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『氷の城壁 第2期』第19話「変遷」は、4人で遊んだ同じ一日を、美姫、湊、桃香の三つの視点でたどる回だった。どうもしないことを選んだ小雪の答え、人の感情ばかり気にしてきた湊の過去、そしてちゃんと恋がしたい桃香が見抜いた湊の心の鍵まで、穏やかな一日の下でそれぞれの想いが少しずつ動いていく様子を、三人それぞれの場面ごとに丁寧に振り返っていく。




第19話「変遷」同じ一日を三つの視点で
4人の関係は変わらない
『氷の城壁 第2期』第19話「変遷」は、アミューズメント施設に遊びに来た4人の一日を、美姫、湊、桃香の三つの視点から順番にたどっていく回だった。陽太の気持ち、小雪の気持ち、そして湊に彼女ができたこと。ここ数か月でいろいろなことがあったのに、4人はボウリングやゲームで笑い合い、「全然、普通に友達してる」。その穏やかさの下で、それぞれの心の中では別々の変化が起きていた。
同じ場面が視点を変えるたびに違う意味を帯びていく構成が、とても見応えがあった。誰かにとっての安心が、別の誰かにとっての不安になっている。その重なり方を、一人ずつ振り返っていきたい。
美姫の場合
びっくりするくらい全然大丈夫そう
最初は美姫の視点から。ボウリングでは強烈な一投に腕力お化けと声が上がり、普段腕力は使わないという言い訳に突っ込みが入る。小雪と湊の関係がどうなるのか気が気でない美姫は、小雪が落ち込んでいないかとずっと様子をうかがっていた。ところが当の小雪は、驚くほど自然に笑っている。友達としか思われていないと分かったから、気持ちを戻せるうちに切り替えるという言葉も聞こえてきて、美姫は二人にとってはこれでよかったのかもしれないと思い直す。
それでも小雪の顔をのぞき込んでしまう美姫に、「ミキ、露骨に気にしすぎ」と声がかかる。違うと慌てる美姫がかわいらしく、心配性な幼なじみの姿がよく出ていた。
どっちも私にとって大切
帰り道、美姫は思い切って、本当に無理していないのかと小雪に尋ねる。返ってきた答えは、全然吹っ切れていないというものだった。湊が桃香と付き合って、選択肢が友達しかなくなったら、むしろ前よりも自分の気持ちをはっきり自覚してしまった。一人では気持ちを処理できず月子に相談し、自分なりに考えた末に「それでどうもしないことにした」のだという。
付き合っている二人の邪魔はしない。けれど、自分の気持ちはちゃんと理解して持っておく。「友達的な好きと恋愛的な好き」、どちらかを選んだらもう片方が消えるわけではなく、「どっちも私にとって大切って思うから」。たまに悲しくなることはあっても、「それでも不幸ではないなって」と言える小雪の言葉に、静かな強さを感じた。
小雪が口にした、陽太もこんな気持ちだったのかなという一言も印象に残る。かつて自分に向けられていた気持ちを、今度は自分が抱える側になって初めて分かることがある。何もしないという選択は逃げではなく、気持ちと向き合ったうえで出した答えなのだと伝わってきた。
私が知らない間に
美姫は、てっきり今相談される流れだと思っていた。けれど小雪はすでに月子に相談を済ませ、自分の中で結論まで出している。もともと小雪が自分から美姫に相談することは少なかったと気づき、ちょっと悲しいとこぼす美姫。小雪が照れながら、ずっと一緒にいるからこそ真面目な相談ほどためらってしまうと打ち明けるやり取りは、幼なじみならではの温度があった。
さらに小雪は、この前五十嵐と公園でアイスを食べたと、さらりと言ってのける。いきなりの情報に美姫が固まってしまうのも無理はない。「私が知らない間にコユンは少しずつ強くなっていた」という美姫のモノローグには、うれしさと少しの寂しさが同居していた。
そして美姫の頭に、小雪の「友達も恋愛も」という言葉と一緒に、かつてかけられた「俺にとってミキはミキだよ」という言葉がよみがえる。違う違うと必死に打ち消す美姫の姿に、彼女自身の心にも何かが芽生え始めているのが見えて、思わず頬がゆるんだ。
湊の場合
目の前にいる人が今どういう感情なのか
続いては湊の視点。幼い頃の湊の家は、兄と姉がいつもぶつかり合っていた。昔から、自分自身がどう思っているかよりも、目の前にいる人が今どういう感情なのかを考えていることの方が多かったという湊。家族からかけられる「ミナトだけはおとなしくて助かるわ」という言葉は、湊にとってほめ言葉であると同時に、役割を決められてしまう言葉でもあったように思う。
家を出てまで進みたい学校があった兄は、親と激しく言い争い、家族の中で浮いた存在になっていく。感情的になってまで通したい気持ちとは何なのか、幼い湊には分からなかった。それでも家を出ていく日、兄は「あの家で俺の味方はお前だけだったよ」と湊に告げる。行かないでとすがり、泣いてしまう湊に、「なんでお前が泣くの」と笑う兄。湊の優しさの原点が、ここにあった。
放っておけないから
中学時代の湊は、クラスで浮いていた同級生を悪く言ってもいいという空気に、もやもやを抱えていた。誰かを嫌ってもいいと決まった瞬間の空気の変わり方が、どうしても嫌だったのだろう。湊は「一対一で喋ってみると面白いよあいつ」と言い、ゲームのスコアランキングで10位以内に入っていることまで教える。
