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第18話のサブタイトルは「春の手前」で、この言葉は本編のモノローグにそのまま出てくる。卒業式、学年末テスト、ホワイトデー、そして終業式。二年生が終わっていく三月の出来事をまとめて拾う回だった。軸になるのは平の「笑い方キモいから」という一言と、そこから続く長い独白。そして最後、ファミレスで向かい合った東の側に、答えの出ない感情が残る。




山田に彼女ができた
聖徳太子ツッコミが飛び交う教室
第18話は「山田に彼女ができた」という報告で騒がしくなる教室から始まる。「相手は私知ってる人?」「どっちから告った?」「何回目のデートで?」と詰め寄られ、本人は「ちょ、落ち着けって」と防戦一方だった。
周りの反応がいちいち可笑しい。「女子って人の恋バナ好きよな」「別に恋バナに限らずよ」「耳良すぎだろ」、そして「めでたい話で盛り上がりたいだけ」「ヤジウマじゃねえか」。★このやり取りを一人でさばいていた平に飛んだのが「今日も聖徳太子ツッコミ絶好調だな」だった。
そして印象的だったのが、「なんか正直、もっと複雑な気持ちになるかと思ってたけど、いろいろ過程を聞いてたからか、素直にめでたい」という一言。友達の恋愛を素直に喜べるかどうかを、★本人が自分で確かめてから口に出しているのがこの作品らしい。
相手を尋ねられた山田が写真を出すと、「お前、画面やば」と割れた画面のほうを突っ込まれるのも良かった。祝いの場面でさえ誰も持ち上げすぎないので、見ているこちらも気恥ずかしくならずに済む。
盗み見たプレイリスト
帰り道、東が切り出したのが「この前、平のプレイリスト盗み見たんだけどさ」だった。平は「おい、何してんだよ」と慌て、心の中では「絶対だせえって思われた」と決めつけている。
ところが返ってきたのは「この曲、こういう系あんま知らないから、おすすめもっと教えてほしいんだけど」。平の独白が「また俺は、勘違いの被害妄想に怯えていただけだった」だった。★この回はこの形の反復でできている。悪く受け取り、外れ、また悪く受け取る。
二期に入ってから、この二人の場面が明らかに増えている。しかも増えた分がすべて甘い方向に振れるわけではなく、今回のように平の内側を掘る時間に使われるのが良い。音楽の趣味という、恥ずかしいけれど致命的ではないところから入っていくのも丁寧だった。
笑い方キモいから
我慢する癖はどこから来たのか
電車の中で東が言い出す。「タイラって笑うの我慢する節あるよな」、「今日何回か、こらえてる顔してたの見たから。大笑いしてるタイラあんま見ないなって」。平の答えは「俺がゲラゲラ笑ってたら変だろ」だった。
東が「自分のことクール系だと思ってる?」と茶化すと、返ってきたのが「ちげーよ。笑い方キモいから」。「そんなん自分でわかるもんか?」に対して、「言われたんだよ昔。クラスの女子とかいろいろ。小学生とかそんなぐらいだけど。そこからなんか我慢する癖ついて」と続く。
★驚くのは、平がその場で自分に驚いていることだ。「あれ? 俺なんで?」「なんで俺、言わんでいいこと言ったんだろ」と、打ち明けたこと自体に戸惑っている。東のほうは「小学生から? 根深っ。それって何年も前じゃん。それはしんどいわ」、「笑っちゃうようなことがある度に、うっすら嫌な思い出よぎるってこと? めっちゃきつくない?」と正面から受け止めた。
平が「今はもう癖になってるだけだから、そこまででは」と引いても、東は「いややっぱさ、笑い方キモいって何? 笑ってる方がいいじゃん、誰でも普通に」と食い下がる。★本人が済ませたことにしている傷を、代わりに怒ってくれる人がいる。この構図が、そのまま今回の主題になっていく。
「もっと愚痴ないの? あるでしょ、もっと出しな」
