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サイツ州との和平を勝ち取ったアルスたちの一方で、クランとバサマークの戦いもついに最終局面を迎える。長く続いたミーシアン継承戦争の決着、処刑を前にバサマークが残した不気味な予言、そして戦は必要だと語るクランの言葉を受けて、アルスは仲間たちに大きな夢を打ち明ける。兄弟の一騎打ち、バサマークの予言、そして皇帝を目指す決断まで、第29話を振り返る。




第29話 継承戦争の終わり
第29話「バサマークの最期」は、長く続いたミーシアン継承戦争がついに決着を迎える回だった。サイツ州との和平、クランとバサマークの一騎打ち、そして処刑。戦が終わったあとに語られたクランの平和観と、それを受けてアルスが仲間たちに語った大きな夢まで、物語が新たな段階へ進む第29話を振り返っていく。
和平とカナレへの帰還
サイツ州との戦に勝利したアルスたちは、ミーシアンに有利な条件で和平を結ぶことに成功する。そしてクランの要望で、アルスたちはバサマークとの戦には加わらず、民力の回復に励むためカナレへ戻ることになった。前回まで命がけで戦ってきたアルスたちにとって、ひとまずの区切りとなる知らせだった。
一方、クランはついにバサマークを追い詰めていた。「決着をつけようか」、「弟よ」。兄弟でありながら敵として向き合う二人の最後の戦いが、いよいよ始まる。
兄弟の一騎打ち
防御魔法ではいずれ限界が来る。だからこそ前に出るのだと、クランは自ら前線に立つ。「引くか進むか」という緊迫の中で、ついにクランとバサマークが剣を交える。「お前は結局己しか信じぬ男」と吐き捨てるバサマークに、クランは「言いたいことはそれだけか」と返す。
互いに一歩も譲らない兄弟の言葉は、それぞれが自分こそがこの地を守れると信じていることを物語っていた。どちらも自分の正しさを疑っていないからこそ、和解の道はもう残されていなかったのだろう。
父の後継をめぐって始まった兄弟の争いは、ミーシアン全土を巻き込む大きな戦となった。アルスたちもその渦中で、多くの犠牲を払いながら戦い抜いてきた。その長い戦いが、兄弟二人の剣で決着しようとしている。積み重ねてきたものの重さを思うと、この一騎打ちには特別な緊張感があった。
追い詰められたバサマークのそばで、側近の一人が身を挺して起爆装置を起動させる。それでも決着は覆らず、バサマークはついに捕らえられた。「愚かなる弟よ お前の負けだ」。長きにわたったミーシアン継承戦争は、バサマークの敗北によって終結することとなった。
側近の自爆という捨て身の行動は、バサマークにも命を懸けてついてくる者がいたことを示している。敵の側にも守りたいものや信じるものがあった。その事実が、戦の終わりを素直に喜べない重さを残していた。
祝賀会と処刑、クランの平和観
アルカンテスの祝賀会
州都アルカンテスでは、戦勝の祝賀会が開かれる。久しぶりに再会したレングに「しかし相変わらず小さいな」とからかわれながらも、アルスは「お元気そうで何よりです」と笑顔で応える。カナレの英雄として迎えられたアルスには、諸侯から感謝の言葉が次々に寄せられた。
クランは、この戦で最も活躍したアルスに報奨金を与え、さらに新たな人事として、三大都市の一つセンプラーの領主にレングを任命する。大胆な人選に驚く声もあったが、アルスは鑑定スキルでレングの数値が以前より上がっていることに気づいていた。会わない間にすごく努力したのだと、レングの成長を素直に喜ぶアルスの姿が微笑ましい。
弱小領地の領主から始まったアルスが、今や州の英雄として諸侯から認められている。その成長を思うと感慨深いが、当のアルスは浮かれる様子もない。祝賀会の華やかさの中でも、どこか浮かない表情を見せるアルスの姿が印象に残った。
「戦には勝った」、「だが国づくりとしてはここからが始まりだ」。クランの言葉には、総督としての覚悟がにじんでいた。戦争が終わったことにほっとするリーツたちの横で、アルスは同じ民と戦うことの苦しさを打ち明ける。彼らだって守るものや正義のために戦っているのに、と。
その思いを受け止めるように、「この平和はたくさんの犠牲の上に成り立っているとても重いものです」、「ずっと守っていきましょうね」という言葉がかけられる。勝利を喜ぶだけでなく、その裏にある犠牲を忘れない。アルスたちのこの感覚が、のちのクランとの対話につながっていく。
バサマークの最期の言葉
そして祝賀会の最後に、クランはバサマークの処遇を告げる。優秀な弟であり、生かしておけば国づくりに大いに貢献するだろう。それでも、血を分けた肉親だからこそ、兄に剣を向けた行為は許せない。こうして、バサマークは斬首刑に処されることになった。
リーツから無理に見なくてもいいと言われたアルスは、「僕たちの戦ってきた相手です」と答える。犠牲になった人たちのために、「僕には最後まで見届ける義務があります」。戦の結末から目をそらさないアルスの姿勢は、領主としての責任感そのものだった。