同級生と付き合ったことを知った友人たちには、もっと上に行けるのにと言われ、なぜあいつを気にかけるのかと聞かれる。湊の答えは「放っておけないから」、そして、もやもやするから。誰かを救っているようで、本当は自分の居心地の悪さを消したかったのかもしれない。その正しさと危うさが、同時に描かれていた。
今のこのバランスが崩れなくてよかった
時間はボウリングの日へ戻る。一時期はあんなに避けられていた小雪が、最近はフレンドリーになった。恋愛感情がないと分かったからこその安心感だと湊は受け止める。あのまま突き進んで玉砕していたら、4人でまた遊びに行くことはなかっただろう。「今のこのバランスが崩れなくてよかった」という心の声は、湊なりの安堵だった。
湊は桃香に今誰といるかを報告するため、4人の写真を撮って送る。そばにいた友人からは、お前の彼女になる子はだいたい重いと言われ、さらに「お前が信頼されてないからやぞ」とまで突っ込まれてしまう。湊は分かっていると答え、今度は不安にさせない、ちゃんと付き合うからと心に決める。誠実なはずの決意なのに、どこか危うく聞こえてしまうのがこの作品らしい。
桃香の場合
ちゃんと恋がしたい
最後は桃香の視点。モテていいよねと言われるたびに、桃香の中には言葉にできない理不尽さが積もっていた。一方的に好かれる煩わしさ、勝手に恨まれる不快さ、好意を受け取る側は謙虚でいないと責められること。ほとんど話したこともない相手からの告白も、付き合えば男友達に誇れるからにしか見えず、相手は「自分が見栄を張るための人形にしか見えなくて」と感じてしまう。
だからこそ桃香の願いはシンプルだった。モテたいのではなく、自分が好きになった人に好きになってもらいたい。「ちゃんと恋がしたい」という言葉には、これまでの桃香の印象をひっくり返すだけの切実さがあった。
彼女役の人形じゃなくて
入学したばかりの頃、熱があるのに無理をして登校した桃香は、帰り道で動けなくなってしまう。そこへ声をかけてくれたのが、サッカー部らしき先輩の湊だった。こんなボロボロな日に限ってと嘆きながらも、桃香の心はもう動き出していた。好きな人はいるのか、彼女はいるのか。いないなら私がなりたい。「彼女役の人形じゃなくてちゃんと彼女になりたい」という想いが、あの告白につながっていく。
付き合ううちに気持ちが変わるかもしれない、忘れてくれるかもしれない。そう思って踏み出した恋だったのに、彼女になれたら安心できると思ったのに、付き合ってからずっと、いつ振られるのか、あの人のことが忘れられないと言われるのではないかと考えてしまう。同じ学年で同じクラスの二人が、自分のいない間にさらに仲良くなっていたらどうしよう。その不安の描き方がとてもリアルだった。
この人は心の奥に鍵がかかってる
湊は彼氏として完璧に振る舞ってくれる。映画に誘ってくれるし、もやもやすることがあるなら解消したいと向き合ってくれる。けれど、触れたり気持ちを伝えたりするのはいつも桃香の方からだった。「この人は心の奥に鍵がかかってる」。ある程度のところまでは簡単に入れてくれるのに、その先には進めない。
望みを叶えようとしてくれているのに、「次から次へと欲が尽きない」と自分を責める桃香。今までの彼女と別れた原因を尋ねると、湊は基本的に振られてきたと答え、頑張らないといけないのは桃香ではなく自分だと言う。優しい言葉のはずなのに、それが桃香にある確信を抱かせてしまう。
悪者になるのが怖いんだ
桃香は気づいてしまった。この人は自分から振れない。自分から人を拒絶できない。「悪者になるのが怖いんだ」。湊の優しさの正体を見抜いた桃香が選んだのは、離れることではなかった。「私は振らないからね」と笑いかけ、心の中では絶対に離さないと決める。
湊の弱さを知ったうえで、その弱さにしがみつく。恋が成就しても不安が消えない桃香にとって、それが唯一の安心のよりどころなのだと思うと、怖さと同時に切なさがこみ上げてきた。
第19話のまとめ考察
何もしないを選んだ3人
第19話は、小雪、湊、桃香の3人が、外から見ればそろって何もしないという結論にたどり着く回だった。けれど、そこへ至る道のりはまったく違う。小雪は自分の気持ちを抱えたまま友達でいることを選び、湊は今のバランスが崩れないことに安堵し、桃香は湊が自分からは手を離せないと知って、決して振らないことを選んだ。
同じ一日を視点を変えて見せることで、笑い合う4人の姿がまったく違う色に見えてくる。小雪の成長がまぶしいほど、湊の優しさの危うさが浮かび上がり、桃香の不安が痛いほど伝わってくる構成が見事だった。
変わっていくもの
副題の「変遷」は、関係が劇的に動くことではなく、それぞれの気持ちの受け止め方が少しずつ移り変わっていくことを指しているように思う。小雪は強くなり、美姫は自分の心に気づき始め、湊は鍵をかけたまま、桃香はその鍵ごと抱きしめようとしている。
誰か一人が正しいわけでも、誰か一人が悪いわけでもない。だからこそ、この薄氷のようなバランスがいつか崩れてしまうのではないかと心がざわつく。それぞれの想いがどこへ向かうのか、静かに見守りたい一話だった。




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