電車が非常停止ボタンで止まる。その足止めの時間に東が言い出したのが「なんかもっと愚痴ないの? あるでしょ、もっと出しな」だった。平は「ある前提やめろ、なんだよ急に」と困惑する。
理由の説明が良かった。「平さ、前に『東だけがすり減ってる』って怒ってくれたじゃん。あれさ、私、言われるまで考えもしなかったんだよ」、「けど言われてみたら確かにって思って、いろいろ振り返ってみて、まあいっかって済ませちゃダメだったこととか、だんだん気づくようになって」、「ちょっとスッキリした。前進してる感あるくない?」。
そこから「あれ、何の話だっけ? 着地間違えた」「えっとまあ要は、話聞こかって感じ」と締まらないのも東らしい。★もらったものを返しに来ているのがこの申し出の正体で、説教でも同情でもないから受け取りやすい形になっている。
それでも平の返事は「気持ちだけもらっとくわ」だった。断ったうえで「サンキュー」と言い、「何、寝てもいい? 駅着いたら起こしてくれる」と甘えるあたりの距離が絶妙で、★この断り方の柔らかさが、後半の伏線として効いてくる。
前進どころか、後退だ
俺自身の性質は何も変わってない
眠るふりをしながら、平の独白が長く続く。この回の中心はここだった。「昔と違って、良かったことを素直に祝える友達がいること。自分の弱みを打ち明けられる相手がいること。今、俺はそういう環境にいるんだということを」。そこまで数えておいて、続くのが「それは俺にとっての前進…ではない気がする」だった。
理由がきちんと言語化されている。「俺がごちゃごちゃ考えたり思い出したりしてるのは、勝手に頭の中に溢れてくる癖みたいなもんで、何かを解決しようと頑張っているわけじゃない」、「俺は今、周りに恵まれてるだけで、俺自身の性質は何も変わってない」。
★東との対比まで自分で置いているのがきつい。「東が過去を掘り下げて今を変えようとしてるのと違って、今の自分が何でこうなったかを理由付けるために、後付けで過去を引っ張り出してるだけだ」、「昔の嫌な出来事ばかりが、すぐ思い出せる位置に陳列されていて」、「ただ現状に納得感を出したいだけ」、「ただ心の傷を眺める、自傷行為みたいな時間」。
そして結論が「前進どころか、後退だ」、「俺自身が受け入れられてないのに、このままの自分を人に受け入れられたって」。★同じ電車の中で、東は「前進してる感あるくない?」と言っていた。同じ言葉を、片方は手応えとして、もう片方は減点として使っている。この回でいちばん残酷な並べ方だと思う。
電車を降りたあとの笑い声
重い独白のあとに置かれるのが、しょうもない場面なのが良い。平は顔を覆って寝ようとしていたらしく、「光シャットアウトした方がガチにできるじゃん」と言い訳し、「俺、今何考えてたっけ」ととぼける。
東の指摘が「一人だったら不審者だけど」で、平が「よくねえよ、俺に不審者を託すな」と返す。そこから東が笑い続けて「長えな」と言われ、「なんか平のリアクション、角度おもろい」と重ねる。
★笑い方の話をした直後の場面で、二人がひとしきり笑っているという置き方が効いている。誰も「だから笑っていいんだよ」とは言わない。言わないまま、笑う時間だけがそこにある。
前回までの積み重ねを知っていると、この何気ないやり取りの重さが変わってくる。重い話を重いまま終わらせず、かといって解決したことにもしない。この距離の取り方が、この作品がずっと守っているものだと思う。
3月といえば、その1とその2
すっからかんになった二階を見て
ここから場面は三月の行事に切り替わる。「3月といえば、その1」で卒業式。三年生を送り出したあと、「3月って毎年ちょっと寂しくなるな」という話になる。
「え、なんで? 鈴木、誕生日あるじゃん」に対する答えが「別れとか変化のある季節でもあるじゃん。卒業とかクラス替えとか。ほんで誕生日は春休みだし」。そして「すっからかんになった二階とか見ると、なんかこうツーンとした気持ちに」。★空になった上級生の教室という一点で寂しさを説明してくるのがうまい。
