を再現できるという珍子の特技が、ここでは複数の技の組み合わせにまで広がっている。写すだけでなく、組み合わせて使えるところまで来ている。
「もしや蘭も狙ったのか」
さらに珍子は、皐の球の力を使って蘭まで同時に狙っていた。「もしや蘭も狙ったのか」という驚きに、珍子は「あなたのスイッチショットのパワーなら」「ダブルヒットも可能だったから」と答える。相手のいちばん強い技を、相手のキャプテンを倒す道具に変えている。
「俺のために取り乱したんだな」
自分の球で蘭が狙われたと知った皐は取り乱し、「戦いの場で心を乱すな」と止められる。蘭は「俺のために取り乱したんだな」「すまんな」と返す。蘭を守るために強くなった皐にとって、自分の球が蘭を危うくすることだけは耐えられない。ここでブラックアーマーズの二人の結びつきがよく見える。
弾子のパワーと、珍子のリード
蘭との勝負では、「珍子様のリードで弾子様のパワーが上乗せされています」という合体技まで出る。「合体技までコピーできるとはね」という声のとおり、技を写す力が、二人で一つの技を作る力にもなっている。それでも「所詮猿真似ではここまでだな」の一言とともに、球川は残り一人になってしまう。
蘭の闇と「生きるか死ぬか」のドッジ
「親父を破った男の娘がその程度か」
残った弾子に、蘭は「親父を破った男の娘がその程度か」と言い放つ。蘭はブラックアーマーズの先代キャプテン、御堂嵐の娘だ。平子も、蘭の父が「僕のパパと同じく」弾平と因縁を持っていると気づく。子どもたちの試合が、父親たちの因縁の続きとして見られている。
公式のあらすじのいう「闇の力」
蘭の必殺技はブラックトルネードショット。公式のあらすじは、ついに動き出した蘭が放つ闇の力の前に、珍子はなすすべもなかったと書いている。技を写し取る珍子でも、蘭の力には届かなかった。ここから試合は、弾子と蘭の一対一になる。
「娘かわいさゆえに」
蘭の攻め方は、弾子の父をけなすことだった。炎のシュートは「自らの体も破壊しかねない危険な技」で、だから弾平は娘に教えられなかった、「娘かわいさゆえに」「とんだ甘ちゃんだ」。娘を守ろうとした父の判断を、蘭は腰抜けと呼んでいる。
「生きるか死ぬかのドッジ」
蘭は「俺たちは仲間を失わないために」「ずっと生きるか死ぬかのドッジをしてきた」と言い、「俺たちにとって敗北は」死だと言い切る。弾子たちの試合を「お遊びのドッジ」と呼び、「俺たちの絶望のドッジが」負けるはずがないと続ける。ブラックアーマーズにとって、ドッジは楽しむものではなく生き延びる手段だった。公式紹介の、ドッジに深い憎しみを抱いているという一文が、ここで本人の口から語られる。
炎のシュートは、教わっていない
「これが伝説の」「炎のシュートか」
追い詰められた弾子の一球に、会場は「これが伝説の」「炎のシュートか」と沸く。すぐに「断じて違います」「本物はこんな威力ではありません」と否定され、「やはり弾平さんは娘に伝えていなかったようです」と続く。伝説のシュートの名前が出た瞬間に、それが本物ではないと言い当てられている。
教えなかったのは、危ないからだった
炎のシュートは、弾平が父の弾十郎から受け継いだ技だ。蘭の言い分では、その威力は使う本人の体まで壊しかねない。弾子に足りないのは才能ではなく、父があえて渡さなかった一球だった。
蘭のいう「腰抜け」
蘭は、娘に甘い父を「腰抜け」と呼ぶ。けれど、娘の体を壊しかねない技を教えなかったのは、ふつうに考えれば親として当然の判断だ。蘭の物差しでは、子どもを危険から遠ざけることが弱さに見えている。幼い頃から修羅のドッジに放り込まれてきたという蘭の育ちが、この物差しをつくっている。
「強いライバルは宝物だぞ」
負けを口にする弾子
弾子は場外へはじき出され、気絶して球をかわすほど追い込まれる。「このままじゃ勝てない」「負ける」。相手からは「貴様の悪運もここまでだ」と言われる。いつも全力の弾子が、ここでは負けを口にしている。
回想の「珍子、嫌い」
そこで回想が入る。幼い弾子は「今のお前は珍子より下手くそなんだから」と言われ、「珍子、嫌い」とすねる。幼い弾子が嫌いと言った相手は、この試合でずっと隣に立っていた珍子だった。
「強いライバルは宝物だぞ」
父は「こら、こら」とたしなめ、「強いライバルは宝物だぞ」「お前をうんと強くしてくれるんだ」と言う。弾子は「それじゃ、珍子が僕を強くしてくれるの」と聞き返し、「それならどんどん来い」と気持ちを切り替える。弾平が娘に渡したのは、炎のシュートではなく、強い相手をどう見るかという考え方だった。
「もっともっと、僕を強くしておくれよ」
現在に戻った弾子は、「父ちゃんが言ってたんだ」「強いライバルと戦えば戦うほど強くなるぜ」と言い、「もっともっと、僕を強くしておくれよ」と言い切る。負けを口にしていた弾子が、相手の強さを歓迎する側に回っている。蘭がドッジを生き延びる手段と呼んだのに対し、弾子は強い相手を自分を強くしてくれる宝物と呼ぶ。
まとめと考察
誰かのために強くなる、二つの形
この回は、誰かのために強くなる形が、両チームで対照的に描かれた。珍子は家族のうざいほどの声援で強くなり、皐は蘭を守るために命をかけて強くなった。どちらも誰かのために強くなっているのに、片方は笑いの中に、片方は絶望の中にいる。
父を「腰抜け」と呼ぶ娘と、父の言葉で立ち上がる娘
蘭は弾平を腰抜けと呼び、弾子は父の言葉で立ち上がる。蘭にとって父親たちの因縁は負けられない理由で、弾子にとって父の言葉は強い相手を楽しむ理由になっている。同じ世代の父を持つ二人が、父から受け取ったものの違いでぶつかっている。
副題の一球は、まだ名前だけ
公式のあらすじは、弾子が炎のシュートを伝授されていないと書いて終わる。本編も、偽物だと言い当てられたところから、父の言葉を思い出すところまでで止まり、「続く」となる。闇をなぎ払う伝説のシュートは、副題に名前だけが出たまま、まだ撃たれていない。弾子がどんな一球でこの闇に向き合うのかが待たれる。
前半は、珍子の回だった
振り返ると、前半の主役は間違いなく珍子だった。家族の声援、技のコピー、合体技、そして弾子の回想に出てくる最初のライバル。弾子の強さのそばには、いつも珍子がいた。蘭と皐の組と並べると、球川の二人の近さがいっそうはっきりする。




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