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第5話のサブタイトルは「あの女は誰だ」。中元節の儀に乗り込んだ玲琳(体は慧月)は、席が用意されていないところから始めて、最後には金清佳を正面から詰めていく。途中でぶつけられる侮辱をひとつ残らず受け止め、妨害すら舞を変える口実に変えてしまう回だった。そして最後に、雅容という名の女官はいないと告げられる。




「あの女はどんな顔でこの場にやってくるのだろうな」
尭明のほうが先に揺れている
第5話は尭明の言葉から始まる。「あの女はどんな顔でこの場にやってくるのだろうな」。雛宮の全員から嫌われ、敵意を向けられ、鷲官長からは欠席を促されたのに、それでも出席を強行する女。★視聴者の期待をそのまま台詞にしたような入り方だった。
ところが続く独白が不穏である。今朝の見舞いで玲琳が泣いていたという。「私、悲しゅうございます」「お兄様の目を喜ばせたい」。気丈な彼女が泣くところを初めて見た、と言ったうえで「彼女は本当に、自分が愛した黄玲琳なのだろうか」。
★★疑いの向きが正しくて、理由だけが間違っている。尭明が違和感を覚えているのは本当に別人になっている側で、しかも彼はそれを「弱くなった」と読んで怒りを募らせている。★見ているこちらは全部知っているので、この時間がずっともどかしい。
その頃、当人は女官の自慢をしていた
一方、乗り込む側はまったく緊張していない。玲琳が上機嫌で言うのが「本当に綺麗でしょ、私の女官」である。★これから殴り込みに行く人の第一声ではない。
三日間の中身も語られる。「昼も夜も忘れて大好きな刺繍をして」「諸々のお手入れに没頭した3日間」、そして「なんと充実した日々だったのでしょうか」。★謹慎を丸ごと支度期間として使い切っているのがこの人である。
★ここが今回の設計として上手い。衣装も刺繍も、恨みを晴らすための武装ではなく好きなことに没頭した結果として置かれている。★怒っているのに、その怒りの表現が全部「楽しかった」で説明されてしまう。だから見ていて重くならない。
席が用意されていない
「面の皮が厚くていらっしゃる」
会場に着いて最初に分かるのが、席が無いことだった。玲琳は「朱慧月は欠席と決めつけられているようですね」と前置きしてから、「私と女官の席がないようにお見受けするのですが」と正面から聞く。
返ってきた金清佳の答えがひどい。欠席を勧められておきながら参上するとは「面の皮が厚くていらっしゃるとは思いませんでしたの」、そして「丈夫な皮膚をお持ちのようですし、床のどこかに座られてはいかが」。
★主催者としては最悪の応対だが、★この人は最悪の応対を堂々とやるので、後から効いてくる。見かねた尭明が「予期せぬ参加者であれ、丁重に遇するのが主催を務める金家の腕の見せどころと思うが」「急ぎ椅子を持て」と釘を刺したのも、この時点では単なる助け舟に見えていた。
「丈夫ですって」
ところが玲琳は、用意された椅子を断る。「ですが私、こちらで結構でございますわ」。★助けられる形を選ばなかったのがまず良い。
そして今回いちばん笑ったのがここだ。莉莉の「姫様、なんでこの局面で喜んでるんですか」に対する答えが、「丈夫ですって」。★★「面の皮が厚い」「丈夫な皮膚」を、健康を褒められたと受け取っている。
清佳のほうは「こちらの挑発にまるで動じないなんて、どういうことですの」「こんなに美しい女だったかしら」と完全に調子を崩されている。★侮辱が効かない相手には、侮辱した側が消耗する。この人は我慢しているのではなく、本当に嬉しいのだから始末が悪い。
奉納の舞と、薬玉の報奨
玄歌吹、藍芳春、そして清佳
儀が始まる。「豊穣を願い、中元節の儀を開始いたします」。奉納の舞は玄歌吹から。清佳の評は「硬質な鈴の音が、楽器というよりはまるで武器のようですこと」「まあ、無難な舞は一番手には適任でしたがね」。
続く藍芳春には「なりに鍛錬は重ねた様子」「動きに迷いもありませんわね」「ですが所詮、小娘の舞」。そして自分の番で「次は私ですわね」「本物の舞を皆様に見せて差し上げるわ」。★★実際に上手いので、この傲慢さが空回りしないのが厄介だった。