面白いのは同じものを見た反応がばらばらなことで、「私は来年、やっとうちらも二階かって思ってた。階段ちょっと楽になるし」、そして「私、なんも思わんかったわ」。★同じ景色で三人が三通りの感想を出すのが、この作品の群像の描き方だった。
続く「3月といえば、その2」は学年末テストで、こちらは「死んでる」の一言。「いろんなことがどんどん終わってく、寂しい」、「テスト終わったのは嬉しいけど、クラス変わっちゃうのは悲しいね」と、行事の話がそのままクラス替えの話に地続きになっていく。「あら素直」「仲いい友達できたからそりゃ」というやり取りに、★一年でこの子たちが得たものの大きさが出ていた。
お返しの渡し方が三人とも違う
そしてホワイトデー。谷から鈴木へは「パッケージ見て好きそうだなって思って」という選び方で、本人は「正直、中のお菓子の味はわからない」と正直に言う。「いや、そういうもんでしょこういうのは」と返されるのが可笑しい。
「店でこれ選んでる悠介はん想像したらニコニコが止まりまへんな」という冷やかしに「やめて」と返す流れも良かった。★渡す側より、渡すところを想像する側のほうが嬉しそうなのがこの二人らしい。山田から西さんへは「じゃん、ホワイトデー」と手渡しつつ、「めっちゃうまいから食べてほしい」と味の保証から入っていた。「まだ一年後の想像とかしたことなかったからびっくりしちゃった」「ギリギリじゃなく卒業しようね」という会話まで付いてくる。
面白いのは平の自己評価で、「別に俺と谷、話し合わせたわけじゃねーから」と前置きしたうえで、「自分だけ手ぶらにならないようにって念のためで持ってきただけの俺よりも、もらった分覚えてたあいつの方がいいよ。よっぽど律儀だわ」。東の「そこまで自分を下げんでも」が優しい。
★ここで平は自分の用意を「念のため」に格下げしている。本当にそうだったのかどうかは、次の場面でひっくり返る。行事のにぎやかさの裏で、この人だけがずっと自分を採点し続けているのが今回の構図だった。
ただ俺が東にそうしたいだけ
礼を言えるようになるまでに一年かかった
平が東に差し出す。「東、これもらって」。東の反応が「もらっていいの? なんで? 余った?」で、★まず自分が余りものの受け皿だと考えるあたり、この二人は本当に似ている。
平の答えがこの回の白眉だった。「一年の時からずっといろいろ世話になってるんだけど、そう思えるようになったのは最近で」、「そんなの今急に礼を言っても意味不明だろ」、そして「ただ俺が東にそうしたいだけ」。
★「念のため」ではなかったことが、ここで分かる。しかも理由の説明が「世話になったから返す」ではなく、「そう思えるようになったのが最近だった」という時差の話になっている。受け取った側がどう思うかより先に、自分の中で片が付いていないことを片付けている。
直後の独白が「相手がどう思うか以上に、自分の気持ちの消化なんだろうな」。そしてこの回の副題が本編の言葉として出てくる。「終わりもあれば始まりもあり、寂しいようでワクワクするような、変わらないようで変わってるような、そんな春の手前」。★一年前は、同じ曲を聴いて思い出を共有する人ができるなんて考えもしなかった。冒頭のプレイリストの話が、ここで回収される。
終業式、そして「帰りたくない」
終業式の日。担任の締めの言葉が「えー、そもそも春休みというのは…はい、ほんじゃ、一年間お疲れさんした」で、「最後なのにあっさりすぎない?」と突っ込まれる。写真に入れられても無表情のままなのが最高だった。
「最後に二人、席並んでるとこ撮ってあげよ」「つーか夏前に席替えしてからずっとこのままだったな」という会話に、★一年という時間の長さがさりげなく置かれている。解散のあとは「この後暇な人ー」「みんなでプリ撮ろうよー」で駅前のゲームセンターへ流れていく。