処刑を前にしたバサマークは、集まった人々に予言を残す。自分は敗軍の将で、こうなることに異論はない。だが自分を殺しても意味はない、元凶はクランだと。この男を頂点に置けば、国が破滅に向かうのは必至だ。なぜ父は自分を後継者に選んだのかをよく考えることだ。「この男の本性は私だけが知っている」、「気づいた頃には手遅れになるだろう」。
負け惜しみとも取れる言葉だが、あっさりと切り捨てるには不気味な重みがあった。兄弟だからこそ知っているクランの本性とは何なのか。この最期の言葉は、統一されたはずのミーシアンに小さな影を落としていく。
しかもクラン自身が、バサマークを生かしておけば国づくりに大いに貢献すると認めていた。それでも処刑を選んだのは、総督の座を揺るがないものにするためだ。私情と政治の両方を背負った兄の決断が、弟の最期の言葉によってさらに複雑な色合いを帯びていく。
戦は必要だというクラン
その夜、クランはアルスを呼び出し、まずはレングの成長について尋ねる。とても成長している、努力しているのがすぐにわかったと聞いて安心するクランの表情は、総督ではなく一人の父親のものだった。
平和なミーシアンにしていきたいと語るアルスに、クランは「お前は戦が嫌いか」と問いかける。戦が好きな者などいない。「だが必要ではある」。もともと大陸は7つの国に分かれていて、対等な条約で平和を維持していた。けれど統一国家が生まれ、皇帝家の力が弱まると、帝国全体で大規模な戦乱が起きるようになった。帝国の存在そのものが戦乱の原因だというのが、クランの考えだった。
総督として冷徹な判断を下す一方で、息子の成長を気にかける。クランという人物の二つの顔が、この短い会話の中に同時に表れていた。だからこそ、続くクランの平和観にも、単なる野心だけではない重みが感じられる。
それぞれの州はもとは別の国で、完全な融和はありえない。すべての州が横並びで暮らす穏やかな世界は、一つの州が力をつけた途端に均衡が崩れてしまう。「独立状態である方が平和の維持につながると私は考える」。このまま帝国内の戦が続けば、いずれ他の大陸から侵略され、今よりはるかに悲惨な戦乱が起きる。それを阻止するために総督になったのだと、クランは語る。
「アルスお前は強くなったな」、戦を経て強くなったと語るクランの言葉には、戦がもたらす利益にも目を向けよという意図があった。けれどアルスの心には、平和を維持する方法は戦しかないのか、それは結局同じことを繰り返すだけではないのか、という疑問が残る。「答えが見つかったら教えてくれ」というクランの言葉が、アルスに重い宿題を残した。
クランの考えは、一見すると冷たい現実主義に見える。けれど、そこには大陸全体の行く末を見据えた確かな理屈がある。だからこそアルスも、すぐには反論できなかったのだろう。正しさが一つではないことを知ったアルスが、どんな答えを見つけるのかが、この先の物語の大きな軸になっていきそうだ。
第29話のまとめ考察
恒久的な平和という夢
カナレに戻ったアルスは、リーツやミレイユたちを集めて、これからのローベント家について相談する。クランの独立の意志は固く、宣言を出すのもそう遠くない。そうなれば、ミーシアンは再び戦乱に巻き込まれる。大義名分を得たサイツ州が攻め込んでくるかもしれないし、皇帝派の州からは裏切り者として敵視され、討伐の連合軍が編成される恐れもある。
本当の平和なんて夢物語なのかもしれない。それなりの国同士がそれなりの争いを繰り返し、それなりの平和を保つほうが現実的だという意見に、アルスは問い返す。恒久的な平和を望むのは不可能なのか。ここには素晴らしい人材がそろっている。「少しでも可能性があるなら 僕たちで成し遂げてみたいです」。
独立すれば戦乱、独立しなければクランとの対立。どちらを選んでもローベント家は難しい立場に立たされる。アルスが一人で抱え込まず、まず仲間に相談するという道を選んだのは、これまで家臣たちとともに困難を乗り越えてきたアルスらしい判断だった。
平和を維持するには、戦で勝つより強い力が必要だ。大陸全土を強く支配する力、つまり皇帝を目指すという意味だ。誰も成し得ていない難しいことだと言いながら、「でも、私はできると思うよ、君ならね」とアルスの背中を押す言葉が返ってくる。シャーロットはかつての約束、子どもたちが希望を持てるような平和な場所を作ることを思い出させ、アルスについていくと告げる。仲間たちの言葉一つひとつが、アルスの夢を支える力になっていた。
振り返ってみると、第29話は戦の終わりが、新たな戦いの始まりでもあることを描いた回だった。継承戦争は終わり、ミーシアンは統一された。けれどクランの独立構想は、再び大陸を戦乱に巻き込むかもしれない。戦は必要だと語るクランに対し、アルスは戦のない恒久的な平和という夢を掲げ、仲間たちとともに皇帝を目指す道を選ぶ。
弱小領地の領主として始まったアルスの物語が、大陸全土を見据えたものへと一気に広がった。バサマークが残した不気味な予言、クランの本当の狙い、そしてアルスたちが選んだ大きな夢。和平の代償と決断が交差した第29話は、物語の新たな章の幕開けにふさわしい回だったと思う。




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