★中元節そのものを丁寧にやってくれたおかげで、これまで名前だけだった雛女たちの人となりが一気に見えるようになったのも収穫だ。★敵側の舞をきちんと美しく描くから、この後の逆転が「主人公補正」に見えなくなっている。
簪を、報奨として返す
この儀には「うまく舞えた者には、観客から報奨を与えられる」という慣習がある。身一つで追いやられた朱慧月に何が出せるのか、と清佳は待ち構えていた。そこで玲琳が出したのが薬玉だった。
清佳の評価が正直で良い。「本来、薬玉は初夏の節句に使われるべきもの」「夏を司る朱家の姫としては妥当ですし」「何よりも、緻密な刺繍が美しい」「いつも気の利かないドブネズミの割には、心にくい品ですわね」。★★悪口を挟まないと褒められないだけで、目は確かなのだ。
そして本命が清佳への品だった。★莉莉が握らされていた金家の簪を、舞への報奨として公然と返す。「あまりにささやかではございますが、どうぞこちらをお納めくださいませ」「豊穣の女神のように豊かな心をお持ちの清佳様ならば、何もおっしゃらず収めていただけるものと思っておりますが」。★★受け取れば盗みの証拠は消え、断れば女神に喩えられた自分を自分で否定することになる。★贈り物の形をした詰みである。
「もしや盗んだのではございませんか」
白練の女官たちが莉莉を貶める
ところが場を動かしたのは清佳ではなく、白練をまとった金家の女官たちだった。立派な品を持っていることを咎め、「もしや盗んだのではございませんか」「以前、誰かが簪を失くしたと嘆いていたのを聞いたことがございます」と言い出す。
矛先はそのまま莉莉へ向かう。「側付きの女官もたった一人で、相当みじめな生活だったはずですわ」「しかもその女官、よく見たら踊り子の娘ではないの」。★出自を持ち出したうえで、顔立ちについてまで下卑た当てこすりをする。
★これは第2話から続いてきた金家のやり口そのままで、★手を下すのは常に女官で、姫は関与しない形になっている。だからこそ、この後の玲琳の詰め方が効いてくる。
「そうした感想の述べ方が金家流だと」
玲琳の反撃は速い。「そこのあなた。今、私の女官を貶めるような発言があったように思うのですが」。相手が「私、感想を述べただけですのに」と逃げると、返すのが「そうした感想の述べ方が金家流だと思われて良いということですね」。★★個人の失言を、家の看板の話にすり替えて返している。
そのうえで矛先を主人へ向ける。「雛宮において姫と女官は、強き絆で結ばれるべきもの」「このような事件があったなら、姫であるあなた様から何か一言あって然るべきではないでしょうか」。
★ここが今回の芯だと思う。★玲琳が問題にしているのは侮辱された自分ではなく、放置されている莉莉のほうだ。以前、自分の身に刃が向けられたときにはとぼけて相手を庇いきった人が、★女官を貶されたときだけは一歩も引かない。
朱貴妃の忠告と、その読み替え
「これは忠告です」
そこへ止めに入るのが朱貴妃だった。「厚顔にも儀式に参じ、あまつさえその進行を妨げて」「私の顔にどれだけ泥を塗れば気が済むのです」。★身内から刺されるのがいちばん痛い。
玲琳の弁明は理屈としては正しい。「命じられた謹慎はすでに終えておりますし」「健康にも努めておりますし」「喧嘩ではなく、お話し合いをしたいと申し上げただけでございます」。それでも返ってくるのは「屁理屈をこねるのはおよしなさい」「あなたはもう宮にお下がりなさい」「これ以上、恥を晒す前に」「これは忠告です」。
★「命令」ではなく「忠告」と言ってしまったのが運の尽きだった。★この人は言葉の隙間を見つける天才で、しかも悪意なくそれをやる。
「つまり、ということですね」
案の定、玲琳は「承知しました」と受けたうえでこう続ける。「つまり、儀式の進行を妨げず、恥を晒さなければ、清佳様とお話を続けて良いということですね」。★★第4話で鷲官長の「出なくていい」を「出てもいい」と読み替えたのと同じ技で、反復されることでちゃんとギャグとして立っている。
そして清佳に約束を取り付ける。「私の舞が皆様のお目汚しとならず、無事に儀式を終えることができましたら、お話の続きをいたしましょう」。清佳の返事は「できるものならね」。★出ていく前の一言が「私、サクッと舞ってまいります」なのも良かった。