シール機なのに動画が送られてくる仕組みに「これ、プリントシール機なのに動画送られてくんのってなんか意味不明だな」と文句を言いながら、★じゃんけんで勝って手に入れたシールを大事にしまっているのが平だった。「と言いつつ大事にしまっとる」と見られているのも含めて可愛い。
そして解散間際、平が切り出す。「あのさ、飯食い行かん?」、「いやなんか、お腹空いてるっていうよりかは、もうちょい…暇的な…なんだけど、帰りたくない」。★この人が自分から誘っている。しかも理由を取り繕えずに「帰りたくない」と言ってしまうところが、今回いちばんの前進だった。
「春の手前」まとめと考察
「こっちだけ見てな」と、呼び出しボタン
入った店で、平はまず「地元だし、知ってるやついねーよな」と周りを気にしていた。「もし誰か見つけてもどうだろう?」という後ろ向きな問いに、東はこう答える。「誰か見つけても堂々としときな。平がおどおどする必要ないじゃん」。
そして続いたのが「こっちだけ見てな」だった。★今回の最大の一撃はここだと思う。本人は直後に「なんか昨日のドラマみたいなこと言っちゃった」「キュンとさせちゃったらすまん」と照れ隠しをし、平も「せんわ」と流すのだが、この回でいちばん強い言葉を言ったのは東のほうだった。
そのあと平が真面目に自己分析を語り出す。「気にしてもしなくても変わらないことは、気にしすぎないよう自分でコントロールしていかねーと」、「俺の場合は結局、自分の中で問題を作り出してるだけにすぎないから」。★ところがその横で東は店員を呼ぼうと手を挙げ続けていた。「ごめんごめん、聞いてる聞いてる」「聞いてねーときの言い方だろ」というやり取りのあと、そもそも卓上に呼び出しボタンがあったことに気づくという落ちまで付く。
重い独白と間の抜けた出来事を同時に走らせて、どちらも茶化さずに終わらせるのがこの作品の芸だと思う。そして帰り際に交わされるのが「次のクラスで、もしなんか嫌なことあったりしたら、愚痴とか聞くからさ」と「また話聞いてもらっていい?」で、返事は「頼むわ」だった。★電車では「気持ちだけもらっとくわ」と断っていたものが、ここでは受け取られている。
そわそわするこの気持ちは一体どれなんだろう
そして最後の独白は東の側に置かれる。「繋がりをなくしたくないと思った」。そこから彼女は、自分の感情を一つずつ並べ始める。
「そういう意味でさ、好きなタイプとかじゃないんだけど」、「心配だったり、面倒だったり、他の人より楽だったり」、「距離があると寂しくて、近づくと嬉しい」、そして「今そわそわするこの気持ちは一体どれなんだろう」。★答えを出さずに終わる。
★構成として見事なのは、この回がずっと平の内面を掘る回だったのに、最後の一手だけ東に渡されていることだ。平は自分の性質を「変わってない」と採点し、東は自分の感情に名前を付けられずにいる。★二人とも自分のことがいちばん分かっていないという点で、たしかに正反対ではなかった。
そのうえで、この回に置かれたものを並べ直すと分かりやすい。笑いを我慢する癖、愚痴を聞くという申し出、礼を言うまでにかかった一年、そして「帰りたくない」。★どれも劇的な出来事ではなく、行事の合間に落ちている。卒業式も学年末テストもホワイトデーも終業式も、この二人にとっては会える回数が減っていく合図として並んでいた。
クラス替えという区切りが目の前にあるのに、誰も「離れたくない」とは言わない。代わりに出てくるのが「愚痴聞くからさ」であり「帰りたくない」であり「こっちだけ見てな」で、★言い換えられた言葉のほうが、そのまま言うより残る。副題の「春の手前」が指しているのは、何かが始まる直前ではなく、まだ名前が付いていないものを名前のないまま抱えている時期のことだと思う。答えが出るのを、次の学年でゆっくり待ちたい。




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