★★この段取りが周到で、舞う前に「舞い終えたら話の続きをする」という約束を先に取ってある。つまり舞は自己証明であると同時に、★相手を逃がさないための契約になっている。
胡旋舞
千切れた鈴を、舞を変える口実にする
清佳が「あなたたち」と目配せをして、案の定妨害が入る。鈴が千切れて落ち、舞台の上にそのまま残ってしまう。★この落ちた鈴が消えずに画面に残り続けるのが、細かいところまで効いていた。
ここでの返し方が見事だった。「清佳様は小細工を好まぬ潔いお方。これは不慮の事故でございましょう」と先に逃げ道を塞いだうえで、「ですが不慮とは不吉」「豊穣を願うための儀式で不穏な要素などあってはなりません」「ですので、不穏を吹き飛ばすような舞に変更いたしましょう」。
★★妨害されたと騒がず、妨害を演目変更の正当な理由に使ってしまう。★しかも相手を「潔いお方」と持ち上げた形なので、抗議もできなければ、変更を止めることもできない。
「私の女官は、お母君の教育が良かったために」
そうして始まるのが胡旋舞である。「来るべき秋の日に、豊穣の女神が微笑むことを祈って」。見ている側からは「恋をした者にしかできない舞」「こんな努力に裏打ちされた優雅さは、まるで玲琳様のような」という言葉が漏れ、「なぜこんなに胸がざわつく」という戸惑いまで出てくる。★誰の胸の内かは断定せずにおくが、★正体に最も近づいた瞬間だった。
清佳が「本職の踊り子でも難しいと言われる胡旋舞を舞えるというの」と問うと、答えがこれである。「優秀な女官に教えをこうたからでございます」「私の女官は、お母君の教育が良かったために、胡旋舞もたしなみますの」。
★★★ここが本当に良かった。さっき「踊り子の娘」と嘲られたその出自を、そのまま最大の手柄として言い返している。しかも褒めているのは莉莉だけではなく、★その母まで含めてだ。莉莉が泣くのも当然で、玲琳の「私のせいですか」という言い方まで含めて完璧だった。
「あの女は誰だ」まとめと考察
「あくまでも、舞に対して取らせる報酬だ」
舞が終わると、玲琳は「拍手はいただきましたので結構でございます」と報奨を辞退しようとする。それを止めたのが清佳だった。「これだけの舞を見せられたのよ」「私たちの感動を形にさせてくださいな」「優れた芸術は万人から称えられなければなりませんわ。たとえ朱慧月でも」。
★★あれだけ嫌っている相手の実力を、公の場できちんと認める。★嫌な人ではあるが、卑しい人ではない。この線引きがあるから、この人は敵として面白い。尭明も「これまで見たどの舞よりも見事な、まさに豊穣の美を感じさせる舞であった」と讃え、自分の持ち物を与えてしまう。
そのうえで付け足すのが「勘違いするな。これはお前自身にではなく、あくまでも舞に対して取らせる報酬だ」。★言い訳がましさが完璧で、★この人はまだ、自分が誰を褒めたのか分かっていない。
雅容という名の女官はいない
約束通り、玲琳は話を戻す。白練の女官の盗人発言について「まずこの件をきっちりと片付けてからでないと」「私はきちんと筋を通しましたから、次は清佳様が筋を通される番でございます」「まさかこのまま、うやむやにしようなどとお考えではありませんよね」。清佳は根負けして謝罪し、「あなたの女官は容色と才能に優れた、素晴らしい女性だわ」とまで言わされる。
そして本題。「それでは、白練の雅容様という方も、この場にお呼びいただけますか」。返ってきたのが★★「雅容? 白練の中に、雅容などという名前の者はいませんわよ」だった。
★見事に段取りを踏んで、正面から筋を通して、★たどり着いた先に相手がいない。サブタイトルの「あの女は誰だ」は舞を見た者の驚きの言葉だが、★最後の最後で、その問いが莉莉を追い詰めた側にそっくり返っている。誰が莉莉に簪を握らせたのか。ここまで一つも取りこぼさずに来た回だからこそ、この一行の不気味さがきれいに残った。
























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